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【禁忌】

★1.秘密を言ってはならない禁忌。

『黄金伝説』46「聖グレゴリウス」  聖グレゴリウスの頭には、しばしば聖霊が鳩の姿をしてとまっていた。それを見た助祭ペトルスは、「このことを公言したら死なねばならぬ」と言われたが、聖グレゴリウスの死後、彼の聖性を証明するため、聖霊の鳩の奇跡を宣誓し、その場で死んだ。

『カンタベリー物語』「バースの女房の話」  フリジアの王ミーダ(=ミダス)は、ろばのような長い耳を持っていた。王は髪を伸ばしてそれを隠し、妻にも、このことを他人に言わないよう頼んだ。しかし妻は、やがて秘密を守ることに耐えられなくなり、沼地の水に口をつけて「夫の耳はろばの耳」とささやいた〔*原話である『変身物語』(オヴィデイウス)巻11では、妻ではなく、理髪師がろばの耳に気づく(*→〔理髪師〕3a)。また、「ミダス王が理髪師に、ろばの耳の秘密の口外を禁じた」というような記述はない〕。

『源平布引滝』初段  布引の滝壺へ入った難波六郎常俊は、水底で出会った女から平家滅亡の神託を聞き、「このことを帰っても言い聞かすな。言えば命を失うであろう」と、口止めされる。彼は滝壺から上がって神託を平重盛に報告し、その直後に雷電に撃たれて死ぬ〔*4段目で、これがすべて芝居であったことが明かされる〕。

『雪おんな』(小泉八雲『怪談』)  雪おんなに出会った巳之吉は(*→〔雪女〕1)、「今夜見たことを誰にも話してはいけない」と口どめされる。翌年、彼はお雪という美しい娘(=実は雪おんな)と結婚し、10人の子を得て幸福に暮らすが、ある夜、昔の恐ろしい思い出をお雪に語ってしまう。お雪は「子供がなかったら、今すぐ貴方を殺したところだ」と言い捨てて、白い霧に化して去る。

*地獄極楽の有様を語ってはならない→〔穴〕3aの『富士の人穴』(御伽草子)。

★2.一言も口をきいてはいけない禁忌。

『エーレク』(ハルトマン)第3章  騎士エーレクが、妻エーニーテとともに騎行する。エーレクは、妻に前を行けと命じ、「旅の途上、何を聞こうと何を見ようと口をきくな。守らねば命はない」と言い渡す。

『今昔物語集』巻5−24  亀が棒をくわえ、2羽の鶴が棒の両端をくわえて、空を飛ぶ。「しゃべってはいけない」との戒めを忘れ、亀は鶴に話しかけ、墜死する。

『七賢人物語』  7歳の時から七賢人に教育されたディオクレティアーヌス王子が、16年ぶりに父皇帝のもとへ召される。七賢人と王子は星占いをして、皇帝のもとへ行けば王子は死刑の判決を受けるが、7日間一言も発しなければ命は助かることを知る。王子は、継母にあたる妃を犯そうとしたとの嫌疑で牢獄に入れられ、7日間を無言で堪え忍ぶ→〔物語〕5b

『封神演義』第24回  自らの手で心臓を抉り出した宰相比干は(*→〔生き肝〕1)、「絶対に口をきいてはならぬ」と姜子牙から禁ぜられていた。しかし、野菜売りの老婆が「無心官(心なしの役人)」とののしったのを、比干は「無心肝(心臓がない)」と聞き取り、思わず「心臓がなければどうなる」と老婆に問いかけた。老婆は「すぐに死にます」と答え、それを聞いた比干は即座に絶命した。

『魔笛』(モーツァルト)第2幕  王子タミーノと鳥刺しパパゲーノはそれぞれの伴侶を得るために、賢者ザラストロに命ぜられて、沈黙の試練を受ける。王子タミーノは沈黙を守り、恋人パミーナに対しても口を開かず、彼女を悲しませ去らせて、試練に合格し、パミーナと結ばれる。鳥刺しパパゲーノはしゃべったためにいったん罰せられるが、最後には美しい娘パパゲーナを得る。

