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【猿】

★1.猿が人間を助け、怪物と闘う。

『西遊記』  孫悟空は、猪八戒・沙悟浄とともに、三蔵法師の供をして西天取経の旅に出る。道中、孫悟空は、白骨夫人・金角・銀角など、さまざまな妖怪たちと闘う。

『桃太郎』(昔話)  鬼退治の旅で山奥に入った桃太郎が、猿と出会う。猿は日本一の黍団子をもらって家来になり、犬・雉とともに鬼が島へ攻め入る(青森県三戸郡)。

『ラーマーヤナ』  猿のハヌーマン(ハヌマット)はラーマ王子を助け、魔王ラーヴァナの住むランカー島へ攻め入る。

★2.猿婿。

『キングコング』(クーパー他)  南海の孤島で、原住民の娘をキングコングの花嫁とする儀式が行われる。白人の女優アンが島を訪れたため、原住民たちは彼女を捕らえてコングの花嫁にする。コングはアンを気に入り、ニューヨークへ運ばれてからもコングはアンを捜し、拉致して摩天楼に登る→〔怪物退治〕3a

『猿婿入り』(昔話)  「田に水を引いてくれる者に娘をやる」と爺が言い、それを聞いた猿が水を引く。爺の長女・次女は「猿の嫁にはならぬ」と断り、末娘が猿とともに山に行って嫁になる。実家への里帰りの時、娘は「爺の好物だから」と言って、猿に餅入りの臼を背負わせ、川端の桜の木の1枝を望んで、木登りさせる。枝が折れて猿は川に流れる(山形県最上郡真室川町及位)。

『捜神記』巻12−9(通巻308話)  蜀の山中には、身長7尺ほどの猿に似た化け物がおり、通りかかる美女をさらって女房にする。男児を産まない女は山に一生とどまるが、男児を産んだ女は、母子ともに抱きかかえて家へ帰してくれる。成長後の男児は普通の人と変わらず、「楊」という姓を名乗る。

『人間が猿になった話』(谷崎潤一郎)  猿廻しの猿が芸者お染を恋慕し、厠の下から手を出してお染を驚かしたり、眠るお染の胸の上にすわって恋心を訴えたりする。お染は、逃れられぬ運命とあきらめて、猿と一緒に山奥へ入る。数年後、ある人が塩原温泉へ行き、山の上で猿と遊ぶ人間の女を見た。

『“ホロー”サル』(インドの昔話)  “ホロー”サルたちは、人間の魂を持つ猿だ。ある村に兄妹がいたが、妹は年頃になって、1匹の“ホロー”サルを夫とした。兄は怒ってその“ホロー”サルをナイフで刺し殺し、妹の産んだ2匹のサルも殺した。妹は悲しんで、食事ものどを通らず、やせ細って死んだ。兄は、「妹が死んだのはサルのせいだ」と考え、“ホロー”サルを捜して殺しまわった(少数民族タグサ族)。

★3.猿神退治。

『今昔物語集』巻26−7  美作国の猿神が、毎年処女1人を生贄にとる。旅の猟師が、生贄に指名された処女と結婚し、猛犬を用いて猿神を退治する。

『今昔物語集』巻26−8  飛騨山中の隠れ里に迷いこんだ旅僧が、猿神の生贄にされそうになるが、隠し持った刀で猿神を退治する。

『猿神退治』(昔話)  村の鎮守が、毎年娘を人身御供にとる。「伊勢の国のよだの町の『天地白』に、このことかまえて聞かせるな」と化け物が歌っていたので、旅のばくち打ちが伊勢へ行って「天地白」を捜し、連れて来る。「天地白」は犬の名で、娘の身代わりに櫃に入って鎮守の森に登る。「天地白」と化け物は激しく闘い、どちらも死ぬ。化け物の正体は狒々猿(ひひざる)だった。ばくち打ちは村の庄屋の婿になった(福島県南会津郡)。

★4.猿女房。

『太平広記』巻445所収『伝奇』  孫恪は金持ちの袁家の娘と結婚し2人の子をもうけ、10数年がたつ。恪は官吏となって一家で赴任する途次、寺に立ち寄るが、妻は壁に別れの詩を書きつけ、子を残して、猿となって去った。

『太平広記』巻446所収『瀟湘録(焦封伝)』  焦封は、美女に化けた猩々の家でしばらく暮らした。

★5a.猿が、網を打とうとして失敗する。

『イソップ寓話集』(岩波文庫版)203「猿と漁師」  漁師たちが川で網を打つのを見た猿が、その真似を試みる。しかし、網に触れると手が絡まってしまい、猿は自分の愚行を悔いる。

★5b.猿が、男根を亀に噛まれる。

『ジャータカ』第273話  猿が、眠る亀の口に男根を挿入して、強く噛まれた。ボーディサッタが亀に話しかけ、亀は猿の男根を放した。

★5c.猿が、陰嚢を木にはさまれる。

『パンチャタントラ』第1巻第1話  猿が角材の上で遊び、そこに打ちこんであった楔(くさび)を引き抜いた。猿は木に陰嚢をはさまれて、死んでしまった。

*猿が、手を貝にはさまれる→〔貝〕4aの『今昔物語集』巻29−35。

*猿田毘古神(サルタビコノカミ)が、手を貝にはさまれる→〔貝〕4bの『古事記』上巻。

★6.ずる賢い猿。

『毛蟹の由来』(中国の昔話)  ずる賢い猿が、蟹の握り飯を取り上げて食べ、代わりに桃の種を与える。蟹は種を川岸に埋め、それが桃の木になって、3年後にはたくさんの実をつける。蟹は木に登れず、猿が木に登って勝手に桃を食べるので、蟹は「おれにも投げてくれ」と頼む。猿は桃の種を投げつけ、蟹はけがをする。蟹が木を揺すると、猿は怒って木から飛び降り、蟹をつかまえようと追いかける(浙江省)→〔蟹〕6c

『猿蟹合戦』(昔話)  ずる賢い猿が、蟹の握り飯を取り上げて食べ、代わりに柿の種を与える。蟹の蒔いた種が柿の木になって実をつけるが、蟹の横這いでは、なかなか木に登れない。そこへ猿が来て木に登り、甘い柿を取って食べる。蟹が下から「こっちにも投げておくれよ」と言うと、猿は多くの渋柿を蟹に投げつけ、甲羅を砕いて殺す→〔仇討ち〕9

