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*関連項目→〔戦争〕
『シェルブールの雨傘』(ドゥミ) 一九五七年、雨傘店の娘・十七歳のジュヌヴィエーヴは、二十歳の青年ギイと恋仲だったが、彼は二年間の兵役でアルジェリア戦線へ行かねばならない。出発前夜、二人は一夜を共にして、ジュヌヴィエーヴは妊娠する。翌年、宝石商カサールが、ジュヌヴィエーヴの妊娠を承知で求婚し、彼女はこれに応じる。ギイは帰還し、幼なじみの女性と結婚する。一九六三年、ギイとジュヌヴィエーヴは、ガソリンスタンドの主人と客として、思いがけぬ再会をする。二人は互いの近況を述べ合っただけで、別れる。
『ひまわり』(デ・シーカ) 第二次大戦下のイタリア。アントニオは召集されてロシア戦線に赴き、行方不明になる。終戦後、妻ジョヴァンナは夫の消息を知ろうとロシアへ旅するが、アントニオはロシア娘と結婚しており、子供までいた。ジョヴァンナはうちひしがれてイタリアへ帰る。数年後、アントニオがジョヴァンナを訪ねて来て「もう一度やりなおそう」と言う。しかしすでにジョヴァンナは、他の男との間に赤ん坊をもうけていた。ミラノの駅。モスクワ行きの汽車に乗るアントニオを、ジョヴァンナは泣いて見送る。
『第七天国』(ボーザージ) パリの七階建てアパートの最上階に、貧しい若夫婦チコとディアンが住み、彼らはそこを「第七天国」と呼んでいた。第一次大戦が始まり、チコは召集される。四年後、留守を守るディアンのもとに、チコの戦死の報が届く。しかしチコは生きていた。チコは戦傷で盲目になりつつも、手探りでアパートの階段を上って来る。ディアンは「私があなたの目になるわ」と言い、二人は抱き合う。
『仮面の告白』(三島由紀夫)第3章 昭和二十年二月。ひよわな体格で第二乙種だった「私」にも、召集令状が来た。ちょうどその時、「私」は風邪をひいていた。入隊検査で軍医は、「私」の気管支のゼイゼイいう音を、肺病の兆候のラッセルと間違えた。「私」は「微熱がある。血痰も出る」と嘘を言い、血沈を測ると風邪の熱のため高い値が出た。「私」は「肺浸潤」と診断され、即日帰郷を命ぜられた。
『裸の大将』(堀川弘通) 山下清が二十歳を越えた頃、日本は太平洋戦争に突入していた。彼は身体をこわして兵役を逃れようと考える。夜、彼は腹を出して寝て下痢しようとするが、うまくいかない。絶食して病気になろうとしても、空腹に堪え切れず、うどんを食べてしまう。さいわい、徴兵検査の時、面接官からの問いに十分に答えることができなかったので不合格になり、彼は兵隊に行かずにすんだ。
『ギリシア奇談集』(アイリアノス)巻13−12 天文学者メトンは、兵役を逃れるために狂気をよそおい、ついには自分の家に放火した。それで執政官たちも彼の兵役を免除した。
『ギリシア神話』(アポロドロス)摘要第3章 オデュッセウスはトロイアへの出征をいやがり、狂気を装った。しかしパラメデスが、オデュッセウスの息子テレマコスを奪い、殺すかのごとく剣を抜いて見せたので、オデュッセウスは偽りの狂気であると白状し、軍に従った。
*兵役を逃れるために、自らの身体を傷つける→〔自傷行為〕1。
*兵役を逃れるために、糖尿病をよそおう→〔尿〕6。
『嘘』(太宰治) 昭和二十年の正月。新婚の百姓・圭吾に召集令状が来た。彼は青森の部隊の営門で姿をくらまし、嫁の入れ知恵で、家の馬小屋の屋根裏に隠れる。二人の媒酌人である男が、警察署長と一緒に圭吾の家を訪れるが、嫁は「もし夫が帰って来たら、必ずお知らせします」などと平然と嘘を言う。警察署長が馬小屋の圭吾を見つけた時でさえ、嫁は「いつ戻ったのだべ」と、空とぼけていた。
『サウンド・オブ・ミュージック』(ワイズ) 一九三八年三月。オーストリアの退役海軍大佐トラップは、新妻マリアとのハネムーン旅行から帰った。亡き妻との間に生れた七人の子供たちが二人を迎え、一家の新しい生活が始まる。しかしその時、ナチス・ドイツの侵攻によって、オーストリアはドイツに併合されていた。トラップ大佐には、「北ドイツの海軍基地で軍務につけ」との召集令状が届く。大佐は「一家全員スイスへ亡命しよう」と決意する。国境は封鎖されたので、一家は徒歩で山を越え、スイスへ入る。
『笹まくら』(丸谷才一) 浜田庄吉は、二十歳の昭和十五年から五年間、徴兵を忌避して地方に潜伏した。彼は名前を変え、年齢を偽り、ラジオ修理の渡り職人や縁日の砂絵師として暮らした。終戦後、彼は東京の私立大学の事務員になる。浜田が四十五歳の時、彼の庶務課長への昇進を同僚がねたみ、右翼の小雑誌に「浜田は徴兵忌避者」との記事を書かせた。その結果、浜田は、富山県高岡の付属高校へ左遷されることになった。
『拝啓天皇陛下様』(野村芳太郎) 孤児として辛い生活をしてきた山田正助にとって、きちんと三度の食事にありつける軍隊は、天国のような所だった。南京が陥落し「戦争が終わる」との噂が流れ、兵たちは「もうすぐ除隊だ」と喜ぶ。しかし山田正助は、習い覚えたカタカナと僅かな漢字を用い、「軍隊に留まりたい」と願う手紙を、天皇に出そうとする。それを見た戦友が、「陛下に直訴などしたら監獄行きだ」と制止する〔*彼は戦場で生き残るが、戦後、酔ってトラックにはねられ死んでしまう〕。
★3e.有力者の子弟が兵役を免除され、その代わりに、別の人物が不当に徴兵されることがあった。
『遠い接近』(松本清張) 太平洋戦争当時。山尾信治は自営業で仕事に追われ、町内の軍事教練に参加しなかった。役場の兵事係長・河島はこれを問題視し、山尾が第二乙種で、すでに三十二歳であるにもかかわらず、彼に召集令状を送った。山尾は衛生兵として朝鮮半島へ出征し、残された家族は生活に窮する。家族は親戚を頼って広島へ疎開し、原爆をうけて全員死んだ。戦後復員した山尾は、河島を捜し出して殺した。
『フィガロの結婚』(モーツァルト) アルマヴィーヴァ伯爵の小姓ケルビーノは、多感な美少年である。彼は庭師の娘を愛人にしているが、伯爵夫人を慕い、侍女スザンナを口説いたりもする。伯爵は怒って、ケルビーノに「わしの連隊の士官となって、軍務につけ」と命じる。伯爵の従僕フィガロが「もう飛ぶまいぞ、この蝶々」の歌を歌って、気落ちするケルビーノをからかいつつ励ます〔*ケルビーノは逃げたり隠れたりして、軍隊へ行かないまま物語は終わる〕。
『巨人の星』(梶原一騎/川崎のぼる)「大リーグボール養成ギプス」 星一徹は巨人軍に入団し、天才的三塁手として活躍を期待されるが、徴兵されてしまい、公式戦に出ることはなかった。彼は兵役で肩をこわし、復員後は、肩の故障を補うために、ビーンボールまがいの魔送球をあみ出す。しかし僚友の川上哲治が「魔送球は邪道だ」と言い、一徹に「いさぎよく巨人軍を去りたまえ」と勧告する。
『我等の生涯の最良の年』(ワイラー) 第二次大戦が終わり、戦地からアメリカへ帰る軍用機に、三人の男が乗り合わせる。彼らは皆、生涯の最良の年月を、戦争のために奪われたのだった。三人のうちの一人、水兵のホーマーは爆撃を受けて、両手とも鉤(かぎ)状の義手になっていた。ホーマーは恋人ウィルマとの結婚をためらうが、ウィルマの彼への愛は変わらず、二人は家族や仲間たちに祝福されて、結婚式を挙げた。
『芋虫』(江戸川乱歩) 須永中尉は戦地で砲弾を受けて四肢を失い、頭部と胴体だけの肉塊と化す。彼は耳も聞こえず口もきけず、眼だけが見える。須永の妻・三十歳の時子は、芋虫のごとき形状の夫を情欲の対象として、異様な快楽にふける。ある夜、時子は興奮して須永の両眼を傷つけ、つぶしてしまう。時子は困惑して上官の家へ相談に行く。その間に須永は胴体をうねらせて家から這い出し、草むらの古井戸へ身を投げる。
『ジョニーは戦場へ行った』(トランボ) 第一次大戦に従軍した青年ジョーは、砲弾を受けて四肢を失う。胴体と頭部は残ったが、目も耳も鼻も口もなくなってしまった。陸軍病院は彼を貴重な研究材料と見なして、延命措置を施す。絶望したジョーは、頭を枕に打ちつけてモールス信号とし、「外に出たい。僕をカーニバルの見世物にしろ。それがだめなら殺してくれ」と訴える。軍は彼の訴えを無視し、生かし続ける。
