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【霊】

 *関連項目→〔生霊〕〔にせ幽霊〕〔幽霊の有無〕

★1a.幽霊が、配偶者や恋人のもとへ現れる。

『今昔物語集』巻27−25  夫が死んで3年たった秋の夜。笛の音とともに、夫の霊が生前のままの姿で、妻の部屋を訪れる。夫は「死出の山越えぬる人のわびしきは恋しき人にあはぬなりけり」と詠歌し、「私は日に3度、冥府で焦熱の苦を受けている」と告げて、消えた。妻は「これは夢か?」と思ったが、夢ではなかった。

『清経』(能)  西国落ちした平家の武将清経は、前途を悲観して豊前国柳が浦に投身する。彼の死の知らせが都の妻のもとにもたらされた夜、妻の夢枕に清経の亡霊が現れて、修羅道の苦しみと成仏の喜びを語る。

『篁物語』  小野篁が異母妹を妊娠させる。怒った母が異母妹を一室に閉じ込め、やがて異母妹は死ぬ。死んだ異母妹は幽霊になり、夜な夜な来て小野篁と語らう。死後三七日(=21日)の間は、あざやかに姿が見えた。四七日(=28日)になると、時々見えるようになった。3年を過ぎると、夢にさえはっきりとは見えなくなった。

★1b.幽霊が、友人のもとへ現れる。

『クリスマス・キャロル』(ディケンズ)  小さな事務所を持つ守銭奴スクルージの前に、ある年のクリスマス前夜、7年前のイヴに死んだ共同経営者マーレイの幽霊が現れる。マーレイは「私は生前の強欲の報いで、1年中でこのクリスマスの時期に、もっとも苦しむのだ」と語り、「スクルージよ、お前にはまだ救済の望みがある」と言う。マーレイは「これから3人の精霊がやって来る」と教えて去る→〔クリスマス〕1a

『ジャン・クリストフ』(ロラン)第9巻「燃ゆる荊」  ジャン・クリストフと親友オリヴィエは、パリのメーデーの騒乱にまきこまれ、離れ離れになる。オリヴィエの安否が不明のまま、クリストフはスイスへ逃れ、宿の一室でオリヴィエが来るのを待つ。夜、背後で扉の開く音が聞こえ、1つの手がクリストフの肩に置かれる。クリストフは振り向き、オリヴィエが微笑んで立っているのを見る。クリストフが「とうとう来たね」と言うと、オリヴィエの姿は消える。クリストフはオリヴィエの死を知る。

★2a.幽霊が、死んだ場所に出現する。

『敦盛』(能)  熊谷直実は一の谷の合戦で平敦盛を討った後に出家し、名を「蓮生」とあらためた。蓮生が敦盛の菩提を弔うべく一の谷を訪れると、敦盛の幽霊が草刈り男の姿で現れる。その夜、念仏する蓮生に、甲冑姿の敦盛の幽霊が、討死のさまを再現して見せる。

『忠度』(能)  旅僧が須磨の浦を訪れると老人が現れ、1本の桜の木をさして、「平忠度は戦死してこの下に埋められた」と教える。老人は忠度の幽霊であり、その夜花の下で眠る僧の夢に、甲冑姿で現れる。

『頼政』(能)  諸国一見の旅僧が宇治の里を訪れる。老翁が旅僧に声をかけ、平等院へ案内する。老翁は、院内の扇形の芝を示して「昔、源頼政が平家との合戦に敗れ、この芝の上に扇を敷いて切腹した。今日がその祥月命日だ」と教える。老翁は頼政の幽霊であり、その夜の旅僧の夢に甲冑姿で現れて、宇治川の合戦のありさまを語り、舞う。

★2b.霊が、生前の自分の家から離れない。

『源氏物語』「若菜」下〜「柏木」  光源氏は六条御息所の死後、その旧宅と隣接する敷地とを合わせて、広大な六条院を造営した。しかし御息所の霊は成仏せず、光源氏への恨みを抱いたまま、六条院とその周辺をさまよっていた。御息所の死後20年近くを経た頃、光源氏の最愛の人・紫の上は重病になり、幼妻・女三の宮は出家した。御息所の死霊は憑坐(よりまし)の口を借りて、「すべて私がしたことだ」と光源氏に告げた。

『古本説話集』上−27  左大臣源融の造営した広大な河原院は、彼の死後、宇多院の所有になった。ある夜、塗籠(ぬりごめ)から源融の幽霊が出て、「ここは我が住む家である」と恨み言を述べた。しかし宇多院に叱りつけられ、幽霊は退散した〔*→〔閨〕1の『江談抄』第3−32に類話〕。

『幽霊と未亡人』(マンキーウィッツ)  グレッグ船長は、自ら設計したお気に入りの屋敷に住んでいたが、就寝中にガスヒーターを蹴り倒し、ガス漏れのために死んでしまった。船長は死後も屋敷に愛着を持ち、幽霊となって住み続ける。屋敷を借りた未亡人ルーシーを脅して追い払おうとするが、ルーシーも屋敷が気に入ったので、出て行こうとはせず、幽霊と未亡人の共同生活が始まる→〔冥婚〕5