★7a.猿が人間に転生する。

『古今著聞集』巻20「魚虫禽獣」第30・通巻680話  越後国の乙寺の僧が『法華経』を読誦していると、2匹の猿がやって来て聴聞する。僧は猿のために『法華経』を書写してやるが、全巻書写する前に、2匹の猿は山の穴に落ちて死んでしまった。それから40余年後、国守として赴任した紀躬高が、乙寺に参詣して、「私の前世は猿で、経の力で人間に転生した。書写を完成させたい」と述べた〔*『今昔物語集』巻14−6の異伝では、承平4年(934)に赴任した国守・藤原子高(こたか)と彼の妻が、2匹の猿の生まれ変わりだった、と記す〕。

★7b.人間が猿に転生する。

『日本霊異記』下−24  昔、東天竺国の大王が、修行僧の従者について、「人数が多すぎる」と言って制限した。この罪のために大王は死後、猿の身をうけ、日本の近江国の陀我(=多賀)神社の神になった〔*陀我の神は、猿の身(=畜生道)を脱れたいと願い、寺で読経を聴聞した〕。

★7c.人間が猿化する。

『這う男』(ドイル)  著名な生理学者プレスベリー教授は61歳であるが、同僚教授の令嬢を熱烈に恋し、年齢差を乗り越えて婚約した。プレスベリー教授は若返りを願い、尾長猿の血清を何度も注射する。その結果彼は、木登りや四つん這い歩行などの発作を起こすようになる。あげくのはてに大型犬と喧嘩をし、喉を噛まれて瀕死の重傷を負った。

★7d.猿は、人間の前段階の存在。

『ホーキング、宇宙と人間を語る』第6章  マヤの伝説では、創造主は最初、大地の泥から人間を造った。彼らは意味のある言葉を話さなかったので、創造主は彼らを溶かして棄てた。創造主は次に、木から人間を造った。彼らは愚鈍だったので、創造主は彼らも棄てることにした。彼らはそれを察知して森に逃れ、私たちが「猿」と呼ぶものになった。2度の失敗の後、創造主はトウモロコシから人間を造った。これが現在の人間の始祖である。 

★7e.人間は、猿から進化したものではない。

『かのように』(森鴎外)  五条子爵は、息子秀麿が皇室の藩屏になって、身分相応の働きをすることを期待していた。しかし秀麿は、神話を歴史として認めず、神霊の存在も否定しているようなので(*→〔歴史〕3)、父子爵はそのことが気がかりだった。ある日、食事の席で父子爵は、「どうも人間が猿から出来たなんぞと思っていられては困るからな」と言い、秀麿はぎくりとした。 

★8.猿のたたり。

『捜神記』巻20−12(通巻460話)  男が山で子猿を捕らえ、家へ連れ帰る。母猿があとを追って来るが、男は子猿を殺す。母猿は悲鳴をあげ、木の上から身を投げて死ぬ。男が母猿の腹を裂くと、腸が1寸ごとに断ち切れていた。それから半年もたたぬうちに、男の家族は流行病で死に、一家は全滅する。

 

*猿が人間を支配する世界→〔逆さまの世界〕2の『猿の惑星』(シャフナー)。

*猿の尾の短いわけ→〔尾〕4

*猿の手→〔願い事〕2bの『猿の手』(ジェイコブス)。

*猿の生き肝(あるいは心臓)→〔生き肝〕2a・2b

 

 

【三者択一】

 *関連項目→〔二者択一〕

★1a.三つの人生の中から一つを選ぶ。

『太平広記』巻64所収『逸史』  盧シは天人と結婚できることになり、仙界へ連れて来られた。天人は彼に、「仙界の水晶宮に住み、天と等しい寿命を保つ」「地上の仙人となり、時々仙界へやって来る」「俗界の宰相となる」の3つから1つを選べ、と命ずる。盧シは、いったんは水晶宮に住むことを望んだが、すぐに心変わりして、「宰相になりたい」と言う。彼はたちまち地上へ戻された〔*史実では、盧シは宰相となり、晩年に失脚して、配所で死んだ〕。

★1b.人生の前途に、三つの選択肢しかない。

『行人』(夏目漱石)「塵労」39  大学教授の長野一郎は、父・母・妻直(なお)・一人娘芳江・弟二郎〔=この作品の語り手〕・妹重(しげ)たちと大家族で暮らしているが、彼は常に孤独だった。妻の貞操さえ信じられなかった(*→〔妻〕6a)。同僚のHさんが一郎を、伊豆・箱根方面への旅行に連れ出す。小田原の宿で、一郎は「死ぬか、気が違うか、宗教に入るか、僕の前途にはこの3つしかない」と言う。そして「宗教に入ることも、死ぬこともできないだろうから、なるとすれば気違いだろう。しかし現在の僕は正気なんだろうか?」と、Hさんに問いかける。 

★1c.三つの世界から一つを選ぶのではなく、三つとも自分のものにする。

『三四郎』(夏目漱石)  東京の大学へ入った三四郎には、3つの世界ができた。第1は母のいる故郷熊本である。第2は深遠な学問の世界である。第3は燦として輝く世界で、そこには美しい女性がいる。三四郎は3つの世界をかきまぜて、1つの結果を得た。要するに、国から母を呼び寄せて、美しい細君を迎えて、そうして身を学問にゆだねるに越したことはない。 

★2.三人の女神の中から、もっとも美しい一人を選ぶ。

『ギリシア神話』(アポロドロス)摘要第3章  争いの女神エリスが、ヘラ・アテナ・アフロディーテの3女神の中に、美の賞としてりんごを投じ、3女神の誰がもっとも美しいかを、パリスが審判することになる。アフロディーテが、ヘレネとの結婚をパリスに約束したので、彼はアフロディーテを選ぶ。

*千人の美女の中から、もっとも美しい1人を選ぶ→〔千〕1の『平治物語』下「常葉六波羅に参る事」。

★3.三つの箱の中から一つを選ぶ。

『ヴェニスの商人』(シェイクスピア)第2〜3幕  金・銀・鉛の3つの箱のうちの1つにポーシャの肖像画が入っており、それを選び当てた者が、彼女の夫となる。モロッコ王が金の箱を開けると、しゃれこうべが中にある。アラゴン王が銀の箱を開けると、阿呆の絵が入っている。バッサーニオが鉛の箱を開けると、ポーシャの肖像画があり、彼がポーシャの愛を勝ち得る。