*戦争で身体の大部分を失った男が、サイボーグになる→〔ロボット〕6の『使いきった男』(ポオ)。
『西部戦線異状なし』(レマルク) 第一次世界大戦が始まる。ドイツのある町の高校生だった「僕(パウル)」は、カントレック先生の勧めで、クラスメイトたちと一緒に出征を志願してしまう。戦場は、学校で習った「精神」も「思想」も「自由」も、一切通用しない所だった。仲間は次々に戦死し、同じクラスの七人のうち、残っているのは「僕」だけになる。その「僕」も、一九一八年十月に、ついに戦死する。その日は大きな戦闘がなく、司令部への報告は、「西部戦線異状なし。報告すべき件なし」というものだった。
『私は貝になりたい』(橋本忍) 太平洋戦争末期、理髪店を営む清水豊松の所にも赤紙が来て、彼は一兵卒として召集された。豊松は、重傷の米兵捕虜を銃剣で殺すように、上官から命令される。しかし豊松は米兵の右腕を突くのが精一杯で、しかもその時すでに、米兵は衰弱して死んでいた。それでも豊松は、戦後、戦犯として逮捕され、絞首刑になった。彼は遺書を残した。「もし生まれ変るとしたら、もう人間なんていやだ。私は、深い海の底の貝になりたい」。
『ひめゆりの塔』(今井正) 昭和二十年春、米軍は沖縄に上陸しようとしていた。高等女学校や女子師範学校の学生たちが、野戦病院の看護婦として動員される。激しい砲撃と爆撃で、兵も女学生たちも次々に倒れる。米軍は「戦うのをやめて出て来なさい。危害はくわえません。食べ物もあります」と、降伏を呼びかける。たまりかねて壕から走り出ようとする女学生を、軍医が後ろから撃つ。壕は、戦車の砲撃で破壊される。かろうじて生き残り、壕から出て来た女学生と教師を、米軍は容赦なく射殺する。
『遥拝隊長』(井伏鱒二) 陸軍中尉岡崎悠一は、マレー戦線でトラックから落ちて頭を打ち、狂人となって故郷笹山に帰って来た。終戦後も、悠一の頭の中では戦争が続いていた。彼は村人たちに号令をかけ、訓辞を垂れ、東方(=皇居の方向)遥拝を命じる。ある時、悠一は墓の供え物の饅頭をもらい、「恩賜のお菓子を頂戴した」と言って感泣した。
*戦傷によって性的不能になる男→〔不能〕1。
『古事記』中巻 サホビメが、眠る夫垂仁帝の頸を刺すべく紐小刀を三度振り上げる。その時帝は、錦色の蛇が頸にまつわる夢を見る〔*『日本書紀』巻6垂仁天皇5年10月に類話〕。
『浄瑠璃十二段草紙』第11段 病み臥した御曹司の持つ黄金作りの太刀・刀を、吹上の浦人たちが奪おうとすると、太刀は二十尋の大蛇、刀は小蛇と化して、近づく者を呑もうとした。
『太平記』巻13「干将莫耶が事」 張華・雷煥の二臣が地中より干将・莫耶の二剣を見出し、天子に奉るべく延平津という沢辺を通った時、剣が自ら抜け出て水中に入り、雌雄二つの龍となって浪に沈んだ。
『成上り』(狂言) 「田辺の別当の太刀は名作物で、余人の目には蛇(くちなわ)と見える」と、太郎冠者が主に語る。
『平治物語』中「待賢門の軍の事」 池から大蛇が上がって、昼寝する平忠盛を呑もうとする。枕上の刀が鞘を抜け出て大蛇の首を斬り、また鞘に収まる。忠盛はこれを見て、刀を「抜丸」と名づける。
*大蛇ヤマタノヲロチの体内から剣が出る→〔尾〕8の『古事記』上巻。
*蛇のごとく伸び縮みする剣→〔たたり〕4の『播磨国風土記』讃容の郡中川の里。
『今昔物語集』巻19−21 僧夫婦が仏事用の餅で酒を造る。ところが、酒壺をのぞくと多くの蛇が蠢いていたので、壺ごと野に棄てる。通りかかりの男たちが壺を見ると中は美酒であり、持ち帰って飲んだ。
『黄金伝説』48「聖ベネディクトゥス」 下男が、聖ベネディクトゥスに届ける葡萄酒を一本隠す。聖ベネディクトゥスが「隠した葡萄酒は、飲まずに棄てよ」と言うので、下男は恥じ入り、瓶の中身を棄てると蛇が出てきた。
『今昔物語集』巻19−22 僧が、夏の間に食べ残した麦縄を折櫃に入れておく。翌年の夏、思い出して折櫃を開けると、麦縄はなく小蛇がいた。
『今昔物語集』巻31−31 太刀帯の陣へ女が干し魚を売りに来るが、それは実は、蛇を四寸ほどに切り、塩をつけて干したものだった。そうとは知らず、皆喜んで食べていた〔*『羅生門』(芥川龍之介)の原話〕。
『白蛇』(グリム)KHM17 智恵者として有名な某国の王は、昼食の時、蓋つきの皿に入った秘密の食べ物を食べていた。ある日、家来がひそかに蓋を取って見ると、白蛇が一匹入っていたので一口食べた。すると家来は動物の言葉がわかるようになった。
『太平広記』巻459所引『稽神録』 蛇使いの毛(もう)という男は、酒を飲みつつ毒蛇を食べていた。多年を経て、ある人が届けて来た蒼白い蛇を受け取った時、毛は蛇に乳を噛まれて倒れ、死んだ。死骸は腐りくずれた。
『ドイツ伝説集』(グリム)132「ゼーブルク湖」 イーザング伯爵は銀白の蛇を料理して食べ、動物の言葉がわかるようになる。多くの家畜や鳥たちが伯爵の悪行を語り合い「でも、もう終わりだ。まもなく城が水に沈む」と言う。伯爵は丘まで逃げ、振り返ると城のあった場所は湖になっていた。
*蛇を食べて頭が禿げる→〔禿げ頭〕3の『吾輩は猫である』(夏目漱石)6。
『今昔物語集』巻13−42 六波羅蜜寺の僧講仙は、僧坊の前に橘の木を植え、二葉の頃から枝葉が繁り花咲き実のなるまで、大切に世話をした。死後、彼は愛執の過ちにより、小蛇となって木の下に住んだ。
『今昔物語集』巻13−43 西の京に住むいやしからぬ人に一人の娘があり、紅梅を深く愛していた。いつしか彼女は病み伏すようになり、やがて死ぬが、一尺ほどの蛇に転生し、生前とりわけ愛していた紅梅の小木にまきついた。
『今昔物語集』巻13−44 定法寺の別当は博打や酒色を好んで三宝を敬おうとしない。年月積もって彼は病みついて死に、後に大毒蛇の身を受けて苦しむ。
『今昔物語集』巻14−3 熊野参詣の美僧に愛欲の思いをおこした女が、「帰り道に立ち寄る」との僧の言葉を頼みにして待つ。僧は帰途、別の道を通って逃げ、裏切られたと知った女は、悔しさと怒りのため寝屋に籠もったまま、死ぬ。やがて五尋ほどの毒蛇が寝屋から這い出し、僧を追う(*道成寺説話の祖型)。
『日本書紀』巻11仁徳天皇55年 蝦夷との戦いで敗死した田道が、墓に葬られる。後に蝦夷がその墓を掘ると、目をいからした大蛇が出てきて、多くの者を毒で殺す。時の人は、「田道は死して敵に報いた」と言った。
*→〔僧〕3の『今昔物語集』巻14−1。
『夜窓鬼談』(石川鴻斎)上巻「蛇妖」 妹が、姉に打たれたのを怒り恨んで、井戸に身を投げて死ぬ。葬儀後、仏壇に小さな蛇が現れ、妹の位牌の前でとぐろを巻く。姉は蛇を壕に捨てるが、翌朝、仏壇の扉を開くとまた蛇がいる。墓参りに行っても、蛇が墓の上に現れる。姉は熱病になり、「蛇が頸を絞める。蛇が胸を噛む」と訴えて、妹の自殺から一年後の同月同日に死んだ。
★5b.仏壇に蛇が現れても、それは死者と関連があるとは限らない。
『蛇』(森鴎外) 明治時代、信州の豪家での出来事。嫁姑の折り合いが悪いまま十数年が過ぎて、姑は病死する。初七日の晩に嫁が仏壇をのぞくと、大きな蛇がとぐろをまいていたので、嫁は発狂する。東京の理学博士である己(おれ)が所用でその家に宿泊し、「蛇は、近くの米蔵から出て来たのだろう。死者とは関係ない」と教え、嫁を東京の専門医に診せるよう勧める。
★5c.蛇が死者の魂と見なされることを利用して、殺人を死霊の祟りのように見せかける。
『半七捕物帳』(岡本綺堂)「お化け師匠」 踊りの師匠歌女寿(かめじゅ)は、娘分にしている病弱な姪を、虐待して死なせた。その一周忌に歌女寿は、頸に黒蛇がまきついた姿で死んでいた。世間では、姪の魂が黒蛇に乗り移って歌女寿を絞め殺した、と噂した。実際は情夫が歌女寿を絞殺し、黒蛇をまきつけて、死霊の祟りのように見せかけたのだった。