★2c.居城が解体され移築されると、幽霊もいっしょに移築先へついて行く。

『幽霊西へ行く』(クレール)  18世紀スコットランドの豪族グローリーの息子マードックは、死後、幽霊となっても昇天できず、居城に住み続けた。20世紀になってアメリカの実業家が城を買い、フロリダに移築する。マードックの幽霊も城と一緒に船に乗り、大西洋を渡る。城の移築完成披露パーティに、2百年前にグローリーを侮辱したマクラガン(*→〔天国〕5)の子孫が、やって来る。マードックの幽霊は、マクラガンの子孫を脅して、先祖の無礼を謝罪させる。

★3a.幽霊が、現世に残した物に執着する。

『外套』(ゴーゴリ)  50歳過ぎの万年9等官アカーキイは、なけなしの金をはたいて新調した外套を、追剥に奪われる。外套なしのアカーキイは、ペテルブルグの寒風に扁桃腺を冒されて、急死する。アカーキイは死後すぐ幽霊となり、夜ごとに往来の人々を襲って彼らの外套を奪う。しかし、かつて彼を叱りとばした長官の外套を剥ぎ取った後は、その外套がアカーキイの身体にぴったり合ったのであろう、幽霊は姿を現さなくなった。

『へっつい幽霊』(落語)  佐官屋が、博打で得た3百両をへっついに塗りこめておくが、河豚(ふぐ)に当たって死んでしまう。佐官屋は3百両に思いが残り、へっついを買い取った男の所へ、幽霊となって出る〔*『耳袋』巻之5の類話「怪竈の事」では、5両を竈に隠して死んだ法師が幽霊となる〕。

*幽霊が、隠しておいた銅貨2枚を捜しにくる→〔硬貨〕4の『くすねた銅貨』(グリム)KHM154。  

*幽霊が、生前にもらった恋文を気にかける→〔恋文〕4の『葬られた秘密』(小泉八雲『怪談』)。

*死者が転生後も、現世に残した物に執着する→〔転生(動物への)〕2

★3b.きわめてささいな物に執着するばあいがある。

『百物語』(杉浦日向子)其ノ68  死んだ女房が幽霊となって、昼も夜も井戸端にたたずむ。夫が「何に執着しているのだろう?」と思い、井戸底を浚(さら)うと、こんにゃくが見つかった。女房が死ぬ少し前に、誤って井戸に落としたのだ。以来、幽霊は出ない。人というものは、こんにゃく1枚で彼岸へ渡れぬものらしい。

*井戸の底の3千両→〔井戸〕2bの『長者番付』(落語)。

★4a.一人だけが霊の姿を見る。

『今昔物語集』巻27−21  紀遠助が勢田の橋で怪しい女に呼びとめられる。彼は馬から降りて女と言葉を交わし、小箱を託される。遠助の従者たちには女の姿が見えず、「我が主は下馬して意味もなく立っている」と不思議に思う。

『実盛』(能)  他阿弥上人が、篠原の里で連日説法をする。1人の翁が毎日聴聞に来るが、その姿は上人以外の人には見えなかった。上人が翁と言葉を交わすのを、人々は「独り言だ」と思う。翁は2百余年以前に戦死した、斎藤別当実盛の幽霊だった。

『三国志演義』第29回  呉の孫策は、于吉仙人を「妖術使いである」として、兵に命じて首を討たせる。その直後から孫策は、于吉の霊に悩まされるが、于吉の姿は孫策にしか見えない。孫策が于吉の霊に剣を投げつけると、剣は于吉の首を討った兵に当たり、兵は死ぬ。やがて孫策も病み衰えて死ぬ。

『雑談集』(無住)巻9−4「冥衆ノ仏法ヲ崇ル事」  重病の僧が、梵網経の読誦を聴聞していると、浄衣姿の老翁が後方で聴聞しているのに気づく。老翁は冥衆で、その姿は病僧1人にしか見えなかった。

『ハムレット』(シェイクスピア)第3幕  母ガートルードを詰問するハムレットの前に、父王の亡霊が現れる。ガートルードには亡霊の姿も見えず声も聞こえない。父の霊と語りあう息子を、気が狂ったのかと彼女は思う。

*マクベス1人が、バンクォーの亡霊を見る→〔宴席〕3aの『マクベス』(シェイクスピア)第3幕。

*九条殿師輔公だけが、百鬼夜行を見る→〔百鬼夜行〕1の『大鏡』「師輔伝」。

*冥府の鬼の姿は、連れて行かれる人だけに見える→〔酒〕2bの『酉陽雑俎』続集巻1−880。

★4b.大勢の人が幽霊を目撃する。

『遠野物語』(柳田国男)23  佐々木喜善氏の曾祖母の死後二七日(=14日)の逮夜(=前夜)。親戚が集まり、夜更けまで念仏を唱えて、帰ろうとした時、門口の石に腰掛けて向こうを向いた老女がいた。その後ろ姿は、死んだ曾祖母そのままだった。これは大勢の人が見たので、誰も疑わなかった。 