★4.三人の男の中から、本物を一人見分ける。

『マハーバーラタ』第3巻「森の巻」  王女スカニヤーが、年老いたチャヴァナ聖仙の妻になる。アシュヴィン双神がスカニヤーの美貌に目をとめ、「あんな老人でなく、若い私たちのうちのどちらかと結婚せよ」と誘う。スカニヤーが断ると、アシュヴィン双神は「チャヴァナ聖仙を私たち同様に若返らせてやるから、その上で1人を選べ」と告げる(*→〔若返り〕1c)。3人の美青年がスカニヤーの前に並ぶが、彼女は誤ることなくチャヴァナ仙を見分けた。

*5人の男の中から、本物を1人見分ける→〔婿選び〕1の『マハーバーラタ』第3巻「森の巻」。   

★5.三人の女の中から、本物を一人見分ける。

『源平盛衰記』巻16「あやめの前の事」  源三位頼政が、鳥羽院に仕える美女あやめの前に思いをよせる。鳥羽院は、あやめの前と彼女によく似た女2人に同じ衣装を着せ、3人を頼政の前に並ばせる。頼政は「五月雨に沼の石垣水こえていづれかあやめ引きぞわづらふ」と詠み、あやめの前を賜る〔*『あやめのまへ』(御伽草子)では、2人の美女の中から選ぶ。『沙石集』巻5末−2の類話では、梶原三郎兵衛が10人の美女の中からあやめを見つけ出す〕。 

★6a.三人の中から、身分高い大名を一人を見分ける。

『好色一代男』巻5「当流の男を見しらぬ」  大名が、供の2人にも自分と同じ装束を着せて、吉原の太夫に逢う。太夫は3人の足袋を見て、鼻緒ずれの跡のない1人を、本物の大名と見破る。

★6b.大勢の中から、身分高い奥様を一人見分ける。

『聊斎志異』巻9−370「チョウ姓」  大勢の女が、狡知にたけたチョウを試そうと「私たちの中に身分高い奥様が1人いるが、見分けられるか?」と問う。チョウは「身分ある人の頭上には雲気がとりまいているから、わかる」と答え、女たちが思わず中の1人に目を注いだので、チョウは「その人だ」と指摘する。 

★7a.三つの指輪のうち、どれが本物かわからない。

『賢人ナータン』(レッシング)第3幕  家宝の指輪を3人の息子の誰に譲るかに悩んだ父親が、本物そっくりのにせ指輪を2つ作り、息子たち皆に指輪を与える。父親の死後、3人のうちの誰が本物の指輪の所有者であるかについて、争いが起こる。裁判官が「真の指輪の持ち主としてふさわしい徳を身につけるべく、1人1人が努力せよ」と裁く。

『デカメロン』第1日第3話  父親が3人の子を等しく愛し、相続者のしるしの指輪を誰に与えるか迷う。父親は職人に本物そっくりの指輪を2つ作らせ、父親自身にさえ真偽の区別のつかなくなった合計3つの指輪を、1つずつ3人の子に渡す。

★7b.三人の子供のうち、誰が自分の子かわからない。

『あゝ結婚』(デ・シーカ)  ドメニコは愛人フィルメーナと結婚するが、彼女は娼婦時代に、客の男たちとの間に3人の男児を産んでいた。「そのうちの1人はドメニコの子だ」というので、ドメニコは3人の中の誰が自分の子か知ろうとする。フィルメーナは「貴方は自分の子だけを大事にして、他の2人をかえりみないでしょう」と言い、誰がドメニコの子か教えない。ドメニコは自分の子を見分けることを諦め、3人の子の父親になる。

*2人の子供のどちらが自分の子か、わからない→〔二者択一〕7cの『ゲスタ・ロマノルム』116。 

 

 

【山椒魚】

★1.岩屋から出られない山椒魚。

『山椒魚』(井伏鱒二)  山椒魚は岩屋にまる2年いるうちに、体が発育して、外へ出られなくなった。ある日、蛙が紛れ込んで来たので、山椒魚は自分の頭で出口をふさぎ、蛙を閉じ込めてしまう。山椒魚と蛙は「お前はばかだ」と罵り合い、やがて黙り込む。2年がたつ。空腹で動けなくなった蛙は、「今でも別にお前のことを怒ってはいないんだ」と、山椒魚に言う。

★2.山椒魚を買いに行く。

『黄村(おうそん)先生言行録』(太宰治)  黄村先生は山椒魚に興味を持ち、いろいろな書物を読んで調べる。『作陽誌』によれば、昔、作州(岡山県)に3丈(約9メートル)もある大きなハンザキ(山椒魚)がおり、人間をとって食べたという。『古事記』のヤマタノヲロチや、白兎の皮を剥いだワニは、実は山椒魚ではなかったか、と黄村先生は考える。「見世物小屋に、身のたけ1丈の山椒魚が出ている」と聞き、黄村先生は2百円の大金を用意して買いに出かける。しかし実際は3尺5寸(約1メートル)の大きさだったので、黄村先生は落胆した。

 *黄村先生を主人公とする作品は、他に→〔歯〕9の『花吹雪』、→〔茶〕1の『不審庵』がある。

★3.山椒魚を見れば、疱瘡除けになる。

『山椒魚』(松本清張『彩色江戸切絵図』)  天明年間(1781〜89)、江戸に疱瘡が流行して、大勢の子供が死んだ。神主のように烏帽子をかぶった男が、「疱瘡除けの神霊仙魚」と書いた指物(さしもの)を背中につけ、「浅間(せんげん)様のお使い、箱根の深山幽谷に千年も棲む仙魚です。一目見るだけで疱瘡神は退散」と触れ、桶に入れた大山椒魚を、拝観料百文で見せてまわった。江戸の市民たちは迷信に弱く、男は荒稼ぎをした〔*男は乱暴者で、男に殴られたことを恨む子分が、大山椒魚を殺し、肉を串焼きにして男に食わせた〕。

★4.水界の生物である山椒魚が、陸地を切り崩して人類を圧迫する。

『山椒魚戦争』(チャペック)  スマトラ近くの赤道上の小島に、2本足で歩く多数の山椒魚が発見された。彼らは人間と意志の疎通ができそうだったので、ヨーロッパ人たちは「山椒魚を繁殖させ、労働力にしよう」と考える。山椒魚は言語を覚え、独自の文明を作り上げてゆく。山椒魚に食料や武器を供給して、利益を得る国家や団体もある。山椒魚は盛んな繁殖活動によって、世界人口(20億)の10倍以上に増える。山椒魚たちは諸大陸の沿岸部に巨大地震を発生させ、陸地を切り崩して湾や島を作る。彼らの棲息のためには、多くの水や洲や海岸が必要なのだ。人間たちは、しだいに内陸部に追いつめられてゆく。

