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【手】

★1.手および腕を失う。

『手なし娘』(グリム)KHM31  悪魔のために両手首を切り取られた娘が家を出て、王様と出会い妃になる。1年後、王様が戦争に出かけている間に、妃は美しい男児を産むが、悪魔が「妃は鬼子を産んだ」と王様に知らせる(*→〔書き換え〕4)。妃は男児とともに森に隠れ、神様のめぐみによって手首がもとどおり生える。戦場から帰った王様は妃を探して旅に出、7年後にようやく再会する。

『手なし娘』(昔話)  継母が娘をいじめ、父も継母の言いなりになる。娘が15歳の時、父は娘を山へ連れ出し、両腕を切り落として置き去りにする。長者の若様が娘を見つけ、妻とする。娘は子供を産むが、継母の悪計により(*→〔書き換え〕4)、子供を背負って家を出る。ある時、背負った子供がずり落ちるのを、娘は思わず無い手で支えようとすると、手が生えていた。後に娘は若様と再会する。継母と父は罰せられる(岩手県稗貫郡)。

『ペンタメローネ』(バジーレ)第3日第2話  ペンタは、兄王からの求婚を断るため両手を切り落とし、他国の王と結婚して男児をもうけるが、にせ手紙によって子とともに追放される。魔法使いがペンタを救い、美しい手を与え、兄や夫と再会させる→〔書き換え〕4

*→〔片腕〕に関連記事。

★2.手や指を身体の中に入れる。

『古事談』巻1−1  称徳女帝は、僧道鏡の巨根をなお物足りなく思い、薯蕷(やまのいも)を用いていた。ある時、薯蕷が折れて、身体の中に入りこんでしまい、患部が腫れ塞がった。百済国の医師小手尼が手に油をぬって、薯蕷を取り出そうとしたが、右中弁百川が「霊狐なり」といって尼の肩を切った。称徳女帝はやがて崩御された。

 *電球を使い、死んでしまったという物語もある→〔厠〕3aの『現代民話考』(松谷みよ子)。

『ヤコブ原福音書』(新約聖書外典)第19〜20章  マリアの出産のありさまを聞いたサロメが、「マリアが本当に処女なのか確かめよう」と指を入れる。サロメの手は火で燃え落ちそうになり、彼女は神を試みたことを悔いる。

『ヨハネによる福音書』第19〜20章  イエスは両手を釘で十字架に打ちつけられ、つるされた。イエスが息を引き取った後、兵士が槍でイエスのわき腹を刺す。すると血と水が流れ出た。後にイエスの復活を聞いた弟子トマスは、「あの方の手に釘の跡を見、この指をその釘跡に入れ、また、この手をそのわき腹に入れてみなければ、わたしは信じない」と言った。

★3a.怪物の手。

『大黒舞』(御伽草子)  孝行者の大悦の助は長者になったが、ある夜、天井から熊の手のごときもの(=盗人たちの亡魂が化したもの)が下り、大悦の助の髻を握って宙に引き上げた。しかし大黒天が打出の小槌で化け物を打ち、恵比寿三郎が捕らえようとしたので、化け物は逃げ失せた。

『酉陽雑俎』巻15−584  陵州龍興寺の恵恪が、ある夜、僧10余人を招き会食し、焼餅を出す。毛むくじゃらの巨大な手が現れ「餅を1枚所望」と言う。恵恪は餅を掌に置いてやると同時にその手を強く握り、下男に斬らせる。切断した手を見ると鳥の片羽根だった。

*鬼の毛むくじゃらの手→〔鬼〕4aの『大鏡』「忠平伝」。

*大蜘蛛の手→〔化け物屋敷〕の『狗張子』巻7−2「蜘蛛塚のこと」

*手の指が壁に文字を記す→〔宴席〕3aの『ダニエル書』第5章。

★3b.怪人の手。

『手』(モーパッサン)  サア・ジョン・ローウェル邸の客間には、切断された人間の「手」が置いてあり、鎖で壁につながれていた。晩秋の夜、彼は何者かに絞殺され、「手」は消えていた。後、彼の墓の上で「手」は発見された。人々は、「手」がサア・ジョン・ローウェルを殺したと思い、震えた。しかし予審判事は、「手の本来の所有者は生きており、その男が、残っている方の手でサア・ジョン・ローウェルを殺したのだ」と、合理的な説明をした〔*→〔片腕〕1bの、怪物が片腕を取り返しに来る物語の近代版である〕。

★4.巨大な手。

『ギュルヴィたぶらかし(ギュルヴィの惑わし)(スノリ)第45章  トールが、ロキたちとともに巨人国ヨトゥンヘイムに向かう。森の中で行き暮れ、大きな小屋を見つけて入る。夜中に大地震があり、トールたちは小屋の右手の別室に避難する。翌朝、外へ出て見ると巨人が眠っており、昨夜の小屋は巨人の手袋で、別室はその親指だった。

*→〔掌〕3の『西遊記』百回本第7回。

★5.麻痺した手。

『黄金伝説』162「聖女エリザベト」  片手の麻痺に苦しむ男が、ある老人から、「聖女エリザベトの墓石の下の穴に手を入れれば治る」と教えられる。男が墓石の下に手を入れて引き抜くと、麻痺した手は治った。

★6a.手で女性器の形状をあらわす。魔を払う動作。

『東西不思議物語』(澁澤龍彦)27「迷信家と邪視のこと」  にらみつけて相手に禍(わざわい)をもたらす「邪視」から逃れる方法に、「マノ・フィカ」がある(マノは「手」、フィカは「いちじく」の意)。これは、人差し指と中指の間に親指をはさんで握ることで、日本では昔から「女握り」と言われるものだ。「マノ・フィカ」を作って邪視の害を防ぐというのは、女性器が魔を払う力を持つということだろう。 

★6b.神に「マノ・フィカ」を向けるのは、涜神のふるまいである。 

『神曲』「地獄篇」第25歌  地獄の第8圏谷第7濠に落とされた盗賊ヴァンニ・フッチは、両の拳を無花果(いちじく)の形に握り、天に振り上げて叫んだ。「神よ、この手を取ってみろ」。たちまち2匹の蛇がヴァンニ・フッチを締めつけ、彼は口もきけず、身じろぎもできなくなった。

★7.「手の指の間から子供がこぼれ落ちた」というのは、指の股から誕生したということであろう。 

『古事記』上巻  母神カムムスヒは、スクナビコナについて「これはまことに私の子である。子供の中で、私の手の指の間から漏れこぼれた子だ」と言った〔*『日本書紀』巻1・第8段一書第6ではタカミムスヒが、「私が産んだ子は千5百ある。その中で1人、私の教えに従わぬ子がいて、指の間から漏れ堕ちた」と言う〕。

*手を産んだので、「手孕み村」と名づける→〔出産〕5

★8.自らの両臂を焼く。 

『法華経』「薬王菩薩本事品」第23  一切衆生喜見菩薩(いっさいしゅじょうきけんぼさつ)が、再び日月浄明徳仏(にちがつじょうみょうとくぶつ)の世に生まれた時(*→〔火〕3c)、仏は涅槃に入るところであった。仏が火葬された後、一切衆生喜見菩薩は、両臂を燃やすこと7万2千歳、という供養をした。彼が「両臂を捨てた私は、必ず仏の金色の身を得るであろう」と、もろもろの菩薩・天・人・阿修羅の前で宣言すると、両臂は自然にもとどおりになった。

 *自らの片臂を切り落とす→〔片腕〕4の『無門関』(慧開)41「達磨安心」。

 

 

【デウス・エクス・マキナ】

 *関連項目→〔神〕

★1.機械仕掛けの神。苦境にある作中人物の所へ現れて、一瞬のうちにすべてを解決してくれる神。

『オレステス』(エウリピデス)  オレステスは、母殺し(*→〔母殺し〕1の『エレクトラ』)の罪で死刑を宣告される。彼は自らの正当性を訴え、自分を助けようとしなかった叔父メネラオスを恨んで、その妻ヘレナを殺し、娘ヘルミネオを人質として、死刑を免れようとする。その時、高所にアポロン神が現れ、ヘレナは無事で天界にいること、オレステスは国外に去ってヘルミ ネオを妻とすべきことを告げ、メネラオスとオレステスを和解させる。

『タウリケのイピゲネイア』(エウリピデス)  イピゲネイアがタウロイの国の神社の巫女となっているところへ、弟オレステスとその友ピュラデスが生贄にされるべく、捕らわれて連れて来られる。イピゲネイアはタウロイの王を欺いて、弟たちとともに船で逃げ、王は怒って後を追おうとする。その時上空に女神アテナが現れ、「すべて神意であり天命であるゆえ、イピゲネイアらをそのままアテナイへ行かせよ」と説く。

『天道さん金ん綱』(昔話)  山姥が、3人の子供のうちの1人を食い、2人が逃げて桃の木の上に登る。山姥も木を登って来るので、子供たちが空を見上げ「天道さん、金ん綱」と呼ぶと、がらがらと音がして天から鉄の鎖が下がる。子供たちは鎖につかまって天に昇る。

*神のごとき存在であるライオンが、猫たちのトラブルを一蹴する→〔猫〕10

★2.苦境にある作中人物に救いの手を差しのべる、貴人・超人など神のごとき存在。

『廓文章』  遊蕩ゆえ勘当された藤屋伊左衛門が、落ちぶれた紙衣姿で、師走の餅つきの日に吉田屋を訪れ、恋人夕霧に逢う。伊左衛門は、「夕霧が心変わりした」と恨みを言い、2人は痴話喧嘩をする。そこへ、「勘当が許された」との知らせとともに、夕霧を身請けするための千両箱が運びこまれる。

『三文オペラ』(ブレヒト)  盗賊団長マクヒスが乞食頭ピーチャムの娘ポリーと結婚する。ピーチャムは怒って警察にマクヒスの居所を密告し、マクヒスは逮捕されて絞首台に立つ。そこへ女王の使者が来て、マクヒスを恩赦し、さらに、「マクヒスを貴族に任じ、年金を与える」と告げる。

『タルチュフ』(モリエール)  富裕な市民オルゴンは偽善者タルチュフにだまされ、全財産を取り上げられる。さらにタルチュフは、オルゴンを国王陛下に告訴し、警吏を連れて来てオルゴンを逮捕させようとする。しかし国王陛下は、タルチュフが手配中の詐欺師であることを先刻承知だった。警吏は国王陛下から、「オルゴンでなくタルチュフを逮捕せよ」との命令を受けており、オルゴンは危ういところを救われ、財産も失わずにすんだ。

『天守物語』(泉鏡花)  姫路城の天守夫人富姫と姫川図書之助(*→〔鷹〕1b)を討つべく、兵たちが天守閣の最上層へ攻め上る。富姫と図書之助は、獅子頭の母衣(ほろ)に入って、討手に立ち向かう。討手は獅子頭の目をつぶし、それと同時に富姫と図書之助の目も見えなくなる。2人が自害しようとするところへ、老工人近江之丞桃六が現れる。彼が鑿(のみ)で獅子頭の目を開けると、富姫と図書之助の目も開く。

 

 

【手紙】

 *関連項目→〔恋文〕

★1a.他人あての手紙を、勝手に開封して読む。

『検察官』(ゴーゴリ)  下級官吏フレスタコーフは、政情視察の検察官と間違えられたことに乗じて、市長たちから賄賂をせしめる。彼は潮時を見て、街を抜け出す。ところが郵便局長が、フレスタコーフが友人に出した手紙を、ひそかに開封していた。それを読んだ市長たちは、フレスタコーフが文無しの下級官吏にすぎなかったことを知る。そこへ、本物の検察官がやって来る。

『ヘッドライト』(ヴェルヌイユ)  初老のトラック運転手ジャンは、妻と娘1人・息子2人の5人家族である。年頃の娘はタレント志望で、ジャンはそれが気に入らない。ある時、娘宛ての手紙をジャンは勝手に開封してしまい、娘は怒る。何日か後、ジャンに来た手紙を、今度は娘が開封して読む。それは愛人クロチルドからの、妊娠を知らせる手紙だった。娘はジャンに手紙を渡さず、ジャンは返事を出せなかった。

★1b.他人の手紙を手に入れ、当事者に売りつける。

『手紙』(モーム)  人妻レズリーは、夫の留守中に愛人ハモンドを家に呼ぶが、別れ話が出て、レズリーはハモンドを射殺する。レズリーは「ハモンドが家に押しかけ襲いかかった」と供述し、皆が正当防衛と認める。ところが、レズリーがハモンドを招いた手紙が、ハモンドの中国人情婦の手元に渡り、その手紙を1万ドルで買うようにレズリーの夫は要求される。夫は事件の真相を知って手紙を買い戻し、レズリーは裁判で無罪となる。

★2a.「この手紙を持参した者を死なせよ」との手紙。

『サムエル記』下・第11章  ダビデ王は、戦場にあるヨアブあてに手紙を書き、それをウリアに持って行かせる。手紙には、「ウリアを最前線に出して戦死させよ」と記してあった。ウリアは戦死し、その妻バト・シェバ(=バテシバ)はダビデ王の妃となった→〔水浴〕2

★2b.「ダビデ」は英語では"David"。

『背中の曲がった男』(ドイル)  ナンシーは、夫バークレイ大佐が若き日に、『旧約聖書』のダビデ王同様の卑劣なふるまいをしたことを知り、「卑怯者! ディヴィッド!」と、夫を罵(ののし)る。夫は卒中の発作を起こして死に、それを見たナンシーは発狂状態になる。当初、ナンシーが夫を殺したのではないかと疑われ、謎の人物ディヴィッドが事件のカギを握っている、と見なされた。さすがのホームズも、ディヴィッド=ダビデ王、とは気づかなかった。

★2c.ダビデの物語の日本版。

『武道伝来記』巻7−1「我が命の早使」  日向の磯辺家の家老・塚林権之右衛門は、主人頼母(たのも)の命令で、書簡を三河の春川主計(かずへ)のもとへ持参する。主計が書簡を開くと、「この者を成敗すべし」と書いてある。好色な頼母が権之右衛門の妻に横恋慕し、「権之右衛門を目立たぬよう他国で殺そう」とたくらんだのであった〔*主計は権之右衛門を殺さず、一間にかくまう。頼母は、権之右衛門の妻が意に従わないので、手槍で突き、なぶり殺しにする〕。

★2d.「死の手紙」を持たされたが、窮地を脱することができた。

『ギリシア神話』(アポロドロス)第2巻第3章  アルゴス王プロイトスは、「ベレロポン(=ベレロポンテース)が王妃を誘惑した」との誣告を信じ、彼に手紙を持たせて小アジアのイオバテス王のもとへ送る。手紙には「ベレロポンを殺せ」と書いてあった。イオバテスは、「ベレロポンを怪物キマイラと戦わせて殺そう」と考え、キマイラ退治を命じた→〔怪物退治〕1