★5.死霊が人間に手助けを請う。

『怪談牡丹灯籠』(三遊亭円朝)10・12・14  死霊となったお露が萩原新三郎の家を訪れるが、四方八方にお札が貼ってあるので中に入れない。女中お米の死霊が隣家の伴蔵に百両を与え、「裏窓のお札をはがしてくれ」と請う。伴蔵はお札をはがし、翌朝新三郎の死体を見いだす。

★6a.死者の霊が供養を請う。

『今物語』第38話  ある人の夢に、影のようなものが現れ「紫式部である」と名乗った。紫式部は、生前に虚偽の話(=『源氏物語』)を書いたために地獄で苦を受けており、「『源氏物語』の巻名を読み込み、『南無阿弥陀仏』と唱える歌を詠んで、供養してほしい」と請うた。

『イリアス』第23歌  アキレウスと部下の兵たちが、戦死したパトロクロスの遺体を囲み、彼の死を悼む。その夜、パトロクロスの霊がアキレウスの枕元に立ち「亡霊たちに妨げられ先へ進めぬので、私が冥府の門をくぐれるよう、早く葬ってほしい。火葬にしてくれたならば、再び冥土から戻ることはあるまいから」と請う。

『日本霊異記』下−16  寂林法師が夢を見る。生前、邪淫ゆえ幼い子を捨てて顧みなかった女が、罰を受けて苦しむ。女は「我が子成人(なりひと)が、我が罪を許してくれるだろう」と寂林に訴える。寂林は、里を巡って成人を捜し出す。成人は造仏・写経をして、母の罪を償う。

★6b.死者の霊が、「自分は殺されたのだ」と訴える。

『南総里見八犬伝』第6輯巻之5下冊第60回  夜の庚申山を越える犬飼現八が、岩窟で赤岩一角の亡霊に出会う。亡霊は「17年前、私はこの山の妖猫に殺された。妖猫は私に化けて里に下りた。息子角太郎(後の犬村大角)は化け猫を父と思って仕えている」と現八に語る→〔猫〕7

『英草紙』第8篇「白水翁が売卜直言奇を示す話」  投身自殺したはずの茅渟官平の幽霊が、下女の前に現れて血の涙を流し、さらに領主の夢枕に立って「可開火下水」の句を示した。それは、「自分は妻の情夫に絞殺されたのであり、竃(=火)の下の井戸(=水)に死体が沈んでいる」と訴えているのだった。領主は、情夫と妻に罪を白状させ、死罪にした。

『ハムレット』(シェイクスピア)第1幕  深夜、デンマーク王の亡霊がエルシノア城の胸壁に現れる。亡霊は「私は昼寝中に毒蛇に噛まれて死んだ、と言われているが、そうではない。弟クローディアスが、毒液を耳にたらし入れて私を殺したのだ」と息子ハムレットに語り、「父の恨みを晴らせ」と命ずる。ハムレットは復讐を誓う。

*ノック音で、「殺されたこと」「死体のある場所」などを伝える→〔霊界通信〕2の『オカルト』(ウィルソン)。 

★6c.死者が、骨と化し・鳥となって、「自分は殺されたのだ」と訴える。

『踊る骸骨』(昔話)  七べえが、友人だった六べえの骸骨を踊らせ(*→〔橋〕9)、方々の村で見せて金を儲ける。七べえは、今度は自分の村で儲けようと思い、村へ帰る。すると骸骨が、集まった村人たちに「おれは六べえだ。七べえに殺されたのだ」と言い、村人たちに七べえの悪事を訴える。村人たちは怒って七べえを殺す(新潟県長岡市前島町)。

 *骨で作った笛が、「私は兄に殺された」と訴える→〔笛〕6の『唄をうたう骨』(グリム)KHM28。

『びゃくしんの話』(グリム)KHM47  継母に殺された男児が、鳥となって「お母さんがぼくを殺した(*→〔継子殺し〕1)、お父さんがぼくを食べた(*→〔人肉食〕4a)」と鳴く。細工職人も靴屋も粉引きも、「唄の上手な鳥だ」と言って聞きほれる。継母だけが、鳥の唄声を恐れて耳をふさぐ。鳥は、石臼を継母の頭に落として、継母を殺す。

★7a.生きた人間だと思っていたら実は幽霊だったことが、後にわかる。

『雨月物語』巻之1「菊花の約(ちぎり)」  播磨国の丈部左門は、赤穴宗右衛門と義兄弟の契りを結ぶ。夏、丈部は出雲へ旅立つに際し、「9月9日に帰る」と約束する。当日、丈部は早朝から赤穴を待ち、夜更けになってようやく赤穴がやって来る。丈部は喜んで赤穴を家に招き入れるが、赤穴は無言で、料理にも手をつけず、やがて「自分は現世の人間ではない」と語り出す→〔魂〕9a