 

 

【残像・残存】

★1.殺人の被害者が最後に見た光景が、網膜や角膜に残像として保存される。

『イギリス製濾過機』(ロバーツ)  老教授が毒殺された。知人の科学者が、「死の瞬間に教授の網膜に映った映像が、そのまま残っているかもしれぬ」と考え、網膜残像の現像を試みる。その結果、老教授が生前最後に見たのは午後5時ちょうどの時計だったことがわかり、殺害の時刻が確定できた。

『死者の網膜犯人像』(松本清張)  会社役員の男が絞殺され、両眼を大きく見開いて死んでいた。男の網膜には、生前最後に見た映像が残っているはずなので、それを固定するために、警察がホルマリン液を両眼に注射する。犯人である若い妻とその情夫は、逃れられぬと観念して自殺する。しかし男の網膜に映っていたのは、ポメラニアンだった。愛犬が駆け寄り、主人の死を見取ったのである。

『ブラック・ジャック』(手塚治虫)「春一番」  ブラック・ジャックに角膜移植手術を受けた娘が、「若い男の幻が時々見える」と訴える。角膜の持ち主は殺人事件の被害者であり、死ぬ間際に見た犯人の姿が角膜に焼きついたのだった。娘は幻の男に恋して彼を捜し、殺されそうになるが、ブラック・ジャックが彼女を救う。

★2a.生きている人間の網膜にも、目に見た光景が焼きつけられることがある。

『白い幻影(まぼろし)(手塚治虫)  海難事故のため、娘の目の前で恋人が波に呑まれる。その瞬間、稲妻の強烈な光によって、恋人の姿が娘の網膜に焼きつけられた。それ以来、娘は白い壁や布などの上に、恋人の姿を見るようになる。娘は、現実の男性よりも幻影の恋人を愛し、ずっと独身生活を続ける〔*波に呑まれた恋人は救助されたが、記憶を失ってしまい、娘のことを忘れて別の女性と結婚した〕。 

★2b.美しい景色を網膜に保存しようと思う。

『雪の夜の話』(太宰治)  人間の眼球は風景をたくわえることができる。昔デンマークの医者が、若い水夫の死体を解剖した時、彼の網膜に一家団欒の光景が写されていたという。女学生の「私」は、美しい雪景色を見て家へ帰り、「私」の眼の底を、妊娠中の嫂(あによめ)に覗かせようと思う。そうすれば赤ちゃんが綺麗になるだろう。

★3.鏡に映した美人の像が残る。

『聊斎志異』巻6−254「八大王」  馮が手に入れた古鏡は、美人を照らすとその像が残り、拭っても消えなかった。馮は王侯の姫の姿を鏡に映し取って持ち帰り、このことを知った姫は馮に嫁いだ。

★4.声の残存。

音霊(おとだま)(水木しげる『図説日本妖怪大鑑』)  曾我兄弟は富士の裾野で、父の仇・工藤祐経を討った。兄・十郎祐成はその場で討死にし、弟・五郎時致は捕らえられて打ち首になった。富士の裾野はもとの静けさに戻ったが、曾我兄弟の無念の思いが残って、怨念の声となった。大空に「十郎祐成」と名乗り、「五郎時致」と呼ばわって戦う音が、昼も夜も絶えなかった。その声を聞いた者は、あるいは死に、あるいは精神に変調をきたし、兄弟の言葉を真似て口走った。

*凍死した兄弟の声が蒲団に残る→〔ふとん〕2の『鳥取の蒲団のはなし』(小泉八雲)。

『変身物語』(オヴィディウス)巻3  妖精エコーが美少年ナルキッソスに恋し、抱擁しようとするが、ナルキッソスは彼女をはねつける。エコーは恥じて森の奥に隠れ、叶わぬ恋の悲しみでやせ衰えて、骨と声だけになる。骨はやがて石と化し、エコーはついに声だけの存在となった。今もエコーの声だけは、皆の耳に届いている。

★5.笑いの残存。 

『不思議の国のアリス』(キャロル)  アリスが森へ入って行くと、木の枝の上に、ニヤニヤ笑うチェシャ猫がいた。チェシャ猫はアリスと話をした後に、しっぽの方からゆっくり消えて行く。最後にニヤニヤ笑いだけが残り、猫の体がすっかり消えてしまってからも、それはしばらく残っていた。アリスは「『笑わない猫』は何度も見たけれど、『猫なしの笑い』は初めて見たわ」と思う。 

★6.残留思念。 

『古びた旅館で』(星新一『ひとにぎりの未来』)  昔、愛し合う若い男女が、結婚を許されなかったために、旅館の一室で心中した。2人の「結ばれたい」との思いはこの世に残り、その部屋の宿泊客に作用するようになった。離婚寸前の夫婦も、そこに泊まれば愛情がよみがえり、仲良く帰って行くのだ。 

 *この世に残した恋人への残留思念→〔川〕8の『ムーンライト・シャドウ』(吉本ばなな)。 

 

*光の残存→〔隠蔽〕3の『今昔物語集』巻4−7。

*→〔首くくり〕2の『聊斎志異』巻6−225「縊鬼」は、過去の首吊り事件の残像が見えただけなのか、霊が死後も首吊り行為を繰り返しているのか、どちらであろうか? 

 

 

【三題噺】

★1.客から出された三つの題材を組み合わせて、落語家が即興で噺を作る。「卵酒」「毒消しの護符」「鉄砲」という三つの題から、三遊亭円朝は『鰍沢』の物語を作った〔*「身延詣り」「遊女」「熊の膏薬」の三題が出された、などの異説もある〕。

『鰍沢』(落語)  身延山参りの旅人が雪道に迷い、一軒家に宿を借りる。その家の女房は、旅人の財布を狙って、しびれ薬入りの卵酒を飲ませる。旅人は毒消しの護符を呑み、逃げ出して鰍沢の急流に落ちる。彼は材木につかまって、「南無妙法蓮華経」とお題目を唱える。女房が鉄砲で旅人をねらい撃ちするが、弾は外れる。旅人は「ああ、お材木(=お題目)のおかげで助かった」と言う〔*落ちは→〔下宿〕2の『おせつ徳三郎』と同じ〕。