『斜陽』(太宰治)1 「私(かず子)」が十九歳の年に、父は死んだ。臨終の直前、父の枕元に細い黒い紐が落ちていたので、母が拾おうとすると、それは蛇だった。蛇は廊下へ逃げ、どこへ行ったかわからなくなった。父が死んだ日の夕方、庭の池のはたの木という木に蛇がのぼり、枝に巻きついているのを「私」は見た。
★5e.死後蛇に化した、あるいは、魂が蛇の形で現れたように、人々に思わせる。
『ギリシア哲学者列伝』(ラエルティオス)第5巻第6章「ヘラクレイデス」 死が間近に迫った時、ヘラクレイデスは「私の遺骸をこっそり埋葬し、代わりに、棺台の上に蛇を置け」と、召使いに命じた。葬儀の最中に、ヘラクレイデスの経帷子から蛇が這い出て来たので、市民たちは狼狽した。しかし後に、蛇はヘラクレイデスの化身でも魂でもないことが、明らかになった。
『ヴォルスンガサガ』14 強欲のファーヴニルは、莫大な黄金の宝を誰にも渡さないために、荒野に伏し龍蛇に化身して、黄金の上に身を横たえている〔*『ファーヴニルの歌』(エッダ)に、瀕死のファーヴニルと彼を刺した英雄シグルズとの問答が語られる〕。
『ギリシア神話』(アポロドロス)第3巻第5章 テーバイに都を建てたカドモスは、老年になって妻ハルモニアもろとも大蛇に変身した。彼らはゼウスによって、エリュシオンの野に送りやられた。
『神道集』巻2−7「二所権現の事」 常在御前を穴に落として戻って来る継母を、娘の霊鷲御前が野中から見ると、五丈ほどの大蛇に見える。後、夫の中将入道が継母の奥方に会いに行くと、継母は大蛇となって寝ていた。
『神道集』巻10−50「諏訪縁起の事」 地底の国々を遍歴して故郷に戻った甲賀三郎は、笹岡の釈迦堂に入り、夜通し勤行する。翌日、御堂の講に参集した人々が「大蛇がいる」と騒ぎ杖で打つので、甲賀三郎は、わが身が大蛇に化してしまったことを悟り、隠れる〔*『諏訪の本地』(御伽草子)に同話〕。
『東海道名所記』巻3 弥勒菩薩の三会説法の時まで命を保つには蛇身となるにしかず、と考えた源光は、ある夜座禅して水一滴を手に握り、生きながら大蛇と化して遠江笠原庄の桜が池に住んだ。
八郎潟の伝説 娘が大蛇と契って子を生み、八郎(または八郎太郎)と名づける。成長した八郎は、ある時、喉のかわきのため、川の水を七日七夜飲み続け、気がついたら大蛇と化していた。彼が後に住んだのが八郎潟である(青森県十和田湖および秋田県八郎潟)。
*→〔宝〕4aの『ニーベルングの指環』(ワーグナー)「ジークフリート」。
*→〔言霊〕3の『道成寺縁起』。
*人の指が蛇に変わる→〔指〕2の『東海道四谷怪談』「浪宅」・『発心集』巻5−3。
『王書』(フェルドウスィー)第1部第4章「ジャムシード王」〜第5章「ザッハーク王」 ザッハークは邪悪な王だった。悪魔がザッハーク王の肩に口づけし、王の両肩から二匹の黒い蛇が生え出る。王が蛇を切り取っても、また新たな蛇が生えてくる。蛇の餌として、毎日二人の人間の脳味噌を食べさせねばならない。ザッハークは一千年間王位にあったが、ザッハークに殺された男の息子であるフェリドゥーンが、ザッハークを倒してデマーヴァンド山に鎖で縛りつけた。
『黄金の壺』(ホフマン) 火の精リントホルストの三人の娘は、人間の目には緑色の蛇の姿となって現れる。俗世を捨て自然の奇跡を信ずる青年三人が三人の娘と結ばれれば、娘たちは蛇身を脱することができる。
『神道集』巻10−50「諏訪縁起の事」 甲賀三郎は蛇身となって地底の維縵国から帰るが、僧の教えにより、池に身を浸し四方を拝して「蛇身脱免」などの呪文を唱え、人間の姿にもどる。
『道成寺縁起』 熊野詣での僧に女が恋着し、あとを追う。僧は道成寺の鐘の中に隠れるが、女は大蛇となって鐘を巻き、僧を焼き殺す。後に女と僧は二匹の蛇の姿で、ある老僧の夢に現れ『法華経』供養を請う。『法華経』の力で女も僧も蛇身を脱し、女はトウ利天に、僧は都率天に生まれる。
★9a.双頭の蛇を見ると、死ぬ(*神を見る→〔神〕4の変形)。
『太平広記』巻117所引『賈子』 孫叔敖は子供の頃、遊びに出て双頭の蛇を見た。彼はただちにその蛇を殺して埋めた。「双頭の蛇を見ると必ず死ぬ」との言い伝えがあったので、他の人が見ないようにと考えてのことだった。
*毛の生えた蛙が家に現れたら、誰かが死ぬ→〔蛙〕4bの『蛙』(ゲーザ)。
『半七捕物帳』(岡本綺堂)「かむろ蛇」 小石川の氷川明神の山に、胴が青くて頭が黒い「かむろ蛇」が棲む。その蛇の化身である切禿(きりかむろ)の女児を見た人は、三日以内に死ぬという。煙草商関口屋の娘お袖を殺そうとたくらむ者が、役者の子に切禿の格好をさせてお袖に見せる。お袖はおびえるが、それはお袖の死を蛇のたたりと見せかけようとして仕組まれたことだった→〔毒〕2a。
『古事記』中巻 ホムチワケノミコ(垂仁天皇とサホビメの子)が、ヒナガヒメと一夜婚をした。ところが、美しいヒナガヒメの姿をかいま見ると、その本体は蛇であったので、ホムチワケノミコは恐れて逃げた。ヒナガヒメは海上を照らし、船に乗って追って来た。ホムチワケノミコはいよいよ恐れ、山に逃げ上った。
『道成寺縁起』 紀伊国牟婁郡の清次の庄司の嫁が熊野参詣の美僧に恋着し、その後を追う。日高川の渡し守りが乗船を拒んだので、女は衣を脱ぎ捨てて大毒蛇となり川を渡る。僧は道成寺に逃げこんで鐘の中に隠れるが、女の化身の大蛇は鐘に巻きつき、火焔で僧を焼き殺す。
『魔笛』(モーツァルト)第1幕 狩りに出た王子タミーノは、大蛇に追われて逃げ、倒れて気を失う。夜の女王に仕える三人の侍女が、銀の投げ槍で大蛇を殺し、タミーノを救う〔*タミーノは日本の王子、という説がある〕→〔横取り〕2。
『堤中納言物語』「虫めづる姫君」 虫めづる姫君は、気味の悪い虫ばかり集めてかわいがった。そこで右馬佐(うまのすけ)が、「いくら虫好きでも蛇はこわがるだろう」と考え、帯の端を蛇の形にして、動く仕掛けを施し、袋に入れて贈る。女房たちは、袋の中から蛇が首をもたげたので大騒ぎする。姫君は蛇を恐れつつも、「親が転生した姿かもしれない」と言って、女房たちをたしなめる。
*→〔目〕1bの『人間と蛇』(ビアス)。
*蛇がエバ(=イヴ)を誘惑する→〔妻〕1の『創世記』第3章。
*悪魔が蛇の体内に入ってイヴを誘惑する→〔悪魔〕6の『失楽園』(ミルトン)。
*生贄を要求する蛇→〔経〕3aに記事・〔蛇退治〕4の『捜神記』巻19−1(通巻440話)。
*針が蛇をしりぞける・退治する→〔針〕1。
*腹中の蛇→〔腹〕4。
*蛇と女の髪→〔髪〕3c・3d。
*蛇と蟹→〔蟹〕に記事。
*蛇と金(かね)→〔金〕6a・6b・6c
*蛇の恩返し→〔恩返し〕1の『ギリシア奇談集』(アイリアノス)巻13−46・『今昔物語集』巻16−15。
*蛇の脱皮→〔死〕8の変若水(しじみず)の神話・死と脱皮の神話。
*蛇のたたり→〔たたり〕2。
*蛇の室→〔部屋〕4に記事。
*蛇の目の呪力→〔目〕1b。
『イザヤ書』第27章 主(しゅ)は、堅く大いなる強い剣で、逃げる蛇レビヤタン(リヴァイアサン)、曲がりくねる蛇レビヤタンを罰し、また海にいる龍を殺す。
『古事記』上巻 高天原を追放されたスサノヲノミコトは、出雲国の肥の河上に降り立った。そこでスサノヲは、クシナダヒメを喰おうとしてやって来た八頭八尾の大蛇ヤマタノヲロチを斬り殺し、クシナダヒメと結婚した〔*『日本書紀』巻1に類話〕。
『日本書紀』巻11仁徳天皇67年是歳 備中国の川島河に大ミヅチがあり、毒気で大勢が死んだ。笠臣の祖縣守が瓠三つを水に投げ入れ、ミヅチにむかい「汝がこの瓠を沈めれば私は去ろう。沈められなければ汝を殺す」と言う。ミヅチは鹿になって瓠を沈めようとするが沈まない。縣守は水に入りミヅチを斬る。
『変身物語』(オヴィディウス)巻1 大地から生まれた大蛇ピュトンは、パルナソスの山腹をその体でふさぐほどの大きさで、人間たちの恐怖のまとであった。アポロン神が、多くの矢を浴びせかけ、この大蛇を殺した〔*『ギリシア神話』(アポロドロス)第1巻第4章に簡略な記事〕。
*→〔剣〕1bの『ニーベルングの指環』(ワーグナー)「ジークフリート」。