*→〔無言〕に関連記事。

★3.問うてはならない禁忌。

『ドイツ伝説集』(グリム)540「白鳥の騎士」  白鳥の曳く小舟に乗って現れたヘリアスは、妻クラリッサに「私の氏素性を問うな。禁を破ったら別れねばならぬ」と言い渡す。数年後、クラリッサは禁ぜられた問いを発し、ヘリアスは小舟に乗って去る〔*同・541「ライン河の白鳥の舟」も類話。同・542「ブラバントのローエングリーン」では、ローエングリーンが妻エルザムに氏素性を問うことを禁じ、妻が禁を破ると、「自分はパルツィファルの子で、神によって聖杯の城から遣わされたのだ」と告げて去る。同・543「ロートリンゲンでのローエングリーンの最期」・544「白鳥の騎士」も関連の物語〕。

『パルチヴァール』(エッシェンバハ)第3巻・第5巻  少年パルチヴァールは旅に出て、老騎士グルネマンツの城にいたる。パルチヴァールはグルネマンツのもとで騎士道を学び、「むやみにものを尋ねてはいけない」と教えられる。そのため、パルチヴァールは聖杯城を訪れた時、城主アンフォルタス王の苦しみの理由を問わずに去る→〔伯父(叔父)〕6

『ローエングリン』(ワーグナー)  騎士ローエングリンは、ブラバント公国の公女エルザを救い、彼女と結婚する。ローエングリンは「私の名前も、家柄も、どこから来たかも、問うてはならない」と禁ずる(*→〔名前〕6)。しかしエルザは、魔女オルトルートにそそのかされ、新婚初夜の床で、禁ぜられた問いを発する。騎士は、「私はパルジファルの息子ローエングリン。モンザルヴァート城の聖杯を守護する騎士である」と告げ、去って行く。

★4.ふりかえってはならない禁忌。

『大鏡』「三条院」  斎宮が伊勢へ下る時、帝が別れの櫛を斎宮の髪にさしてからは、互いにふりかえらぬのが定めであった。しかし三条院はふりかえって、斎宮(第1皇女・当子内親王)の姿を見たのだった。そのゆえであろうか、三条院は上皇になってから、目が見えなくなった。

『三国伝記』巻5−20  3人の旅人が、孫鏡から瓜と飯を供された礼に彼に福運を与え、「山を下る時百歩の間ふりかえるな」と告げる。孫鏡が60歩でふりかえると、3人は白鳥と化して天に飛び去った。

『創世記』第19章  主(しゅ)は、硫黄の火を降らせてソドムとゴモラの町を滅ぼした。ただし、ソドムの町に住むロトは正しい人だったので、前もって主の使い2人が来て、「妻と2人の娘を連れて逃げよ」と教えた。そこでロトの一家は町の外へ避難した。しかし、主から「後ろを見るな」と禁じられていたにもかかわらず、ロトの妻はふりかえり、塩の柱になった〔*→〔水没〕1の『呂氏春秋』巻14、女が空桑に化す物語と類似する〕。

『天国と地獄』(オッフェンバック)第2幕   地上に出るまで後ろを振り返らぬとの条件で、夫オルフェオは妻ユリディスを連れて地獄から出て行く。ところがジュピテルが雷を鳴らしたために、オルフェオは驚いて振り返り、オルフェオとユリディスの離婚が成立する。ジュピテルは、ユリディスを酒神バッコスの巫女にする→〔人妻〕1

『変身物語』(オヴィディウス)巻10  冥府を訪れたオルフェウスは、死んだ妻エウリュディケを連れ帰ることを許されるが、「地上に出るまで後ろをふりかえってはならない」と禁ぜられる。しかし、あと少しという所で、不安にかられた夫は妻の姿を求めて後ろを見、エウリュディケは冥府へ引き戻される〔*『ギリシア神話』(アポロドロス)第1巻第3章に簡略な記事。*→〔禁忌〕5の映画『オルフェ』(コクトー)では、現世に戻ってからも妻を見てはならない。*→〔憑依〕8bの映画『黒いオルフェ』(カミュ)では、振り返ると老婆がいた〕。