★7b.生きた人間だと思っていたら幽霊で、幽霊だと思っていたら生きた人間だったことが、後にわかる。生者と死者の逆転。

『切符』(三島由紀夫)  洋服屋の松山仙一郎は時計屋の谷を見て、「妻が自殺したのはこの男のせいだ」と思う。仙一郎と谷を含む4人がお化け屋敷を見に行くが、仙一郎は異様な恐怖を感じ、さらに出口で妻の姿を見て驚愕する。我にかえった仙一郎は、「どうして、『妻が自殺した』などと錯覚していたのだろう」と、不思議に思う。その時、妻が「谷さんは私にふられて自殺したのよ」と言う。

『南総里見八犬伝』第5輯巻之2第43回〜巻之5第49回  漁夫ヤス平(姥雪世四郎)と息子の力二郎・尺八郎が、犬塚信乃ら四犬士を助けて敵と戦う。力二郎・尺八郎は行方知れずになり、ヤス平は河に沈む。それから5日後の夜、ヤス平と力二郎・尺八郎が、彼らの妻たちのもとへやって来る。妻たちは「ヤス平は幽霊で、力二郎・尺八郎は生者だ」と思う。ところがヤス平が手持ちの包みを開けると、力二郎・尺八郎の首が出てくる。ヤス平は水練の名手で死なず、力二郎・尺八郎は敵に銃撃されて死んだのだった。

★8.霊と出会った証拠の物品。

『狗張子』(釈了意)巻1−6「北条甚五郎出家、附冥途物語のこと」  長尾謙信の家老である北条丹後守の弟・甚五郎が、20余歳で病死した。しかし「まだ寿命がある」というので現世に戻されることになった。その途中、甚五郎は、戦死した傍輩長七から「父母に我が供養を請うてくれ」と頼まれ、「私と会った証拠に」と簪(かんざし)を託される。蘇生した甚五郎が長七の父母に簪を届けると、長七の父母は、「息子の棺に納めた簪だ」と言って泣いた。

*楊貴妃の亡魂に会った証拠のかんざしと小箱→〔装身具〕3の『長恨伝』(陳鴻)。 

『善知鳥(うとう)(能)  陸奥の外の浜まで行脚する僧が、途中、立山地獄(*→〔山〕7aの『今昔物語集』巻14−7)に立ち寄る。前年死んだ外の浜の猟師の霊が現れ、「我が妻子のもとを尋ねてほしい」と請い、「自分と会った証拠に」と、着ている麻衣の片袖を引きちぎって僧に手渡す。僧は片袖を猟師の遺族に届け、それは猟師の形見の衣とぴったり合わさった。

『片袖』(落語)  富家の娘の墓を悪人があばき、簪や衣装を盗み取った。悪人は六部姿となって、娘の百ヵ日法要の場を訪れ、「立山地獄で娘の幽霊から『供養のため高野山へ祠堂金50両を納めてほしい』と頼まれた。これが証拠だ」と言って片袖を示す。紛れもなく娘の棺に納めた衣装の片袖なので、父親はすっかり信用し、祠堂金50両と路用の50両、計百両を六部に与えた。

★9.守護霊・指導霊。

『小桜姫物語』(浅野和三郎)78  1人の人間が現世に生まれると、産土(うぶすな)の神様から上の神様にお届けがあり、神界からの指図で、必ず1人の守護霊が附けられる。人間が歿(なく)なる場合にも、まず産土の神様が受けつけた後に、大国主命様が死者の行くべき所を見定め、それぞれ適当な指導役を附けて下さる。つまり現世では主として守護霊、幽界(霊界)では主として指導霊、のお世話になるものと思えばよい。

 

*霊が人間に取りつく→〔憑依〕

*病者に取りつく霊→〔もののけ〕

*死んで霊になると年をとらない→〔死〕7の『今年も十九』(松谷みよ子『日本の伝説』)。

*人形の幽霊→〔人形〕5bの『ペトルーシュカ』(ストラヴィンスキー)。

 

 

【霊界通信】

★1.霊界の死者が、現世の人間の問いに答える。

『シャルロッテ・フォン・クノープロッホ嬢への手紙』(カント)  先頃死去したオランダ公使に、スヴェーデンボリ(スウェーデンボルグ)氏が生前の債務について問うた(*→〔貸し借り〕4)。オランダ公使は、「私の死去7ヵ月前に支払いは済ませた。領収書は上階の一室の戸棚にある」と答える。公使の未亡人が「戸棚に領収書はなかった」と言うと、スヴェーデンボリ氏は、「ご主人から、『引出しの中の板を取り除けば、秘密の引出しが現れ、その中に領収書がある』と聞きました」と告げる。未亡人は大勢の立会人の前で秘密の引出しを開け、領収書を見つけ出した。