*→〔封印〕1の『ギリシア神話』(アポロドロス)第2巻第5章。
『ギリシア神話』(アポロドロス)第2巻第4章 アルクメネは双子を産んだ。その一人イピクレスは夫アムピトリュオンの胤だったが、もう一人のヘラクレスはゼウスの胤だった(*→〔双子〕6)。生後八ヵ月の時に、ゼウスの妃ヘラが、赤ん坊を殺そうと思って二匹の蛇を送った。しかしヘラクレスが立ち上がって、両手で蛇を締め殺した。
『雁』(森鴎外) 高利貸しの妾お玉が窓辺につるした鳥籠の中に、青大将が首を入れて紅雀を襲う。散歩の途中に通りかかった医学生岡田が、包丁で蛇を切断して鳥を救う。岡田が友人の「僕」にその事件を話したので、「僕」は「女のために蛇を殺すのは神話めいている」と言う〔*旅の英雄が剣で大蛇を殺すのでなく、散歩する学生が包丁で青大将を切るという形〕。
『まだらの紐』(ドイル) ジュリアは結婚を間近にして、寝室で毒蛇に殺された。二年後、妹ヘレンも結婚相手が決まり、それとともに毒蛇に狙われるようになった。シャーロック・ホームズがヘレンの身代わりに寝室にひそみ、換気口から呼び鈴の紐を伝って下りてくる毒蛇をステッキで打って、追い払った→〔密室〕1。
『捜神記』巻19−1(通巻440話) 大蛇が毎年少女一人を生贄に要求し、十年になる。寄という娘が人身御供を志願し、犬を連れて出かける。団子を洞窟の前に置いて大蛇をおびき出し、寄は犬を放ち、自らも剣を奮って蛇を殺す。この功で彼女は王妃になる。
『蛇婿入り』(昔話)「水乞型」 蛇が、爺の田に水を引いた返礼に、「娘を嫁に欲しい」と要求する。爺の三人の娘のうち末娘が承知し、蛇について行く。蛇が、すみかである沼に一緒に入れと言うと、娘は沼に瓢箪を千個投げこんで、「これを全部沈めたら一緒に入る」と答える。蛇が瓢箪を沈めようともがいている間に、娘は小刀千丁を沼に投げ入れ、蛇は全身に小刀が刺さって死ぬ(山形県最上郡真室川町。*針千本を投げ入れて蛇を殺す、と語る形もある)。
*→〔針〕1の『蛇婿入り』(昔話)「苧環型」。
『漢書』「高帝紀」第1上 漢の高祖がまだ若い頃、夜、部下とともに沢中の小道を行くと、大蛇が道をふさいでいる。高祖は一刀のもとにこれを斬り捨てる。「白帝の子(秦を暗示)が赤帝の子に斬られた」といって老婆が泣く(『史記』「高祖本紀」第8に同話)。
『日本書紀』巻7景行天皇40年是歳 「胆吹山(=伊吹山)に荒ぶる神がいる」と聞いて、ヤマトタケルは「徒(むなで)に(=徒歩で、あるいは素手で)」、胆吹山まで出かけた。山の神が大蛇となって道をふさいだが、ヤマトタケルは「これは主神(かむざね)ではなく、神の使いだろう。相手にするまでもない」と言って、蛇をまたいで通り過ぎた。山の神は、雲を起こし雹を降らせて、ヤマトタケルを苦しめた。
*→〔橋〕2aの『俵藤太物語』(御伽草子)の俵藤太は、大蛇またぐのではなく、その背を「むずむずと踏んで」、通り過ぎる。
*→〔宿〕7bの『高野聖』(泉鏡花)の青年僧は、山道に横たわる大蛇を、冷汗を流しながらまたぎ越え、怪しい女の住む一軒家にたどり着く。
『徒然草』第207段 亀山殿造営の折、地ならしをしたところ、無数の蛇が集まる塚があった。土地の神だというので処置しかねていると、大臣実基が「王土に住む虫が、皇居を建てるのに何のたたりをするものか。塚を崩し蛇を川に捨てよ」と言う。その通り行なったが、たたりはなかった。
『常陸国風土記』行方郡 継体天皇の世、箭括氏麻多智が田を開いた時、夜刀の神(蛇)が群れなして邪魔をした。麻多智は蛇をうち殺し追い払って、山の口に占有の指標を立て、「ここより上は神の地、ここより下は人の田」と宣言した。
『小栗(をぐり)』(説経) 小栗は、十八歳の二月から二十一歳の秋までに七十二人の妻を迎えたが、どれも気に入らず追い返す。やがて彼は鞍馬で十六〜七歳の美女を見出して契る。しかしその正体は、みぞろが池に棲む大蛇だったので、父大納言兼家は怒り、小栗を常陸へ追放する。
『田村の草子』(御伽草子) 藤原俊祐は十六歳の時から五十歳になるまでに、四百六十四人の妻を取り替えたが、一人も心にかなわない。ある秋、俊祐は嵯峨野で出会った美女に心ひかれ、契りを交わす。女が子を産む時、俊祐は、禁ぜられていたのぞき見をする。産屋の中では、大蛇が美童(=後の俊仁将軍)を二つの角の間に乗せ、いつくしんでいた。女は「自分は益田が池の大蛇である」と告げて、去った。
『蛇の玉』(昔話) 三井寺辺に住む男が、茶店で見た美女を妻とする。身ごもった妻が「産室を見るな」と禁じたにもかかわらず、男がのぞき見ると、妻は蛇の姿になって子を産んでいた。生まれた子は人間の姿をしていた。正体を知られた妻は去った→〔目〕3b。
*→〔雨宿り〕3の『雨月物語』巻之4「蛇性の婬」。
*→〔蛇〕10の『古事記』中巻(ホムチワケノミコ)。
『歴史』(ヘロドトス)巻4−9 ヘラクレスは、スキュティアで上半身が女・下半身が蛇の怪物と交わり、三人の子をもうけた→〔三人兄弟〕1。
『今昔物語集』巻29−40 僧が昼寝して、美女と交わるとの夢を見る。目覚めて傍らを見ると、五尺ほどの蛇が口をあけて死んでいた→〔精液〕2。
『肥前国風土記』松浦の郡褶振の峰 大伴狭手彦が船出した後、狭手彦に似た男が弟日姫子のもとに通う。弟日姫子が麻糸を男の衣の裾につけ尋ね行くと、沼の辺に蛇が寝ており、身は人で沼底に沈んでいた。
『平家物語』巻8「緒環」 豊後国の女が、朝帰りする男の水色の狩衣の襟首に、長い糸のついた針を刺す。女は糸をたどって姥岳の岩屋まで行き、針を喉に刺して苦しむ大蛇と語る。女の産んだ子は、「あかがり大太」(*→〔蛇婿〕5)と呼ばれる豪傑になる〔*同型の昔話『蛇婿入り』「苧環型」では、女は胎の中の子を堕す〕。
『ローマ皇帝伝』(スエトニウス)第2巻「アウグストス」 オクタウィウスの妻アティアが、アポロン神殿に臥輿を置いてまどろむと、大蛇が彼女の中に這って入り、しばらくして出て行った。目覚めた彼女の身体には、大蛇のような痣が現れ、消すことができなかった。十ヵ月たって、アティアはアウグストスを産んだ。そのため、彼はアポロンの息子と見なされた。
*→〔のぞき見〕1cの『英雄伝』(プルタルコス)「アレクサンドロス」。
*→〔糸〕2aの『古事記』中巻。
*→〔夫〕4の『日本書紀』巻5崇神天皇10年9月。
『沙石集』巻9−3 継母が十二〜三歳ほどの継娘を沼へ連れて行き、沼の主の蛇に、「この娘を嫁として差し上げよう」と言う。しかし父が蛇に、「母の方を取れ」と命じたので、蛇は娘を捨てて、継母の身体に巻きついた。
*蛇が女童に巻きつこうとしても、できなかった→〔菜〕3の『沙石集』巻9−18。
『太平広記』巻456所引『続捜神記(捜神後記)』 娘が近村の大邸宅へ嫁入りする。初夜の床で、幾かかえもある柱ほどの蛇が一匹、花嫁の足先から頭までからみつく。
『江島(えのしま)』(能) 昔、武蔵相模の境の湖に五頭龍という大蛇が住み、多くの人を取った。弁財天が五頭龍に「悪心を翻し殺生をとどめて国の守護神となるならば、汝と夫婦になろう」と誓約し、五頭龍もこれに応じた。
『ペンタメローネ』(バジーレ)第2日第5話 大蛇が王女との結婚を望む。父王が、宮殿内をすべて黄金や宝石に変えよなどの難題を出し、大蛇はそれを簡単にやり遂げる。大蛇は王女の腰に尻尾をまきつけるが、すぐ蛇の皮を脱ぎ捨て、美しい若者の姿になる。
*→〔変身〕2bの『天稚彦草子』(御伽草子)。
*→〔夫〕4の『黄金のろば』(アプレイウス)第4〜6巻
『平家物語』巻8「緒環」 豊後国の女が姥岳の大蛇との間にもうけた男児は、成長が速く七歳で元服した。夏も冬も、手足が隙間なく大きなあかぎれで割れていたので、「あかがり(=あかぎれ)大太」と呼ばれた〔*→〔犬婿〕3の『南総里見八犬伝』の、八犬士の身体に、八房の斑毛を思わせる痣がある物語と類似する発想〕。
