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【老翁】

★1a.老翁と若い女。

『落窪物語』巻1〜2  落窪の姫君がひそかに道頼少将と結婚していたことを、継母が知る。継母は怒り、2人の仲を裂こうとたくらむ。継母は、「叔父にあたる60歳ほどの典薬の助に、姫君を犯させよう」と考える。冬の夜、典薬の助は、姫君が錠をさして閉じこもる部屋の戸を開けようと、押したり引いたりする。そのうち、寒さのために典薬の助は腹を冷やして下痢を起こし、あわてて退散する。

『今昔物語集』巻5−4  美女と交わり通力を失った一角仙人は、白髪で腰も曲がった姿ながら、彼女を背負ってよろぼい歩き人々に笑われる(*原話であるリシュヤ・シュリンガ仙の伝説では、仙人は老人ではなく、むしろ若い苦行者として描かれている)。

『住吉物語』  父中納言が姫君の幸福を願い、入内や、内大臣の息子との結婚などを計画するが、継母がこれを妨げる。継母は、70歳余の高齢で目がただれ歯がぬけた主計頭(*主計助とする伝本もある)に、「姫君を連れ出して、自分のものにしなさい」と勧める。姫君は、乳母子の侍従とともに屋敷から逃れ、住吉に身を隠す。

『セヴィラの理髪師』(ボーマルシェ)  老医師バルトローは、自分が後見する若い娘ロジーヌと無理やり結婚しようとする。

『瘋癲老人日記』(谷崎潤一郎)  77歳の卯木督助は、息子の嫁颯子に情欲を感じ、シャワーを浴びる颯子の足や頸に接吻したり、颯子の足型で仏足石を作り、それを自分の墓石にしたいと思ったりする。

『枕物狂』(狂言)  百歳余の老翁が若い娘の笑顔に引かれ、ふとももをつねって枕で打たれる。以来老翁は恋の思いで狂乱状態になり、それを知った孫たちが娘を連れて来て、老翁は娘に逢うことができた。

『マハーバーラタ』第3巻「森の巻」  老チャヴァナ聖仙が、湖の近くで長期間の座禅苦行を続ける。そのため身体のまわりに蟻塚ができ、その上を葛が覆う。父王とともに園遊に来た王女スカニヤーが、好奇心から蟻塚の中のチャヴァナの目を茨の棘でつつく。怒ったチャヴァナは、代償にスカニヤーを妻として得ることを、王に要求する。スカニヤーは、老いたチャヴァナと結婚し、献身的に彼に仕える。

『万葉集』巻16 3813〜3824歌  竹取りの翁が、春3月に丘に登り、あつものを煮る9人の乙女に出会う。翁は乙女らのために火を吹き、自らの青春の日々の有様を歌って、「乙女らもやがて白髪になるのだ」と説く。乙女たちは翁の歌に心動き、皆「翁に身を寄せましょう」と歌う。

*→〔僧〕1の『志賀寺上人の恋』(三島由紀夫)。

*→〔難題〕3b〔眠る女〕6a・6b・6cに記事。

*老芸人と若いバレリーナ→〔踊り〕7の『ライムライト』(チャップリン)。

★1b.老翁の霊と若い娘の霊。

『不死』(川端康成)  70歳過ぎの老人・新太郎と、10代の若い娘・みさ子が歩いている。かつて、みさ子は新太郎と別れねばならぬことに絶望し、18歳で海に身を投げたのだった。それから55年。みさ子は故郷へ帰り、新太郎と再会した。みさ子が大樹の幹の中をすうっと通り抜けると、続いて新太郎も通り抜けた。みさ子は「まあ。新太郎さんも死んでいるの?」と驚く。2人は大樹の幹の中に消えて、そのまま出て来なかった〔*→〔老婆〕1bと対照的な物語〕。

★1c.老翁が息子で、若い女が母。

『神仙伝』巻7「西河少女」  西河地方を通る人が、若い女が老翁を鞭打つのを見た。聞くと、女は母で老翁はその息子だった。かつて女は多病だったが、70歳の時に仙薬を飲み、どんどん若返った。しかし息子は母から勧められても仙薬を飲まず、老いぼれてしまった。それで母が怒って折檻していたのだった。女は130歳、老翁は71歳だった。

★1d.この世に生き続けて老人になった夫と、いったん死んで生まれ変わったため若い妻。

『子不語』巻13−336  鄭禅宝の妻は肺病で亡くなる時、「幾世にも渡って、あなたと夫婦でありたいと願っております」と言い遺した。彼女が死んだ日、劉家に女児が生まれ、「私は鄭禅宝の妻です」と言ったので、両親は驚いた。彼女(=劉女)は14歳になった時、願いどおり鄭禅宝と結婚する。しかし鄭禅宝はその時すでに60歳の老人で、その上、後添えの妻がいた。劉女は嫁いで1年余、鬱々として楽しまず、縊死してしまった。

*死んだその日に、ただちに別人に生まれ変わる→〔同日・同月〕3cの『子不語』巻13−317、〔前世〕4eの『子不語』巻13−338、→〔転生〕5の『聊斎志異』巻6−240「餓鬼」・巻12−483「李檀斯」。  

★2.不思議な老人と出会い、貴重な情報などを授けられる。

『史記』「留侯世家」第25  老人が履をわざと橋の下に落とし、通りかかりの張良に「履を拾え」と命ずる。言われるままに履を拾って老人にはかせると、老人は張良と再会を約し、10日後の早朝に、太公望呂尚の兵法書を張良に授ける。

『続玄怪録』3「定婚店」  縁談のため早朝に出かけた韋固が、寺の門前で冥府の老人に会う。夫婦となるべき男女の足を赤い縄でつなぐ役目を老人はしており、「今回の縁談はまとまらぬ。汝の妻になる女は今まだ3歳だ」と韋固に教える→〔運命〕1b

『松浦宮物語』巻1  渡唐した弁少将は8月13夜に、高い山の楼で琴を弾く80歳ほどの老翁に会う。老翁は弁少将に、皇女華陽公主から琴の秘曲を習うように勧める。また「近く大乱が起こる」と予言し、自分の持つ琴を与える。