★5.見るなの禁忌。

『黄金のろば』(アプレイウス)巻5  プシュケの夫は夜にだけやって来て、姿を見せることがない。ある時、プシュケが2人の姉を宮殿に招こうとするので、夫は「お前の姉たちは、私の姿を見るようにそそのかすだろうが、けっして私を見てはならぬ」と禁じる→〔夫〕4

『オルフェ』(コクトー)  オルフェが妻ユリディスを冥府から連れ帰るに際しては、「現世へ戻っても、妻の姿を見てはならぬ」との条件がついていた。オルフェは妻を見ぬようにして暮らすが、その一方で彼は、冥府の王女(=死神)を愛し始めていた。ユリディスは絶望し、自動車のバックミラーに映る自分の顔を、オルフェに見せる。瞬時にユリディスの身体は消え、冥府に運ばれる〔*その後オルフェも死ぬが、最後には王女が2人を生き返らせる〕。

『夕鶴』(木下順二)  鶴の化身である「つう」は、百姓「与ひょう」の妻となり、自分の羽根を抜いて美しい布を織る。「機屋(はたや)をのぞいてはいけない」との「つう」の言いつけを、「与ひょう」は固く守り、決して見ようとはしない。しかし、「布を都で高く売ろう」とたくらむ欲張りの「惣ど」「運ず」が、機屋をのぞき見て、「鶴がいる」と「与ひょう」に教える。「与ひょう」は不思議に思い、ためらいながらも、とうとう機屋をのぞいてしまう。

*→〔のぞき見〕1bの『古事記』上巻(トヨタマビメ)・『鶴女房』(昔話)・『メリュジーヌ物語』(クードレット)。

*→〔冥界行〕5の『古事記』上巻(イザナミ)。

*→〔蛇女房〕1の『田村の草子』(御伽草子)・『蛇の玉』(昔話)。

*見てはならない四季の部屋→〔部屋〕1c

*見てはならない死体の部屋→〔部屋〕2c

*見てはならない狐の嫁入り→〔狐〕10b

★6.「見るな」ではなく、「見せるな」の禁忌。

『シャタパタ・ブラーフマナ』  天女ウルヴァシーは、「汝の裸身を私に見せないように」と禁じて、プルーラヴァスと結婚する。ところが半神族のガンダルヴァたちが、時ならぬ稲妻を光らせたので、ウルヴァシーは夫の裸身を見てしまい、それ以来彼女は姿を消す。

『マハーバーラタ』第3巻「森の巻」  パリクシット王が、森で会った美女に求婚する。「水を見せてはならない」という条件で、美女は王と結婚する。ある時、王は妻を森の隅の池へ連れて行き、水浴を勧める。妻は池に入って姿を消す。水をかい出すと池の底に1匹の蛙がおり、妻の正体が蛙であることがわかる。

★7a.聞いてはいけない禁忌。

『幻獣辞典』(ボルヘス他)「マンドレイク」  マンドレイクは植物であるが、人間の形をしていて、性別もある。地面から引き抜くとマンドレイクは叫び声をあげ、この声を聞いた者は気が狂う。一説に、マンドレイクは絞首台の下に生えるという。

鮭の大助の伝説  秋の終わり頃。鮭の大助が、多くの鮭を率いて海から最上川へ入り、「鮭の大助、今上る」と言って、鮭川をさかのぼる。その声を聞いた人は、年内に死んでしまう。そこで大助の上る夜には、村人は酒を飲み騒ぎたてて、大助の声が耳に入らないようにする(山形県新庄市)。