『十八史略』巻6「宋」  宋朝廷の国書を持って、富弼が契丹に向かう。宰相呂夷簡は、富弼をおとしいれようと、彼にさずけた口上と国書の内容とをことさらに違わせた。富弼は途中で国書を開き見て違いを知り、いそいで宋に引き返した。

*「死の手紙」を書き換えて、幸運を得る→〔書き換え〕3

★3.天界や水界にいる神や龍への手紙を託される。

『捜神記』巻4−4(通巻74話)  泰山を通る男が、府君から娘婿の河伯(黄河の神)への手紙を託される。男は黄河中流まで船を出し、河伯のもとへ到り手紙を渡して、返礼に靴を贈られる。

『太平広記』巻375所引『列異伝』  泰山の建物に迷いこんだ男が、府君から、外孫の天帝への手紙を託される。男は天帝に手紙を届け、返礼に、死後3年たつ妻を生き返らせてもらう。

『酉陽雑俎』巻14−545  南燕の太上年間(405〜410)、邵敬伯という者が、呉江の神の使者から、済水の神への手紙を託された。敬伯は案内人に従い、目を閉じて水中に入り、広大な宮殿に到る。80〜90歳の老人の姿をした済水の神に手紙を渡し、返礼に、水難よけの刀を贈られた〔*後、洪水で村が水没した時、敬伯は大亀に乗って無事だった。彼が死ぬと刀もなくなった〕。

『柳毅伝』(唐代伝奇)  旅の途中の柳毅は、龍王の娘から手紙を託され、洞庭湖底の龍宮へ届ける。武士に案内され、目を閉じて水に入ると数呼吸のうちに龍宮に着き、もてなしを受ける。後、柳毅は龍王の娘と結婚して幸福に暮らす。

★4.三人にあてた一通の手紙。

『三人の妻への手紙』(マンキーウィッツ)  若妻3人、デボラ、リタ、ローラメイのもとへ、共通の友人アディから1通の手紙が届き、「3人のうちの1人の夫と駆け落ちする」と書いてあった。夜、デボラの夫が帰宅しないので、彼女は「夫は駆け落ちした」と思う。しかし、ローラメイの夫が「僕がアディと駆け落ちするはずだったが、取りやめたのだ」と言って、デボラを安堵させる。デボラが立ち去った後、リタが「朝になれば、どうせわかるわ」と言う。

★5.手紙の入れ違い。

『十八史略』巻4「東晋」  桓温が、「殷浩を中書令僕射に任命する」と伝える。殷浩は喜び、礼状を書くが、誤りがあってはならぬと、文箱を開閉して手紙を読みなおすこと10数度、ついに空の文箱を送ってしまう。桓温は怒り、殷浩の任官は取り消された。

『心中万年草』上之巻「吉祥院の段」  お梅は、恋人の吉祥院寺小姓久米之介を呼び戻そうと、父隠居のため久米之介に暇を請う旨の偽手紙を作り法印に送る。ところが、中身を久米之介あての恋文と入れ違え、2人の仲は露顕する。

★6.手紙の届け違い。

『かげろふ日記』中巻・安和2年6〜7月  私(藤原道綱母)は藤原兼家の妻であるが、世間では、兼家の正妻は時姫、と見なしているようだ。西宮の左大臣(源高明)が配流された時、私は、慰めの手紙を左大臣の北の方に送った。北の方は返信を書き、「兼家様の奥様に届けよ」と召使いに命じた。召使いは「奥様=時姫」と考え、返信を時姫のもとへ届けてしまった。時姫の所では、変だとも思わなかったのだろうか、北の方へ返事を出したらしい。

『今昔物語集』巻30−11  妻を2人持つ男が、浜辺で海松のついた蛤を見つけて珍しがり、小舎人童に命じて今の妻のもとへ届けさせる。小舎人童は誤って本の妻の所へ持って行く。本の妻は「あまのつと思はぬ方にありければ見る(海松)甲斐(貝)なくも返しつるかな」と書き送る。

『十八史略』巻4「隋」  隋の文帝楊堅が病む。太子広は、父帝崩御後のことを予測し、僕射の楊素に相談の手紙を送った。ところが、楊素からの返書を、取り次ぎの官人が誤って文帝の所へ届けた。文帝はこれを見て大いに立腹した。

★7.にせの手紙を用いて、人をおびき寄せる。

『最後の事件』(ドイル)  シャーロック・ホームズとワトソンがスイスのライヘンバハ滝を旅していた時、重態の肺結核患者の診察を請う手紙がホテルから届き、ワトソンはホテルへ戻る。それはモリアティ教授によるにせ手紙で、モリアティはホームズに1対1の勝負を挑もうとしたのだった。ホームズはにせ手紙であることを承知の上でワトソンと別れ、モリアティとの対決に臨む。

『三国志演義』第36〜37回  曹操は、劉備の軍師である徐庶を、自軍に招きたいと考える。そこで、徐庶の母親を一室に軟禁し、彼女の筆跡を模倣してにせ手紙を作り、徐庶を呼び寄せる。徐庶は、本物の母親の手紙と思って曹操のもとへ行き、母親に対面する。母親は、徐庶を「愚か者」と叱りつけ、首をくくって死んでしまう〔*その後、徐庶は曹操のもとにありながら、彼のために献策することはなかった〕。

★8.にせの手紙を用いて、味方どうし・恋人どうしの仲を裂く。

『南総里見八犬伝』第9輯巻之10第110回  里見義成は、娘浜路姫が犬江親兵衛に宛てた恋文を拾い、親兵衛に「関八州を歴覧し、七犬士を捜せ」と命じて、稲村城から追い出す。実はそれは、親兵衛と里見家を引き離すべく、妙椿尼の幻術で作られたにせ手紙だった。

『ランメルモールのルチア』(ドニゼッティ)  城主エンリーコは妹ルチアを政略結婚させようとするが、ルチアには恋人がおり、しかもそれはエンリーコにとって仇敵のエドガルドであった。エンリーコは2人の仲を裂くために、エドガルドの心変わりを伝えるにせ手紙を用いる→〔狂気〕4

★9.開封されない手紙。読まれない手紙。

『三国志演義』第30回  曹操の軍が袁紹の軍を打ち破り、袁紹は所有する金銀や文書などをことごとく捨てて逃げる。その中に、曹操の軍中から袁紹に内通した手紙類が1束あったので、側近が「1人1人姓名を調べ上げて死罪にすべき」と曹操に進言する。しかし曹操は手紙を見ず、そのまますべて焼却させた。

『平家物語』巻11「文之沙汰」  平家滅亡の後、生き残った平大納言時忠は、他見をはばかる手紙類の入った箱を源義経に取られ、「手紙が鎌倉の頼朝に見られたら、我が命はあるまい」と恐れる。時忠は義経に娘を1人与え、義経は手紙を開封せぬまま、時忠に返す。時忠はすぐに手紙を焼却する。

『蒙求』523「孔翊絶書」  孔翊は洛陽の令となったが、政治に私情をさしはさむことはなかった。頼み事・願い事の手紙が来ると、1通も開くことなく、すべて水中に投げ込んでしまった。

★10.投函されなかった手紙。

『氷点』(三浦綾子)「激流」  病院長辻口啓造の3歳の娘ルリ子が、日雇い人夫の佐石に殺された。佐石は逮捕された後に縊死した。辻口は、日頃の「汝の敵を愛せよ」という信条にしたがい、ルリ子の身代わりとして佐石の娘を引き取り、育てる。彼はその折の心の迷いを、親友高木への手紙に書きつつ、結局投函しなかった。辻口の妻夏枝は、自分が殺人者の娘を育てているとは知らなかったが、ある時、夫の書斎を掃除していて、その手紙を見つける。

★11.死者からの手紙。

『述異記』(祖冲之)16「碁敵のいざない」  朱道珍と劉廓は、いつも2人で碁盤を囲み、日も夜も忘れるほどだった。朱道珍は宋の元徽3年(475)6月26日に死んだが、その年の9月に、見知らぬ男が劉廓のもとへ手紙を届けた。手紙は朱道珍の筆跡で、「近々お会いできるのが楽しみです」と書いてあった。読み終えると手紙はどこかへ失せてしまった。劉廓はまもなく病気になり、死んだ。

 *死者からの電話→〔電話〕4の『長距離電話』(マシスン)。

 *月からの手紙→〔月〕5の『懶惰の歌留多』(太宰治)。

★12.文通。

『ペンフレンド』(スレッサー)  53歳のマーガレットは、22歳の美しい姪マージーの写真を使い、彼女になりすまして、青年コリンズと文通していた。コリンズは終身懲役囚だったが、ある夜、脱獄してマーガレットの家へ押しかけ、「マージーに会わせろ」と要求する。マーガレットは燭台でコリンズを一撃して気絶させ、駆けつけた警察がコリンズを逮捕して刑務所へ戻す。マーガレットは再びマージーの名前で、コリンズに宛てて愛情のこもった手紙を書く。

 *文通相手もにせ者だった、という話もある→〔二者同想〕3の『ドラえもん』(藤子・F・不二雄)「虹谷ユメ子さん」。

 

*手紙の書き換え→〔書き換え〕3〜5

*手紙のすりかえ→〔すりかえ〕2

*鳥が手紙を運ぶ→〔鳥〕5

 

 

【手ざわり】

★1.鷹の手ざわり。

『古事談』巻4−13  源斉頼は鷹の飼育を業としていたが、晩年失明した。ある人が、信濃の鷹を「西国の鷹です」と、いつわって示したところ、斉頼は鷹の体を手で探り、「これは西国の鷹でなく、信濃の腹白の栖の鷹だ」と言い当てた。

★2.女性の身体の手ざわり。

『盲獣』(江戸川乱歩)  富豪の1人息子でありながら盲目に生まれた男が、あんまとなって美女の肉体に触れ、目明きにはわからぬ奥深い触覚世界を探求する。男は7人の美女のそれぞれ個性的な触感を味わってから殺し、彼女らの乳房や尻など身体各部の手ざわりを再現した像を造って、展覧会に出す。それは目で見るのでなく、手で触れて鑑賞する芸術作品だった。

『盲目物語』(谷崎潤一郎)  盲目の法師である「わたくし」は、浅井長政公の奥方(=お市の方)から「弥市」という名をいただき、お側近く仕えた。日ごと夜ごと、奥方のあんまを仰せつかったので、お身体の様子がわかるのみか、お心の中のことまで自然と「わたくし」の手先へ伝わった。このようなお方の御身に手を触れ、御腰を揉ませていただけるのは、盲目なればこその幸せだった→〔背中〕2b

★3.幽霊の手ざわり。

『菊池寛』(小林秀雄)  昭和14年(1939)11月。菊池さん(=菊池寛)が、四国の今治市の旅館に泊まった夜。胸苦しくなって目を覚ますと、24〜25歳の痩せた男が馬乗りになっていた。首を絞めようとするので、菊池さんは両手で男の顎を下から押し上げた。男の口から流れる血が見え、男の無精髯のチクチクする感触が掌に感じられた。菊池さんが「君はいつから出てるんだ?」と問うと、男は「3年前からだ」と答えた。それは、3年前に肺病で死んだ、旅館の若主人の幽霊だった。 

『生死半半』(淀川長治)「友人の亡霊たち」  フランス映画社の社長・川喜多和子さんが亡くなった時、「私(淀川長治)」はベッドの横にその姿が現れるのを、はっきり見た。彼女は「やんなきゃならない仕事がいっぱいあるのに、もう行かなくちゃいけないの」と言った。「私」は「あんた、死んじゃったの。可哀相に」と言いながら、手をさすってあげようとしたが、「私」との間がガラスで仕切られているような感じで、どうしても身体に触れることができなかった。

★4.一般に幽霊は、さわろうとして手をのばしても、手ごたえがなく、突き抜けてしまうことが多い。

『遠野物語』(柳田国男)82  田尻丸吉という人の実体験。少年の頃、ある夜、便所へ行こうとして茶の間を通ったら、座敷との境に人が立っていた。幽(かす)かに茫(ぼう)としていたが、衣類の縞も眼鼻もよく見え、髪を垂れていた。手をのばして探ると、板戸にガタと突き当たり、戸の桟にもさわった。自分の手は見えず、その上に、影のように重なって人の形がある。顔の所へ手をやれば、手の上に顔が見えた。

*亡母の霊を抱こうとするが、影か夢のごとく手をすり抜けた→〔冥界行〕2の『オデュッセイア』第11巻。

*亡父の霊を抱こうとするが、腕は空(くう)を抱いた→〔冥界行〕3の『アエネーイス』第6巻。

 

*掌に触れて、目前の人物が恩人であると気づく→〔開眼〕7aの『街の灯』(チャップリン)。

 

 

【手相】

★1.手相を見て未来を知る。

『異苑』35「手相」  晋の名将・陶侃の左掌には縦に長い筋があって中指まで通り、いちばん上の関節の所で切れていた。易者は「筋が指先までつきぬけていたら、どこまでも出世なさったでしょう」と言う。陶侃は筋を上までつなげようと、針で指をつつく。すると血がはねて壁にかかり、「公」の字の形になった。陶侃は皇帝になる望みを持っていたが、公爵で終わることが示されたのである。

*掌の筋が文字に見える→〔掌〕2bの『史記』「晋世家」第9。

★2.手相が良くないので、何も言わない。 

『けんかえれじい』(鈴木清順)  昭和10年(1935)頃。岡山の中学生・麒六(きろく)は下宿先の娘・道子を恋していたが、事情があって(*→〔旅立ち〕)、会津の中学校へ転校した。雪の日、麒六はカフェの女給から「あんた、好きな娘がいるね。掌(て)を見せてごらん」と言われる。しかし女給は手相を見ても「大事にしてやるんだね」としか言わない。帰ると、道子が岡山から訪ねて来ていた。彼女は「私は身体に欠陥があって結婚できない。修道院へ入ります」と言って、麒六に別れを告げた。

『誰がために鐘は鳴る』(ヘミングウェイ)第2章  鉄橋爆破の任務を帯びたロバート・ジョーダン(*→〔橋〕7)の手相を、ジプシー出身の女ピラールが見る。しかし何も言わない。ロバートが「何と出ている?」と聞くと、ピラールは「何も出ていない」と答える。ロバートは「何か出ていたはずだ。気にしないから、教えてくれ」と言うが、ピラールは「何も出ていない」と、重ねて否定する〔*爆破は成功するがロバートは重傷を負い、死を目前にするところで物語は終わる〕。 