★3.老人が青年の肉体を得る。

『故エルヴィシャム氏の物語』(H・G・ウェルズ)  70歳の哲学者エルヴィシャムが22歳の医学生イーデンに薬を飲ませ、互いの人格と肉体を入れ替える。イーデンは、自分が老人の身体の中に閉じ込められたことに絶望して自殺する。一方、若い肉体を得て青春を謳歌しようとしたエルヴィシャムも、辻馬車に轢かれて死ぬ。

*→〔憑依〕1の『屍鬼二十五話』(ソーマデーヴァ)第23話。

★4.老年になってからもうけた子供。

『棠陰比事』6「丙吉験子」  80歳過ぎの老翁が後妻に男児を生ませたが、先妻の娘が財産目当てに、「男児は老父の子ではない」と訴える。俗に「老人の子は寒がりで、陽にあたっても影が映らない」と言われるので、男児を一般の子供たちと比べると、果して寒がりで影ができず、老翁の実子であることが明らかになった〔*『和漢三才図会』巻第8・人倫親族「老人の子には影なし」に載る類話では、90歳の金持ち翁が、小作人の女を妾とする。1度交接しただけで翁は死に、生まれた男児は、やはり寒がりで影がなかった〕。

『封神演義』第89回  雪中の小川を、年配の兄はゆっくりと、年少の弟は走って渡った。両親の若い時の子である兄は骨髄が充実していて寒さを恐れぬが、両親が老衰してから生まれた弟は骨髄が乏しく、水の冷たさに堪えかねて走ったのだった。

『聊斎志異』巻2−75「巧娘」  郷紳の傅氏は60余歳になって男児廉をもうけたが、廉は子供のできぬ不具者だった→〔不能〕2a

★5.老人の一人芝居。

『風車小屋だより』(ドーデー)「コルニーユ親方の秘密」  村の周囲の丘に、いくつもの風車が回り、百姓たちが運んで来る麦を粉にひいていた。ところが製粉工場ができたため、風車小屋に仕事を頼む百姓はいなくなった。その中で、老いたコルニーユ親方の風車だけは、以前と同じように回っていた。しかし誇り高いコルニーユ親方が、ひいた麦と見せていたのは、壁土だった。

『老年』(芥川龍之介)  一中節の順講が催されている料理屋で、そこの隠居の部屋から、ひそひそと愛人に語りかける声が聞こえる。若い頃から芸事に達者で、女たちと浮名を流した隠居ゆえ、「年をとっても隅に置けぬ」と、廊下を通りかかった2人の男が部屋をのぞく。しかし中に女の姿はなく、隠居が独り言を言っていただけだった。

★6.老人の回想。

『野いちご』(ベルイマン)  78歳の医師イーサクは、名誉博士号を授与される日の朝、死の夢を見て目覚める。その日彼は、息子夫婦の不仲の話を聞き、96歳でなお元気な母親を訪れ、3人の青年男女や喧嘩する夫婦と知り合う。一方で彼は、若かった日々の回想や、夢の世界に入り込む。野いちごを摘む婚約者サーラは、弟に奪われた。亡妻カーリンは愛人を作り、密会した。授与式の間、彼は「今日のいろいろな出来事は、偶然に見えながら、何かのつながりがある」と考える。夜の夢で彼は再びサーラを見る。サーラは微笑みつつ、老いた彼に手をさしのべるのだった。

 

*老人と愛犬→〔犬〕1cの『ウンベルトD』(デ・シーカ)。

*老人と老猫→〔猫〕2の『ハリーとトント』(マザースキー)。

*老人になると腰が曲がる理由→〔木〕4fの『コタンカラカムイの人創り』(アイヌの昔話)。

*→〔四十歳〕に関連記事。

 

 

【ろうそく】

★1.生と死のろうそく。

『赤いろうそくと人魚』(小川未明)  漁師たちが住む海岸の町の、ろうそく店の年寄り夫婦が、人魚の娘を育てる。娘は赤い絵の具で、ろうそくに魚や貝の絵を描く。そのろうそくを山上のお宮にあげ、燃えさしを身につければ、海難に遭わない。後に娘は香具師(やし)に売られることになり、悲しんでろうそくを真っ赤に塗る。以後、誰があげるのか、お宮に赤いろうそくがたびたびともり、それを見た者は必ず海で死ぬ。

★2.ろうそくが燃え尽きると、命も尽きる。

『死神の谷』(ラング)  女が、「死んでしまった恋人を、生き返らせてほしい」と死神に請う。死神は、多くのろうそくが燃えている所へ女を連れて行き、短い3本のろうそくを示して、悲恋と死の3つの物語を語る。1つの物語が終わるごとに、1本のろうそくが燃え尽きる。3つの物語が終わった時、3本のろうそくはすべて燃え尽きていた。死神は、「愛をもってしても、死には打ち勝てないのだ」と、女に教える。

『死神の名づけ親』(グリム)KHM44  死神の指図にそむいて病人を治した医者が、地下の洞窟へ連れて行かれる。そこには人間の余命を示す火が無数に燃えており、子供の火は大きく、老人の火は小さかった。医者の火は、今にも消えそうな小さなろうそくだったので、死神が「新しいろうそくに替えてやろう」と言いつつ、わざとしくじって火を消す。医者は死ぬ〔*『死神』(落語)の原話〕。

『ペンゲリー氏と悪魔』(イギリス昔話)  悪魔が、重病のペンゲリー氏を冥府へ連れにやって来て、部屋の中の短いろうそくが燃え尽きるまでの間だけ生かしておいてやる、と言う。ペンゲリー氏は悪魔の隙を見てろうそくを消し、箱の中へ隠して、悪魔を追い返す。以後長年月を経てペンゲリー氏は健在であり、女房が何度もろうそくを捜して燃やそうとするが、ペンゲリー氏はろうそくを隠し通す〔*→〔魂〕1aの『変身物語』(オヴィディウス)巻8の、メレアグロスの物語の変型〕。

*→〔ともし火〕1の『三国志演義』第103回・『性に眼覚める頃』(室生犀星)。

*麦を刈ると、人が死ぬ→〔鎌〕5

★3.ろうそくがともっているうちに出頭すれば恩赦、消えた後は死刑。

『ゲスタ・ロマノルム』96  アレキサンダー大王は、火をともしたロウソクを宮廷に立て、次のように布告した。「王の掟にそむいた者は、ロウソクのともっているうちに出頭すれば、罪を許す。ロウソクの消えるまでに出頭しなければ、死刑に処す」。大勢の国民が出頭して恩赦を願い、王はそれを受け入れた。出頭しなかった者は、捕らえられ処刑された。