★2.「新米の盲乞食」「袴着の祝い」「大仏餅」の題で、円朝が作ったと言われる噺。

『大仏餅』(落語)  新米の盲乞食が幼児を連れて、ある家を訪れる。その家では、子供の袴着の祝いをしていたので、料理の残り物を与える。家の主人は、乞食がもとは有名な茶人だったことを知って、薄茶と大仏餅をふるまう。乞食は大仏餅を喉につまらせ、主人が背中を叩いてやる。その衝撃で盲乞食の目が開いたが、鼻の障子が抜けて、乞食はフガフガ言う。主人は「大仏餅を食ったから、目から鼻へ抜けたのだ(*→〔腹〕2b)」と言う。

★3.「芝浜」「革財布」「酔っ払い」の題で、円朝が作ったと言われる噺。

『芝浜』(落語)  裏長屋に住む魚屋が、朝早く芝浜の魚河岸へ出かけて、50両入りの革財布を拾う。魚屋は「これで遊んで暮らせる」と、仲間を呼んで酒盛りをして、ぐっすり寝こむ。目覚めると、女房が「財布など知らない。夢でも見たんだろう」と言う。魚屋は、「あさましい夢を見たものだ」と心を入れ替え、酒を断(た)って働き者になる。やがて表通りに店を出すまでになった3年目の大晦日に、女房は「実はあれは夢ではなかった」と打ち明ける。

★4.帰宅までに、三題話を作らねばならない。

『サザエさん』(長谷川町子)朝日文庫版第13巻119ページ  麻雀中のノリスケに妻タイコから電話がかかり、仲間が「ノリスケは急病の友人を送って行った」と嘘をつく。しかしノリスケはタイコに「叔父貴と食事に行く」と言って、出かけて来たのだった。さらにノリスケには、賞品のコーヒーセットが当ってしまう。ノリスケは「病人・叔父貴・コーヒーセット、これを家に着くまでに三題話にまとめあげなきゃならんぞ」と考えつつ、夜道を歩く。

 

*「タイムマシン」「吸血鬼」「植物人間」の三題話→〔吸血鬼〕3dの『短篇をどう書くか』(星新一)。

*「時間旅行」「電気器具」「アトランティス」の三題話→〔時間旅行〕3dの『短篇をどう書くか』(星新一)。

 

 

【三度目】

★1.三度目にはじめて成功する・願いが叶うなど、前二回とは異なった状況になる。

『イソップ寓話集』(岩波文庫版)173「木樵とヘルメス」  斧を川に落とした木こりに、ヘルメス神は1度目は金の斧、2度目は銀の斧を見せ、3度目に、木こりが落とした鉄の斧を示す。木こりが「これが私の斧だ」と言うと、ヘルメス神は木こりの正直さを誉め、斧を3つとも与える〔*日本の昔話『金の斧』では、池の中から美しい女が出て来て、木こりに金の斧を見せる〕→〔真似〕1

『白雪姫』(グリム)KHM53  継母(妃)が物売りの婆さんに化け、白雪姫が留守番をする小人たちの家へ、やって来る。継母は、1度目は胸紐で白雪姫を絞めつけて絶息させ、2度目は毒の櫛を白雪姫の髪にさして倒す。しかし2度とも、小人たちが白雪姫を蘇生させる。継母は、3度目は百姓女に化けて、毒りんごを白雪姫に与える。白雪姫は死に、小人たちが白雪姫をガラスの柩に入れる。

『杜子春』(芥川龍之介)  杜子春は、1度目は夕日に映る自分の影の頭の所を堀り、2度目は胸の所を掘って宝を得て、大金持ちになるが、2度とも使い果たす。3度目には、彼は金持ちではなく、仙人になることを願う。

『ペンタメローネ』(バジーレ)第5日第9話  王子が老婆からもらった3つのシトロンを切ると、美女が現れ飲み物を請う。1つ目・2つ目のシトロンの時は、見とれているうちに美女は消え、3つ目でようやく王子は美女に水を与えて、彼女と結婚する。

『列女伝』巻1「母儀傳」11「鄒孟軻母」  孟子の家は墓に近かったので、孟子は幼い頃、葬儀や納棺の真似をして遊んだ。母が「ここは息子を置いておく所ではない」と考え、市場のそばに引っ越した。すると孟子は商人の真似をした。母は再び引っ越し、学校のそばに住んだ。孟子は長じて大学者になった。

*3度、鳩を放つ→〔鳩〕1の『創世記』第8章。

*3度目の鳴き声を聞く→〔鶏〕5bの金鶏の伝説。

*3度目にようやく対面できる→〔分割〕8の『三国志演義』第37〜38回。

*3度目に、まともな人間を造ることができた→〔猿〕7dの『ホーキング、宇宙と人間を語る』第6章。 

*3本目の矢→〔百足〕2の『俵藤太物語』(御伽草子)。

★2.同じことがらが三度繰り返され、三度目にそれを受け入れる。

『法華経』「方便品」第2  霊鷲山(りょうじゅせん)上の世尊は、仏の永遠の生命について説こうとしつつ、「弟子たちは正しく理解できまい」と考えてためらった。弟子の舎利弗が説法を請うたが、世尊は「無益なことである」と言って応じなかった。再度請うても、世尊は断った。しかし舎利弗が3度請うと、ようやく世尊は、深遠な悟りの内容を語り始めた。

『法句経物語』第137〜40偈  マハーモッガラーナ長老は盗賊たちに襲われたが、たくみに身を隠して逃れた。2度目に襲われた時も、うまく逃れた。しかし長老は、「たび重なる襲撃は偶然の出来事ではなく、過去生で自分がつくった悪業因の、必然の果である」と悟り、3度目には盗賊たちに身をゆだねて殺された〔*マハーモッガラーナ長老は過去世で、自分の父母を殺していた〕。 

*3度目の命令で、エクスカリバーを水中に投げる→〔剣〕3の『アーサーの死』(マロリー)第21巻第5章。

★3.三度目も、一度目・二度目と同様に不運が続く。

『漢武故事』10  顔駟は、文帝・景帝・武帝の3代に仕えた。最初の文帝は学問を好んだが、顔駟は武芸が得意だった。次の景帝は老成した者を好んだが、その時まだ顔駟は若年だった。次の武帝は若者を好んだが、その時すでに顔駟は老人になっており、結局ずっと不遇だった〔*しかしこれを知った武帝は、顔駟を都尉に抜擢した〕。