*携帯電話で自分の断末魔の声を聞いた人は、予告された日時に死ぬ→〔電話〕7の『着信アリ』(三池崇史)。

★7b.最後まで聞くと死ぬので、途中で逃げる。

『皿屋敷』(落語)  皿屋敷の古井戸から毎晩お菊の幽霊が出て、「1枚、2枚、・・・・」と皿を数える(*→〔井戸〕1bの『番町皿屋敷』)。9枚まで数えるのを聞くと死ぬ、というので、近所の連中が集まって、7枚あたりまで数えるのを聞いては、皆逃げ帰る。ある夜、お菊が皿を18枚まで数えたので、見物人がわけを聞くと、お菊は「2日分数えておいて、明晩は休みます」と答えた。

★8a.一定期間(七日間)待たねばならない禁忌。 

『粉河寺縁起』  仏師が、「7日のうちに仏像を作る。それまで来て見るな。作り終えたら汝の宅の戸を叩こう」と大伴孔子古に告げる。孔子古は7日待ち、8日目の払暁に戸を打つ音がしたので行って見ると、金の千手観音像があり、仏師の姿はなかった。

『祝詞』「鎮火(ほしづめ)の祭」  イザナキ・イザナミは夫婦となって、国や島や神々を産む。イザナミは火(ほ)結びの神を産んだために性器を焼かれ、岩に隠れる。イザナミは「7日7夜、私を見ないで下さい」と禁ずるが、イザナキは、7日を待たずにイザナミの姿を見てしまう。イザナミはイザナキに、「あなたは上つ国を治めなさい。私は下つ国を治めましょう」と言い、2神は別れた。

『田村の草子』(御伽草子)  益田が池の大蛇の化身である妻が子を産む時、「産屋に7日間立ち入るな」と、夫・藤原俊祐に命ずる。しかし俊祐は7日目に、産屋をのぞき見る(*→〔蛇女房〕1)。8日目まで待てば、生まれた子(俊仁)は日本のあるじとなるはずだった〔*日本のあるじになりそこねた俊仁は、成長後、将軍となって、陸奥国のあくる(=悪路)王を退治する〕。

龍犬盤瓠(ばんこ)王となる(中国・ヤオ族の神話)  王女が、龍犬の妻になる。龍犬が「私を蒸籠(せいろう)の中で7日7晩蒸(む)せば、体毛が抜け落ちて人間になる」と教えたので、妻は龍犬を蒸籠で蒸す。6日6晩たった時、妻は「龍犬が死んでしまったのではないか」と心配し、ふたを開ける。龍犬は人間に変わっていたが、蒸す時間が足りなかったため、頭と脇とすねに毛が残った→〔犬婿〕2

*百日間待たねばならぬ禁忌→〔百〕1

★8b.一定期間(三年間)待たねばならない禁忌。

『今昔物語集』巻31−19  愛宕寺の鐘を鋳造する鋳物師が、人が撞かなくとも毎日2時間おきに自然に鳴る鐘にしようとする。そのためには、鐘を土中に埋め丸3年たって掘り出さなければならない。1日早くても1日遅くてもいけない。しかし、3年目に寺の別当が待ちきれず掘り出したため、ただの普通の鐘になってしまった。

『捜神記』巻16−21(通巻396話)  四十男の談生が美女と結婚する。女は「3年間私の身体をあかりで照らすな」と言う。2人の間には子も生まれるが、2年後、談生は眠る女をあかりで照らす。女の腰から上は普通に肉がついていたが、腰から下は白骨だった。「もう少しで生き返れたのに、なぜあと1年待てなかったのか」と女は言う。

 *男が百日間待てなかったために、女が水となって流れ失せる→〔百〕1の『長谷雄草子』(御伽草子)。

『浜松中納言物語』巻4  中納言は、吉野山の尼君の死後(*→〔雲〕6)、その娘(=吉野の姫君)を引き取って世話をする。しかし吉野の聖が、「姫君は20歳以前に懐妊すると、身を滅ぼす運命だ」と中納言に教える。姫君は今17歳だから、あと3年間、中納言は姫君と男女の関係を結ぶことができないのである。