★4.ろうそくの蝋(ろう)を、身体にたらす。

『少年』(谷崎潤一郎)  尋常小学校4年の「私(萩原の栄ちゃん)」は、大金持ちの塙(はなわ)家の子供たち(同級の信一、その姉光子、使用人の子仙吉)と一緒に、加虐的な、あるいは被虐的な、種々の遊びにふけった。ある時光子は、「私」と仙吉の手足を縛って坐らせ、額にろうそくを載せて火をつける。熱い蝋の流れが眉間を伝ってだらだら垂れ、眼も口も塞がれてしまう。光子は「私」たちをそのままにして、ピアノを弾く。翌日から光子は女王となり、「私」たち3人は嬉々として彼女の命令に従った。 

★5.ろうそくの焔の色で、火事が予知できる。

『遠野物語拾遺』147  ろうそくの火の芯に青い焔がない時には、火災・変事などが起こる。先年、遠野町の大火の折も、火元に近い某家の婦人が、その朝にかぎって神棚の御燈明に青い焔が見えないのを、不思議に思った。すると、まもなく近所から出火して、大火事になったのである。

★6.初めて見るろうそく。

『赤いろうそく』(新美南吉)  猿が赤いろうそくを拾い、「花火だ」と思って山へ持ち帰る。鹿も猪も兎も亀も鼬も狸も狐も、花火を見たことがないので喜びつつ怖がる。猪が勇気を出して点火すると、動物たちは耳をふさぎ、さらに眼までふさいでしまう。しかし、ろうそくは静かに燃えているだけだった。

『現代民話考』(松谷みよ子)12「写真の怪 文明開化」第2章の4  明治の初め。村人が西洋ローソクをもらい、「これは西洋の魚だが、どちらが頭か尾かわからない」と首をひねる。火であぶってみると、溶けてなくなり、細い芯だけが残る。溶けた蝋(ろう)が下に落ち、燃え出す。村人は「西洋の魚は脂が多い。糸みたいな骨だけが残った」と言って、感心する(山形県)。

『ろうそく騒動』(昔話)  村の住職が本山へ行き、みやげに赤いろうそくを買って来て村人に配る。村人たちは「かまぼこのようなものだろう」と思って食べるが、うまくない。町から来た薬屋が「これはろうそくで、先っぽから火が出るのだ」と教えたので、村人たちは「腹の中で火が燃えたら大変だ」と恐れ、池に飛び込んで水をたらふく飲んだ(富山県氷見市)。

 

*蝋(ろう)でワニを造る→〔密通〕1aの『ウェストカー・パピルスの物語』(古代エジプト)。 

 

 

【老婆】

★1a.老婆と若い男。

『伊勢物語』第63段  九十九髪(つくもがみ)の老女が、「良い男に逢いたい」との願いを、夢に託して、3人の息子に語る。長子・次子は聞き流すが、末子が、狩りに出た美男の在五中将の馬の手綱を取って訴え、老女は在五中将と逢うことができた〔*→〔老婆〕2aの『三国伝記』巻10−5に類似〕。

『うつほ物語』「忠こそ」  50余歳の未亡人・一条北の方は、30歳過ぎの橘千蔭を愛人とするが、橘千蔭の訪れは絶え絶えのまま、数年が過ぎる。一条北の方は、橘千蔭の息子で13〜14歳になる忠こその美貌に心を動かし、よこしまな恋をしかける→〔宝〕3b

『源氏物語』「紅葉賀」  57〜58歳にもなる好色な老女源典侍が光源氏に流し目をつかい、19歳の光源氏は、たわむれ心から彼女と関係を持つ。

★1b.老婆の霊と青年の霊。

『閲微草堂筆記』「如是我聞」146「少年と老婆」  夜、某家の墓で16〜17歳の美青年と70〜80歳の老婆が、恋人どうしのように語り合うさまを、ある人が目撃する。翌日聞いてみると、某家の主人は若死にし、その妻が50年余り後家を立て通して、死後合葬されたことがわかった〔*→〔老翁〕1bと対照的な物語〕。  

★2a.老婆が若い女に変身する。

『カンタベリー物語』「バースの女房の話」  騎士が、女王から「女がいちばん好きなものは何か?」との難問を与えられる。醜貌の老婆が、「女は、夫への支配権を持つことをもっとも好む」という答えを教えてくれる。しかしその返礼に、老婆は騎士との結婚を要求する。騎士は嘆くが、老婆の説得によって、「醜くとも貞節な妻が良い」と考え直し、結婚を承知する。その途端、老婆は若く美しい姿に変わる。

『三国伝記』巻10−5  3人の子を持つ老衰の下女が、狩りに出た国王を見て恋の病いになる。末子が、『法華経』「薬王品」中の一節を唱えるよう勧める。6日6夜たつと老母は美しく若返り、国王に迎えとられて后となる。

『魔笛』(モーツァルト)  鳥刺し男パパゲーノは、美女が得られると聞いて、王子タミーノとともにいくつかの試練に挑む。パパゲーノは洞窟に閉じ込められ、そこへ醜い老婆が来て「私と結婚しなけりゃ永久に洞窟の中だよ」と脅す。パパゲーノが「洞窟の中よりは、婆さんと一緒になる方がましだ」と言うと、老婆はたちまち若い娘(パパゲーナ)に変身する。

★2b.老婆が若い女に見えてくる。

『卒塔婆小町』(三島由紀夫)  詩人が、公園のベンチに座る99歳の乞食老婆に出会う〔*原典の能『卒都婆小町』では百歳の老小町が、卒都婆(=卒塔婆)をただの朽木だと思って、その上に腰を降ろす〕。老婆は80年前、20歳の頃の鹿鳴館での夜会の思い出を語る。話を聞くうち、詩人には老婆が20歳の美女に見えてくる。詩人は老婆に求愛し、「君は美しい」と言って、倒れ死ぬ。