『聊斎志異』巻12−463「青城婦」 成都の西北にある青城山の周辺では、蛇に犯される婦人がしばしばある。それによって生まれた女の子には、陰中に蛇の舌のごときものがある。性交時にその舌がのびて男の陰管に入ると、陽物が脱けて男はたちどころに死ぬ。
『日本霊異記』中−41 桑の木に登り葉を摘む娘を、大蛇が犯した。医師が、稷の藁や猪の毛などを用いて汁を作り、それを使って蛇を娘の身体から放した。しかし三年後、娘はふたたび蛇に犯されて死んだ〔*『今昔物語集』巻24−9に類話。*→〔転生〕2bの、『宝物集』巻5のような事情があったのであろうか〕。
*→〔目〕1bの『今昔物語集』巻29−39。
★1.人間の女が小蛇を産み、育てる。蛇は成長後、昇天しようとして失敗する。
『常陸国風土記』那賀の郡茨城の里哺時臥(くれふし)山 ヌカビコの妹ヌカビメが、名も知らぬ男と夫婦になって小蛇を産む(*→〔夜〕1)。小蛇は急速に成長する(*→〔成長〕1c)。ヌカビメは蛇にむかって「汝は神の子ゆえ、父の所へ行け」と言う。蛇は怒り、伯父にあたるヌカビコを雷撃して殺し、天に昇ろうとする。しかしヌカビメが瓮(ひらか)を投げつけたため、蛇は昇天できず、哺時臥(くれふし)山の峰に留まった。
『蛇の息子』(昔話) 富山の町に住む爺婆が蛇の子を育て、「シドー」と名づけてかわいがる。シドーはたくさんの米を食って大蛇になったので、爺婆は「もうお前を養えない」と言い聞かせる。シドーは出て行ったが、やがて神通川に姿を現し、町中大騒ぎになる。殿様が「蛇を退治した者には、大金を与える」と、お布令(ふれ)をだす。爺婆はシドーに「こんな所で人を恐がらせず、どこかへ姿を隠してくれ」と頼む。シドーは海へ去り、殿様は爺婆が一生安楽に暮らせるだけの扶持(ふち)を与えた(山梨県西八代郡九一色村)。
『耳袋』巻之2「蛇を養ひし人の事」 清左衛門夫婦が小蛇を箱に入れ、縁の下で育てること十一年に及んだ。蛇は大きく成長し、縁遠い娘がこの蛇に祈ると願いが叶う、などの事もあった。天明二年(1782)三月の大嵐の日、蛇は風雨に乗じて昇天した。
★3.独身者が小蛇を育てる。蛇は成長後、馬や人を呑み、町を水没させる。
『捜神記』巻20−15(通巻463話) 貧乏な老婆が、頭に角のある小蛇に食物を与えていた。蛇は一丈あまりに成長して知事の馬を呑み、知事は怒って老婆を殺した。蛇は人にのりうつって「仇を討つ」と言う。四十日後の夜、町は陥没して湖となった。
『太平広記』巻458所収『広異記』 書生が小蛇を育て、毎日おぶって歩いたので「担生」と名づける。やがて大きくなったため沢に放した。四十年あまりたつと蛇は舟ほどの大きさになり、沢に行く人を呑んだ。書生は県令に捕らわれ獄につながれる。しかし夜のうちに、獄だけ残して県全体が沈んで湖になった。
*関連項目→〔密室〕
『浦島太郎』(御伽草子) 浦島太郎は、放生した亀の化身である女に連れられて、龍宮城を訪れる。女は浦島と夫婦になり、四方に四季の草木を表す御殿を見せる。東の戸を開ければ春、南面には夏、西には秋、北には冬の景色があった。浦島は三年間、龍宮城で暮らした。
『源氏物語』「少女」 光源氏が三十五歳の八月に完成させた六条院は、四区画からなっていた。東南は春の町で光源氏と紫の上が住み、東北は夏の町で花散里、西南は秋の町で秋好中宮、西北は冬の町で明石の君が、それぞれ住んだ。
『神道集』巻4−17「信濃国鎮守諏訪大明神の秋山祭の事」 奥州の悪事の高丸の城郭内には四季の姿が現されており、浄土のごとくであった。
『神道集』巻10−50「諏訪縁起の事」 地底の維縵国には四季の門があり、東の門を開くと春の景色、南の門を開くと夏の景色、西の門を開くと秋の景色、北の門を開くと冬の景色が、それぞれ美しく見えるのだった。
『ドラえもん』(藤子・F・不二雄)「季節カンヅメ」 ドラえもんとのび太が、季節カンヅメの詰め合わせをあけ、面白がって春のカンと秋のカンを隣家の庭に投げこむ。パパは夏が好き、ママは冬が好きなので、それぞれカンをあけ、互いに相手のあけたカンを隣家の庭に捨てる。おかげで隣家の庭では一時に桜が咲き蝉が鳴き、柿がなって木枯らしが吹く。
*→〔長者〕3aの『うつほ物語』「吹上」上。
*四季を現出する琴の音→〔琴〕2の『列子』「湯問」第5。
『風流志道軒伝』(平賀源内)巻之2 浅之進(後の志道軒)は若い頃、風来仙人から、仙術の奥義をこめた羽扇をもらった。彼は神田駿河台に仮住まいし、江戸の一年十二ヵ月の風俗を、鏡のごとく羽扇に映し出して見た。見終わって羽扇を投げると、先ほど炊きかけた飯が、まだ熟する前だった。
『鶯の浄土(鶯の里)』(昔話) 若者が、山中の立派な屋敷に宿を請う。屋敷の娘が、「十二ある座敷のうち十一までは自由に見てよいが、十二番目の座敷だけは見るな」と禁ずる。若者は順々に座敷の戸を開けて、一月から十一月までの景色を見る。十二月の部屋も見たくなって戸を開けると、梅の木に止まっていた鶯が飛び立ち、たちまち屋敷は消えて、若者は谷底に一人残される(新潟県長岡市成願寺町)。
『今昔物語集』巻19−33 僧が、神の化身の男に案内されて、神木の上の宮殿に行く。男はのぞき見を禁ずるが、僧がひそかに見ると、東南西に春夏秋の景色があった〔*ここまでで物語は中断している〕。
『聴耳草紙』(佐々木喜善)36番「油採り」 なまけ者が或る島へ渡り、鉄門・鉄塀の館に滞在して御馳走でもてなされる。ある夜、なまけ者が隣室を覗くと、炭火の燃える上に男が逆さ吊りにされ、目・鼻・口から垂れる油を採られている。油取りの男が「隣の奴もよく油が乗ったから明晩はあいつの番にしよう」とつぶやくのを聞いて、なまけ者はあわてて逃げ出す。
『今昔物語集』巻11−11 唐土へ渡った慈覚大師が迷いこんだ屋敷は、纐纈城といい、訪れた人を肥らせて高所に吊るし、身体の所々を切って血を出し、それでしぼり染めを作るのだった〔*『宇治拾遺物語』巻13−10に類話〕。
『本朝二十不孝』(井原西鶴)巻2−3「人はしれぬ国の土仏」 船乗り藤介が漂流して異国の島に取り残される。唐人たちが来て藤介を鉄門で固めた家へ連れて行き、逆さ吊りにして人油を絞り取る。ある時通りかかった日本僧に、藤介は「ここは纐纈城という恐ろしい国ゆえ、命を取られ給うな」と教える。
『今昔物語集』巻5−1 僧伽羅と五百人の商人たちが上陸した島は、美女ばかりが住んでいた。しかし美女の正体は羅刹鬼で、訪れた男たちを夫として愛するが、新たな商人船がやって来ると、それまでの夫たちの脚の筋を断ち切って建物に閉じ込め、毎日の食用にした。建物の中には、まだ生きている者、すでに死体となった者など、多くの男たちがころがっていた。
『青ひげ』(ペロー) 青いひげの男が、新たにめとった若い妻に多くの鍵を渡し、「屋敷内のどこへ行ってもよいが、階下の奥の小部屋だけは開けるな」と禁じて、旅に出る。妻は好奇心を抑えることができず、小部屋を開ける。床は血の海で、壁際に女の死体が数体くくりつけられていた→〔妻殺し〕2a。
*『青ひげ』(ペロー)の変型→〔扉〕5aの『青ひげ公の城』(バラージュ)・『扉の影の秘密』(ラング)。
『黒塚』(能) 安達が原で、賤の女の庵に宿を借りた東光坊祐慶らは、「見るなかれ」と禁じられたにもかかわらず、女の閨をのぞき見る。中は膿血と腐臭に満ち、死骸が数知らず積み重なっていた。祐慶らは肝をつぶして逃げ出し、女(実は黒塚に棲む鬼女)は怒って追って来る。祐慶らは、不動明王など五大尊明王に祈り、鬼女を調伏する。
『まっしろ白鳥』(グリム)KHM46 魔法使いの男が、美しい娘を森の中の家へさらい、欲しい物を何でも与える。二〜三日してから魔法使いは娘に留守番を命じ、鍵と卵を渡して、一つの部屋だけは見るなと禁ずる。娘が部屋を開けるとバラバラ死体がいくつもあり、娘は驚いて卵を落とし、卵に血がつく。
*見ることを禁じられた部屋に、美女の像がある→〔像〕1dの『忠臣ヨハネス』(グリム)KHM6。
*見ることを禁じられた部屋で蛇女房が出産する→〔蛇女房〕1の『田村の草子』(御伽草子)・『蛇の玉』(昔話)。
*→〔のぞき見〕に記事。