★3.手相で過去を知る。

『愛人ジュリエット』(カルネ)  「忘却の国」の人々は記憶を持たず、自分自身の過去を知らない。いつわりの過去を述べて見栄をはることもある。手相を見る男が、「過去を見てあげよう」と呼びかける。女連れの兵士が来て、「戦友がいた。女たちとも踊った」と言う。男は「手相には出ていない。見えるのは、大きな苦しみだけだ」と告げる。兵士は不機嫌になり、慰める女に「うるさいな」と言って、去る。

★4.手相を見て、でたらめな予言をする。

『花咲ける騎士道』(ジャック)  18世紀フランス。美女アドリーヌが青年ファンファンの手相を見て、「軍隊に入れば出世して、王女の婿になる」と予言する。ファンファンは喜んで入隊するが、実はアドリーヌは徴兵官の娘で、でたらめを言っては男たちを軍隊へ送り込んでいた。ところが偶然のことから、ファンファンは敵の司令官を捕らえる大手柄をたて、国王ルイ15世が彼を大尉に任じ、王女を与える。その王女とは、ルイ15世に気に入られて養女になったアドリーヌだった。こうして、アドリーヌのでたらめが実現してしまった。

 

*水難の手相→〔占い〕2の『サザエさん』(長谷川町子)。

 

 

【鉄】

★1.鉄を食べる新人種。

『日本アパッチ族』(小松左京)  大阪の陸軍砲兵工廠跡に住む「アパッチ」と呼ばれる人々は、採集した屑鉄を売って日々の食を得ていたが、やがて彼らは、屑鉄そのものを食うようになった。彼らの身体は鋼鉄化し、排泄物は純度の高い鉄となった。大阪のみならず、日本の各地に鉄を食う人たちが現れ、何十万人にもなった彼ら「アパッチ族」は、警察や軍隊と戦う。彼らは弾丸をはね返し、敵の武器や戦車を食って、ついに日本を滅ぼしてしまった。かつてアウストラロピテクスが獣肉食を始めて、人間の身体と脳は格段に発達した。食鉄人種の発生は、人類の新たな進化を示唆する出来事かもしれない。

★2.妊娠中に鉄を食べる。

『日田の鬼(き)太夫』(昔話)  出雲の小冠者という天下一の力士がいた。その母親は妊娠中、毎日砂鉄ばかり食べていたので、小冠者の五体は鉄のように堅い。ところが、たった1度だけ、母親は胡瓜(まくわうり)を食べた。そのため小冠者の身体は、額に1箇所、柔らかなところがあった〔*豊後の日田の力士・鬼太夫がこの秘密を知り、小冠者との相撲に勝った〕。

弁慶の伝説(谷川健一『鍛冶屋の母』)  弁慶の母は、つわりの時に鉄を好んで食べた。鍬を1丁、2丁と食べ、10丁目の鍬を半分食べたところで、弁慶が生まれた。そのため弁慶は総身(そうみ)が鉄であったが、鉄を少し食べ残したため、4寸四方だけは人間の膚だった。

★3.鉄を産む。

『太平記』巻13「干将莫耶が事」  楚王の夫人が、鉄(くろがね)の柱によりそって涼んでいた。やがて夫人は懐妊し、月満ちて1つの鉄丸を産んだ。楚王は「これは金鉄の精霊であろう」と考え、干将という鍛冶を召して、「鉄丸で宝剣を作り、献上せよ」と命じた〔*干将は妻莫耶とともに呉山にこもり、雌雄の2剣を作った〕。

★4.鉄製のストーブ。

『鉄のストーブ』(グリム)KHM127  婆さんの魔女に呪われて、どこかの国の王子が、森の中の大きな鉄のストーブの中へ閉じ込められた。1人のお姫様が森で道に迷い、鉄の箱(=ストーブ)の前へ来る。箱の中から、「小刀で鉄をけずり、穴を開けて下さい」と声がする。お姫様が小さな穴を開けてのぞくと、美しい王子が黄金や宝石にくるまって光っていた。お姫様は喜んで一生懸命に鉄をけずり、王子は穴から出てくることができた〔*その後、王子とお姫様はいったん離れ離れになるが、最後には2人はめでたく結婚する。燃えるストーブ=地獄、という解釈がある〕。

 

 

【掌】

★1a.掌に金貨を握って生まれる。

『今昔物語集』巻2−10  天竺の長者の家の男児は両手を握って生まれ、開くと両掌に金貨1枚ずつがあって、取っても尽きることがなかった。この子は「金財」と名づけられた〔*同・巻2−11に、宝手と名づけられた子の類話〕。

『今昔物語集』巻2−14  生前に銅銭1枚を布施した下婢は、阿育王の后の腹に宿り、右手を握った女児として再誕した。5歳の時、掌を開くと金貨1枚があり、取っても尽きなかった。

*掌に仏舎利を握って生まれる→〔出産〕13aの『日本霊異記』中−31、〔仏舎利〕2の『三国伝記』巻10−10・『神皇正統記』第31代敏達天皇。

*掌に針を握って生まれる→〔針〕2dの『今昔物語集』巻12−34。

★1b.掌に珠を握って生まれる。

『南総里見八犬伝』第4輯巻之4第37回  大八(犬江親兵衛)が4歳になってはじめて左の拳を開くと、「仁」の珠があった。

★1c.掌に、前世の夫や愛人に関わるものを握って生まれる。

『貴船の本地』(御伽草子)  定平中将の叔母の子として再誕した鬼国の姫は、左手に中将の帯の切れを握って生まれてきた。

『桜姫東文章』「新清水」  吉田家の息女桜姫は、生まれつき左手が開かなかった。桜姫は17歳の時、世をはかなんで出家を願う。高僧清玄が十念を授けると姫の掌は開き、中から、清玄の名を記した香箱が出てくる。それは、清玄のかつての愛人白菊丸が、身投げする折に握りしめていた香箱だった→〔転生する男女〕4a

★1d.掌に凝血を握って生まれる。

『十八史略』巻7「南宋」  元の太祖成吉思皇帝は、生まれた時赤石のごとき凝血を手に握っていた。

★2a.掌に、文字の書かれた紙を握って生まれる。

『神道集』巻8−46「釜神の話」  甲賀郡由良の里の東西2軒の家で、同じ夜に女児と男児が生まれた。西の家の男児は「箕(み)を作って門々を売り回るべし」と書いた文字を左右の掌に握っており、東の家の女児は「作らずして万福来る」と書いた文字を左右の掌に握っていた。2人は成長後、夫婦になった。

『遠野物語拾遺』245  先年、上郷村の某家に生まれた児は、両手を握ったまま開かなかった。家人が強いて開かせて見ると、「北上の田尻の太郎爺の生まれ変わり」という意味を書いた紙片を固く握っていた。太郎爺の家族はこれを聞いて、「爺様は死んでから1年もたたずに生まれ変わった」と喜んだ。

★2b.掌に文字がある。

『史記』「晋世家」第9  周の武王は、天帝から「汝に子を授けよう。汝はその子を『虞』と名づけるだろう。わしはその子に唐の地を与えよう」と夢告された。子が生まれると、掌の筋が「虞」の文字に見えたので、「虞」と命名された。虞は唐の地を得て治め、後に、虞の子が国号を「晋」と改めた。

『力(りき)ばか』(小泉八雲『怪談』)  「力ばか」が死んだ時(*→〔成長〕2a)、母が彼の左の掌に「力ばか」と書き、もっと幸せな身分に生まれ変わってくるように祈った。翌年、麹町の某屋敷で、「力ばか」と左の掌に書かれた男の子が生まれた。

 *転生した子の足の裏にほくろ→〔ほくろ〕1cの『現代民話考』(松谷みよ子)5「死の知らせほか」第3章の1。

 *転生した子の口に菜っ葉→〔菜〕5の『子不語』巻4−87。  

*掌に「是」の文字→〔漢字〕1の『和漢三才図会』巻第69(徳川家康の祖父)。  

★3.仏の掌の中に世界がある。

『今昔物語集』巻15−1  学僧智光は夢で極楽浄土に行き、どうすれば往生できるか、阿弥陀仏に尋ねた。阿弥陀仏は「仏の相好と極楽浄土の荘厳を観ぜよ」と教え、右手を挙げて掌の中に小さな極楽浄土を現した。智光は目覚めてから、小浄土のありさまを絵師に描かせ、一生これを観じ続けて極楽に往生した。

『西遊記』百回本第7回  孫悟空は釈迦如来の右手の上から飛び立ち、一飛び10万8千里のキン斗雲に乗って突き進む。行き止まりに5本柱があるので、その真ん中に「斉天大聖ここに一遊せり」と書き、第1の柱の根に小便をかけて、悟空は戻って来る。しかしそれらはすべて釈迦如来の掌の中でのことだった。

 

 

【手毬唄】

★.手毬唄の歌詞。

『悪魔の手毬唄』(横溝正史)  鬼首(おにこべ)村で昔歌われた手毬唄の歌詞は、「娘が酒を枡ではかって漏斗(じょうご)で飲む」、「娘が大判小判を秤にかけて勘定する」、「娘の錠前が狂って鍵が合わぬ」というものだった。青池リカは、村の3人の娘を次々に殺した時(*→〔子殺し〕7)、現場に「枡と漏斗」、「大判小判と秤」、「錠前と鍵」を置いた。古い手毬唄を知る郷土研究家を、犯人に仕立て上げようとしたのであった。

『草迷宮』(泉鏡花)  葉越明は、亡母から聞いた手毬唄の歌詞を知る人を捜して、諸国を旅する。明の幼なじみで今は魔界に棲む美女菖蒲が歌詞を知っているが、それを教えると明を魔界へ引きこむことになるので、できない。やがて時節が来れば、堕地獄の瀬戸際にある明を救うべく、天上の母が手毬唄を歌って聞かせるのである。

 

 

【天】

 *関連項目→〔極楽〕〔天国〕

★1.生きた身で、天界を訪れる。

『ジャータカ』第494話  サーディーナ王は大規模な布施を行ない、多くの功徳を積んだため、サッカ(帝釈天)に招かれ、肉体を持ったまま天へ昇った。王は、人間界の数え方によれば7百年の間、さまざまな楽しみを享受し、やがて功徳が尽きて地上へ帰った。

『神曲』「天国篇」  「私(ダンテ)」はベアトリーチェに導かれて、天界へ昇った。月天には誓願を果たせなかった魂、水星天には善行を働いた魂、金星天には恋に生きた魂、太陽天には知識人の魂、火星天には信仰のために戦った魂、木星天には正義を愛した魂、土星天には黙想を行じた魂、恒星天には聖者たちの魂が、住んでいた。原動天では天使の群れが旋回し、至高天ではベアトリーチェに代わって聖ベルナールが案内役をつとめ、「私」は神の姿を見ることができた。

★2.身体は現世にありながら、心は天界へ昇る。

『インドラの網』(宮沢賢治)  ツェラ高原を歩く「私(青木晃)」はひどく疲れて倒れ、「私」の錫いろの影法師に別れの挨拶をして、さらに進む。天人が翔けるのを見て、「私」は「人の世界のツェラ高原の空間から、天の空間へふっとまぎれこんだのだ」と思う。朝になり、インドラのスペクトル製の網が空一面に張られ、天鼓が鳴り、蒼孔雀が鳴く。「私」は、草穂と風の中に白く倒れている「私」のかたちを、ぼんやり思い出す。

『今昔物語集』巻6−6  船中で賊に殺されそうになった玄奘三蔵が、兜率天の慈氏菩薩(=弥勒菩薩)を念じる。すると、玄奘三蔵の身体は現世にありながら、心は須弥山を越えて兜率天へ昇り、慈氏菩薩が妙宝台に坐して天人たちに囲まれているありさまを見た。その時、黒風が起こって高波が船を翻弄したので、賊たちは非を悟り、玄奘三蔵に懺悔した。

*肉体は現世にありながら、魂は一足先に地獄へ堕ちている→〔地獄〕8aの『神曲』(ダンテ)「地獄篇」第33歌。

★3.いったん天に生まれても、その後に地獄へ堕ちることがある。 

『今昔物語集』巻1−18  仏が、異母弟の難陀を連れてトウ利天に昇る。難陀は出家した功徳で、死後トウ利天に転生するはずであり、宮殿が用意され、美しい天女5百人が待っていた。次に仏は難陀を地獄に連れて行く。難陀は、トウ利天での寿命が尽きた後は地獄に堕ちる運命なので、彼を煮るための鼎が準備してあった。難陀は恐怖し、トウ利天に生まれたいとの望みも消え、ひたすら地獄に堕ちないよう願う。仏は法を説き、難陀は阿羅漢果(=もはや転生せず涅槃に入れる悟りの境地)を得た。

★4.死後、天に生まれる人は、ごく少数である。 

『今昔物語集』巻9−36  隋の時代。ある人が、冥府の鬼(き)に、人間の六道輪廻について尋ねた。鬼は答えた。「死後、天に生まれる者は、1万人に1人もいない。人間界に生まれる者は、1万人に数十人。地獄へ堕ちる者も、数十人だ。鬼道(=餓鬼道)と畜生道に生まれる者が、最も数多い。私のいる鬼道にも、またいくつかの階級がある」〔*修羅道については言及がない〕。

★5.死後、天へ向かう人と、地上に転生する人。

『アエネーイス』(ヴェルギリウス)第6巻  地下冥界のエーリュシウムにいるアンキーセースが、息子アエネーアスに語る。「人間の魂は天上に起源を持つが、肉体の中に入ると様々な悪業を重ねる。そのため、死後は冥界で苦を受けて、罪を清めねばならない。わしのような少数の者は天へ帰るのだが、大多数の者はエーリュシウムで千年を過ごした後、レテ河の水を飲んで一切を忘れ、再び肉体をまとって地上へ転生するのだ」。

★6.死後、天へ行く人と、地下へ行く人。

『ギュルヴィたぶらかし(ギュルヴィの惑わし)(スノリ)3  肉体の死後も人間は生き続ける(*→〔息〕2a)。礼節をわきまえた良い人間は、ギムレー(第3天の上にある大広間)、またはヴィーンゴールヴ(女神たちの神殿)で、神々とともに暮らす。悪い人間はヘルに行き、さらにそこからニヴルヘルに行く。それは、下の第9界にあるのだ。

 

 

【天狗】

★1.天狗が人と争う。天狗が人を助ける。

『鞍馬天狗』(能)  鞍馬の奥に住む山伏が、寺の稚児になっている沙那王(牛若丸)を慰め、花の名所を案内してまわる。山伏は、「自分は鞍馬山の大天狗である」と正体を明かし、平家を滅ぼすための兵法を沙那王に授ける。