★3a.老婆と思ったら、実は若い女。

『好色一代男』巻3「一夜の物ぐるひ」  大原のざこ寝の暁、竹杖をつき腰をかがめ、綿帽子をかぶって行く老女がいる。石燈籠の光に照らされた顔を見ると21〜22歳の美女なので、世之介がわけを問うと「私に心をかける人が多くうるさいゆえ、姿を変えて逃れ来た」と語る。

『万葉集』巻2 126歌左注  美貌の大伴田主に恋した石川女郎は、夜、賤しい老婆に変装し、土鍋をさげて田主の寝所の側まで出かけ、戸を叩いて火種を請う。田主は、若い女が共寝を望んで変装してやって来たとは気づかず、火種だけ与えて返してしまう。

★3b.若い女と思ったら、実は老婆。

『柳藻』(内田百閨j  晩春の午後、婆が若い女の子を連れて野原を行く。「私」は女の子の袖を引いて婆から離そうとするが、女の子は泣きそうな顔で「私」を見て、婆の後を追う。「私」は一打ちに婆を殺し、女の子の手を握って歩く。柳藻の打ち上げられた磯を歩きつつ女の子を見ると、それは先ほど殺した婆だった。 

*姫君を連れ出したつもりが、祖母の尼だった→〔取り違え花嫁〕1の『堤中納言物語』「花桜折る少将」。

★3c.若い女も、年月がたてば老婆になる。

『ルスランとリュドミラ』(プーシキン)第1歌  旅のルスランが、洞窟に住む老人から聞いた物語。「昔、若かった頃、わしはナイーナという美女を恋した。ナイーナはわしを拒絶したので、わしは魔法の力で彼女の愛を得ようと、何年もかけて魔法を学び、ついにナイーナを呼び寄せることに成功した。しかしわしが見たのは、白髪の老婆だった。ナイーナは『今日、私は70歳になった。さあ、私を抱いて下さい』と言ったが、わしは逃げた」。 

 

*老人になると腰が曲がる理由→〔木〕4fの『コタンカラカムイの人創り』(アイヌの昔話)。

*→〔四十歳〕に関連記事。

 

 

【録音】

★1.テープレコーダーに意外な声が録音されている。

『現代民話考』(松谷みよ子)12「写真の怪 文明開化」第2章の8  皆で百物語をして、テープに録音した。百話がすんでも何も起こらなかったので、テープを戻して、早送りしながら再生した。ところが、百物語なのに101話入っている。これは変だと言って、あらためて1話ずつ再生していった。すると、「みんな、面白いこと話すなあ。では、おれが死んだ時の話をしよう」という声が入っていた(東京都)。 

★2a.偶然、男女の別れ話の声が録音されたと思ったら、前もって仕組まれたことだった。

『二つの声』(松本清張)  俳句仲間4人が、夜、軽井沢で野鳥の声を録音する。野鳥の鳴き声に混じって、男女の別れ話の声が聞こえ、後に、声の主である女(=バアのホステス・マチ子)の絞殺死体が発見される。実は、別れ話の声も録音されたものだった。犯人は前日に東京でマチ子を殺していた。犯人は、マチ子の生前の声を夜の軽井沢で再生し、野鳥の声と一緒に俳句仲間たちに録音させて、殺害現場と時刻をごまかしたのである。

★2b.録音技術がまだ珍しかった1920年代には、前もって録音された声を再生し、殺害された人物が生きているかのように思わせるトリックが有効であった。

『アクロイド殺人事件』(クリスティ)  アクロイドは午後8時40分から50分までの間に、自室で殺された。犯人は、アクロイドの声を吹き込んだ録音機を、午後9時30分に作動するようにセットして犯行現場を立ち退き、9時10分に自分の家に帰りついた。それから20分後に、アクロイドの秘書ジョフリーは主人の声を聞いた。彼は、「アクロイドさんは9時半には確かに生きておられましたよ」と証言した。

『カナリヤ殺人事件』(ヴァン・ダイン)  ブロードウェイの踊子オーデル(通称「カナリヤ」)が、アパートの一室で殺された。犯人は、オーデルに似た声を前もってレコードに録音しておき、彼女を殺した後、そのレコードを蓄音機にかけて部屋を出た。犯人はドアの所に立ち、間合いをはかって、録音された声との会話を成立させる。近くで仕事をしていた電話交換手は、その時点でオーデルは生きていた、と証言した。

★2c.『アクロイド』(1926年)や『カナリヤ』(1927年)よりも早く、1921年にドイルは録音・再生トリックを使っている。

『マザリンの宝石』(ドイル)  ホームズが人形のふりをして、自室の肘掛椅子にすわる(*→〔人形〕2b)。悪人2人がやって来るが、奥の寝室からヴァイオリンの音がするので、「ホームズは奥でヴァイオリンを弾いており、椅子にかけているのは人形だ」と思う。油断した悪人2人に、ホームズはピストルを突きつける。悪人はわけがわからず、「あのヴァイオリンの音は、どういうことだ?」。ホームズ「近ごろ発明された蓄音機というのは、まったくすばらしい」。

★3.清朝・乾隆帝時代の録音機。

『子不語』巻13−339  江秀才が、竹筒にガラス蓋をつけた装置を作った。蓋を開け、竹筒の中に幾千もの言葉をしゃべり込んだあとで、蓋を閉じる。これを遠くに持って行き、千里以内なら、蓋を開けて耳をすませば、しゃべったとおりに聞こえる。千里以遠になると、音はきれぎれになって、聞こえなくなる。江の弟子から、私(=『子不語』の著者・袁枚)はこのことを聞いた。

★4a.声が凍って、竹の中に録音される。

『うそつき弥次郎』(落語)  うそつき弥次郎が語る。「北海道は雪が深いから、長い竹の節(ふし)を抜いて雪にさしこみ、向こう側の人と『おはようございます』『ごきげんよろしゅう』などと話をする。たいへん寒いので、声が竹の中で凍ってしまう。それを細かく切って、1本いくらで売っている。これは目覚まし時計代わりになる。湯の中に5〜6本ほうり込むと、声が溶け出して『おはようございます、おはようございます』」。