★8c.一定期間(千日間)待たねばならない禁忌。

『三国伝記』巻7−27  童子が「千日の間見るな」と山蔭中納言に告げ、方丈の室に籠もって千手観音像を造る。千日に満ずる暁、仏所を蹴破って童子(実は長谷観音)は去り、中納言が見ると3尺の千手観音像があった〔*原拠は『長谷寺験記』下−13〕。

★9.食べてはいけない動物。

『金枝篇』(初版)第3章第10節  サモアでは、どの男も何らかの動物の姿をした自分だけの神を持つ、と考えられていた。その神聖な動物を食べると、食べた者の体内に神が住みつき、同じ種類の動物を1匹生んで、その者を死にいたらしめるのだ。たとえば、自分の神がウニである男は、ウニを食べると、胃の中でウニが育ち、これに殺されてしまう。神がウナギである男は、ウナギを食べて重病になり、死ぬ前に胃の中から神の声が聞こえた。「私はこの男を殺す。この男は私の化身を食べたのだから」。

 *亡父の生まれ変わりである鯰を食べて死ぬ→〔命乞い〕1の『今昔物語集』巻20−34。

★10.伝統的な物語では、禁忌は侵すべからざるもので、侵せば不幸な運命に陥る。しかし禁忌そのものが虚構で、これを侵しても無事な人間たちの物語が、やがて出てくる。

『福翁自伝』(福沢諭吉)  福沢諭吉は少年時代に、神様の名を書いた御札(おふだ)を足で踏み、さらにその御札を便所で使ったが、罰は当たらなかった。また、家のお稲荷様を開けて御神体の石を捨て、別の石を入れて置き、皆が知らずに拝むのを面白がった(*福沢諭吉とは対照的に、柳田国男は御神体の珠を覗いて神秘体験をする→〔星〕8の『故郷七十年』)。

『附子(ぶす)(狂言)  主人が「これは附子という毒で、近くへ寄るだけで死ぬ、そばへ寄るな」と言い置いて外出する。留守番の太郎冠者・次郎冠者は、附子(=実は砂糖)を全部食べ、言い訳のために、主人秘蔵の掛け軸を破り、天目茶碗を割る。帰宅した主人に、太郎冠者・次郎冠者は「2人で相撲をとって倒れた時に、掛け軸と天目茶碗を破損しました。死んでお詫びしようと、附子を食べました」と言う〔*→〔毒〕7の、トルコの『ナスレッディン・ホジャ物語』「ホジャと餓鬼ども」は、これとよく似た話である〕。

 

*自らの前世を他人に語ることの禁忌→〔前世〕5

*吉夢の内容を他人に語ることの禁忌→〔夢語り〕1

*食物の禁忌→〔食物〕1〔食物〕2に記事。〔食物〕3の『アダパ物語』(古代アッカド)・〔蛸〕3の『仮名手本忠臣蔵』7段目「一力茶屋」・〔妻〕1の『創世記』第3章。

*眠りの禁忌→〔不眠〕4

 

 

【銀行】

★1.銀行強盗。

『狼たちの午後』(ルメット)  2人の青年、ソニーとサルが銀行強盗を試みるが、手際が悪く、ぐずぐずしているうちに警官隊に包囲されてしまう。ソニーたちは「外国へ逃げるから飛行機を用意しろ」と要求し、銀行員の人質を引き連れて、空港行きのバスに乗り込む。運転役の警官が、銃をかまえるサルに、「事故があるといけないから、銃口を上へ向けてくれ」と繰り返し注意する。バスが空港に到着すると、一瞬の隙をついて、運転役の警官がサルの額を撃ち抜き、別の警官たちがソニーを取り押さえる。

★2.銀行強盗を決行する前に、銀行の警備態勢を調査する。

『野獣死すべし』(村川透)  伊達邦彦は、宝石店・銀座ジュエルの社員長友を、商談と称して銀行ロビーへ呼び出し、待たせておく。伊達は預金カウンターの女子行員に電話をして、「ロビーにいる男は、ピストルとダイナマイトを持っている。『銀座ジュエルの長友様』と言って呼び、金を渡せ」と命じる。銀行側はすぐに非常ボタンを押し、警備員たちが、何も知らぬ長友を取り押さえ、まもなくパトカー数台が到着する。伊達はそれまでの時間を計り、銀行の警備態勢を把握した→〔ロシアン・ルーレット〕4