★2.霊界の死者がノック音を用いて、現世の人間と交信する。

『オカルト』(ウィルソン)第2部「魔術の歴史」・6「十九世紀の魔術とロマンティシズム」  1848年。ニューヨークのフォックス家で戸や板を叩く音が続き、2人の娘(12歳と15歳)が、物音をたてる霊と交信した。やがて家族や隣人たちも交信に加わり、言葉による質問に霊はノック音で答え、「自分は金を目当てに殺され、地下の貯蔵庫に埋められている」と告げた。貯蔵庫を掘り起こすと、朽ち果てた人骨が出てきた。この家の以前の住人によって殺された、行商人の遺骨らしかった〔*すべて娘たちのいかさまだ、とする見解もある〕。 

★3.霊界と交信できる機械。

『殉教』(星新一『ようこそ地球さん』)  霊界と交信できる機械が発明された。現世の人間からの質問に対して、霊界の死者たちが口々に、死後の世界の快適さを語る。それを聞いた人間たちは、「霊界がそんな良い所なら、はやく行こう」と、次々に自殺する。あとには、機械を信じない少数の人間だけが生き残った。彼らは、宗教も科学も人間も自分自身も死も、信ずることができない。これから彼らは、どのような社会を作るのだろうか。 

★4.霊界から和歌を詠み送る。

『今昔物語集』巻24−39  藤原義孝は死後10ヵ月ほどを経て、僧賀縁の夢に現れ、「時雨には千種の花ぞ散りまがふ何ふるさとの袖ぬらすらむ(下界に時雨の降る頃、私のいる極楽では、色々の美しい花々が散り乱れている。下界では、どうして皆、私の死を悲しんで、涙の雨で袖をぬらすのだろう)」との歌を詠んだ。義孝は妹や母の夢にも現れて、歌を詠んだ。和歌を詠む人は、死後にも、このような優れた歌を詠むものなのだ。

★5.霊界通信の誤り。

『宇治拾遺物語』巻4−16  了延房阿闍梨が琵琶湖畔の唐崎を通る時に、「有相安楽行、此依観思」との経文を唱えた。すると、波の中から「散心誦法花、不入禅三昧」と続きを唱える声がして、「具房僧都実因」と名乗った。2人は法文を談じ合ったが、実因は少々僻事(=誤り)を答えた。了延房が誤りを指摘すると、実因は「私は冥界にある身だから、それはしかたがない。私だからこそ、この程度にも申すことができたのだ」と言った。 

★6.長期間に渡る霊界通信。

『小桜姫物語』(浅野和三郎)  昭和4年(1929)春、小桜姫(400年前の足利時代末期に生きた女性)からの霊界通信が開始された。姫は、入神中のT女(浅野和三郎の妻・多慶子)の口を借りて語り、和三郎が筆録して、足掛け8年の間に数冊のノートができた。和三郎は通信内容を整理・編集して、昭和11年(1936)秋に1冊の本(『小桜姫物語』)にまとめた。しかし翌年2月、和三郎は急病で死去し、『小桜姫物語』は没後の出版となった〔*和三郎没後も、小桜姫から多慶子への通信は続き、多慶子は昭和46年(1971)、88歳で死去した〕。 

 

 

【冷凍睡眠】

 *関連項目→〔眠り〕

★1.冷凍睡眠で未来社会へ行く。

『鉛の卵』(安部公房)  1人の20世紀人が、百年間冬眠するはずのところ、機械の故障で80万年後に目覚める。そこはサボテンに似た緑色の植物人の国だった。20世紀人は、ものを食べるという罪を犯したために、どれい族の居住域へ追放される。ところが、どれい族は高度な文明を持ち、20世紀人と同様の姿形をしていた。実は植物人の方が、博物館の保存公園に隔離されているのだった。

『南京虫』(マヤコフスキー)  1929年、スクリプキンは恋人ゾーヤを捨て、成金の娘との結婚式に臨む。結婚式場で火事が発生し、それを消すための放水が凍りついて、スクリプキンは1匹の南京虫とともに氷づけになり、50年間眠る。1979年にスクリプキンは解凍され、ゾーヤと再会する。南京虫とスクリプキンは、過去の貴重な遺物として動物園の檻に入れられる。

『未来からの手記』(アモソフ)  1960年代末。47歳の生理学者である「私(イワン)」は、不治の白血病に侵された。唯物論者の「私」は、「死」=「無」であることを知っていた。「私」は冷凍睡眠に入り、白血病治療の可能な時代を待つ。22年後の1991年、「私」は目覚める。そこは平和で豊かな理想社会であり、「私」は健康を回復する。しかし「私」は、新しい時代に適応できない。「私」は美しいアンナと出会い、子供も生まれるが、アンナは前夫によって殺されてしまった。 

★2.冷凍睡眠する人と、しない人の年齢の差。

『ガラスの城の記録』(手塚治虫)  札貫礼蔵は冷凍睡眠に関心を持ち、自分だけでなく家族をも冬眠させる。しかし、睡眠装置管理のため起きている者と、眠る者との間で、年齢の進み方が異なってくる。眠っていた長男・一郎は24歳の容姿だったが、起きていた弟・四郎は42歳になっていた。冷凍睡眠の作用で一郎の人格は破壊され、彼は弟・四郎の娘(=姪)真理と関係を持ち、父・礼蔵、弟・四郎を始め、大勢の人間を殺す〔*この作品は未完である〕。