『大鏡』「昔物語」 朱雀院は、延長元年(923)の誕生以来三年間、御殿の格子も上げず夜も昼も火をともして、御帳台の中で養育された。延喜三年(903)に大宰府で憤死した菅原道真の霊のたたりを、恐れてのことであった〔*朱雀院の生母・穏子は、時平(*→〔雷〕1)の妹である〕。
『ギリシア神話』(アポロドロス)第2巻第4章 アクリシオスは、子供の身を守るのではなく、自分の身を守るために、娘ダナエを青銅の部屋の中に閉じこめ、誰も近づけないようにする。アクリシオスは「娘の産んだ子に殺されるだろう」との神託を得ていたからである→〔予言〕1a。
『千一夜物語』「『ほくろ』の物語」マルドリュス版第250〜253夜 結婚後四十年たってはじめて授かった子「ほくろ」を邪視から守るため、両親は、この子が十四歳になるまで地下室で育てる。
*→〔運命〕1aの『イソップ寓話集』(岩波文庫版)363「子供と絵のライオン」・〔予言〕1aの『イソップ寓話集』(岩波文庫版)162「子供と烏」。
『鳥』(大江健三郎) 「ぼくは多くの鳥たちに囲まれている。鳥たちのほかはみんな他人だ」、と「かれ」は考える。二十歳の誕生日に「かれ」は大学をやめ、鳥たちと暮らすために自室に閉じこもって、一年以上がたった。母親が「かれ」を精神病院へ送り、手荒な治療によって、「かれ」の幻想は消える。しかし「かれ」が家へ帰ると、今度は母親の方が、鳥たちの幻想にとりつかれていた。
*毒虫となって自室に閉じこもる→〔変身〕3aの『変身』(カフカ)。
『ヴォルスンガ・サガ』39 グンナル王が、両手を縛られて蛇牢に入れられる。彼は足指を使って竪琴を巧みに弾じ、沢山の蛇どもは奏楽を聞いて皆眠りこむ。しかし一匹の大蝮だけが彼の所に這い寄って、肉を食い破り心臓を噛む。グンナルは死ぬ。
『ギリシア神話』(アポロドロス)第1巻第9章 アドメトスはアポロンの助けを得て、アルケスティスを花嫁とした。しかし婚礼に際して神々に犠牲を捧げる時に、アルテミスへの捧げ物を忘れてしまった。そのため新婚夫婦の寝室が、とぐろを巻いた蛇でいっぱいになった。アポロンはアドメトスに、アルテミスをなだめるよう、教えた。
『古事談』巻6−11 楽人助元が罪を得て、蛇の集まる左近府の下倉に入れられる。夜半に大蛇が襲いかかろうとするので、助元は笛で「還城楽」を吹く。大蛇は帰り去る。
『レイダース 失われた聖櫃(アーク)』(スピルバーグ) アメリカ人考古学者インディ・ジョーンズと恋人マリオンは、ナチス・ドイツの一派に捕らわれ、数千匹の毒蛇が群がる石室へ閉じ込められる。二人は松明(たいまつ)の炎を毒蛇に突きつけ、毒蛇の攻撃から身を守る。やがて松明の炎が消えようとする時、インディ・ジョーンズは壁を壊して、マリオンとともに蛇の室から脱出することができた。
*→〔難題〕2aの『古事記』上巻・〔難題〕2bの『天稚彦草子』(御伽草子)。
『今昔物語集』巻3−1 天竺の浄名(維摩)居士は、一丈四方の部屋に住んでいた。そこへ十方から三万二千の仏たちが無数の菩薩・聖衆とともにやって来て法を説いたが、部屋の中にはまだ余裕があった。これは、浄名居士の不思議な神通力によるものだった。
『遠野物語』(柳田国男)14 遠野の各集落には必ず一戸の旧家があって、オクナイサマという神を祀っている。その家には畳一帖の小部屋があり、この部屋で夜寝る者は、いつも不思議な目に遭う。枕を返されるなどは、常のことである。誰かに抱き起こされたり、部屋から突き出されることもある。静かに眠ることを許さぬ部屋である。
*小さな密室で姿を消す→〔密室〕5の消えた代議士の娘(日本の現代伝説『ピアスの白い糸』)。
★1a.人間が、魔法などによって動物に変身させられたり、醜い姿にされたりする。後に、もとの姿に戻れることもある。
『黄金のろば』(アプレイウス)第3巻 ルキウスは、寄宿先のミロオ家の女主人が身体に膏油を塗ってみみずくに変身する有様をのぞき見る。小間使いのフォーティスに膏油を盗ませ、自分も塗ってみると、ルキウスはロバになり、そのためさまざまな苦労をする〔*物語の最後にはルキウスは人間にもどる〕。
『漁夫とその妻の話』(グリム)KHM19 王子が魔法でカレイに変えられる。カレイは漁夫に釣り上げられるが、わけを話して逃がしてもらい、返礼に、漁夫の欲深い妻の願いをいくつか叶える→〔円環構造〕1。
『魔術師』(谷崎潤一郎) 某公園の見せ物小屋で興行する美貌の魔術師は、人間を孔雀・豹の皮・燭台・蝶々など、様々なものに変身させて見せる。観客の「私」は半羊神になりたいと望み、魔法の杖で背中を打たれて、二本の角と羊の下半身を持つ姿になる。恋人も「私」のあとを追って半羊神になる。
『マハーバーラタ』第3巻「森の巻」 賽子(さいころ)賭博に負けて森をさまようナラ王が、蛇王カルコータカを救う。蛇王は返礼にナラ王を噛み、ナラ王の身体に取りついているカリ魔王を毒で苦しめるとともに、ナラ王を醜い姿に変えてその正体を隠す。ナラ王はリトゥパルナ王の御者となり、賽子の奥義を授かって、妃ダマヤンティと再会する。ナラ王は蛇王から得た衣を着て、本来の端正な容姿に戻る。
『ローエングリン』(ワーグナー) ブラバント公国の領主の息子ゴットフリートは、森の中で姉エルザとはぐれ、魔女オルトルートによって、白鳥にされてしまう。その白鳥の引く小舟に乗って、騎士ローエングリンがブラバントへやって来る。ローエングリンはエルザと結婚し、後に自分の素性を告げて(*→〔名前〕6)、遠い国へ去る。その時、白鳥はゴットフリートの姿に戻る。
*宿の主である魔女が、訪れた旅人を動物に変身させる→〔宿〕3b。
★1b.美女が動物の皮をかぶって変身する。皮を脱げばまた美しい姿にもどる。
『千匹皮』(グリム)KHM65 美しい王女が、千種類の毛皮を集めて作った外套をはおり、顔と両手を煤で黒くして、他国の王の城で台所仕事をする。舞踏会の時には、王女はひそかに毛皮を脱ぎ、美しい衣装に着替えて王と踊る。
『ろばの皮』(ペロー) 美しい王女がろばの皮をかぶって身をやつし、農家の下女となって働く。休日には部屋にこもり、ひそかに皮を脱いで美しいドレスを着る。その姿を王子がのぞき見る。
★1c.博士が薬を飲んで別人に変身し、薬を飲んでまたもとにもどる。しかし次第にもとの姿にもどりにくくなる。
『ジキル博士とハイド氏』(スティーブンソン) 五十歳代のジキル博士は、薬を飲んで醜悪な小男ハイドに変身し、放埓な生活を楽しんだ後に、ふたたび薬を飲んでジキル博士にもどる。しかし繰り返すうちに、次第にジキルにもどりにくくなり、朝目覚めるとハイドになっていたりする。ジキル博士は絶望して自殺する。
★1d.日本人が四年周期で変身し、西洋風の華やかな歓楽を享受する。しかしやがて日本の暮らしに心の落ち着きを感じるようになる。
『友田と松永の話』(谷崎潤一郎) 松永は、四年周期で変身する。彼は妻子とともに故郷の奈良にいる時は、やせた陰気な男である。「友田」と名乗って巴里や上海や東京に出ると、西洋風の歓楽にふけり、肥満体形になって若返る。しかし四年たつと彼は、古い日本に郷愁を感じ、やせ衰えて田舎に帰る。何度かこれを繰り返し、四十五歳になった。今度「松永」になったら、もう「友田」に戻らないのではないか、と彼は予感する。
『蛙の王様』(グリム)KHM1 姫が泉に落とした黄金のまりを、蛙が取ってくれる。蛙はその返礼に、姫と一緒のベッドに寝たいと言うので、姫は腹を立て、蛙を壁にたたきつける。その途端、蛙は王子に変身し、「魔女の呪文で蛙にされていたが、姫のおかげで救われた」と語る。姫は王子と結婚する。
『黄金(きん)の鳥』(グリム)KHM57 黄金の鳥を捜しに出かけた王子が、途中で出会った狐に助けられて、鳥を手に入れ、美しい姫を妻とする。その後に狐が、「私を射ち殺して頭と手足をちょんぎって下さい」と頼むので、王子がそのとおりにすると、狐は人間に姿を変える。それは、王子の妻となった姫の兄であり、この時ようやく、魔法から解放されたのだった。