★4.一度目はうまく行く。二度目は失敗する。三度目に意外な結末をむかえる。

『源氏物語』「帚木」〜「空蝉」  源氏は、老受領伊予守の後妻空蝉と一夜をともにする。しかし空蝉は2人の身分・境遇の差を思い、2度目には源氏を拒絶する。拒まれていっそう恋心を燃やす源氏が、3度目に空蝉の部屋へしのび入り、そこに眠る女性をかき抱くと、意外にもそれは空蝉の継娘軒端の荻だった〔*空蝉は源氏の気配を察知し、外へ逃れ出ていた〕。

★5.弟子が師を三度裏切る。

『今昔物語集』巻4−1  涅槃に入ろうとする釈迦が、「1刧の寿命をとどめようか、多刧の寿命をとどめようか」と阿難に3度問うが、阿難は3度とも答えなかった。

『マタイによる福音書』第26章  イエスが「今夜鶏が鳴く前に、あなたは3度私を知らないと言うだろう」とペテロ(ペトロ)に予言する。イエスが捕えられ、「その仲間ではないか?」と人々からとがめられたペテロは、3度否認する。その時鶏が鳴き、ペテロはイエスの言葉を思い出して泣く。

 *ロドリゴが踏絵を踏んだ時も、鶏が鳴いた→〔禁制〕7の『沈黙』(遠藤周作)。

★6.鶏が一羽ずつ、三度も届いたので驚く。

『にわとり』(中島敦)  「私」がパラオにいた時のこと。病気のマルクープ老人が、「たいへんお世話になった先生(=「私」のこと)に、鶏1羽を届けてほしい」と遺言して死んだ。ところが「私」の所へは、3人の男が別々の日にそれぞれ鶏を持って来た。つまり鶏が3羽も届いたのである。1人だけに頼んだのでは、猫ばばされる恐れがあるから、老人は万全を期して、3人に同じことを頼んだらしかった。

★7.三度目の仏頭。

『鹿政談』(落語)  奈良の大仏が出来上がったのは天平時代だが、その後、地震か火事かで首が落ちたことがある。それを修理すると、元禄時代に火事でまたこの顔が溶けて下へ落ちた。それを修理して、今のお顔は3度目だそうで、もうこれで大丈夫だ。「仏の顔も3度」と言うから。

 

*3度の異なった問いに、3度とも同じ言葉で答える→〔一つ覚え〕4の『魔法修行者』(幸田露伴)。

*3歩あるくだけで、遠方へ行ける→〔靴(履・沓・鞋)〕1aの『オズの魔法使い』(ボーム)・〔土地〕1bの『バーガヴァタ・プラーナ』(ヴィシュヌ神話)。

*3つの願い→〔願い事〕2a・2b・2c

 

 

【三人兄弟】

★1.三人兄弟の末子が成功する。王になる。

『イワンのばか』(トルストイ)  長男・軍人セミョーン、次男・ほてい腹のタラース、三男・ばかのイワンの3兄弟が、それぞれ国王になる。老悪魔がセミョーンとタラースの欲につけこみ、セミョーンを戦争で大敗させ、タラースを経済的に破綻させる。老悪魔はイワンの国をも侵略するが、ばかな国民たちは戦争の仕方を知らず、金の使い方も知らないので、老悪魔も手が出せず、イワンの国は無事太平であった。

『諏訪の本地』(御伽草子)  甲賀権守には3人の息子があったが、末子の三郎諏方が惣領となり、春日姫を妻に迎える。しかし兄二郎の奸計で、三郎は蓼科山の人穴の底に置き去りにされ、地底を遍歴し、維縵国で9年7ヵ月を過ごした後、地上に戻る。三郎と春日姫は再会し、三郎は諏訪上社の神、春日姫は下社の神となる。2人の本地は普賢菩薩と千手観音である〔*『神道集』巻10−50「諏訪縁起の事」に類話〕。

『まぬけのハンス』(アンデルセン)  王女が、「いちばん話上手な者を婿にする」というので、3人兄弟が城へ行く。上の2人は失敗し、末子のまぬけのハンスが、途中で拾った死んだ烏・古木靴・泥を出して、「古木靴を器に、泥をソースにして、烏を焼いてほしい」と言い、王女に気に入られる。

『歴史』(ヘロドトス)巻4−5  スキュタイの3人兄弟が、天から落ちてきた黄金の器物を見つける。長兄・次兄が取ろうとすると黄金は燃え、末子が近づくと火は消える。末子は器物を家へ持ち帰り、兄2人は末子に王権をすべて譲る。

『歴史』(ヘロドトス)巻4−9〜10  ヘラクレスが、「生まれてくる3人の子に弓を引き帯を締める試練を与えよ」と、妻である蛇女に言い残して、スキュティアを去る。長子と次子は課せられた試練に堪えず、国を追われる。末子がこれをやり遂げて、代々の王の始祖となる。

『歴史』(ヘロドトス)巻8−137  レバイアの町の王家で働く3人兄弟が、退去を命ぜられたため、賃金を要求する。王は、日光が煙出しの穴から部屋に差しこんで床の上に当たっているのを指し、「これをやろう」と言う。長兄・次兄は呆気にとられる。末子ペルディッカスは、日光を懐中に汲み入れるしぐさをする。彼はマケドニアの王になる。

*→〔遺産〕2の『長靴をはいた猫』(ペロー)・〔影〕3aの『なら梨とり』(昔話)・〔言霊〕5bの『怪鳥(ばけどり)グライフ』(グリム)KHM165。

*3人兄弟の末子が、老親の希望をかなえる→〔老婆〕1aの『伊勢物語』第63段・〔老婆〕2aの『三国伝記』巻10−5。

★2.三人兄弟も父親も死ぬ悲劇。

『乱』(黒澤明)  戦国時代。70歳の一文字秀虎は、「太郎・次郎・三郎の3人息子に3つの城を譲り、引退する」と宣言する。太郎・次郎が父秀虎にさまざまなへつらいの言葉を述べるので、一本気な三郎はそれを「不快だ」と言い、また父秀虎が示した3本の矢の教訓(*→〔矢〕5a)をも批判する。秀虎は怒り、3人息子の中でもっとも父親思いの三郎を追放する。その後は兄弟相争う戦となり、それに隣国がつけこんで、秀虎も3人息子も死ぬ。一文字家は滅亡する。

★3.二十世紀の三人兄弟譚。

『ゴッドファーザー』(コッポラ)  マフィアのボス、ドン・コルレオーネが、麻薬の売人ソロッツォ一味に狙撃され、重傷を負った。コルレオーネには3人の息子がいた。乱暴者の長男ソニーは、敵の罠にかかって殺された。次男フレドは、長男とは対照的にひどい臆病者だった。三男マイクルは正業につくつもりであったが、ソロッツォとその仲間の悪徳警官を射殺して、父の仇を討った。父の死後、マイクルがあとを継いでゴッドファーザーとなり、長期にわたって暗黒街に君臨した〔*後にマイクルは、兄フレドを殺した〕。