★3.冷凍睡眠と時間旅行の組み合わせ。

『夏への扉』(ハインライン)  1970年。30歳を目前にしたダニエルは共同経営者に裏切られ、発明の特許を奪われて、会社を追われる。ダニエルは絶望して冷凍睡眠で30年間眠り、2000年に目覚めるが、開発途上のタイムマシンで1970年に帰り、過去の失敗を取り戻す。ダニエルを慕う11歳の少女リッキィに、「21歳になったら、冷凍睡眠で2001年まで眠るように」と告げて、ダニエルは一足先に再び冷凍睡眠の装置に入る。2001年。30歳のダニエルは21歳のリッキィと結婚する。

★4.長期間の宇宙旅行には、乗員の冷凍睡眠が必須である。

『そして、だれも・・・』(星新一『なりそこない王子』)  宇宙船の乗員5人が人工冬眠に入り、全員、同じ夢を見続ける。覚醒時の混乱を防ぐためだ。夢の内容は現実同様、宇宙船で長期旅行をする、というものである。目的地に近づき、乗員たちは1人ずつ目覚める。まだ夢の中にいる乗員からは、宇宙船内の仲間が1人また1人と、どこかへ消えてしまうように見える。覚醒すれば現実の宇宙船内で、消えた仲間と再会できるのである。 

★5.墓の中に長年月いた後に蘇生するのは、冷凍睡眠と同じようなものである。

『捜神記』巻15−12(通巻370話)  後漢末の大乱の頃、前漢時代(200〜400年前にあたる)の官女の墓をあばいた者がいた。官女はまだ生きており、墓から出ると、もとどおり元気になった。魏の郭后が彼女を側に置き、漢代の宮中のことを尋ねると、その返答は明快で、首尾も一貫していた。

『捜神記』巻15−14(通巻372話)  某家の葬儀の折、女中が誤って墓の中に閉じこめられ、10余年を経て救い出された。女中は、掘り出されるまでの年月を、「1晩か2晩くらいの時間だ」と思っていた。閉じこめられた時、彼女は15〜6歳だったが、掘り出された時も、姿形は以前のままだった。女中はその後、嫁に行き、子供も産んだ。

 

*冷凍睡眠をして、子や孫と夫婦になる→〔母子婚〕4bの『火の鳥』(手塚治虫)「望郷編」。

 

 

【歴史】

★1a.過去の歴史記録を改竄する。

『一九八四年』(オーウェル)  1984年、世界は3つの超大国に分割されていた。その1つ、全体主義国家オセアニアの真理省に勤務するウィンストンは、過去の新聞・雑誌等の記事を政府の方針に従って次々に書き改める、歴史の訂正作業に従事していた。

*戦争の記事や記録を、削除・破棄する→〔戦争〕8

★1b.不都合な出来事を隠し、事実とは異なる記録を残す。

『切腹』(小林正樹)  浪人・津雲半四郎が井伊家の侍3人と決闘し、彼らの髷(まげ)を切り落として辱める。さらに井伊家の藩邸に乗り込んで4人を斬り殺し、立ち腹を切った後に、鉄砲隊に射殺された。しかし井伊藩の記録には、「精神錯乱の浪人が切腹し、藩士4人が病死した」と書かれた。髷を切られた侍たちは切腹するが、彼らも病死扱いになった。

『頼朝の死』(真山青果)  将軍・源頼朝の死は、不名誉なものだった(*→〔女装〕8)。彼の妻・尼御台(=北条政子)は重臣・大江広元と協議して、天下政道のために頼朝の死の真相を隠す。先年、頼朝は稲村ヶ崎で安徳天皇の亡霊を見て、落馬したことがあった。その折の創所(きずしょ)が再発して死去、と世間には披露され、皆これを信じた。

★2.歴史を語る老人。

『今鏡』「序」  嘉応2年(1170)3月10日過ぎ、大和国を旅歩きする人たちが、春日野に住む150歳余の老尼に出会った。老尼は大宅世継の孫娘で、第68代・後一条天皇の万寿2年(1025)から、第80代・高倉天皇の嘉応2年まで、143年(*正しくは146年)間の歴史を語った。

『大鏡』「序」  万寿2年(1025)5月、雲林院の菩提講に詣でた人々は、190歳の大宅世継と180歳の夏山繁樹が対話するのを聞いた。2人は、第55代・文徳天皇即位の嘉祥3年(850)から、第68代・後一条天皇在位の万寿2年まで、176年間の歴史を語り合った。

『増鏡』「序」  ある年の2月15日、嵯峨の清涼寺に詣でた人が、100歳過ぎの老尼に出会った。老尼は、第82代・後鳥羽院誕生の治承4年(1180)から、第96代・後醍醐天皇還京の元弘3年(1333)夏まで、150年余の歴史を語った。