『車僧』(能)  牛をつけぬ破れ車に乗っているゆえ「車僧」と呼ばれる奇僧に、愛宕山の大天狗太郎坊が禅問答をしかけるが、負けてしまう。次いで法力くらべを挑むと、車僧の払子の1振りで、牛なしの車が自在に疾駆するので、太郎坊は合掌して消え失せる。

『善界』(能)  大唐の天狗の首領善界坊が日本の仏法を妨げようと、愛宕山の太郎坊と相談して、比叡山の僧を襲い、魔道に誘う。僧は不動明王を念じ、それに応じて不動明王をはじめ山王権現や降魔の諸天が出現したので、善界坊は翼も地に落ち力尽きて、退散する。

『大会』(能)  大天狗が、比叡山の僧正に命を救われた報恩に、霊鷲山での釈尊説法のさまを幻出して見せる。配下の木葉天狗たちとともに、釈迦・文殊・普賢などの姿となり、天から花を降らせると、荘厳さに僧正は随喜の涙を浮かべる。しかし帝釈天に叱りつけられ、天狗たちは退散する。

『太平記』巻5「相模入道田楽をもてあそぶ事」  相模入道高時の宴席に現れて舞い歌う10余人の田楽法師たち(*→〔のぞき見〕4)を、障子の隙間から官女が見ると、觜(くちばし)の先が曲がった鵄のごときものや、翅のある山伏のごときものどもであった。それは天狗の集まりで、彼らの去った後は、畳の上に禽獣の足跡が多く残っていた。

『彦市ばなし』(木下順二)  彦市が、釣り竿を「遠眼鏡だ」といつわって、龍峰山の天狗の息子の持つ隠れ蓑と取り替える。しかし、妻が隠れ蓑を燃やしてしまったので、その灰を彦市は身体に塗って身を隠す。天狗の息子が怒って彦市を追い、彦市は川に落ちて、灰がみな流れる。

★2.天狗が人の運命を狂わせる。

『とりかへばや物語』  昔の世からの罪科の報いで、天狗が、権大納言(後に左大臣)家の若君を女のごとく、姫君を男のごとくなした。そのため若君は女装、姫君は男装して暮らすようになった。そして姫君は、宰相中将に犯されて子を産んだ。その後に父左大臣は、「ようやく天狗の業が尽き、男は男、女は女の本来の姿に戻って栄える時期が来た」との夢告を受けた。

★3.天狗が人をさらう。神隠しにあったと見なされる。 

『浮世床』二編・巻之上  江戸の長屋に住む爺が、総髪の男に連れられ、どことも知れぬきれいな所へ行った。そこには天狗たちがいて、爺は天狗の使い走りとなり、京の愛宕山・筑紫の彦山・日光の二荒山などを飛び回る。天狗道成就のため、熱鉄を1日に3度飲む。悪人をさらったり、引き裂いて殺したりもする。爺は天狗の世界での暮らしに満足し、もう人間界へ帰る気はない〔*天狗にさらわれた爺が、巫女の口を通して語る〕。

*天狗が、寺の稚児をさらう→〔誤解による殺害〕4の『神道集』巻8−48「八ヵ権現の事」・〔稚児〕1の『秋夜長物語』(御伽草子)・〔稚児〕3の『稚児今参り』(御伽草子)。

*天狗が、厠にいる女をさらう→〔厠〕5cの『現代民話考』(松谷みよ子)1「河童・天狗・神かくし」第3章の1。  

★4.天狗が人をさらって、八つ裂きにする。

『現代民話考』(松谷みよ子)1「河童・天狗・神かくし」第2章の4  大樋の付近に神護寺という寺がある。そこの阿婆(=ばあや)の息子・徳サは、6歳の時、天狗にさらわれて行方不明になった。村中総出で捜し回ると、村端を流れる河の中へ、八つ裂きにして投げ込んであった(石川県)。

★5.天狗の託宣。

『比良山古人霊託』  延応元年(1239)5月、前摂政関白九条道家が病気になった折に、比良山の大天狗が21歳の女房に憑依した。慶政上人が3度、この天狗と問答をした。天狗は「自分は聖徳太子の時代の者だ」と告げ、天狗の世界のありさまを語った。また当時の枢要な貴族数名について、「80歳まで生きる」とか「短命の人」などの予言をした〔*これらの予言はほとんど外れた〕。九条兼実や慈円は死後天狗道に入ったこと、明恵は都率(=兜率)天の内院に生まれ、法然は無間地獄へ堕ちたこと、なども述べた。

★6.死後、天狗道に入る。

『発心集』巻2−8  真浄房が死後、老母に憑依し、老母の口を借りて、親しい人々に語った。「鳥羽僧正が亡くなられる時、私は『死後もお仕えいたします』と約束した。そのため私は、鳥羽僧正のおられる天狗道に引き入れられてしまった。来年で6年になるので、その節目に天狗道から抜け出て、極楽往生したい」。真浄房は願いどおり天狗道を脱し、再び老母の口を借りて、そのことを人々に告げた→〔息〕8

 

*尼天狗→〔尼〕4の『稚児今参り』(御伽草子)。 

 

 

【転校生】

★1.不思議な転校生。

『風の又三郎』(宮沢賢治)  よく晴れて風の強い9月1日、谷川の岸の小さな小学校に、高田三郎が転校してくる。級友たちは彼を「風の又三郎」ではないかと言いつつ、ともに遊ぶ。しかしわずか10日後の9月11日の日曜日に、高田三郎は父の転勤により学校を去る。9月12日の月曜日、風雨の強い朝、級友たちは高田三郎がいなくなったことを知って、「やっぱりあいづは風の又三郎だったな」と言う。

『デミアン』(ヘッセ)  エミール・シンクレールの通うラテン語学校に、マックス・デミアンが転校してくる。デミアンは、シンクレールにつきまとう不良クローマーを追い払って、シンクレールの救済者となり導き手となる。デミアンはシンクレールに、悪魔をも兼ねる神アプラクサスを教える。

★2.転校生をいじめる。

『青い山脈』(石坂洋次郎)  女学生・寺沢新子は、従弟といっしょにいただけなのに、「不純異性交遊をしている」との風評がたったため、学校にいられなくなり、ある田舎町の女学校に転校して来る。しかし転校先の女学校でも、同級生たちは新子をふしだらな女のように見なし、にせの恋文を送って新子を試そうとする→〔恋文〕2

★3.転校生が学園を支配する。

『愛と誠』(梶原一騎/ながやす巧)  信州の不良高校生だった太賀(たいが)誠が、東京の青葉台学園高等部に転校する。青葉台学園は、卒業生の多くが政財界・文化界の第一線で活躍する名門校だった。「太賀誠の魂は、健全な学園生活を送ることによって蘇る」と、早乙女愛は信じていた(*→〔恩返し〕2)。しかし誠は喧嘩を繰り返し、暴力で学園を支配する。誠は他校生徒との大乱闘事件を引き起こして退学処分を受け、悪名高い花園実業高校へ転校する。愛も、誠の後を追って花園実業高校へ転校する。

『小さな王国』(谷崎潤一郎)  貝島昌吉の受け持つG県M市のD小学校尋常5年級に、東京から沼倉庄吉が転校してくる。貝島の知らぬ間に、沼倉は学級内に共和国を作って大統領となる。共和国内だけで通用する紙幣が印刷され、秘密探偵が子供たちの素行を監視する。貝島も生活苦から沼倉の家来になり、共和国紙幣を町で使おうとする。

 

*男子中学生と、転校して来た女子中学生の、身体と心が入れ替わる→〔入れ替わり〕3aの『転校生』(大林宣彦)。

*地方に住む性格ブスの麦子が、東京の高校へ転校する→〔醜女〕5の『BU・SU』(市川準)。

 

 

【天国】

 *関連項目→〔極楽〕〔天〕

★1.金持ちが天国へ行くのは、きわめてまれである。 

『天国へ行った水のみ百姓』(グリム)KHM167  貧乏百姓と金持ちが天国へ行く。天国では金持ちを大歓迎して、音楽を演奏したり、謡(うた)をうたったりする。貧乏百姓が文句を言うと、天国の門の鍵を預かる聖ペトルスが説明する。「お前のような貧乏百姓たちは、毎日毎日天国へ来る。しかし金持ちが天国へ来るのは、百年に1人のわりあいだからなあ」。

*らくだが針の穴を通るよりも難しい→〔針〕6の『マタイによる福音書』第19章。

★2.心が悪ければ、天国へ行けない。

『トンビになった目連の母親』(中国昔話)  目連の母親は、この世にいる時から根性の悪い女だった。目連は、罪深い母親を俗世間から救い出し、天上の国へ昇らせようとする。しかし昇天する途中、母親は、地上で遊んでいるヒヨコを見て、なまぐさものを食いたい気持ちになった。邪念を起こすと身体が重くなり、母親は下界に引き戻された。母親は、ヒヨコを好きなだけ食べられるトンビに生まれ変わった(広東省)。

『ペーテル聖者の母』(グリム)KHM221  ペートルスの母は、死んで煉獄の火の中にいた。ペートルスが母を連れて天国へ昇ろうとすると、他の魂(=死者)たちも、一緒に煉獄から逃れ出ようと、母の裳裾にぶら下がる。母は他人の幸せを喜ばず、裾をふるったので、魂たちはもとの煉獄へ落ちて行った。ペートルスは、母の心の悪いことを知って、母も煉獄へ落とした〔*→〔蜘蛛〕1の『蜘蛛の糸』(芥川龍之介)に類似する〕。

★3.悪人も、改心すれば天国へ行く。 

『ある抗議書』(菊池寛)  凶悪犯に親族を殺された人物から、司法大臣閣下へ宛てた抗議書。「9人もの人を殺した坂下鶴吉は、獄中でキリスト教に改宗し、すっかり心を入れ替えて処刑されたそうです。彼は天国へ行ったかもしれません。それに対して被害者たちは、地獄の苦しみで死んでいったのだから、地獄へ落ちたのでしょう。殺した者が天国へ、殺された人が地獄へ。これで良いのでしょうか?」

 *一般的には、たとえば→〔発心〕3の盤神岩(ばんず)の伝説のように、殺人の加害者は地獄へ堕ち、被害者は成仏する、と考えるのが普通である。

 *無理心中のばあい、一方が地獄へ、他方が天へ、ということもあるかもしれない→〔地獄〕7の『ベルサイユのばら』(池田理代子)第6章。

★4.父母と別れて、自分だけ天国へ行くことはできない。

『おぎん』(芥川龍之介)  江戸時代初期。天主のおん教え(カトリック教)を奉ずる村娘おぎんは、火刑にされる直前に棄教した。刑場から、父母の眠る墓地が見えたからである。おぎんはこう考えた。「亡き父母は天主のおん教えを知らなかったから、今頃は『いんへるの(地獄)』へ堕ちているだろう。わたし1人、『はらいそ(天国)』の門に入るのは申し訳ない。わたしはやはり、父母のあとを追って地獄の底へ行こう」。

★5.使命を果たさず死んだため天国へ直行できず、天国と地獄の中間に留め置かれる。

『幽霊西へ行く』(クレール)  18世紀スコットランドの豪族グローリーは、宿敵マクラガンに侮辱され、怒りのうちに死んだ。父の恨みを晴らすべき息子マードックは臆病者で、父の死後まもなく大砲に打たれて死んでしまった。父グローリーの霊は、マードックの霊に「お前を天国の先祖たちに会わせるわけにはいかぬ」と言い、マードックは天国と地獄の中間に留め置かれる。2百年たってマードックは父の恨みを晴らし(*→〔霊〕2c)、ようやく天国の先祖たちのもとへ行くことを許された。

★6.天国は宇宙の彼方にあるのか。

『視霊者の夢』(カント)第1部第2章  天国は、頭上はるか彼方の無限の宇宙空間の中にある、と一般に考えられている。しかしそこから見たら、われわれの地球も天の星の1つとして現われ、別世界の住人が地球を指さして、「あそこに、いつか我々を迎え入れてくれる永遠の喜びの宿・天国があるのだ」と言っているかもしれない。高空への飛行が上昇の観念と結びついているのは、おかしな妄想だ。別世界に着陸するためには、高く昇れば昇るほど、再び低く降下しなければならないのである。

★7.天国から、さらにその上の天国へ避難する。

『天国に結ぶ恋』(三島由紀夫)  パンパンの「おけい」が天国へやって来て、神さまと仲良くしているうちに、神さまは性病になってしまった。「神さまの病気を治すため」と称して、地獄から、悪徳医者5百人・悪徳看護婦5百人・悪徳土建屋5百人が乗り込んで来る。神さまは病院を建てさせられて破産し、「おけい」を誘って心中する。2人は、花咲き蝶舞ううるわしき天国へ飛び上がる。神さまは「ここまで他人に荒らされちゃ大変だ」と言って、「わしはもう、どこにも存在しない」と、人間世界へ電報を打つ。

 

*天国の門→〔門〕1fの『スーフィーの物語』26「天国の門」。 

 

 

【天使】 

★1a.天使が降下して、人間の女と結ばれる。

『ベルリン・天使の詩』(ヴェンダース)  ベルリンの街。天使ダミエルとカシエル(2人とも中年男の容姿)が、人々を見守る。大人には天使の姿は見えない。子供には見えることがある。天使は人間の内心の声を聞き、彼らを励ます。ダミエルは、サーカスの空中ブランコ乗りの美女マリオンに一目惚れする。ダミエルはカシエルと別れ、地上に降りて人間となる。彼の足跡が地面につく。マリオンはダミエルを受け入れ、2人は互いを生涯の伴侶とすることを誓う。

★1b.天使が人間の女を恋するが、結ばれない。

星と蛍の起源(ルーマニアの民話)  神様が天使を何人か連れて、地上へ降りる。1人の天使が羊飼いの娘を恋し、娘に「お前の青い瞳のためなら、私は喜んで、天使であることをやめてしまうだろう」と言う。神様は天使の恋を許さず、天使たちを皆、空へ放り上げて星にしてしまう。恋する天使の星は静かにまたたくのではなく、火花を発して、他の星々に火の粉をかけた→〔蛍〕6

★2.翼を持たぬ二級天使。

『素晴らしき哉、人生!』(キャプラ)  2級天使クラレンスは293歳になるが、まだ翼を持っておらず、見かけはただの老人である。神が、人生に絶望した男ジョージを助けよ、とクラレンスに命ずる。クラレンスは下界へ降り、川へ身投げしようとするジョージを救う。クラレンスはジョージを仮想世界へ導き(*→〔仮想世界〕1)、彼に自分の人生の意義を悟らせる。その功績で、クラレンスは翼を与えられることになった。