★3.銀行員の横領。

『黒革の手帖』(松本清張)  高額所得者は税金逃れのために、架空名義の預金口座をいくつか持つことが多かった。銀行員原口元子は3年間にわたって、23名の架空名義口座から、合計7568万円を横領した。このことが公けになれば、預金者たちの脱税が明るみに出て、銀行も信用を失う。銀行は元子を警察に突き出すことができず、そのまま元子の退職を認める。元子は横領した金で、銀座に小さなバー「カルネ」を開店する→〔ゆすり〕2

 

 

【禁制】

★1.禁漁。

『阿漕』(能)  伊勢国阿漕が浦は、大神宮に奉る魚を取る所ゆえ禁漁であるが、阿漕という漁師がたびたび密猟をし、捕らえられて沖に沈められた。彼の亡魂は旅人に救いを請い、密猟のさまと地獄の苦とを見せた。

『鵜飼』(能)  甲斐国石和川は殺生禁断だったが、夜、老人が鵜を使って漁をし、捕らわれてふしづけにされた。老人の亡魂は旅僧に供養を請い、法華経の効力で成仏できた。

『十訓抄』第6−19  白河院の時、天下に殺生禁断の令が出たが、貧僧が老母を養うために、桂川で魚をとって捕らえられた。白河院は、僧の孝養の志を哀れんで罪を許し、褒美を与えた。

『半七捕物帳』(岡本綺堂)「むらさき鯉」  草履屋の藤吉は、殺生禁断の川で紫鯉を釣り、隠していた。役人の囲い者の女がそれを知って藤吉の留守宅へ行き、「昨晩の夢に、紫衣の人が命乞いに現れ、目覚めると枕元に紫の鱗があった」と告げて女房を気味悪がらせ、紫鯉を持ち去る。女は紫鯉を、食道楽の悪役人たちに振舞う〔*→〔命乞い〕1の「私を殺すな」と言う魚の物語の変型〕。

*毒を用いて魚をとることの禁制→〔一人二役〕4aの『毒もみのすきな署長さん』(宮沢賢治)。

★2.鹿の殺生禁断。

『妹背山婦女庭訓』2段目「芝六住家」  猟師芝六と息子三作が、春日の爪黒の神鹿を弓で射殺す。その血が、逆臣蘇我入鹿を倒すのに必要なのだった。三作は、神鹿殺しの罪を1人で引き受け、死んだ鹿とともに石子詰めにされる。しかし三作を埋めるための土中から、盗まれた神璽と内侍所(鏡)が発見され、三作は赦免される〔*十三鐘の伝説にもとづく〕。

『鹿政談』(落語)  奈良では鹿を殺すと死罪になった。ある朝、豆腐屋の六兵衛が、きらず(=おから)を食べている鹿を犬と間違え、割り木を投げつけて殺してしまう。しかし、町奉行・根岸肥前守が「これは鹿に似ているが、犬だ」と慈悲深い裁きをし(*→〔鹿〕4d)、六兵衛の命を助ける。奉行「そのほうは豆腐屋じゃな。きらずにやるぞ」。六兵衛「はい。まめで帰ります」。

十三鐘の伝説  子供たちが手習いをするところへ春日社の神鹿が来て、習字の紙を食べる。13歳の少年三作が筆(あるいは文鎮)を投げて追い払おうとするが、運悪く当たって鹿は死ぬ。三作は掟どおり、死んだ鹿とともに石子詰めにされる。母が三作の年齢に合わせ、明け7つと暮れ6つに鐘をついて供養する。

★3a.女人禁制の寺。

『柏崎』(能)  越後柏崎の女が、在鎌倉の夫の死と息子花若の遁世を知り、物狂いとなって信州善光寺まで旅をする。寺僧が「御堂の内陣は女人禁制」と告げて押しとどめるが、女は「禁制とは阿弥陀如来が仰せられたのか」と反論し、本尊を拝む。寺には出家した花若がおり、母子は再会を喜ぶ。