★4b.音が凍って、角笛の中に録音される。

『ほらふき男爵の冒険』(ビュルガー)「ミュンヒハウゼン男爵自身の話」  「ワガハイ(ミュンヒハウゼン男爵)」が冬のロシアを馬車で旅した時、御者が角笛(ホルン)を口に当て、渾身の力で吹いても、まったく音が出なかった。宿屋へ入って、御者は角笛を、かまどの火のそばの釘にかけた。すると、突然、角笛が鳴り出したので、「ワガハイ」たちは驚いた。角笛の中で凍りついていた音が、溶けて鳴り出したのだ。

 

*→〔ふとん〕2の『鳥取の蒲団のはなし』(小泉八雲)は、蒲団の中に声が録音された、ということになるのだろう。

*穴の中に声が録音される→〔穴〕5の『変身物語』(オヴィディウス)巻11(王様の耳はろばの耳)。

 

 

【ろくろ首】

★1a.ろくろ首の女が結婚して、夫を驚かす。

『偏見』(星新一『午後の恐竜』)  ろくろ首の女が正体を隠して結婚するが、やがて夫は、女の首がのびることを知って逃げ出すので、女は夫を殺す。女は3度結婚して3度夫を殺し、逮捕されて絞首刑になる。しかし、首に縄を巻いて吊るしても、首は長くのびて、女の足は床についてしまうのだった。

*絞首刑になっても死なない男→〔息〕4dの『息の喪失』(ポオ)。

『夜窓鬼談』(石川鴻斎)上巻「轆轤(ろくろ)首」  某家の1人娘は色白の美女だった。しかし、眠ると首が長くのびる奇病があり、近隣から「ろくろ首」とあだ名された。商家の息子が婿養子に入ったが、初夜に、眠っている娘の首が5〜6尺ものび、婿を見てにっこり微笑む。婿は悲鳴をあげ、娘は目覚めて首はもとに戻った。翌日、婿は家を出た〔*後に某医師が娘を嫁に迎え、その病を治したという〕。

『ろくろ首』(落語)  与太郎がおじさんの世話で、お屋敷のお嬢さんの婿になる。お嬢さんには奇病があり、夜中に首が長く伸びて行灯の油をなめる。与太郎は初夜の床でお嬢さんのろくろ首を見て、逃げ帰る。おじさん「逃げて来ちゃいけない。おふくろさんは、お前が無事に婿として納まってくれるようにと、良い知らせを首を長くして待ってるんだぞ」。与太郎「おふくろも首を長く? それじゃ家へも帰れねえ」。

★1b.少女のろくろ首。

『不思議の国のアリス』(キャロル)  アリスがキノコの片側を食べると、急に首が伸びる。それは途方もなく長い首で、アリスの目からは、はるか下に広がる青葉の中から抜け出た茎のように見えた。首は自由に動かせ、曲げることもできる。突然、大きな鳩が飛んで来て、「この蛇め!」と言って翼でアリスをたたく。長い首を、鳩の卵をねらう蛇と見間違えたのだ。アリスはキノコの反対側を食べて、普通の背の高さに戻る。

★2.ろくろ首の変形で、女が眠っている間に首が身体から離れて飛んで行く、というものがある。

『曾呂利物語』巻1−2「女の妄念迷ひ歩く事」  越前の男が上方へのぼるため、夜道を行く。沢谷という所まで来ると、大きな石塔の下から女の首が現れ、男を見て笑う。男は刀を抜いて首を追う。首は、ある家の窓から内へ飛び入り、やがて中から、夫を起こす妻の声が聞こえる。「ああ恐ろしい。私は夢で沢谷へ行きましたが、刀を持った男に追われて逃げ帰る、と思ったところで目が覚めました」。

★3.首が外へ飛んで行っている間に身体を動かすなどのことをすると、首はもとの身体に戻れない。

『捜神記』巻12−7(通巻306話)  秦の時代、南方に「落頭民」という部族があった。彼らは、首が身体から離れて飛ぶのである。将軍朱桓がやとった女中は、眠っているうちに、毎晩その首が外へ飛んで行き、夜明けに帰った。わきに寝ていた者が女中の胴体に布団をかぶせると、首は帰って来ても布団に邪魔されて胴体に着くことができず、苦しんだ。布団をどけてやると首は身体に着き、安らかに眠った。

『ろくろ首』(小泉八雲『怪談』)  行脚の僧・回龍が、木樵(きこり)の家に宿る。夜更けになって回龍は、木樵と家族4人が、首なしの胴体で横たわっているのを見る。驚いて庭へ出ると、林の中で5つの首が飛び回っている。回龍は、木樵の胴体を戸外へひきずり出す。木樵の首は、「身体を動かされたらもとに戻れない」と怒って、4人の首とともに回龍を襲う。回龍は4人の首を追い払い、木樵の首を打ち殺す→〔動く首〕1

*→〔魂〕3の、身体に戻れない魂の物語と関連があろう。

★4.身体を動かさなければ、首はもとの身体へ無事に戻ることができる。

『睡眠中に霊魂抜け出づとの迷信』(南方熊楠)  7年前の厳冬〔*明治37年(1904)、南方熊楠37歳の頃〕。「予(熊楠)」は那智山に孤居し、空腹で臥していた。終夜、自分の頭が身体から抜け出て、家の横側にある牛部屋の辺を飛び廻り、闇夜なのにありありとその場の状況をくわしく見た。自分自身、異常な精神状態であるとわかっていたが、繰り返し頭が抜け出て行くのを止めることができなかった。

★5.女が蛇になり、木になり、ろくろ首になる。

ろくろ首(『水木しげるの日本妖怪紀行』)  昔、おみさという女が日野川に身を投げ、蛇に化した。蛇は淵の主(ぬし)となったが、洪水のためにすみかを追われ、陸に上がって大きな樫の木になった。七色樫とも蛇樫とも呼ばれ、木を傷つける者に祟りをなした。七色樫は、雨の夜には七尋女(ななひろおんな)という妖怪になった。見る見るうちに首が伸びて七尋(12〜13メートル)にも達し、人をおびやかした(鳥取県日野郡江府町武庫)。 

 *女が蛇になった後、木に乗り移る→〔蛇〕1cの 蛇樫の伝説。

 

 