★4.三つ子の兄弟。

『菅原伝授手習鑑』  白太夫の3人息子、梅王丸・松王丸・桜丸は3つ子で、御所の舎人となった。桜丸は自らの落ち度が、菅原道真筑紫配流の原因になったと考えて(*→〔濡れ衣〕1d)、切腹する。梅王丸は、道真守護のために筑紫へ向かう。松王丸は我が子小太郎を犠牲にして、道真の一子菅秀才を救う(*→〔にせ首〕1)。

★5.三人の義兄弟。

『三人吉三廓初買(さんにんきちさくるわのはつがい)(河竹黙阿弥)  和尚吉三・お坊吉三・お嬢吉三は春の夜、大川端で出会って意気投合し、義兄弟の契りを結ぶ。それぞれに悪事を重ね、盗賊・人殺しなどとして追われるが、やがて年長の和尚吉三が、お坊吉三・お嬢吉三に「真人間になれ」と説いて、遠方へ逃がそうとする。しかし捕り手に囲まれ、もはやこれまでと覚悟した3人は、雪の降りしきる中、三つ巴に刺し違えて死ぬ。

*劉備・関羽・張飛も3人の義兄弟だったが、同日に死ぬことはできなかった→〔同日・同月〕4の『三国志演義』第1回。  

 

*子豚の3兄弟→〔豚〕6の『三匹の子豚の物語』(イギリスの昔話)。

*兄弟が2人のばあいは→〔兄弟〕

 

 

【三人姉妹】

★1.三人姉妹の末子が物語の主人公となり活躍する。あるいは末子が幸福になる。

『黄金のろば』(アプレイウス)第4〜6巻  ある国の王が3人の娘を持っていた。3人のうち、末娘のプシュケがきわだって美しかった。彼女は女神ヴェヌスの息子エロス(クピード)の妻となり、やがては神々の仲間入りをした。

『篁物語』  篁が、右大臣の娘に求婚する。右大臣には3人の娘があったが、大君・中の君は拒否し、三の君が篁の求婚に応ずる。後、大君・中の君は身分の低い男の妻になり、三の君と結婚した篁は出世して、宰相より上の位になった。

『美女と野獣』(ボーモン夫人)  野獣の宮殿のバラの1枝を商人が折ると野獣は怒り、「お前あるいはお前の娘の1人が、死なねばならぬ」と言う。商人の3人娘のうちの末娘ベルが、父の命を救うために野獣の宮殿に住む。しかし野獣と見えたのは、美しい王子が魔法で姿を変えられていたのだった。

『蛇婿入り』(昔話)「水乞型」  爺が、「日照りの田に水をかけてくれる者がいたら、3人いる娘の1人を嫁にやってもよい」と独りごとを言う。蛇が田に水をかけ、娘を要求する。3人娘の長女も次女も「蛇の嫁などにはならぬ」と拒絶し、末娘が承諾して、蛇について行く(山形県最上郡真室川町)→〔瓢箪〕4

『まっしろ白鳥』(グリム)KHM46  3人姉妹の長女と次女がバラバラ死体の部屋を見る。驚いて持っていた卵を落とし、卵に血がついたために、長女と次女は魔法使いの男に殺される。末娘が、卵をしまっておいて部屋を見、長女と次女を蘇生させる。魔法使いは「お前は試験に及第したから私の嫁にしてやる」と言うが、末娘は魔法使いをだまして焼き殺す。

*長者の3人娘の末子が、天稚彦と結婚する→〔変身〕2bの『天稚彦草子』(御伽草子)。

*3人娘の末姫が、早池峯(はやちね)山を得る→〔夢の売買〕2の『遠野物語』(柳田国男)2。

★2.三人姉妹も父親も死ぬ悲劇。

『リア王』(シェイクスピア)  80歳を越して退位したリア王には、3人の娘がいた。長女ゴネリルと次女リーガンは父を邪魔者扱いし、リア王は怒りと悲しみで狂気となって、荒野をさすらう。ゴネリルとリーガンは、ともに有夫の身でありながら、悪人エドマンドの愛を得ようとして争い、ゴネリルはリーガンを毒殺して、自殺する。父リア王を愛する末娘コーディリアはフランス王と結婚し、父を救うため、兵を率いてエドマンドの軍と戦うが敗れ、捕らわれて絞殺される。リア王も悲嘆して死ぬ。

★3.近代劇の三人姉妹。

『三人姉妹』(チェーホフ)  オーリガ、マーシャ、イリーナの3人姉妹は貴族の家柄だが、父が死に、時代も変わったので、働いて暮らしをたてねばならない。オーリガは学校の教師をして、校長になる。マーシャは不倫をするが、結局別れる。イリーナは婚約者を決闘で失う。3人姉妹の兄アンドレーは借金をして、屋敷を抵当に入れてしまう。幕切れに、オーリガは2人の妹を抱いて言う。「生きていきましょう。もう少ししたら、私たちにもわかるような気がする。なぜ生きているのか、なんのために苦しむのか・・・・」。

★4.生者と死者に分かたれた三人姉妹。

『叫びとささやき』(ベルイマン)  3人姉妹のうちの次女、37歳のアグネスが子宮癌で死ぬ。死体となったアグネスは、すすり泣きながら長女カーリンを呼び、「そばにいて。手を握って温めて」と請う。カーリンは「あなたの死に関わりたくない」と言って、頼みを拒否する。アグネスは三女マリアにも同様に訴え、マリアに抱きつき接吻する。マリアは悲鳴をあげて逃げる。女中のアンナだけがアグネスを優しく抱き、アグネスはようやく安らかに眠る。

★5.アマテラスとスサノヲから生まれた三姉妹。 

『古事記』上巻  スサノヲの持つ十拳剣(とつかのつるぎ)を、アマテラスが3つに折って噛み砕き、吐き出す息の霧から、3柱の女神が生まれ出た。最初にタキリビメノミコト、続いてイチキシマヒメノミコト、タキツヒメミコトの順に生まれ出た。この3女神はスサノヲの十拳剣を物実(ものざね)として生まれたので、スサノヲの子とされた。

 *アマテラスとスサノヲから生まれた5兄弟→〔五人兄弟〕4。 

 