★3.神に反逆する天使。

『コーラン』2「牝牛」28〜37  主(アッラー)がアーダムを作り、天使たちに向かって、「ひざまづいてアーダムを拝せよ」と命じる。天使たちは跪拝するが、ただ1人イブリースだけはそれを拒み、背信の徒となった。イブリースは2人(=アーダムとその妻)を誘惑し、禁断の木の実を食べさせて、2人をそれまでの無垢の状態から追い出してしまった。

『フォースタス博士』(マーロー)第3場  フォースタス博士が悪魔メフィストフィリスに、彼と彼の主ルーシファーの素性を問う。メフィストフィリスは答える。「おれの主ルーシファーは、神にもっとも愛された天使だったが、傲慢と不遜ゆえに天から追放され、地獄の王者となった。ルーシファーもおれも、神に反逆を企(くわだ)て、永劫に呪われているんだ」→〔地獄〕4a

*大天使サタンが蛇の体内に入って、イヴを誘惑する→〔悪魔〕6の『失楽園』(ミルトン)。

*美少年が「ぼくは天使で、名前はサタン」と言う→〔夢と現実〕4bの『不思議な少年』(トウェイン)。

 

*「死の天使」と呼ばれる男→〔死神〕4の『夕なぎ』(ロージー)。

 

 

【転生】

 *関連項目→〔前世〕

★1.同じ名または類似した名で生まれ変わる。

『今鏡』「藤波の上」第4「伏見の雪のあした」  修理大夫俊綱(としつな)は、前世では尾張の国の俊綱(すんごう)という聖だった。その時、彼は熱田神宮の宮司に侮られたことがあった。俊綱は前世の修行のおかげで、現世では関白頼通の子として生まれたが、前世の恨みを晴らすため尾張の国の守となり、熱田神宮に参詣して宮司をきびしく咎めた〔*『宇治拾遺物語』巻3−14に類話〕。

『今鏡』「昔語」第9「真の道」  公経(きんつね)という能筆の者が、河内の国司になったことを不本意に思っていた。彼は「古寺の修理でもしようか」と思い、方々を見て歩いたところ、ある古寺の仏の台座の下に、「沙門公経(こうけい)」と署名して、「来世に当国の守となり、この寺を修理しよう」と記した願書があった。これを見て彼は宿縁を悟った〔*『発心集』巻5−6・七巻本『宝物集』巻5に類話〕。

『古事談』巻3−98  三河入道・寂照(大江定基)の前生は、唐の娥眉山の僧で、その名も同じ寂照であった。彼は師匠と法門を論じ、「自分が勝っている」と思ったまま入滅した。その執心により往生できず、日本に転生した。三河入道・寂照が入唐した時、現地の僧が「この人は娥眉山にいた寂照によく似ている」と、唐帝に告げた〔*『十訓抄』第10−48に類話〕。

『太平記』巻5「時政榎島に参籠の事」  鎌倉幕府創立の初め。北条時政(ときまさ)が榎島に参籠して子孫繁盛を祈り、「汝の前生は、『法華経』を66の霊地に奉納した箱根法師であった」とのお告げを得た。国々の霊地へ人をつかわし、『法華経』奉納の所を調べさせると、奉納筒の上に「大法師時政(じせい)」と記されていた。

『椿説弓張月』残篇巻之5第68回  鎮西八郎為朝と白縫の間の子・舜天丸(すてまる)〔*別名・源尊敦(たかあつ)〕は、長じて琉球王・舜天(しゅんてん)となった。舜天王は77歳で死去する時、「我が魂は庶兄・足利義包(よしかね)の家に去る。義包の子孫に、我が名・尊敦の『尊』の字のある者が現れたら、それが舜天の生まれ変わりだ」と遺言する。義包から7代目の足利高氏が、後醍醐帝の御名の1字を賜って、名を「尊氏」と改める。彼は京都室町に幕府を開いた。

*→〔経〕2の『天狗の内裏』(御伽草子)・〔転生と天皇〕1の『増鏡』第4「三神山」。

★2.転生後も前世の容貌や性質を受け継ぐ。

『江談抄』第3−8  藤原有国は伴大納言善男の生まれ変わりである。伊豆国にある伴大納言の肖像画は、有国の容貌とほとんど変わらないのである。

『今昔物語集』巻14−20  僧安勝は前世に黒牛だったため、今生でも墨のごとき色黒だった。

『今昔物語集』巻14−23  僧頼真は前世に牛だったため、今生でも、ものを言う時に口をゆがめ顔を動かして、牛のごとくであった。

*→〔転生〕1の『古事談』巻3−98。

*酒好きの李太白は、魚に変身後も赤い顔だった→〔魚〕1の『魚の李太白』(谷崎潤一郎)。

★3.神や天人が悪魔と戦うために、人間となって地上に転生する。

『松浦宮物語』  弁少将は渡唐して戦乱にまきこまれ、幼帝を補佐して闘い、敵将宇文会を討ち取る。弁少将は幼帝の母后と契りを交わし、前世からの因縁を聞かされる。宇文会は実は阿修羅であり、母后は第2天の天衆、弁少将自身は天童であった。母后と弁少将は天帝の命令で、阿修羅を懲すために地上に生まれたのだった。

『ラーマーヤナ』第1巻「少年の巻」  魔王ラーヴァナは「神にも悪魔にも殺されないように」と創造神ブラフマンに願って恩寵を得るが、人間を侮って「人間に殺されないように」との祈願をしなかった。そこでヴィシュヌ神が4つに分身してラーマたち4王子となって人間界に誕生し、ラーヴァナと戦うことになった。

*天人が世界を救うために、人間となって地上に転生する→〔天人降下〕4aの『今昔物語集』巻1−1。

★4.仙境の存在が俗世間の生活に関心を持ち、人間となって下界に転生する。

『紅楼夢』第1回  仙境の神瑛侍者が毎日、甘露を絳珠草に注いだので、絳珠草は草木の形を脱して、女人の姿となった。ある時、神瑛侍者は煩悩にとらわれ、「俗世の生活を味わいたい」と願って、人間に転生した。絳珠草も後を追って下界に転生した。これがきっかけで、大勢の仙女たちが人間世界に転生した〔*神瑛侍者は『紅楼夢』の主人公・賈宝玉となり、絳珠草は彼の恋人・林黛玉となった。仙女たちは、賈宝玉を取り巻く大勢の美女たちになった〕。

『子不語』巻19−499  私(=『子不語』の著者・袁枚)の甥・韓宗gは幼い頃から聡敏だったが、15歳で病死した。臨終の床で、彼は母親に言った。「今、前生を思い出しました。僕は、玉帝に仕える献花童子でした。玉帝の誕生祝いの折、僕は献花しながら、下界の花灯の様子を盗み見ました。すると仙人たちが『けしからん』と言い出し、僕は罰せられて、この世に降ろされました。今、その期限が満ち、天界に帰るのです」。

 *天人が地上に女児として生まれ、子供のうちに死ぬ→〔天人降下〕4bの鵜ノ池の伝説。

★5.死んだ後、間をおかずに、すぐまたこの世に生まれる。

『聊斎志異』巻6−240「餓鬼」  朱という老人が、ならず者の馬永(あだ名は「餓鬼」)に、金を与えたことがあった。馬永は40笞(たたき)の刑を受けて死んだが、その夜、彼は朱翁の夢に現れて、「ご恩返しに参りました」と告げる。朱翁が目覚めると、妾が男児を産んでいたので、馬永の生まれ変わりだと知って、「馬児」と名づけた〔*馬児は子供の時から読書に励み、朱翁を喜ばせたが、結局、凡庸な不良役人となって一生を終わった〕。

『聊斎志異』巻12−483「李檀斯」  走無常(=冥土の仕事を手伝う巫女)の婆さんが、「今夜、李先生(=檀斯)をかついで、柏家荘の新婚の家へ放り込みに行く」と言った。それを聞いた李檀斯は、「何を馬鹿な」と相手にしなかったが、その夜、彼は病気でもないのに頓死した。驚いた人が翌朝、柏家荘の新婚の家を訪ねると、夜の間に女児が生まれていた。

*死んだその日に、ただちに別人に生まれ変わる→〔同日・同月〕3cの『子不語』巻13−317、→〔老翁〕1dの『子不語』巻13−336、→〔前世〕4eの『子不語』巻13−338、。

★6.転生しかけて、またもとの身体に戻る。

『閲微草堂筆記』「ラン陽消夏録」52「転生しかけた人」  ある男が舟中で病気になったが、何者かに案内されて産婦のいる家へ行き、背後から押されたと思うと、赤ん坊になって蒲団に寝かされていた。ところが3日目に下女が誤って赤ん坊を落とし、気づくと男は再び舟中に寝ていた。家族が「息が絶えて3日になるが、身体が暖かかったので納棺せずにいた」と告げた。

★7.死後、地上に転生するかしないかの境目。

『チベットの死者の書』第2巻  「汝」が死んでバルドゥ(中有)の期間が過ぎると、男女が情を交歓する幻影が、眼前に現れる。それにとらわれなければ、胎の入口は閉ざされて、「汝」は再び地上に生まれずにすむ。男女の交歓の幻影に「汝」が愛着したり嫉妬したりすると、「汝」は再生の胎に入ってしまい、馬・鳥・犬・人間など胎生のものとして、また地上に生まれ出るのである。

*死後、地上に転生する人と、天へ向かう人→〔天〕5の『アエネーイス』(ヴェルギリウス)第6巻。

 

*仇敵の子に転生する→〔誕生〕7に記事。

*幸せな境遇に転生する→〔掌〕2bの『力(りき)ばか』(小泉八雲『怪談』)。

*転生して、来世で借金を返す→〔貸し借り〕2bの『ナスレッディン・ホジャ物語』「ホジャの商法」。

*転生が真に行なわれたかどうかわからない→〔ほくろ〕1bの『豊饒の海』(三島由紀夫)。

 

 

【転生(動物への)】

★1.牛に転生して、現世の悪行を償う。

『日本霊異記』中−15  僧形の乞食が、高橋連東人の家の法事に講師として招かれる。夜、乞食の夢に赤い牛が現れ、「私は東人の母である。生前、子の物を盗み用いたため、死後この家の牛に転生し、罪の償いをしている」と告げる。翌朝、乞食は夢の告げを語り、法事が終わると牛は死んだ〔*『今昔物語集』巻12−25に類話〕。

『日本霊異記』中−32  薬王寺の檀家の男の夢に牛が現れ、「私は物部の麿という者だ。生前に寺の酒2斗を借用し、返さずに死んだ。そのため牛に生まれ変わり、寺で8年間の労役をせねばならない。今、5年が終わり、残りはあと3年だ」と告げた。実際、寺には、5年前から使役されている牛がいた。3年後、牛は労役を終えて、どこかへ行ってしまった〔*『今昔物語集』巻20−22に類話〕。

*→〔牛〕1aにも記事。

★2.現世に残した物への執着により、蛇に転生する。

『今昔物語集』巻13−42  橘の木を愛した僧は、死後小蛇に生まれ変わって木の下に住んだ。

『今昔物語集』巻13−43  紅梅を愛した娘は、死後1尺ほどの蛇に転生し、紅梅の小木にまきついた。

『今昔物語集』巻14−4  聖武天皇に一夜の寵を受けた女が、賜った黄金千両を墓に埋めるように遺言して死ぬ。女は死後、蛇と化して墓所に住み黄金を守る。

*→〔僧〕3aの『今昔物語集』巻14−1。

*→〔蝿〕1の『蠅のはなし』(小泉八雲『骨董』)。

*現世に残した物に執着する死者が、幽霊となって現れる→〔霊〕3a・3b

★3.魚への転生。

『ギリシア哲学者列伝』(ラエルティオス)第8巻第2章「エンペドクレス」  エンペドクレスは、魂は動物や植物のありとあらゆる種類のものへ入って行く、と考えた。彼は言った。「私はこれまでにも、若者にも乙女にも、潅木にも鳥にも、さらには、波間におどるもの言わぬ魚にもなったのだ」。  

『ライムライト』(チャップリン)  老芸人カルヴェロは彼の生涯最後の舞台で、生まれ変わりの歌を歌い、踊った。「3歳の時、生まれ変わりについて聞き、今も信じている。この世を去る時、期待で心躍るだろう。でも木に生まれ変って地面にへばりつくのはいやだ。花に生まれ変わって花粉を待ち続けるのもいやだ。鰯に生まれ変わり、青い海の底を泳ぎたい」〔*この直後に彼は背骨をいため、心臓発作を起こして死ぬ〕。 

★4a.人間は死んだ後に、各氏族の祖先である動物に転生する。

『金枝篇』(初版)第3章第12節  ホピ族は、熊族・鹿族・狼族・野ウサギ族・・・などのトーテム集団に分かれており、彼らは、自分たちの氏族の祖先が、熊・鹿・狼・野ウサギといった動物だ、と考えている。そして、それぞれの氏族の者は、死ねば転生してその動物になる、と信じている。

★4b.キリスト教に改宗すれば、動物に転生せずにすむ。

『キリシタン伝説百話』(谷真介)73「三世鏡」  キリシタン伴天連の持つ「三世鏡」をのぞくと、そこに自分の未来の姿が映し出される。ある男が三世鏡を見せられ、牛や馬、鳥や獣になった自分の顔が次々と映し出されたので、びっくりして嘆き悲しんだ。伴天連が、それから逃れる手立てとしてデウスの教えを説き、男はただちにキリシタンになった。

★5.人間のまま転生し続けることは稀で、前世で動物だったり、来世で動物になったりするのが普通である。

『酉陽雑俎』巻2−75  裴という男が旅の途中、病み臥した鶴を見る。白衣の老人が「人の血を塗ってやれば、飛べるようになります」と言うので、裴は自分の臂を刺して血を取ろうとする。老人は、「三世、人間でなければ、その血は効果がない。あなたの前世は、人間ではありません」と告げ、「洛陽の胡蘆生という人物が、三世、人間です」と教える。裴は洛陽へ行き、胡蘆生の血をもらって、鶴の病気を治してやった。

 *奴隷の前世は乞食、前々世は猫だった→〔猫〕4bの『広異記』35「三生」。

 *汪可受の前世は人間だったが、前々世は騾馬だった→〔赤ん坊〕2cの『聊斎志異』巻11−439「汪可受」。 

 