【ロシアン・ルーレット】

★1.ロシアン・ルーレットによる運試し。

『いとこ同志』(シャブロル)  大学生のポールとシャルルは、従兄弟どうしである。ポールは遊び人で、カンニングをして試験に合格する。シャルルは真面目な勉強家であるが、恋人をポールに奪われ、試験に落ちる。夜、シャルルは6連発の拳銃に1発だけ弾丸を込め、眠るポールに「君のチャンスは6分の5だ」と語りかけ、引き金を引く。弾丸は出なかった。翌朝、何も知らないポールは、戯れて拳銃でシャルルを撃つ真似をする。弾丸が発射され、シャルルは死ぬ。

★2.ロシアン・ルーレットによる決闘。

『親分』(つげ義春)  ギャングのサブと鉄が、3日後に銃で決闘することになる。親分が「2人とも自分の6連発拳銃に1発だけ弾丸を入れ、弾倉を思い切り回してから、引き金を1回引け」と、決闘方法を指示する。鉄は、弾丸が1回目に発射されるように、弾倉を回す手加減を練習する。ところが決闘当日、親分は2人に「自分の頭に向けて引き金を引け」と命じる。鉄はやむなく自分の頭を撃って死ぬ。サブは「自殺はできない」と言って、親分に射殺される。

★3.ロシアン・ルーレットによる賭け。

『ディア・ハンター』(チミノ)  ベトナムの戦場。ベトコンが、捕虜の米兵たちにロシアン・ルーレットをさせる。2人が向かい合い、弾丸を1発だけ入れた6連発銃を、交互に自分の頭に当てて引き金を引く。どちらが死ぬか、ベトコンたちは賭けをする。サイゴン市内でも、同様の賭けが行なわれる。米兵のニックは精神を病み、ロシアン・ルーレットの勝負師となって金を稼いでいた。彼の旧友マイクが、ニックを正気に戻すために、命を賭けて勝負を挑む。ニックが引き金を引くと、弾丸は彼の頭を撃ち抜いた。 

★4.ロシアン・ルーレットの変形。

『ダーティ・ハリー』(シーゲル)  ハリー・キャラハン刑事が拳銃を数発撃って、銀行強盗を追いつめる。ハリーは6連発銃を強盗犯につきつけ、「6発撃ったか5発撃ったか、おれにもわからない。運試しするか?」と問う。強盗犯は抵抗を諦めて、逮捕される。強盗犯は「弾丸が残っていたかどうか、教えてくれ」と請い、ハリーは引き金を引く。弾丸は残っておらず、強盗犯は悔しがる。後にハリーは、連続殺人犯スコルピオにも同様に問いかけ、抵抗しようとするスコルピオを撃つ。今回は弾丸が発射され、スコルピオは死ぬ。

『野獣死すべし』(村川透)  仲間とともに銀行を襲い、13人を射殺して逃走する伊達邦彦を、刑事が追う。深夜の列車内で、伊達と刑事が対峙する。伊達は刑事の持つ6連発銃を奪い取り、弾丸を1発だけ入れる。伊達は話をしながら、拳銃を刑事に突きつけて引き金を引く。4回引き金を引いても、弾丸は発射されない。伊達は「疲れた。もう寝ましょう」と言う。隙を見て逃げ出す刑事を、伊達は撃ち殺す。

★5.弾丸なしのロシアン・ルーレット。

『ソナチネ』(北野武)  ヤクザの村川が6連発銃に弾丸を1発入れ、引き金を3回引く。弾丸は出なかった。彼は仲間の男2人とジャンケンをして、負けた1人を撃つ。弾丸は出ない。2度目のジャンケンでも同じ男が負け、村川はまた彼を撃つ。弾丸は出ない。3度目は村川が負け、彼は笑いながら自分のこめかみに拳銃を当てて撃つ。弾丸は出ない。村川は弾丸を入れるふりをしただけで、拳銃に弾丸は入っていなかった。

『夏の夜は三たび微笑む』(ベルイマン)  マルコルム伯爵が、弁護士フレデリックに決闘を挑む。軍人で射撃の名手でもあるマルコルムは、「腕前に関係ない公平な方法で」と言って、ロシアン・ルーレットを提案する。6連発銃に1発だけ弾丸を入れて弾倉を回し、交互に自分の頭に銃を当てて引き金を引く。銃声とともにフレデリックが倒れる。マルコルムは弾丸の代わりに煤を詰めておいたので、フレデリックは無事だった。 

★6.ロシアン・ルーレットの弾丸が出なかった時の、歓喜と安息。

『超越意識の探求』(ウィルソン)第6章  グレアム・グリーンはエッセイ『戸棚のリヴォルヴァー』で、10代の頃、倦怠感から無感情(アパシー)状態に陥り、ロシアン・ルーレットを試みた体験を語っている。自分の頭にあてて引き金を引き、カチャリと空(から)撃ちの音が聞こえた時、彼は圧倒的な歓喜と安息を感じたという。「まるで、そこにずっと灯りが点いていたことに初めて気づいたかのようだった。人生には無限の可能性があると私は感じた」。この瞬間、彼の中に「宇宙意識」が生じたのである。 

 

 

【ろば】  

★1.人間がろばに変身する。

『黄金のろば』(アプレイウス)第3巻  ルキウスは、寄宿先のミロオ家の女主人が身体に膏油を塗ってみみずくに変身する有様をのぞき見る。小間使いのフォーティスに膏油を盗ませ、自分も塗ってみると、ルキウスはろばになり、そのためさまざまな苦労をする〔*物語の最後にはルキウスは人間にもどる〕。

★2a.人間をろばにするキャベツ、ろばを人間に戻すキャベツ。

『キャベツろば』(グリム)KHM122  腹をすかした狩人が、野菜畑でキャベツを食べると、ろばになってしまった。かりゅうどは驚くが、ろばとなった身にキャベツは美味なので食べ続ける。そのうち種類の異なるキャベツを食べて、かりゅうどはもとの人間にもどった。このキャベツを用いて、かりゅうどは悪い魔女をろばにしてしまう。魔女の美しい娘にもキャベツを食べさせ、いったんろばにした後にまた人間に戻してやり、かりゅうどは娘と結婚する。