*3人姉妹が、1人は王妃、1人は平民の女、1人は牝犬に生まれ変わる→〔前世〕2の『鸚鵡七十話』第2話。

*姉妹が2人のばあいは→〔姉妹〕

 

 

【三人の魔女・魔物】

★1.三人の魔女や女神は、一般に姉妹と考えられているが、原典では必ずしも明確に姉妹と記されないものもある。

『ギュルヴィたぶらかし(ギュルヴィの惑わし)(スノリ)第15章  世界樹ユグドラシルの下の泉のそばに館があり、ウルズ・ヴェルザンディ・スクルドの3人娘が出て来て、人間の寿命を定める。彼女らは運命の女神(ノルンまたはノルニル)と呼ばれる〔*『巫女の予言』20では、ユグドラシルの下の海から3人娘が来て、人の運命を定め、それを告げる、とする〕。

『ギリシア神話』(アポロドロス)第2巻第4章  ステノ・エウリュアレ・メドゥサのゴルゴン3姉妹は、龍の鱗で取り巻かれた頭・猪のごとく大きな歯・青銅の手・黄金の翼を持ち、空を飛んで、彼女らを見た者を石に変じた。3人のうちメドゥサだけが可死だったので、ペルセウスが彼女の首を切った〔*ゴルゴンたちの姉妹に、老婆の3姉妹もいた〕→〔一つ目〕4

『ニーベルングの指環』(ワーグナー)  ラインの河底の黄金を、ヴォークリンデ・ヴェルグンデ・フロースヒルデの3人姉妹が守っている。小人アルベルヒが3人に言い寄るが相手にされず、黄金を盗んで逃げ去る。黄金から作られた指環は、何人かの手を巡った後にラインの乙女たちの手に還る。

*→〔予言〕1bの『マクベス』(シェイクスピア)第1〜2幕。

★2.口裂け女も、三人姉妹だと言われることがある。

口裂け女(松谷みよ子『現代民話考』7「学校ほか」第1章「怪談」の20)  口裂け女は3人姉妹である。長女は整形手術の失敗で口が裂けた。次女は交通事故にあって口が裂けた。末娘は美しいままだったので、長女と次女が嫉妬して、鎌で末娘の口を裂いた(山口県下末市)。

★3.三人一組の神や妖怪。

かまいたち(水木しげる『図説日本妖怪大全』)  道を歩く男に、突然ピューッと風が吹きつける。家へ帰ると、女房が「どうしたの、その怪我は」と叫ぶ。男の足からは、血がどくどく流れていた。これは、かまいたちのしわざである。かまいたちは、3人1組の神あるいは妖怪だ。1人目が突っかかり、2人目が鎌で切り、3人目が薬をつける。だから、切られても痛みがない〔*→〔死因〕3aの『ブラック・ジャック』(手塚治虫)「通り魔」では、この話をヒントに、ブラック・ジャックが難事件を解決する〕。

 

 

【三人目】 

★1.三人目に出会う人。

『死神の名づけ親』(グリム)KHM44  貧乏な父親に13人目の子が生まれたので、名付け親を捜して大通りを歩く。初めに神様が・次に悪魔が「名付け親になろう」と申し出るが、父親は断り、3人目に死神に出会う。死神は金持ちも貧乏人も差別せずさらっていく所を父親は気に入り、死神を子供の名付け親にする→〔死神〕1a

『懶惰の歌留多』(太宰治)「い」  1月1日の朝。ヴィナスは、「ジュピタア様の宮殿へおまいりの途中で出会う3人目の男の人を、私の生涯の夫にしよう」と決意する。森の小路で、まず、むさくるしい毛むくじゃらの神に会った。次に、森の出口の白樺の下で、美丈夫のヴァルカンに会った。ヴィナスは「3人目はこの人だ。2人目は――この白樺」と叫んで、ヴァルカンの胸に身を投げた。

 *人形を人間に見立てて、人数を調整する→〔写真〕5cの『現代民話考』(松谷みよ子)12「写真の怪 文明開化」第2章の1。

★2.三人から嘘を言われると、それを本当と思ってしまう。

『戦国策』第4「秦(2)」64  孔子の高弟曽子(曽参)と同姓同名の者が人を殺した。ある人が曽子の母に「曽参が人を殺した」と知らせたが、母は信じなかった。別の人が同じことを告げても母は平然としていた。しかし3人目の人が曽子の殺人を報ずると、母は動揺して駆け出した。

『戦国策』第23「魏(2)」331  魏王は臣下から「市場に虎が出た、と誰かが言ったら信じますか」と問われ、「信じない」と答える。「2人が言ったら信じますか」と問われ、「疑う」と答える。「3人が言ったら信じますか」と問われ、「信じる」と答える。あり得ぬことでも、3人もの人間が言えば本当になってしまう。

『パンチャタントラ』第3巻第3話  バラモンが山羊をかついで歩く。1人目の悪漢が「なぜ犬をかつぐのか?」と問う。バラモンは「お前は盲目か。山羊を犬と間違うなんて」と怒る。2人目の悪漢が「仔牛の死体をかついでいる」と言う。バラモンは「これは山羊だ」と怒る。3人目の悪漢が「ロバをかつぐのは不浄だ」と言う。バラモンは「これはロバなのだ」と思って捨てる。3人の悪漢は山羊を取り、皆で食べる。

★3.三人から「お前は病気だ」と言われると、「自分は病気だ」と思ってしまう。死んでしまうことさえある。

『デカメロン』第9日第3話  朝、カランドリーノが家を出ると、道で会った友人が「どうかしたのか。ふだんと様子が違う」と言う。2人目の友人が「半分死んでいるみたいだ」と言い、3人目が「死んでしまったような顔だ」と言う。カランドリーノは「自分は重病なのだ」と信じこむ〔*医者が「お前は妊娠している」と言うと、カランドリーノはそれも信じる〕。

『万国幽霊怪話』(押川春浪)「セルヴィア国属官の気死」  役所の属官アデスは丈夫な人で、20年間皆勤だった。同僚たちが「彼を1日休ませてやろう」とたくらみ、帰り道の所々に待ち伏せして声をかける。1人目が「アデスさん、どこか悪いのでは?」、2人目が「顔色が変だ。コレラが流行しているから気をつけなさい」、3人目が「真っ青な顔だ。コレラですぞ。病院へ行かねばなりません」と言う。アデスは気を失い、家へ運ばれて、その夜のうちに死んでしまった。

*3人から「お前はレプラだ」と言われる→〔ハンセン病〕4

 

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