*生まれ変わるとしても、もう人間にはなりたくない→〔兵役〕7の『私は貝になりたい』(橋本忍)。

*母が死後小動物となって娘や息子を救う→〔亀〕2〔母の霊〕2・4

*猫に転生する→〔猫〕4aの『更級日記』。

*蝶に転生する→〔蝶〕1に記事。

*花に転生する→〔百〕2aの『夢十夜』(夏目漱石)第1夜。

 

 

【転生先】

★1a.冥府で、次の生での転生先を選ぶ。

『国家』(プラトン)第10巻  死者の魂たちは、神官の投げ与えたくじの順位に従って、次にどのような生涯を送るかを決める。オルフェウスは白鳥の生涯を、アガメムノンは鷲の生涯を、オデュッセウスは平穏な一私人の生涯を、それぞれ選ぶ。動物たちも、人間に転生したり、他の動物に転生したりする→〔冥界の川〕4

*→〔誕生〕12の『青い鳥』(メーテルリンク)の「未来の王国」の子供たちは、転生ではないが、何をするか決めてから地上に生まれる、という点で、転生の物語と類似するところがある。

★1b.冥府で、次の生での転生先を指定される。

『冥祥記』巻4  死んで地獄へ赴いた者たちは、拷問と処罰が終わった後、受変形城へ行き、転生先を指定される。そこでは数百人の冥吏たちが書類をつきあわせながら、「殺生をした者は蜉蝣(かげろう)にする。朝生まれて夕方死ぬのだ。盗人は豚や羊にして、屠殺されるようにする。淫乱な者は、鶴や家鴨や鹿の類にする。嘘つきは梟やミミズクにする。借金を踏み倒した者は、ロバ・ラバ・牛・馬にする」などと言っていた。

★2a.霊界の神的存在が、転生すべき家を明確に指示する。

『勝五郎再生記聞』(平田篤胤)  多摩郡程窪村の百姓の子藤蔵は、文化7年(1810)、6歳の時、疱瘡を病んで死んだ。藤蔵は、白髪を長く垂れて黒い衣服を着た翁に導かれ、段々に高い綺麗な芝原へ行って遊んだ。その後、翁は、中野村のある家を指して「あの家に生まれよ」と言った。文化12年(1815)、藤蔵はその家に再生して、「勝五郎」と名づけられた。

『古今著聞集』巻1「神祇」第1・通巻24話  ある人が岩清水八幡宮に通夜して、次のような夢を見た。「御殿の戸が開き、中から気高い声が『武内』と呼ぶ。白髪の老人(=武内宿禰。*→〔長寿〕1aの『因幡国風土記』逸文)が、神前に進み出てかしこまる。気高い声は『世が乱れようとしている。汝はしばらく北条時政の子となって世を治めよ』と命じ、老人は応諾する」。ここから考えると、北条義時朝臣は武内宿禰の御後身(=生まれ変わり)なのであろう。 

★2b.恩人の家に転生する。

『今古奇観』第14話「宋金郎団円破氈笠」  宋敦夫妻は子授けを願って娘娘廟に参詣し、帰途、瀕死の乞食僧のために棺桶を買い、葬式代も出してやった。僧は恩に報いるため、宋敦夫妻の子・宋金として生まれ変わった→〔経〕1a

★2c.自分の家に転生する。

『酉陽雑俎』巻13−493  詩人・顧況が、17歳の息子の死を悲しむ詩を吟じ、慟哭する。息子の魂はそれを聞いて、「再び顧家の子になろう」と誓う。幾日か後に、誰かが息子の魂をとらえ、ある所へ連れて行き、県吏のような者が「顧家に生まれよ」と裁定した。男児として誕生し、7歳になった時、兄に叩かれたので、「僕はお前の兄だ。なぜ兄を叩くのか」と言った。家中が驚き怪しんだが、前生のことを語ると、ありありとして正確だった。「私(『酉陽雑俎』の著者・段成式)」の友人・顧非熊が、その人である。

★3a.何気ない一言や、死ぬ時に見たものによって、転生先が決まる。

『屍鬼二十五鬼』(ジャンバラダッタ本)第21話  敵が攻めて来たため、夫プラターパセーナは妻ルーパヴァティーを捨てて逃げる。妻は死ぬ時牝象を見たので、牝象に生まれ変わる。夫は牡象に転生し、妻と再び結婚する。しかし象捕獲人を見て夫は逃げ、妻は死ぬ時に見た雌鹿に生まれ変わる。夫は雄鹿に転生し、またしても逃げ、妻は雌鳥を見て死に、雌鳥になる。夫は雄鳥になり、そして逃げ、妻は遊女の水浴を見て死に、遊女の胎内に誕生する。

『日本霊異記』中−41  身が軽く飛ぶ鳥のように速く走る児がいた。父親が喜び「善きかな我が児。疾く走ること狐の如し」と言った。すると、この児は死んだ後、狐に生まれ変わった。

★3b.死ぬ時の一念によって、転生先が決まる。

『往生要集』(源信)巻中・大文第6「別時念仏」  臨終時の一念は、百年の修行にも勝るものである。この瞬間を過ぎれば、次に生まれる処が決定する。それゆえ臨終を迎えた者は、一心に念仏を唱えて西方極楽浄土を想い、往生すべきである。

『太平記』巻16「正成兄弟討死の事」  楠正成・正季兄弟は足利の大軍に敗れ、湊川で自害する。正成が「死ぬ瞬間の思いによって転生先が決まるというが、九界(=仏界以外の、地獄・餓鬼・畜生・修羅・人間などの迷いの9つの世界)のうちのどこへ生まれ変わりたいか?」と問うと、正季は「7度までこの人間界に生まれて、朝敵足利を滅ぼしたい」と答える。正成は「我も同じ」と言い、兄弟2人は刺し違えて死ぬ。

*死ぬ時の思いによって、天国へ行くか地獄へ行くか決まる→〔天国〕3の『ある抗議書』(菊池寛)。

★4.めぐり会った女性によって、転生先が決まる。

『テディ』(サリンジャー)  テディは前世はインドにいて、霊的にかなり進んだ人間だったが、死ぬとまっすぐ宇宙原理の梵(ブラフマ)に達して、2度とこの世に戻らなくてもすむ段階にまでは到っていなかった。彼は1人の女性にめぐり会ったために、アメリカ人の肉体に生まれ変わることとなった。アメリカでは、瞑想したり霊的な生活を送ったりすることが非常に難しいからだ。

★5.転生先を間違える。

『転生』(志賀直哉)  夫婦が、「来世に生まれ変わるなら、豚がいいか狐がいいか」と相談し、結局、「夫婦仲の良い動物である鴛鴦(おしどり)になろう」と約束する。何十年か後、夫は死んで、約束どおり鴛鴦になったが、妻は何に生まれ変わるか忘れ、間違えて狐に転生する。狐は鴛鴦と出会い、それを夫と知りつつ、空腹に堪えかねて食ってしまった〔*後年、志賀直哉は、婦人雑誌などのアンケートで「生まれ変わっても現在の奥様と再び結婚したいと思いますか?」という問いがあったら、「家内が望むなら、再び結婚しても良し、望まないならば、それもまた良し」と返事してやろうと、意地の悪いことを考えた。しかしそのことを妻には言わなかった(『妙な夢』)〕。

*→〔転生する男女〕2aの『宝物集』巻5も、夫婦の転生の悲劇。

*間違えて雌豚の胎内に宿る→〔豚〕2cの『西遊記』百回本第8回。

★6.転生先を知らせる。

『浜松中納言物語』  式部卿宮は死後、「私は唐帝の第三皇子に転生した」と息子の中納言に夢告し、中納言は唐へ渡って第三皇子と対面する。中納言は、第三皇子の母・河陽県の后と契りを交わし、生まれた若君をともなって帰国する。河陽県の后は、唐土で病死する(*→〔声〕1a)。彼女は「私は転生して、吉野の姫君(=河陽県の后の異父妹)の胎に女児として宿った」と、日本の中納言に夢告する。

 

 

【転生する男女】

★1.男が女と死別するが、女はまもなくこの世に再誕して、恋しい男と結ばれる。

『あま物語』(御伽草子)  左近中将兼光は難波の海女と契るが、やがて兼光は帰京し、海女は悲嘆して投身する。後、彼女は右大臣の娘として再誕し、兼光と結婚する。

『お貞のはなし』(小泉八雲『怪談』)  新潟の医師の息子・長尾長生(ちょうせい)は、お貞と婚約していたが、お貞は肺病になり、長尾に「もう1度会えます」と予告して死ぬ。その時、長尾は19歳、お貞は15歳だった。後に一時期、長尾は妻帯するが、死別する。お貞の死から17年後、長尾は旅に出て伊香保の宿に泊まる。そこで彼の給仕をする若い女が、転生したお貞であった。2人は結婚し、幸福に暮らした。

 *同じ小泉八雲の『伊藤則資のはなし』では、男が転生し、女は霊のままで男との再会を待つ→〔転生する男女〕3

*この世に生き続けた夫と、転生した妻との年齢差が大きすぎる場合、幸福な結婚生活を送ることは困難である→〔老翁〕1dの『子不語』巻13−336。

*『深い河(ディープ・リバー)』(遠藤周作)では、妻が「転生するから探して」と言い、夫はインドへ旅する→〔旅〕6h

*妻が死後、若い女に憑依して、再び夫と結ばれる→〔憑依〕1の『椿説弓張月』続篇巻之4第40回。

『貴船の本地』(御伽草子)  鬼国の姫は、恋人定平中将を鬼国から日本へ逃がし、彼の身代わりに父大王の餌食となる。姫は中将の叔母の娘となって再誕し、成長後、中将と結婚する。

『太平広記』巻388所引『会昌解頤録』  劉立は妻を亡くし、10年余を経たある日、郊外へ花見に出かけ趙氏の荘園を訪れる。趙氏の15〜16歳の娘が、劉立を一目見て卒倒し「自分は前世で劉立の妻だった」と言う。劉立は娘の婿となる。

『鶴の草子』(御伽草子)板本系  宰相右衛門督の妻は、「かつて命を救われた鶴である」と夫に明かして飛び去るが、後、三条内大臣の娘玉鶴姫として再誕し、宰相右衛門督と結婚する。

*→〔系図〕2bの『日本霊異記』中−41。

*→〔二人妻〕7aの『聊斎志異』巻2−69「蓮香」。

*『浜松中納言物語』の河陽県の后も、転生して再び中納言と結ばれるかもしれない(*→〔声〕1a)。しかしその前に、中納言はこの世を去る可能性が高いであろう。

*男が千年以上も生き続け、死んだ女の生まれ変わりを捜す→〔人柱〕7の『イアラ』(楳図かずお)。

*女が2千年以上も生き続け、死んだ男の生まれ変わりを捜す→〔長寿〕2bの『洞窟の女王』(ハガード)。 

★2a.愛し合う男女が、ともに転生する。

『宝物集』(七巻本)巻5  愛し合う男女が、「生まれ変わっても夫婦でいよう」と約束した。しかし、女は人間に生まれたが、男は蛇に生まれてしまった。女が池のほとりを通った時、蛇は女にまきついて犯した。

*→〔転生先〕5の『転生』(志賀直哉)も、夫婦の転生の悲劇。

★2b.相思相愛の男女が結婚できなかった。その孫の世代の二人も、互いを慕いつつ結婚できなかった。

『趣味の遺伝』(夏目漱石)  江戸時代の終わり頃。河上才三と隣家の小野田家の娘は相思相愛でありながら、結婚できなかった(*→〔横恋慕〕1b)。数十年後の、明治37年(1904)某日。2人の孫の世代にあたる河上浩一と、小野田家の令嬢とが、本郷の郵便局へ来合わせた。2人は互いのことを知らず、言葉を交わすこともなかった。ただ1度の出会いだったが、浩一は令嬢を忘れられず、彼女の面影を抱いて日露戦争で戦死した。令嬢は何者かに導かれたかのごとく、浩一の墓に参り、彼の好きだった白菊を手向けた。

★3.男は死後、転生してこの世に再誕するが、女は死後、転生せず霊界にとどまる。

『伊藤則資のはなし』(小泉八雲『天の河物語』)  平重衡の娘が石山寺で美貌の男を見かけ、恋わずらいして死ぬ。そのため娘は、転生することも成仏することもできず、霊のまま長い年月を過ごす。美貌の男は何度か転生し、伊藤則資という武士になった。娘の霊は伊藤則資と出会い、一夜の契りを交わして、10年後の再会を約束する。10年後、病み衰えた伊藤則資を、死の世界へ迎える駕籠が来る。

 *同じ小泉八雲の『お貞のはなし』では、男は現世に生き続け、女が転生して男と再会する→〔転生する男女〕1

『剪燈新話』巻4「緑衣人伝」  宋の大臣・賈似道に仕える男女が恋仲になる。これを知った賈似道は、2人を処刑する。男は死後、元の時代に転生して「趙源」という者になった。女は転生せず、あの世にとどまっていた。女の霊は緑の衣を着て趙源の前に現れ、2人は夫婦になる。しかし3年たって女の精気は尽き、臥して動かなくなった。趙源は泣く泣く女を棺に納めるが、埋葬の時に見ると、遺体は消えていた。 

『池北偶談』(清・王士偵)「張巡の妾」  清の康煕年間。会稽の徐藹(じょあい)という25歳の書生が、腹に塊ができる病気にかかった。白衣の女が枕元に立ち、彼に告げた。「貴方の前世は張巡で(*→〔飢え〕3b)、私は貴方の愛妾だった。9百年前、貴方に殺された私は、恨みを報いるべく13代にわたって貴方をねらったが、貴方は偉い人にばかり生まれ変わったため、機会を得なかった。今の貴方は一介の書生に過ぎないので、ようやく多年の恨みを晴らすことができる」。徐藹はまもなく死んだ。

★4a.男から女へ、性を変えて転生する。

『桜姫東文章』  僧自久と稚児白菊丸は、男色の関係を清算するために心中する。白菊丸は「どうぞ女子(おなご)に生まれてきて、夫婦になりとうございます」と言う。自久は、磯の松に衣がひっかかって死にきれず、生きのびて高僧清玄となる。白菊丸は吉田家の息女桜姫に生まれ変わり、17年後に清玄と再会する。その時、桜姫は釣鐘権助を夫としていたので(*→〔夫殺し〕4)、清玄を拒絶する。清玄と桜姫が争ううち、清玄は刃物がささって死んでしまう。

『杜子春伝』(唐代伝奇)  杜子春は悪鬼・夜叉・猛獣に苦しめられ、首をはねられて地獄へ落ちる。地獄では、火の穴・釜の湯・針の山など、ありとあらゆる責め苦を受ける。責め苦が終了した後、閻魔が杜子春を女に変えてこの世に転生させる。杜子春は成長して、ある人の妻となり男児を産んだ。