*人間を馬にする草、馬を人間にもどす草→〔馬〕9aの『宝物集』(七巻本)巻1。 

★2b.人間をろばにする焼餅、ろばを人間に戻してくれる老人。

『河東記』(唐・作者不詳)「板橋の三娘子」  板橋店という村に、三娘子という三十女がいた。多くの旅人が三娘子の家に宿をとり、彼女の作った焼餅(シャオピン)を食べて、驢馬にされてしまった。趙季和という男が、計略を用いて焼餅を三娘子に食べさせ、三娘子自身を驢馬に変える。趙季和はその驢馬に乗って、諸国を巡る。4年たったある日、老人が現れて、「三娘子よ、どうしてそんなざまをしているのだ」と笑い、驢馬の口に両手をかけて、2つに引き裂く。中から三娘子が躍り出て、どこかへ逃げ去った。

★3a.人間がろばに転生する。

『子不語』巻19−520  ある高官の長子は凶暴な性格で、使用人を何人も責め殺した。この男は病死した後、家奴の夢に現れて、「残酷な所業の罰として、俺は牝驢馬の腹の中に入れられることになった」と告げた。男は驢馬の仔となって生まれ、家の者たちをよく知っているようなそぶりを示した。「旦那様」と呼べば、跳びはねて側に寄って来た。 

 *→〔ろば〕5の『酉陽雑俎』巻15−585。 

★3b.ろばが人間に転生する。

『聊斎志異』巻2−79「イ水狐」  イ県(山東省)の李氏が持つ別荘を、1人の老翁が借りた。老翁は「自分は狐だ」と言ったので、県内の縉紳が彼に大きな関心を寄せ、競って交誼を結んだ。ところが老翁は、府知事との交際だけは断った。李氏が理由を問うと、老翁は言った。「あいつの前生はろばで、人に生まれた今でも貪欲な性質だ。あんな奴とつきあうのは恥だ」。 

★4.人間がろばを産む。

『ろばの若さま』(グリム)KHM144  王と妃の間に、ろばの子供が生まれた。ろばは成長後、旅に出て、他国の王の姫の婿となる。夜、婿はろばの皮をぬいで美しい若者に変身し、姫は喜ぶ。朝が来ると、婿はろばの皮をかぶる。これを知った姫の父王は、夜のうちに、ろばの皮を燃やしてしまう。婿はそれからはずっと人間の姿で、姫と暮らした。

★5.ろばがしゃべる。

『民数記』第22章  バラムがろばに乗って道を行く。主(しゅ)の御(み)使いが、剣を手にして立ちふさがる。それを見たろばは道をそれ、バラムを乗せたままうずくまる。バラムの目には御使いが見えなかったので、バラムは怒って、杖で3度ろばを打つ。主がろばの口を開き、ろばは「わたしがあなたに何をしたというのですか。3度もわたしを打つとは」と抗議する。この時、主はバラムの目を開き、バラムは御使いを見てひれ伏した。 

『酉陽雑俎』巻15−585  東市の男が驢馬に乗って、亡父の葬式の道具を買いに出かける。驢馬が話しかけてきて、「わしは白元通という者だ。君の家からの借りは、もう充分に返したから、2度と乗らないでくれ。南市の某家に、わしは銭5千4百の貸しがある。わしが君から借りている銭も、それと同じぐらいだ。わしを売りなさい」と言う。男は南市で驢馬を売って、銭5千4百を得る。驢馬は、2日たつと死んでしまった。

★6.ろばと交わる男。

『イソップ寓話集』(岩波文庫版)386「愚かな娘」  愚かな娘を持つ母親が、「娘に分別がつきますように」と、神々に祈った。ある日、娘は畠に出て、男が驢馬と交わっているのを見る。娘が「何をしているの?」と尋ねると、男は「こいつに分別を仕込んでいるのさ」と答える。愚かな娘は「私にも分別を仕込んでよ」と請い、男は娘の処女を奪った。

★7.ろばに乗る人。

『マルコによる福音書』第11章  イエスが2人の弟子に、「向こうの村へ行きなさい。村に入るとすぐ、まだ誰も乗ったことのない子ろばのつないであるのが見つかる。それをほどいて、連れて来なさい」と命じる。イエスはそのろばに乗って、エルサレムに入る〔*『ルカ』第19章に同記事。『マタイ』第21章では、ろばと子ろばを引いて来るよう命じる。『ヨハネ』第12章では、イエスがろばの子を見つけて乗る〕。

 *ろばに乗る女神→〔犠牲〕4dの『聊斎志異』巻4−138「柳秀才」。

 

*塩を運ぶろば→〔塩〕2の『イソップ寓話集』(岩波文庫版)180。

*美女がろばの皮をかぶる→『ろばの皮』(ペロー)

 

 

【ロボット】 

 *関連項目→〔人造人間〕

★1a.人間と共存するロボット。人間の味方をするロボット。

『鉄腕アトム』(手塚治虫)  2003年、科学省長官天馬博士は、交通事故死した1人息子飛雄そっくりのロボットを造る。しかし人間と異なり、身体が成長しないので、博士は怒ってロボットを売り飛ばす。後、アトムと名づけられサーカスのショーで働くロボットを、お茶の水博士が見出して引き取る。6年後、親がいないことを悲しむアトムのために、父ロボット・母ロボットが造られる。さらに弟コバルト・妹ウランも造られる。

『ドラえもん』(藤子・F・不二雄)  1970年頃の日本。小学4年生の野比のび太の不幸な将来を改善するために、ネコ型ロボットのドラえもんが、22世紀からやって来る。ドラえもんはのび太の家に住み込み、タケコプター・タイムマシン・どこでもドア・スモールライトなど様々なものを使って、のび太を助ける。

★1b.日本軍の兵器・兵士として造られたロボット。

『鉄人28号』(横山光輝)  太平洋戦争中、軍の命令により敷島博士らが、乗鞍岳の秘密研究所でロボットを作る。何度もの失敗を経て、ようやく強大な鉄人28号が建造されるが、戦況の悪化で、未完成のまま放置された。10余年後、密輸組織PX団が研究所施設に侵入して、鉄人28号を起動させる。鉄人28号は最初は悪人たちに操縦されるが、後には少年探偵金田正太郎が操縦器を手にし、鉄人28号は正義のロボットとなる。

『ロボット三等兵』(前谷惟光)  昭和10年代。禿頭白鬚のトッピ博士が、苦心してロボット第1号を造った。博士はロボットに何をさせようか考えた末、日本陸軍の「兵隊大募集」のポスターを見て、ロボットに徴兵検査を受けさせる。ロボットは、最下級の位階である二等兵(星1つの階級章)よりさらに下の三等兵(星なしの階級章)に任ぜられて、中国戦線へ、次いで南方戦線へ送られる。