『美女と野獣』(ボーモン夫人) ベルは父の命を救うため、恐ろしい野獣の宮殿に住む。野獣とともに暮らすうち、ベルは野獣の善良さを知り、その醜さが気にならなくなる。とうとうベルは野獣の求婚に応じ、妻となることを誓う。その時、仙女のかけた魔法がとけて、野獣は美しい王子に変わった→〔三人姉妹〕1。
★2b.蛇や田螺が人間に変わる。「魔法がとけた」とは明示されない。
『天稚彦草子』(御伽草子) 長者の家の前に大蛇がやって来て、「汝の三人の娘を与えよ」と要求する。長女・次女は拒絶し、末娘が大蛇の求婚に応じる。十七間の家がいっぱいになるほどの大蛇が現れて、「刀で私の頭を切れ」と娘に言う。娘が爪切刀(=爪切りはさみ)で蛇の頭を斬ると、切り口から、直衣を着た美しい男(=天稚彦)が走り出る。男と娘は夫婦になる。
『田螺長者』(昔話) 子のない夫婦が水神様に祈願し、妻が田螺を産む。田螺は二十年たっても田螺のままだったが、長者の娘を嫁にもらう。四月八日の薬師様のお祭りの日に嫁が薬師様に参詣すると、そのおかげで田螺は立派な若者に変身する。夫婦は商売も繁盛して、長者となる(岩手県上閉伊郡。*田螺が「私を杵で叩きつぶせ」と言い、嫁が杵を打ちおろして田螺をつぶすと人間になる、という形もある)。
*→〔壺〕4の『壺むすこ』(インドの昔話)も同類の物語。
『変身』(カフカ) セールスマンのグレゴール・ザムザは、父・母・十七歳の妹とともに、暮らしている。ある朝、グレゴールは巨大な毒虫に変身する。彼は自室に閉じこもり、妹が食事を運ぶ。働き手を失った一家は困窮し、下宿人を置くが、彼らは毒虫の存在を知って、下宿代の不払いを宣言する。グレゴールは、変身して数ヵ月を経た三月下旬に死ぬ。一家は安堵して、郊外へピクニックに出かける。
*明確な理由なく、一人の人間が乳房に変身する→〔乳房〕1の『乳房になった男』(ロス)。
★3b.明確な理由なく、大勢の人間が動物に変身し、一人だけ人間のまま取り残される。
『犀』(イヨネスコ) 日曜日、ベランジェとジャンがカフェにいると、一頭の犀が駆けて行く。月曜日、ベランジェの事務所に、犀に変身した同僚がやって来る。ジャンも犀化し、やがて町の人々が次々に犀になり、店には「変身のため休業」という看板が出る。最後に残ったベランジェの恋人も犀化し、ベランジェ一人が犀になれず取り残される。
『三枚のお札』(昔話) 小僧を追って来た山姥にむかって、和尚が「化けくらべをしよう」と挑む。山姥は和尚の言うままに、大きくなったり小さくなったりする。和尚は山姥をおだてて味噌に変身させ、一口になめてしまう〔*山姥を豆粒ほどに小さくさせて呑みこむ、という形もある〕。
『千一夜物語』「漁師と鬼神との物語」マルドリュス版第3〜6夜 漁師が海から壺を引き上げ、鉛の封を取る。中から巨大な鬼神(イフリート)が現れて、「お前を殺す」と言う。漁師が「こんな巨大な身体が、壺に入っていたとは信じられぬ」と不思議がると、鬼神は煙になって壺の中へ入る。漁師は壺を鉛で封じ、海へ投げ込もうとする。鬼神は漁師に許しを請い、もう一度、壺から出してもらう→〔壺〕3。
『長靴をはいた猫』(ペロー) 長靴をはいた猫が、人食い鬼の城を訪れる。猫が人食い鬼の変身能力を問うので、人食い鬼は大きなライオンに変身して見せる。猫が「小動物になるのは不可能でしょう」と言うと、人食い鬼は、たちまち小さな二十日鼠に変身する。猫は二十日鼠にとびかかり、食べてしまう。
『ニーベルングの指環』(ワーグナー)「ラインの黄金」 神々の王ヴォータンと火の神ローゲが、小人アルベリヒから指環を取り上げるために、地下の世界ニーベルハイムへ下る。アルベリヒは大蛇に変身して自分の力を誇るが、ローゲにそそのかされて小さな蛙に変身したところを、捕えられる。
*→〔瓶(びん)〕1の『ガラス瓶(びん)の中の化け物』(グリム)KHM99。
『不思議の国のアリス』(キャロル) 不思議の国へ行ったアリスは、水を飲むと身体が縮み、菓子を食べると身体が巨大になって、自分の涙でできた池に溺れそうになる。
『ラーマーヤナ』第5巻「美の巻」 猿のハヌーマンは、自由に身体の大きさを変えられる。彼は、ランカー島の都へ潜入する時には、身体を猫ほどに小さくした。
『ラーマーヤナ』第6巻「戦争の巻」 ハヌーマンは、ヒマラヤの山の薬草を取る時には、身体を大きくして、山頂を丸ごと引き抜いて運んで来た→〔草葉〕1。
『オデュッセイア』第4巻 トロイア戦争を終えて帰国するメネラオスたちが、漂流してエジプトのパロス島に着く。彼らは、岩屋で昼寝する海の老人プロテウスを捕らえるが、プロテウスは獅子・蛇・豹・猪に次々に変身し、さらに、流れる水や樹葉茂る巨木にもなって逃れようとする。しかしメネラオスらが手を離さないので、プロテウスはあきらめ、彼らの要求にしたがって、帰国の方法・僚友たちの運命などを教える。
『二人兄弟の物語』(古代エジプト) 今はファラオの愛妾となっているかつての妻に復讐すべく、バタは雄牛に変身する。妻は恐れ、ファラオに牛を殺すよう請う。殺された牛の血が二滴地に落ち、そこから二本の木が生えて夜のうちに大木になる。妻はファラオに願って、木を切り倒させる。木の切り屑が妻の口の中に入り、彼女は身ごもる。生まれた男児が皇太子となり、妻の悪事を臣下たちに語る。
『ペンタメローネ』(バジーレ)第5日第9話 シトロンの実から生まれた美女が王子と結婚するが、黒人の奴隷女によって頭にピンを突き刺され、白鳩と変じて飛び去る。白鳩は羽をむしられ捨てられる。そこからシトロンの木が生え、実をつける。実を切ると美女が現れて、奴隷女の悪事を夫に語る。
*→〔わざくらべ〕3。
『今昔物語集』巻3−14 金鋼醜女は、毒蛇のごとき膚をはじめ、すべて形有様人に似ぬ醜さだった。醜さゆえに父王の催す法会にも参列できぬ彼女は、釈迦牟尼仏に祈って美女となった。
『今昔物語集』巻3−15 燼杭太子は鬼神のごとき醜貌で、妻も故国へ逃げ帰るほどだった。帝釈天が太子に玉を授け、そのおかげで太子は端麗な容姿になった。
『神道集』巻2−6「熊野権現の事」 善財王の千人の后のうち、五衰殿の女御が一番の醜女であった。彼女は千手観音に祈って美貌となり、以後王の寵愛を一人じめにする〔*『熊野の本地』(御伽草子)では、五衰殿の女御が醜貌だったとのモチーフがない〕。
『鉢かづき』(御伽草子) 鉢をかぶってさすらい、里人たちから「化け物」とあざけられる姫君は、中将家の御子宰相殿に愛され妻となる。嫁くらべの日、鉢が頭から落ちて姫君は美貌をあらわす。
『花世の姫』(御伽草子) 姥衣を着た姫君が、中納言邸の火焚き女として雇われる。正月十五日の夜、中納言家の若君宰相殿が、姥衣をぬいだ美しい姫君の姿をたまたまのぞき見て驚く〔*『姥皮』(御伽草子)に類話〕。
『ものくさ太郎』(御伽草子) ものくさ太郎は、髪に塵・埃・虱がつくなど、人と思えぬ姿だったが、女房の指図によって七日湯風呂に入り身をつくろうと、美しい玉のごとき美男となった。
*美貌から醜貌に変化したかのごとくよそおう男→〔闇〕3bの『宇治拾遺物語』巻9−8。
『狸腹鼓』(狂言) 猟師の喜惣太が、田畑を荒らす狸どもを射殺す。多くの若狸が射られたため、大狸が、殺生をやめさせようと、喜惣太の伯母尼に化けてやって来る。伯母尼の説諭で、喜惣太は殺生をやめると約束するが、伯母尼は犬におびえて、正体が狸であることを暴露する。大狸は腹鼓を打ちつつ、隙を見て逃げ去る。
『日本霊異記』中−40 橘奈良麻呂が奈良山で狩りをし、狐の子を捕えて木で串刺しにして狐穴の入口に立てた。狐の母はこれを恨み、奈良麻呂の母に化けて訪れ、奈良麻呂の子を抱いて行き、狐穴の入口で串刺しにして復讐した。
『本朝二十不孝』巻4−4「本にその人の面影」 兄弟が亡き母を偲んでいると、庭先に母の幽霊が現れる。兄は合掌するが、弟は矢を射かける。光を放って母の姿は消え、古狸が鼻筋を射通されてころがっていた。