★4b.女から男へ、性を変えて転生する。

『今昔物語集』巻11−2  和泉国大鳥郡に住む人に、1人の姫君がいた。その家の下童・真福田丸(まふくたまろ)が仏道修行を志したので、姫君は、旅の袴を片方縫って送り出してやる。その後、姫君は病死し、同じ和泉国大鳥郡に男児として再誕する。男児は成長後、出家して薬師寺の僧・行基となる。一方、真福田丸は元興寺の僧・智光となり、盛名が高かった。智光は法会の場で行基に会うが、それが姫君の転生した姿とは気づかなかった〔*→〔誘惑〕5bの『古本説話集』下−60に類話〕。 

★5.性を変えて転生するのが、輪廻の法則。

『慕情』(キング)  新聞記者マークは、朝鮮戦争の現地取材に派遣されることになる。彼は恋人の女医スーインと、病院裏手の丘で、別れの前の一時を過ごす。空を飛ぶ鳥を見てスーインは言う。「来世は鳥に生まれ変わりましょう」。マークは言う。「輪廻の法則では、来世は僕が女で、君は男だ」。スーインは言う。「来世も女のままで、あなたに寄り添って生きるわ」〔*マークは前線で、爆撃を受けて死ぬ〕。

*男が死んで、ただちに女児に転生する→〔転生〕5の『聊斎志異』巻12−483「李檀斯」。

★6.転生者に、妻となり夫となってまとわりつく。

『発心集』巻4−5  肥後の国の僧が、中年を過ぎて妻帯した。妻は心をこめて僧の世話をしたが、僧は病気になった時、なぜか妻を遠ざけ、妻に臨終を知らせることなく、西を向いて往生した。しばらくして妻は僧の死を知り、怒って叫んだ。「私は狗留孫仏(くるそんぶつ)の昔から、こいつの悟りを妨げるために、何度も妻となり夫となって生まれ変わり、まとわりついてきたのに、今回は取り逃がしてしまった。悔しいことだ」。

 

 

【転生と天皇】

★1.僧が転生して天皇になる。

『今鏡』「すべらぎの中」第2「八重の潮路」  崇徳院は八重の潮路を分けて遠い讃岐の国へおいでになり、その地で亡くなられて、白峯に葬られた。ある人が夢で、「昔、『白峯の聖』という阿闍梨がいて、讃岐の国へ流された。その人の生まれ変わりが崇徳院だ」と知らされた。

『古事談』巻2−51  清和天皇は前世で僧だった。この僧は、伴善男に妨げられて、望みの地位を得られなかった。僧は怒って死に、『法華経』読誦の功で清和天皇に転生した。清和天皇は少年の頃から伴善男を憎み、天皇17歳の時、応天門の変が起こって、伴善男は失脚した。

『日本霊異記』下−39  寂仙禅師は天平宝字2年(758)に没したが、臨終の日に、「自分は28年後に桓武天皇の皇子として再誕し、名を神野親王というであろう」と記した文書を、弟子に与えた。予告どおり28年後の延暦5年(786)、桓武天皇に皇子が生まれ、神野親王と名づけられた。神野親王は、やがて即位して嵯峨天皇となった。

『増鏡』第4「三神山」  四条天皇が幼少の頃、ある人が「前世はどのような人でいらっしゃいましたか?」と問うと、天皇は、泉湧寺の開山の聖「俊ジョウ」の名を仰せられた。四条天皇は数え年12歳で崩御されたが、その後、ある人の夢に俊ジョウが現れ、「自分は早く成仏すべきところ、妄念を起こして、人間界に天皇として生まれたのだ」と告げた〔*「シュンジョウ」から「シジョウ」へ、類似した名前で転生したのである〕。

*前世が僧である天皇が、頭痛に苦しむ→〔髑髏〕3a

★2.聖徳太子が転生して聖武天皇になった。

『日本霊異記』上−5  用明天皇の皇子・聖徳太子は、〔第33代〕推古天皇29年(A.D.621)に没した。それから4年後、大部屋栖野古(おほとものやすのこ)が死んで、冥界の聖徳太子と会った(*→〔蘇生者の言葉〕2)。聖徳太子は「私はやがて宮へ還り、仏像を造り奉るであろう」と、大部屋栖野古に語った。これは、聖徳太子が聖武天皇として再誕し、東大寺や大仏を造ることを意味するのであった。

★3.ヤマタノヲロチが転生して安徳天皇になった。

『平家物語』巻11「剣」  安徳天皇の前世は、ヤマタノヲロチである。かつてスサノヲがヤマタノヲロチの尾から見つけ出した草薙の剣は、アマテラスの子々孫々に伝えられ、ヤマトタケルが東征の折にこの剣で草を薙ぎ払い火攻めの難を逃れる、などのことがあった。草薙の剣は熱田社に納められ、後、内裏に置かれ、ついに壇の浦の合戦で安徳天皇とともに海に没した。これはヤマタノヲロチが、人王80代、8歳の安徳天皇に生まれ変わり、この霊剣を取り返して海底に沈んだのである〔*現在の数え方では、安徳天皇は第81代〕。

*蚓(みみず)や蛙が転生して国王になった→〔王〕6

★4.大蛇が転生して天皇になるのとは逆に、天皇が転生して大龍になる。

『発心集』巻6−3  蔵人所に勤める身分低い男が、堀河院の崩御を深く悲しみ、「故院の転生先を教え給え」と、諸々の仏や神に祈った。何年か経て、「堀河院は西の海で大龍になっておられる」との夢を見たので、男は喜び、筑紫から舟で海へ漕ぎ出して行方知れずになった。何事も志(こころざし)次第であるから、きっと男は転生して堀河院に巡り会い、お仕えしていることだろう。

 *龍が転生してお釈迦様になる→〔龍〕11の『手紙 一』(宮沢賢治)。

 

*天皇が転生して、行者になり、女房になり、小舎人になり、再び天皇になる→〔髑髏〕3bの『三つの髑髏』(澁澤龍彦『唐草物語』)。

 

 

【天井】

★1.天井の妖怪。

天井下(鳥山石燕『今昔画図続百鬼』)  昔、茨木童子は屋根の破風を破って飛び去ったが(*→〔屋根〕7の『茨木』)、天井下(てんじょうくだり)は、それとは逆に、天井を破って落ちて来る妖怪である〔*水木しげる『図説日本妖怪大全』では天井下がりと呼び、天井の板の破れめから首を出してニタニタ笑い、人間に見つかれば、天井の穴からスルーッと姿を消すものだ、と記す〕。

天井なめ(水木しげる『カラー版妖怪画談』)  天井なめは、人のいない間に屋敷や堂に出現し、長い舌で天井をなめて、きたないシミをつける。長いのは舌だけでなく、背丈も長く、痩せた妖怪だ。昔の人は、天井にシミを見つけたら、それは「天井なめ」の仕業である、と考えた。

★2.つり天井。

『伊賀の影丸』(横山光輝)「若葉城の巻」  謀反の心を持つ若葉右近は、将軍を若葉の里へ招き、屋敷につり天井を仕掛けて殺そう、とたくらむ。不死身の阿魔野邪鬼(あまのじゃき)率いる甲賀七人衆が、潜入する江戸の隠密を次々に殺し、つり天井の秘密を守る。伊賀の影丸と仲間たちが、甲賀七人衆を倒して、若葉右近の陰謀を将軍家へ知らせる。将軍は体調不良を理由に若葉の里への旅を取りやめ、若葉右近はいさぎよく切腹する。

宇都宮城の釣天井の伝説  宇都宮城主本多正純は、徳川家光の弟忠長を将軍にしたいと願ったが、家光が3代将軍になってしまった。寛永13年(1636)4月、家光は日光参詣の後、宇都宮城に一泊することになったので、本多は釣天井を仕掛けて家光を圧殺しようとする。しかし計画が発覚し、本多は処刑された(栃木県宇都宮市本丸町)。 

*湯殿に落とし穴を仕掛け、天皇暗殺を企てる→〔落とし穴〕2bの『太平記』巻13「北山殿謀反の事」。

★3.天井裏に大事な物を隠す。

『耳袋』(根岸鎮衛)巻之3「明徳の祈祷其依所ある事」  富家の娘が、死後幽霊となって座敷の一角にたたずむ。「場所を変えることなく、いつも同じ所に出る」と聞いた祐天大僧正が、その所に梯子をかけて天井裏を調べると、多数の艶書があった。娘は、恋人から来た艶書を天井裏に隠しておき、それに心が残っていたのだった。艶書をすべて焼くと、幽霊は出なくなった。

 *結婚前に使っていた張形(はりかた)を、天井裏に隠す→〔器物霊〕5

 

 

【電信柱】

★1.夜に歩く電信柱。

『月夜のでんしんばしら』(宮沢賢治)  月夜の晩、恭一が鉄道線路わきを歩いていると、シグナルの横木が下がったのを合図に、電信柱の列が軍歌とともに前進を開始した。ぼろ外套を着た電気総長の爺さんが、「お一、二(おいちに)、お一、二」と号令をかける。爺さんは恭一と握手し、恭一の身体はびりりっとしびれた。そこへ汽車が来たので、爺さんは「見つかったら大変だ」と、あわてて進軍中止を叫ぶ。電信柱は皆ぴったり止まって、すっかりふだんのとおりになった。

★2.高原の木が、町の電信柱になった。

『サザエさん』(長谷川町子)朝日文庫版・第26巻76ページ  昔、婚約時代のサザエとマスオは高原でデートし、2人の名前を林の木に刻んだことがあった。後にその木は伐採され、電信柱になった。ある日、サザエとマスオ夫婦は町を歩いていて、自分たちの名前が刻まれた電信柱を見かけ、たいへん驚いた。 

★3.電信柱と柳の木の恋。

『若く美しい柳』(コッパード)  街道の柳の木の隣に、電信柱が設置された。電信柱は柳に求婚し、柳はそれを断るが、彼らは仲の良い友人になった。柳は成長し、その枝が電線とからみ合う。役人が「危ないな。放って置くわけにはいかない」と呟き、斧を持つ男を派遣して、柳を切り倒す。電信柱にできるのは、その場に立ち尽くして嘆くことだけだった。日は巡り、月は巡って、やがて電信柱は、若く美しい柳のことを忘れた。

 

 

【天地】

★1a.天地は卵から生まれた。

『カレワラ』(リョンロット編)第1章  大気の娘イルマタルが、海原を漂う。彼女の膝に、鴨が黄金の卵6つと鉄の卵1つを産みつける。鴨に抱かれた卵は熱くなり、イルマタルの膝から水中に落ちて砕ける。卵の下側は大地になり、卵の上側は大空になった。黄身は太陽になり、白身は月になった。その後に、イルマタルは身体を動かして、岬や岸や入江や島を作った。

 *創造神が卵から生まれる→〔卵〕3bの『シャタパタ・ブラーフマナ』。

★1b.卵のような混沌から天地が分かれる。

『日本書紀』巻1・第1段本文  昔、天と地がまだ分かれず、陰と陽も分かれていない頃は、その混沌としたありさまは鶏の卵のようであった。その中に、何物かが生まれ出ようとする兆しが含まれていた。やがて、まず澄んで明るい気がたなびいて天となり、次いで重く濁った気が停滞して地となった。その後に神が、天地の中に誕生した。

★1c.卵のような天地の殻外へ出る。

『子不語』巻2−58  天地は鶏卵のごとし。卵中の黄白、いまだ分かれざるは混沌であり、すでに分かれたるは開闢である。人は卵殻の外に出ることができない。順治3年(1646)に武威(甘粛省)の地が陥没した時、董遇という男がどこまでも落下し、蒼天が下の方に見えた。「天殻の外の天に到った」と喜んでいると、衣冠の巨人が現れ、「ここは両天が境を接するところだ。日輪が来るから、はやく逃げよ」と命じた。董遇は身を躍らせて上昇し、地上へ戻った。

★1d.天地開闢以前の太初の混沌。

『セトナ皇子』(中島敦)  聡慧の誉れ高いテーベのセトナ皇子は考える。「最初の神ラーは、混沌ヌー(=光も陰もない一面のどろどろ)から生まれた。では、ヌーは何から生まれたか? 何からも生まれはせぬ。ヌーは初めからあった。何故、初めからあったのか? 無くても一向差し支えなかったのではないか?」。皇子は、この疑いにとらわれた。皇子は笑わなくなり、何事も言わず行なわず、蝋の木偶(でく)のようになって一生を終わった。 

★2a.初めの頃、天と地はそれほど離れていなかった。

『三五歴紀』  はじめ、天と地は鶏卵の中身のように渾沌としていた。やがて、その中に盤古が誕生した。天地が分かれはじめ、1日に天は1丈ずつ高く、地は1丈ずつ厚くなった。盤古も、1日に1丈ずつ成長した。こうして1万8千年が過ぎた。現在、天と地が遠く離れているのは、このためである。

『日本書紀』巻1・第5段本文  イザナキ・イザナミは、大八洲国と山川草木を産んだ後、天下の主(きみ)たるべき日神・大日霎貴(おほひるめのむち=アマテラス)を産んだ。この時、天と地はまだそれほど離れていなかったので、天の御柱をつたって、大日霎貴を天上へ送り上げた。次に月神を産み、これも天へ送った。

*ビッグバン以前は、天地は一点に凝集していた→〔空間〕6の『レ・コスミコミケ』(カルヴィーノ)「ただ一点に」。

★2b.天地が離れていなかった時代の人。

『子不語』巻9−241  陰沈木は天地開闢以前の樹木である。康煕30年(1691)、天台山が崩れ、陰沈木でできた棺が湧出した。棺の中に人がおり、空を仰視して、「この青々としたものは何か?」と問う。周りの者が「天だ」と言うと、その人は驚き、「私が初め、この世にあった時、天はこんなに高くなかった」と言って目を閉じた。風が起こり、その人は石人に変じた。

★2c.手で天に触れることができた時代。

『なぜ神々は人間をつくったのか』(シッパー)第1章「空から降りてくる、あるいは落ちてくる」  始まりの時、人間は手で天に触れることができた。人間は空腹になると、天を切り取って食べていたので、働く必要がなかった。ある時、欲張りな女が、天から巨大なかけらを切り取り、大勢で食べたが食べきれず、残りをごみの山に捨てた。天は非常に立腹し、地上からはるか上へ昇った。天は人間の手の届かぬ場所となり、人間は食物を得るために、働かねばならなくなった(ナイジェリア、ビニ族)。