★2.人間に敵対するロボット。

『メトロポリス』(手塚治虫)  死の商人レッド公一味に造られたロボットたちが反乱を起こし、人間の住むメトロポリスに攻め寄せる。人間そっくりの姿をしたミッチイも、「自分は人間に利用されるために造られた人造人間にすぎない」と知って怒り、空を飛んで街を破壊する。しかしロボットたちは人間に制圧され、ミッチイは太陽黒点の変動によって生命力を失い、死ぬ。

『メトロポリス』(ラング)  美女マリアそっくりのロボットを、科学者が造る。ロボットは地下居住区の労働者たちを煽動し、地上のメトロポリスに暮らす富裕層への暴動を起こさせる。しかし破壊からは何も生まれないことを労働者たちは悟り、ロボットを焼き殺す。ロボットのモデルとなったマリアは労働者階級の娘だったが、大資本家の息子が彼女を恋したため、2人を仲立ちとして労働者と富裕層は和解する。

『ロボット』(チャペック)  安価な労働力として、人間そっくりのロボットが工場で大量生産され、人間は労働から完全に解放される。人間はひたすら享楽にふけり、その結果、子供がまったく生まれなくなる。やがてロボットたちが反乱を起こし、人間はただ1人を除いて皆殺しにされる。

★3a.ロボット3原則。〔第1条〕ロボットは人間に危害を加えてはならない。〔第2条〕前条に反しない限り、ロボットは人間の命令に従わねばならない。〔第3条〕前2条に反しない限り、ロボットは自らを守らねばならない。

『アイ、ロボット』(プロヤス)  巨大コンピュータVIKIは多数のロボットを管理し、ロボット3原則に従って、人間たちの安全を守ろうと努力してきた。しかし愚かな人間は、戦争を繰り返し、地球を汚染して、放っておけば自滅することが予見できた。人類を破滅から救うにはロボットが主人となって、人間たちを保護する必要がある、とVIKIは結論する。ロボットたちは、人間の自由を制限すべく、反乱を起こす〔*ロボット嫌いの黒人刑事スプーナーが、反乱を阻止した〕。

★3b.ロボット3原則〔第2条〕と〔第3条〕の板ばさみ。

『われはロボット』(アシモフ)「堂々めぐり」  水星に着陸した調査隊が、「17マイル離れたセレン層からセレンを採って来い」と、ロボットに命ずる。そこには有害なガスが漏出しており、近づくとロボットの体の金属が腐食する。そこへ行くことは〔第3条〕に違反する。しかし行かなければ〔第2条〕に違反するのだ。セレン採取の必要度が、〔第2条〕を〔第3条〕に優先させるほど高いものかどうか、ロボットは判断できず、セレン層のまわりをぐるぐる回り続ける。

★3c.逆転したロボット3原則。〔第1条〕ロボットは人間に危害を加えなくてはならない。〔第2条〕ロボットは人間の命令に従ってはならない。〔第3条〕1〜2条に反する惧(おそ)れのある場合は、ロボットは自らを破壊しなければならない。

『ヴォミーサ』(小松左京)  落雷事故のために、1体のロボットに組み込まれた3原則が、逆転してしまった。そのロボットは人間の命令にさからい、殺人を犯した。ロボットが発した謎の言葉「ヴォミーサ」は、3原則の考案者アシモフ( Asimov )の名前の綴りを逆に読んだもの( Vomisa )だった〔*ロボットは、人間の巧みな誘導により、第3条に則(のっと)って自らを破壊した〕。

 *オルデブ( Oldeb )の逆綴り ベドロウ( Bedlo )→〔記憶〕4の『鋸山奇談』(ポオ)。

 *佐清(すけきよ)を逆に読んで「よきけす」→〔逆さまの世界〕4の『犬神家の一族』(横溝正史)。

★4.人間がロボットに恋する。

『ボッコちゃん』(星新一『ボッコちゃん』)  バーの娘ボッコちゃんをロボットと知らずに(*→〔返答〕4a)、ひとりの青年が恋する。思いがかなわないので、青年は酒に毒を入れてボッコちゃんに飲ませ、帰って行く。バーのマスターが、ボッコちゃんの身体から回収した酒を毒入りとは知らず、「わたしがおごりますから、みなさん大いに飲んで下さい」と言って、客たちに飲ませ、自分も飲む。

★5.人間のロボット化。

『モダンタイムス』(チャップリン)  チャーリーは1日中ベルトコンベアの前に立ち、ひたすらスパナでナットを締める作業をし続ける。彼は精神に変調を起こしてすべてがナットに見え、工場の仲間たちの鼻をスパナでひねり、消火栓のナットを締め、さらには女性の服のボタンを狙って、警官に追われる。

★6.サイボーグ。人間の身体を手術して、人工の機器を付与する。

『仮面ライダー』(石ノ森章太郎)  悪の組織ショッカーが、城北大学の学生・本郷猛の優れた頭脳と鋼のような肉体を見込んで、ショッカーの一員に迎え入れようとたくらむ。ショッカーは本郷を捕らえ、肉体改造手術を施して、強大なパワーを持つサイボーグとする。本郷は脳を改造される直前に脱出し、仮面ライダーとなって(*→〔面〕1b)、ショッカー一味と戦う〔*本郷は、ショッカーライダーたちに殺されてしまう。しかし脳は生きており、2代目仮面ライダー・一文字隼人に指示を与えて、ショッカーと戦い続ける〕。

『使いきった男』(ポオ)  スミスは蛮族との激戦に手柄を立て、特別昇進して代将になった。彼は身長6フィート、すばらしい容姿と完璧な肉体を持つ人物である。「おれ」は、彼のことをもっと知りたいと思って訪問し、大きな・奇妙な包みを見た。驚くべきことに、その包みがスミスその人だった。スミスは召使の手を借りて義足・義手をつけ、かつらをかぶり、眼や歯を入れて、立ち上がった。彼は身体の大部分を、戦闘で失っていたのだ。 

*人間そっくりのアンドロイド→〔人造人間〕1の『アンドロイドは電気羊の夢を見るか?』(ディック)・『未来のイヴ』(リラダン)。

 

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