『道成寺』(能)  かつて女が大蛇となって、道成寺の鐘に巻きつき、中に隠れた山伏もろとも焼き尽くした。多年の後、鐘が再鋳されたが、女人禁制の鐘供養の場に白拍子が来て舞い、「思えばこの鐘恨めしや」と言って、鐘の中に入る。白拍子は、蛇体の女の化身であった→〔鐘〕2

★3b.女人禁制の山。

『かるかや』(説経)「高野の巻」  苅萱道心の妻が、夫に対面するため高野山へ登ろうとする。麓の学文路(かふろ・かむろ)の宿の玉屋与次が、「高野山は女人禁制である」と説き、空海の老母の故事を語る。「かつて83歳の老母(=あこう御前)が、息子空海に会おうと高野山に向かった。その時、山は震動雷電した。空海は『女人禁制』と告げて、袈裟を岩上に敷いた。老母がそれを越すと、41歳で止まったはずの月の障りが芥子粒ほど落ち、袈裟は燃え上がった」。 

『南総里見八犬伝』第9輯巻之53上第180勝回下編大団円  60歳を超えた八犬士たちは、致仕して富山の峯上の観音堂の側に庵を結び、同居した。富山は伏姫の死以来女人禁制のため、八犬士の妻たち(*犬江親兵衛の妻静峯姫は早世したので、7人)は、従うことを許されなかった。それから20年を経て、7人の妻たちは皆老死したが、八犬士はなお壮健だった。

*女人禁制の山に登ろうとして、石になる→〔石〕1aの『遠野物語拾遺』12。  

★3c.女人禁制の島。

『竹生島』(能)  醍醐天皇に仕える朝臣が、老人と若い女の乗る釣り船に便船して、竹生島の弁才天に参詣する。女も神前に来るので、朝臣は「この島は女人禁制のはずだが」と不思議がる。老人と女は「弁才天は女体ゆえ、女人を差別しない」と教え、「我々は人間にあらず」と言って姿を消す。やがて社殿から、女の本体である弁才天が現れ、湖水から、老人の本体である龍神が現れて、舞を見せる。

★4.花見の禁制。

『西行桜』(能)  西山に住む西行法師が、1人静かに桜を楽しむため、庵室の花見を禁制とする。そこへ下京辺から花見の一行が訪れ、西行も良い機嫌の折だったので、彼らを招き入れる。しかしやはり花見客は迷惑ゆえ、西行は「花見んと群れつつ人の来るのみぞあたら桜の咎にはありける」と詠ずる→〔花〕1

『花折』(狂言)  毎年、花見客が寺庭を荒らすので、住持が「今年は花見禁制」と、新発意(=弟子)に言いつけて外出する。花見客たちが来るが、寺内に入れず、やむなく門前で塀越しの花見をする。酒をふるまわれた新発意は、客たちを寺庭に招き、花の枝を折って土産に渡す。住持が帰って来て、新発意をさんざんに叱る。

★5a.帯剣の禁制。

『平家物語』巻1「殿上闇討」  帯剣して殿上の間に昇ることは禁じられていた。しかし豊明(とよのあかり)の節会の夜、平忠盛は短剣を持って昇殿した(*→〔にせもの〕4)。後日これが問題になることを忠盛は見こして、主殿司(とのもづかさ)に短剣を預けて退出した。案の定、殿上人たちが忠盛を咎めたが、短剣を調べると、木刀に銀箔をおしたものだったので、処罰できなかった。鳥羽上皇は、かえって忠盛を褒めた。

★5b.無断立ち入り禁止の部屋へ、剣を持って入る。

『水滸伝』第7〜8回  林冲が手に入れた名刀を、高大尉が「見せてほしい」と言って呼びつける。林冲は剣を持って高大尉の屋敷へ行き、奥の間で待たされているうちに、「白虎節堂」の額(がく)がかかった部屋に足を踏み入れてしまう。ここは軍機の大事を評議する所で、無断立ち入りは禁ぜられている。高大尉が現れ、「帯剣して白虎節堂に入るとは、本官を殺すつもりであろう」と決めつけ、林冲を捕らえる〔*すべて林冲を罪に落とすために仕組んだ罠であった〕。