『水鏡』上巻「序」  ある年の9月10日頃の深夜、葛城山で誦経する30代前半の修行者が、神代から生きている老仙人に出会った。老仙人は誦経聴聞の礼に、神武天皇即位の年から、大宅世継の昔語りの始発点である嘉祥3年(850)まで、1510年間の歴史を語り聞かせた〔*修行者は翌々年の2月、この体験を73歳の老尼に語った〕。

★3.歴史と神話の分離。

『かのように』(森鴎外)  五条秀麿は、国史を畢生の事業として研究するつもりである。彼は大学卒業後洋行し、ベルリンに3年いた。そして日本へ帰る頃には、「神話と歴史を分けねばならない」と考えるようになっていた。「神話は歴史ではない。事実ではない。そのことを承認して置いて神話を維持して行くのが、学者の務めであり、人間の務めである。神霊が、あたかも存在するかのように祭るのだ」。このような秀麿の思想を、子爵である父は危ぶんでいた→〔猿〕7e

 

*現実世界の歴史と仮想世界の歴史→〔仮想世界〕2

 

 

【轢死】

★1.鉄道自殺。

『窮死』(国木田独歩)  三十男の文公は、家族もなく、住む家もない。肺病で、思うように働けない。夜、知り合いの弁公を頼って家を訪れると、3畳一間に弁公とその親父が寝ていた。それでも一晩、泊めてもらうことができた。翌日、親父は人力車夫と喧嘩をして、打ち所が悪く、死んでしまった。3畳で通夜をするので、文公には居場所がない。次の日の夜、雨の中、どうにもやりきれなくなった文公は、鉄道線路の上へ倒れた。

『三四郎』(夏目漱石)  熊本から東京へ出て来てまもなく、三四郎は、野々宮さんの家で一晩、留守番をした。その夜、誰かの「ああああ、もう少しの間だ」という声が、遠くから聞こえた。すべてに捨てられた人の、すべてから返事を予期しない、真実の独白(ひとりごと)だった。そこへ汽車が遠くから響いて来て、高い音を立てて過ぎ去った。三四郎は、この2つを因果で結びつけて、ぎくんと飛び上がった。轢死者は若い女で、身体は2つに引きちぎられていた。

『鉄道員』(ジェルミ)  アンドレアは、特急列車のベテラン運転士である。ある日、1人の男が線路上に立ちはだかり、アンドレアは急ブレーキをかけたが、間に合わなかった。その時アンドレアは男の顔を見た。まだ若い青年だった。事故処理が終わって運転再開後も、アンドレアの動揺はおさまらず、彼は赤信号を見落として、向こうから来る機関車と衝突しそうになる。この失策のために、アンドレアは降格される。

*鉄道自殺する夢→〔眉毛・睫毛〕3bの『たね子の憂鬱』(芥川龍之介)。

★2.鉄道自殺する人と間違えられる。

『郊外』(国木田独歩)  踏切近くの八百屋の主人が、夜、便所へ行くと、外に誰かがたたずんでいる。「鉄道自殺するつもりだな」と主人は思い、大声で独り言を始める。「命あっての物種だ。落ち着いてよく考えるんだなァ。出なおした方がいいねェ」。立っていたのは村の男で、八百屋の娘に逢いに来たのだった。男は「入りそこねたから、また出なおすよ」と娘に言って、帰って行った。

★3.轢死事故。

『寒さ』(芥川龍之介)  霜曇りの朝、保吉は出勤途中に轢死事故の現場に行き合わせた。女の子を助けようとして、踏切り番が轢かれたのだ。線路には血がたまり、薄うすと水蒸気さえ昇っている。保吉は、数日前に同僚の物理の教官から聞いた、伝熱作用の法則を思い出した。血の中に宿る生命の熱は、法則どおり1分1厘の狂いもなく、線路へ伝わっているのだった。

『正義派』(志賀直哉)  ある夕方、電車が永代橋を渡った処で、5歳ばかりの女児を轢き殺した。現場にいた3人の線路工夫は、「運転手は狼狽して、電気ブレーキを忘れたのだ。ブレーキをかけていれば、女児を殺すことはなかった」と、警察へ行って証言した。この証言のために、彼らは仕事を失うかもしれなかった。3人はその夜、遅くまで牛肉屋で酒を飲んだ。その後、1人は家へ帰り、2人は人力車で遊郭へ向かった。

★4.予示された轢死事故。

『信号手』(ディケンズ)  トンネル近くの駅の信号手が、幽霊を見る。幽霊は「おーい、下にいる人!」と叫び、右腕を激しく振り、左腕を顔にあてた。何度か幽霊を見た後、信号手は作業中に機関車に轢かれた。その時、機関車はトンネルのカーブまで来て、背中を向けて作業をしている信号手を見つけたのだ。運転士は「おーい、下にいる人!」と叫んで右腕を振り続け、見ていられなくなって左腕で眼をおおった。