『羅生門』(御伽草子) 京の羅生門や大和の宇多の森に出没する鬼の片腕を、渡辺綱が斬り落とす。源頼光がその腕を唐櫃に保管して、七日間の物忌みをする。鬼は片腕を取り戻すために、源頼光の老母の姿に変じて訪れる。源頼光は物忌みの禁を破って、老母を屋敷に入れてしまう〔*八世紀の英詩『ベーオウルフ』は、英雄が怪物と戦って片腕をもぎ取る、怪物の母が襲来し息子の片腕を奪い返して去る、などの点で、羅生門の鬼の伝説に似るといわれる。しかし『ベーオウルフ』では、怪物の母は英雄の肉親に化けたりせず、怪物の姿のままやって来る〕。
*→〔山姥〕2の『天道さん金ん綱』(昔話)。
『釣狐』(狂言) 多くの狐が、猟師のしかけた罠にかかって命を落とす。古狐が、猟師の伯父である伯蔵主という僧に化け、ある夜、猟師の家を訪れて「狐釣りをやめよ」と、意見をする。猟師は「今後は殺生はしませぬ」と約束しつつも、帰って行く伯蔵主のそぶりを怪しんで、罠をしかける。狐の姿に戻った伯蔵主は、餌につられて罠にかかるが、はずして逃げ去る。
『今昔物語集』巻27−13 近江国安義橋で鬼におそわれた男が逃げ帰り、陰陽師の言にしたがって門を閉じ、物忌みをする。そこへ、陸奥に赴任していた弟が久しぶりに訪れたので、物忌みとはいいながら追い返すわけにもいかず、中へ入れる。弟は鬼の正体をあらわし、男の首を食い切って姿を消す。
『狼と七匹の子山羊』(グリム)KHM5 狼が白いパン粉を足につけ、七匹の子山羊が留守番する家へ来て、「お母さんが帰って来たよ」と言う。狼は、白い前足を窓板にかけて見せたので、子山羊たちは「本当のお母さんだ」と思って、戸を開けてしまう。
『手袋を買いに』(新美南吉) 冬の夜、森の子狐が町の帽子屋まで手袋を買いに行く。母狐が、子狐の片手を人間の手に変えて、「こちらの手だけを見せるんだよ」と教える。ところが子狐は間違えて狐の手を見せてしまう。帽子屋は驚くが、子狐の持って来た白銅貨は本物だったので、手袋を売る。子狐は森へ帰って、「人間ってちっとも恐くないよ」と言う。
『みつけ鳥』(グリム)KHM51 男児「みつけ鳥」と女児レーネ(レン)は、大の仲良しだった。魔法使いの婆さんが「みつけ鳥」を殺そうとするので、レーネは「みつけ鳥」に、「二人一緒に変身しよう」と言う。一度目は「みつけ鳥」がバラの幹になり、レーネがバラの花になる。二度目は「みつけ鳥」が教会堂になり、レーネが天井のシャンデリアになる。そして三度目。「みつけ鳥」が池になり、レーネが鴨になって池に浮かぶので、婆さんが池の水を飲み干そうとする。鴨が婆さんをくわえて、池へ沈める。
*→『変身物語』(オヴィディウス)は、古代ギリシアおよびローマのさまざまな変身譚を集成した、神話・伝説集である。
『杜子春』(芥川龍之介) 夜、峨眉山の岩上に一人すわる杜子春に、さまざまな魔性のものが「お前は何物だ。返事をせよ」と迫る。しかし杜子春は、仙人・鉄冠子(てっかんし)の言いつけを守り、一言も口をきかない。杜子春は殺されて、地獄に落とされる。閻魔大王に脅されても、鬼たちに拷問されても、彼は沈黙を守る。
『耳なし芳一のはなし』(小泉八雲『怪談』) 和尚が、平家の亡霊から芳一を守るため、芳一の全身に経文を書きつけて、「呼ばれても返事をするな」と教える。夜、平家武者の亡霊が呼びに来るが、芳一は沈黙を守る。亡霊は芳一を捜すが、経文の力で芳一の姿は見えず、耳だけが二つ宙に浮かんでいた→〔耳〕2。
*神や霊の問いかけに、返事をしてはいけない→〔言挙げ〕5a・5b。
*妖怪や幽霊などの呼びかけに、返事をしてはいけない→〔呼びかけ〕2。
*幽霊と話をしてはいけない→〔無言〕4。
*死の予言に対して返事をしなかったので、命が助かる→〔予言〕2aの『捜神記』巻18−25(通巻437話)。
『とり付くひっ付く』(昔話) 爺が山へ薪を切りに行くと、「とーり付こうか、ひっ付こうか」と声がする。爺は何が何だかわからぬままに、「とーり付け」と返事をする。小判がいっぱい落ちて来て、身体中にくっつく(*隣りの爺が真似をすると鳥の糞がつく。広島県庄原市)。
『杭か人か』(狂言) 夜、一人で留守番する太郎冠者の肝を試そうと、主が物陰に立つ。太郎冠者はおびえ、「人であろうか。杭かも知れぬ。そこなは人か杭か」と問う。主が「杭じゃ」と答えると、太郎冠者は「杭なら物を言わぬはずじゃが」と首をかしげる(「杭でよかった」と安心する、という演出もある)。
『杭盗人(ぬすっと)』(落語) 泥棒が大きな屋敷に忍び込み、「ニャオ」「ワンワン」と、猫や犬の鳴き真似をしてごまかそうとする。しかし怪しまれて、泥棒は庭の池に飛び込み、頭だけを出す。家人が「池にあるのは盗人か杭か」と問うと、泥棒は「くいくい」と答える。
『湊(みなと)の杭』(昔話) 狸が杭に化け、つないだ舟を遠くへ持って行く悪戯をする。狸をこらしめようと人々が舟に乗り、「どこにも杭がないなあ」と大声で言って、狸の化けた杭に気づかぬふりをすると、杭が「くいっ」と言う。人々は「ああ、ここに杭があった」と笑って杭を縛り、棒で打つ(愛知県幡豆郡)。
『百喩経』「鴛鴦の鳴き声を真似た貧しい男の喩」 男がウトパラの華(優鉢羅華)を盗んで女に与えようとして、鴛鴦の鳴き真似をしつつ王の庭園の池に忍び込む。番人が「誰だ」と問うので、男はうっかり「私は鴛鴦だ」と返事をしてしまう。捕らえられてから、男はあらためて鴛鴦の鳴き真似をするが、もう遅かった。
『千一夜物語』「眼を覚ました永眠の男の物語」マルドリュス版第647〜653夜 アブール・ハサンと妻が死んだふりをして、教王ハルン・アル・ラシードと妃から莫大な葬儀費用をせしめる。教王と妃がハサン夫婦の死体を見て、「どちらが先に死に、どちらがあとを追ったのか、教えてくれた者に一万ディナールを与える」と召使たちに言う。すると死んだはずのハサンが、「まず妻が死に、次に私が悲しみの余り死んだのです」と答える。
『笑府』巻11−592「米」 女房が情夫を引き入れているところへ、亭主が帰宅する。女房は情夫を布袋に入れ、「米だ」と言ってごまかそうと考える。しかし亭主から「その袋は何だ」と問われると、女房は動転して返事ができない。すると袋の中の情夫が「米です」と答える。
『変身物語』(オヴィディウス)巻3 妖精エコーはおしゃべりだったため、女神ユノー(ヘラ)によって、舌の使用範囲を制限された。エコーは自分から言葉を発することができなくなり、他人が発した言葉の終わりの部分を、そのまま繰り返して言い返すことだけが許された。
『十訓抄』第1−26 藤原成範は流罪になり、後に赦免されて参内したが、以前のように女房の詰所へ立ち入ることは、できなくなった。一人の女房が「雲の上はありし昔にかはらねど見し玉垂れのうちや恋しき」と歌を書いて差し出した時、成範は「や」の文字を消し、傍らに「ぞ」と書いて返した。ただ一文字で返歌をしたのは見事なことであった。
『続古事談』巻1−25 藤原道長の三女・威子が後一条帝の后になった日。宴席で道長は、「即興の歌を詠むので、必ず返歌してほしい」と右大将実資に告げ、「この世をば我が世とぞ思ふ望月のかけたることもなしと思へば」と詠じた。実資は「すばらしい歌で、とても返歌などできません。この歌を皆で唱和すべきです」と言い、人々は繰り返し「この世をば・・・・」の歌を詠じた。道長は満足して、返歌の請求をしなかった。
『大岡政談』「直助権兵衛一件」 殺人犯直助は「権兵衛」と変名し、白州へ呼び出されても、「直助など知らぬ。自分は権兵衛だ」と主張する。やがて放免されて白州を出る直助の後ろ姿に、大岡越前守が「直助」と呼びかける。直助は思わず「へい」と答え、振り向いてしまう。
『世説新語』「文学」第4 著名な学者・服虔が自分の名前を隠し、崔烈の『春秋伝』講義を聴いていた。崔烈は「あの男はひょっとしたら、名高い服虔ではないか?」と思い、朝、まだ目覚めていない服虔に、「子慎(=服虔のあざな)」と呼びかけた。服虔は驚いて、思わず返事をしてしまった。こうして二人は親友になった。
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