★6.禁酒法。

『アンタッチャブル』(デ・パルマ)  禁酒法下のシカゴ。酒の密造や売買によって、アル・カポネは莫大な利益を得ていた。財務省の捜査官エリオット・ネスは3人の部下とともに、アル・カポネ逮捕に向けて彼らに闘いを挑む。ネスたちは、カポネからの賄賂を突き返したために、「アンタッチャブル」という異名をとる。カポネの雇った殺し屋がネスの部下2人の命を奪ったが、ネスはカポネの脱税の証拠をつかみ、裁判で彼を有罪にした。

『お熱いのがお好き』(ワイルダー)  禁酒法時代。ギャングたちが、見せかけの葬儀場を営む。霊柩車の棺に酒瓶を入れて運び、葬儀場の奥に秘密の酒場を開く。飲み物はコーヒーだけ、というたてまえで、客は「コーヒーのスコッチをデミタスで」などと言って注文する〔*酒場の楽団員、ジョーとジェリーは、ギャングたちに追われ、女装して逃げる。ジェリーは金持ち男に求婚され、ジョーは男姿に戻って恋人シュガーを得る〕。

★7.切支丹の禁制。

『青銅の基督』(長与善郎)  奉行所における踏み絵の儀式が、萩原裕佐の作った青銅のピエタを用いて行なわれる。切支丹信者の1人モニカは、ピエタの前にひざまづき、それを胸に押し当てて接吻し、また台上に置くと、手を合わせて拝んだ。彼女は、ピエタを踏めなかった他の信者たちとともに、火あぶりの刑になった〔*ピエタの見事な出来栄えゆえに、モニカも奉行所の役人も、萩原裕佐を「切支丹だ」と誤解した〕。

『沈黙』(遠藤周作)  司祭ロドリゴは、信徒たちを拷問の苦しみから救うため(*→〔聞き違い〕1)、銅版の踏絵の前に立つ。踏もうとして、彼は足に鈍い重い痛みを感じる。その時、銅版のあの人は「踏むがいい」と言った。「お前の足の痛さを、この私が一番よく知っている。私はお前たちに踏まれるため、この世に生まれ、お前たちの痛さを分かつため、十字架を背負ったのだ」。ロドリゴが踏絵に足をかけた時、朝が来て鶏が鳴いた。

*ペテロがイエスを裏切った時も、鶏が鳴いた→〔三度目〕5の『マタイによる福音書』第26章。

★8.敵性音楽の禁制。

『現代民話考』(松谷みよ子)6「銃後ほか」第1章の4  太平洋戦争末期。空襲警報が出たが、敵機がこちらへ来ないので、ベートーベンの第9交響曲のレコードを大音量で聴いた。防空団のおじさんが飛んで来て、「敵国の音楽を鳴らすとは何事か」と怒鳴った。「ベートーベンはドイツ人です」と説明すると、「ああ、そうか」といったん納得したが、「大きな音で、敵機に聞こえるじゃないか」と、また怒鳴った(東京都)。

★9.神父は、罪を犯した人の懺悔を聞いても、その内容を他言してはならない。

『私は告白する』(ヒッチコック)  ローガン神父は、教会の雑役夫ケラーから「強盗殺人を犯した」との懺悔を聞く。神父には守秘義務があるので、ローガンはケラーに自首を勧めることしかできない。しかしケラーは自首するどころか、ローガンに殺人の濡れ衣を着せる。ケラーの妻がたまりかねて「神父は無実です」と叫ぶが、ケラーは妻を射殺してしまう。警察はケラーが真犯人であると知り、追いつめて射殺する。

 

*過差(=贅沢)の禁制→〔共謀〕1の『大鏡』「時平伝」。

 

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