★5.轢死事故を見た人が、後に鉄道自殺する。

『アンナ・カレーニナ』(トルストイ)  アンナ・カレーニナはモスクワの兄オブロンスキー夫妻のもとへ来て、駅で青年将校ウロンスキーと出会う。その時、線路番が轢死する事故が起こり、アンナは「凶兆だ」と兄に言う。アンナはウロンスキーと恋に落ち、夫を捨てて駆け落ちするが、やがてその恋も破局を迎える。アンナはウロンスキーと出会った日の轢死人のことを思い出し、列車の下へ身を投げる。

★6.人を殺し、その死体を列車に轢(ひ)かせる。

『日本の黒い霧』(松本清張)「下山国鉄総裁謀殺論」  昭和24年(1949)7月6日早暁、北千住駅近くの鉄道線路で、下山定則国鉄総裁の轢死体が発見された。下山総裁は大量の人員整理を巡って国鉄労組と対立状態にあり、心労から自殺したとの見方があった。しかし「私(松本清張)」は、進駐軍の関連組織が5日に下山総裁を殺し、死体を線路上に置いたのだと考える。それは、日本の「行き過ぎた民主主義」を鎮圧するための、謀略であったのだろう。

 

 

【連想】

★1.犯罪と連想。

『心理試験』(江戸川乱歩)  殺人事件の容疑者・蕗屋清一郎は、ある語を聞いてどのようなものを連想するか、判事によって試験されることを知り、「殺す」「血」など犯罪に関わる語に対し、素早く無難な語で応答できるように練習しておく。しかし、かえってその不自然さを明智小五郎に見抜かれる。

★2.妻を思い浮かべる。

『鬼瓦』(狂言)  長らく在京していた大名が、国もとへ帰る名残りに、太郎冠者を連れて因幡堂に参詣する。御堂を拝する大名は、屋根の鬼瓦を見て突然泣き出す。鬼瓦が、国にいる妻の顔によく似ていたのであった。

『熊の皮』(落語)  横丁の医者が慶事の赤飯を近所へ配ったので、長屋の男が礼を言いに医者の家へ行く。男は「お赤飯を頂戴いたしまして、ありがとう存じます・・・」と口上を述べつつ、座敷の熊皮の敷物を無意識に手まさぐりする。その感触で男は妻を思い出し、「あっ。女房がよろしくと申しておりました」と言い添える。

*傘を見て、巨大な男根を連想する→〔器物霊〕3の『西鶴諸国ばなし』(井原西鶴)巻1−4「傘(からかさ)の御託宣」。

★3a.半月からスイカを思う。

『サザエさん』(長谷川町子)朝日文庫版・第20巻46ページ  夏の夜、サザエがカツオとワカメを外に呼んで、美しい上弦の月を示す。しかしカツオとワカメは、半月形から冷蔵庫の中のスイカの1切れを思い出し、家へ駆け戻る。

★3b.風呂桶から棺桶を思う。

『風呂桶』(徳田秋声)  古家を買った津島は、湯殿を作ろうと思い、妻と一緒に風呂桶を注文しに行った。彼は久しぶりで内湯に入ることができたが、銭湯に慣れた身には、風呂桶は窮屈だった。「この風呂桶は何年もつだろう」と津島は考える。「おれが死ぬまでに、この桶1つでいいだろうか?」。そう思うと、今入っている風呂桶が、自分の棺桶のような気がしてきた。 

★4.旧知の人の名前を思い出す。

『子連れ狼』(小池一夫/小島剛夕)其之8「鳥に翼 獣に牙」  ならず者の一団が山奥の湯治場に入り込み、病身の侍や僧など湯治客たちを皆殺しにしようとする。侍は「切腹するから介錯を頼む」と請い、僧は合掌して念仏を唱える。ならず者たちの頭目は、「介錯」という言葉を聞き、「拝む」僧を見て、湯治客の1人でどこか見覚えのある浪人が、もと公儀介錯人・拝一刀であることに気づく。拝一刀は、ならず者たちをすべて斬り殺す。

★5.連想の連鎖。

『モルグ街の殺人』(ポオ)  ある晩、「ぼく」はデュパンと散歩していて、果物屋に突き飛ばされ、歩道の敷石に足をすべらせた。「ぼく」はその敷石をきっかけに、截石法(ステレオトミー)・・・原子(アトミー)・・・エピクロスの原子論・・・と、次々に心に浮かぶ思いを追っていったが、デュパンは、「ぼく」の心の中で展開している連想の連鎖をすべて見抜き、「ぼく」を驚かせた。 

★6.連鎖のあてはずれ。

『東海道中膝栗毛』(十返舎一九)2編下「蒲原」  木賃宿で、回国の六部が弥次郎兵衛・喜多八に次のような物語をする。「数年前、江戸で大風が吹いた時、ほこりが舞って大勢が目をわずらった。目の不自由な人が大勢できれば、皆三味線引きになる。三味線には猫の皮がいる。猫がいなくなると鼠がふえる。鼠は箱などを齧(かじ)るから箱が売れるだろう。そこで針箱・櫛箱・薬箱など、多量の箱を仕入れて大儲けをねらったが、さっぱり売れなかった」。

 

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