★3.神や巨人が、天地を分ける。

アーマンチュウメーの足型(沖縄の民話)  大昔は天と地がくっつくほどで、皆、這って歩いていた。これでは困るので、沖縄の国の初めの神アーマンチュウメーが、両足を固い岩に乗せて踏んばり、両手で天を高く押し上げた。おかげで人間は立って歩けるようになった。岩にめり込んだアーマンチュウメーの足型は、今も残っている。

巨人と天地分離の神話  昔、天と地の距離が近かった時、トゥング氏という巨人がいた。毎日、水牛に乗り、肩に犂(すき)をかついで田に行った。いつも犂が天にぶつかったので、トゥング氏は怒り、犂を水牛につなぐ棒をはずして、天を突き上げた。こうして天は、今のように高くなった(ベトナム北部、ムオング族)。

『南島の神話』(後藤明)第1章「南島の創世神話」  天空神ランギと地母神パパが抱擁してぴったりくっついているので、彼らの子供タネやタンガロアは、両親を引き離そうとする。タネ神が逆立ちして足で天を押し上げ、天地を分離した。すると闇の中に光明が射し、昼が生まれた。分かれた天地は互いに相手を思い、大地(=妻)のため息は霧となって天へ昇り、天(=夫)の嘆きは涙の雨となって降り注いだ(ポリネシア、マオリ族)。

*天父と地母を、子供たちが引き離す→〔五人兄弟〕3の天父地母と五人の息子の神話。

★4.天が傾く。

『列子』「湯問」第5  昔、共工氏がセンギョク(=黄帝の孫)と天子の位を争った。負けた共工氏は怒り、西北の極にある不周山に身体をぶつけて、天を支える柱を折り、地を支える綱を切った。そのため天は西北に傾いて、日月や星辰がその方角へ集まった。地は東南に低くなって、河川や雨水がそこへ流れ込んだ。 

★5.天空の破壊と修復。

『天を修復した女カ』(中国の神話・伝説)  太古の女カの時代。突然地面が大きく揺れて、大地に亀裂が入った。天空は壊れてばらばらになり、無数の穴が開いた。女カは炉をこしらえて5色の石を作り出し、この石で天の穴をふさいだ。次に、巨大な亀の脚を切り落とし、長方形の大地の四隅に置いて、天をしっかり支えた。こうして天は修復された。5色の石は美しい雲になった。

 

 

【天人降下】

★1a.人の琴や琵琶などの演奏に応じて、天人が舞う。

『有明けの別れ』巻3  左大臣家の1人娘は男装していたが、彼女はやがて本来の女姿になり、帝に入内して男児を2人産む。後に帝は院、男児の兄は新帝、弟は東宮、彼女自身は女院に、それぞれなる。院の四十の賀が行なわれた3月14日の夜、東宮の笛と女院の琵琶の合奏に、天女7人が舞い降りて、花の鬘(かつら)1房を女院の袖の上に置く、という奇瑞があった。

『うつほ物語』「吹上」下  神泉苑の紅葉の賀の夜、仲忠と涼が琴を弾き競うと、天女が降りて舞う。仲忠が琴に合わせて、「朝ぼらけほのかに見れば飽かぬかな中なる乙女しばしとめなむ」と詠ずると、天女はさらに一舞いして天に昇った。

『江談抄』第1−11  清御原(天武)天皇の時、吉野川で琴を演奏したところ、天女が降下し、前庭に出て「をとめごがをとめさびすもからたまををとめさびすもそのからたまを」の歌を詠じた〔*『十訓抄』第10−18に類話〕。

『今昔物語集』巻24−1  北辺大臣が一晩中箏を弾奏していると、暁方になって背丈1尺ほどの天人が2〜3人降下し、光を放って舞った。

★1b.天女が羽衣を返してもらうことと引き換えに、舞いを見せる。

『羽衣』(能)  天女が三保の松原に降り、松にかけておいた羽衣を漁夫白龍に取られる。天女は、羽衣を返してもらうことと引き換えに、白龍に舞いを見せ、やがて空高く昇って行く。

★2.天人が、地上の人を天界へ連れて行こうとする。

『狭衣物語』巻1  5月5日の夜、宮中の宴で狭衣が笛を吹く。稲妻が光り、空から楽の音が聞こえ、紫の雲がたなびく中を、天若御子(あめわかみこ)が降下する。天若御子は狭衣を天界へ連れて行こうとするが、嵯峨帝が狭衣の手をとらえて、泣く泣く引きとめる。天若御子は諦めて、狭衣と詩文のやりとりをしただけで、1人で天へ還って行った。

★3.天人がお告げや予言を与える。

『三宝絵詞』下−17  百済寺に丈六の釈迦像を造り、天智天皇が心中に祈願した夜の暁に、2人の天女が来て、「この像は霊山の真の仏といささかも違わず」と天皇に告げ、空に上り去った〔*『今昔物語集』巻11−16の類話では「天暦天皇」・「夢の中に3人の」とあって以下に欠字がある〕。

『夜の寝覚』(五巻本)巻1  太政大臣の娘・中の君が13歳の年の8月15夜、夢に天人が降下して琵琶の秘曲を教える。翌年の8月15夜の夢にも再び天人が現れ、琵琶を教えて、「いたくものを思い、心を乱し給う宿世がある」と、運命を予言する。3年目の8月15夜には、中の君は待っていたが、天人を夢に見ることはできなかった。

★4a.天人が、地上の人間に転生して降下する。

『今昔物語集』巻1−1  兜率天の内院に住む釈迦菩薩は、「下界に人間として生まれ出よう」と思い、天人五衰の相をあらわした。釈迦菩薩は、誰を父母とするか考えて人間世界を見、「カビラエ国の浄飯王を父、摩耶夫人を母とするのが良い」と定めた。 

*→〔転生〕3の『松浦宮物語』。

★4b.天人が地上に生まれても、短期間で天に戻ってしまうことがある。

鵜ノ池の伝説  卯野左内という浪人の娘が、池のまわりで友だちと蕨取りをしている時に、誤って水死した。娘は母親の夢にあらわれ、「私は天界の者で、縁あってこの世に生まれたが、寿命が尽きて帰るのだから、嘆かないで下さい」と告げた。父母は、池のほとりに娘の祠(ほこら)を造った。池は卯野の姓にちなんで、鵜ノ池と呼ぶようになった(鳥取県日野郡黒坂町黒坂)。

 *玉帝に仕える献花童子が地上に男児として生まれ、若くして死ぬ→〔転生〕4の『子不語』巻19−499。

*天人が地上に生まれるに際しては、普通の人間同様に母胎から誕生し、死ぬ時には亡骸を地上に残して魂だけ昇天するばあいと、→〔赤ん坊〕7aの『竹取物語』のように、母胎以外の場所から異常出生し、身体を持ったまま昇天するばあいとがある。 

 

*西王母の降下→〔桃〕1の『漢武故事』。

 

 

【天人女房】

★1a.天女が降下して地上の男と結婚し、後に天へ帰る。

『捜神記』巻1−28  董永は父の葬儀を行なうために1万貫を借り、3年の喪をすませた後に、奴隷となって借銭を返済しようとする。天帝が董永の孝行をめでて、天上の織女を降下させる。織女は董永の妻になり、百疋の絹を織り上げて借銭を返し、董永を自由の身にしてから天へ昇って行った。

『捜神記』巻1−31  天界の玉女が下界へ降嫁するよう天帝に命ぜられ、役人弦超の妻となる。7〜8年の間、玉女は他人に姿を見せずに弦超と夫婦生活をするが、ある時、弦超が玉女のことを人に漏らしたため、玉女は去る。しかし数年後に2人はよりを戻し、玉女は月に2〜3度、弦超のもとへ通って来た。

『太平広記』巻63所引『玄怪録』  崔は絶世の美女と結婚するが、母が「あの女は狐ではないか」と疑うので、美女は去る。実は彼女は西王母の娘玉巵娘子であり、1年間家に留めておけば、一家は不死の生命を授かるはずだった。

『太平広記』巻68所引『霊怪集』  夏の夜、庭先に寝る郭翰のもとへ天から織女が降下する。織女は夜な夜な郭翰の所へ通うが、1年ほど後、「天帝から許された期限が尽きた」と告げて去り、2人の仲は絶えた。

*→〔禁忌〕6の『シャタパタ・ブラーフマナ』。

*→〔水浴〕1a

*織女が本の栞となって、男の前に現れる→〔本〕8aの『聊斎志異』巻11−415「書癡」。

★1b.天女が地上の男を富ませ、良い妻をめとらせるべく、降下する。

『捜神後記』巻5−1(通巻49話)  謝端は若くして父母を喪(うしな)い、慎み深く独り暮らしをしていた。天帝が彼を哀れんで、天の川の白水素女を降下させる。白水素女は謝端の留守宅を守って炊事をし、10年のうちに彼を富ませ、妻をめとらせてから、天へ戻るはずであった。しかし謝端が白水素女の姿をのぞき見てしまったため(*→〔のぞき見〕8)、彼女は去って行った〔*その後、謝端は、大金持ちにはならなかったが、郷里の娘と結婚し、縣の長官になった〕。

★2.天女の産んだ子が帝王になる。

『蒙求』91「詰汾興魏」  詰汾(きっぷん)が山へ狩りに行き、天女と出会って一夜の契りを交わす。翌日、天女は天へ帰り、1年後の同月同日に、男児を抱いて再び降下する。天女は男児を詰汾に渡し、「これは貴方の子です。帝王となるでしょう」と告げて、飛び去る。この子が北魏の始祖・神元皇帝である。

★3.妻の死が、天への帰還だったことが後にわかる。

『閲微草堂筆記』「ラン陽消夏録」巻3「天人女房」  田耕野公の妻は、早くに死んでしまった。ある夜、公は、妻が木の梢から舞い降りる夢を見た。妻は「私は天女です。宿命があって貴方の妻となりましたが、縁が尽きたので天に帰ります」と言う。妻は、現世での公の将来を予言し、「死後、貴方が努力して天に生まれれば、また逢えます。そうでなければ、もう逢えません」と告げた。

★4.天女が人間の男と結婚し、添い遂げる。

『カター・サリット・サーガラ』「ウダヤナ王行状記」9・挿話12  プルーラヴァス王と天女ウルヴァシーは互いを一目見て恋慕し合い、ヴィシュヌ神が特別にはからって2人の結婚を許す。ある時プルーラヴァス王は天国の宴に招かれて天女の群舞を見、「自分は天女と暮らしているので、もっと多くの踊りを知っている」と高言したために呪詛され、半神ガンダルヴァたちがウルヴァシーをさらって行く。プルーラヴァス王は苦行を行なってヴィシュヌ神をなだめ、神は彼を嘉(よみ)して、ウルヴァシーを返す。

 

*天女の接吻→〔接吻〕9aの『百物語』(杉浦日向子)其ノ24。

*天人の交わり→〔性交〕11の『花妖記』(澁澤龍彦)。  

*天女像との交わり→〔神仏援助〕4b・4c。  

 

 

【電話】

★1.電話のかけ間違え。

『精神分析入門』(フロイト)「間違い」第4章  「私(フロイト)」は患者に、「君の愛人を電話で呼び寄せるのはいけない」と、言っておいた。ところが、患者は「私」に電話をかけようとして、ついぼんやりして誤った番号を交換手に告げたため、電話は愛人宅につながった。 

『プラトニック・ラヴ』(志賀直哉)  「私」が田端のA氏(=芥川龍之介)に電話をかけると、女の人が出て「そういう方は存じません」と言う。「番号に間違いはない」と押し問答するうちに、「私」はそれが知り合いの芸者登喜子の声だと気づいた。以前、登喜子の電話番号を手帳の余白にメモしたのだが、たまたまそれがA氏の住所を書いた下だったのだ。

★2.他人あての電話に出てしまう。

『化石』(井上靖)  50代半ばの建設会社社長・一鬼(いっき)太治平は、ヨーロッパへの長期旅行中に身体に異常を覚え、パリの病院で検査を受ける。病院から検査結果を知らせる電話が秘書にかかるが、その電話に一鬼が出てしまう。病院側は、相手が一鬼自身だとは気づかず、「手術不能の十二指腸癌で、余命1年」と告げる。

『氷点』(三浦綾子)「敵」〜「誘拐」  病院長辻口啓造が出張中に、妻夏枝のもとを眼科医村井が訪れる。村井は夏枝への思いを述べ、頬に接吻して帰る。その直後、啓造が予定を繰り上げて1日早く帰宅する。夕方、村井から電話があり、啓造が受話器を取る。村井は「もしもし夏枝さん。今日はほんとうに失礼してしまって・・・・」と詫びる。啓造が無言でいると、村井は「やっぱり怒っておられるのですね」と言う。

★3.通じなかった電話。

『柔らかい肌』(トリュフォー)  ピエールは不倫の結果、妻との離婚を決意するが、愛人は去って行った。彼は妻ともう1度やりなおすために、レストランから妻に電話をかけようとする。しかし先客が電話を使っていて、2〜3分待たねばならなかった。その間に妻は、ピエールを撃つための猟銃を持って、家を出ていた。先客がおらず、すぐ電話をかけられれば、ピエールと妻は和解の話し合いができるはずだった。

★4.死者からの電話。

『長距離電話』(マシスン)  病身の老婦人エルヴァの部屋に、電話がかかって来る。最初は無言電話だった。そのうち、「どこにいらっしゃるんですか? お話があるんですが」という男の声が、聞こえるようになった。電話局は「電線が切れ、混線しているのだろう」との解釈を示した。電線は地面に落ちていて、そこは墓場なのだという。何度目かの電話で、男は用件を告げた。「今晩は、エルヴァさん。すぐお迎えにまいります」。

*死者からの手紙→〔手紙〕11の『述異記』(祖冲之)16「碁敵のいざない」。

★5.電話を利用した殺人計画。

『ダイヤルMを廻せ!』(ヒッチコック)  夫が殺し屋を雇って、妻殺しを計画する。夜、夫がホテルのロビーから、自宅の妻に電話をかける。妻が電話に出ているところを、後ろから殺し屋が襲いかかって絞殺する、という手順である。夫はホテルにいるのだから、彼のアリバイは完璧である。しかし襲われた妻は必死に抵抗し、ハサミで殺し屋を突き殺してしまった。

★6.長電話をして、相手をその場から動かさない。

『人間豹』(江戸川乱歩)  人間豹・恩田が明智小五郎の留守宅に入り込み、明智の妻の文代さんを麻酔剤で眠らせ、大きな箱に入れて運び出そうとする。その時、明智が外出先から電話をかけ、電話に出た恩田にいろいろ挑発的なことを言って、恩田を電話口に引き止める。その隙に小林少年が文代さんを箱から救い出し(*→〔息〕4a)、代わりにマネキン人形を入れておく〔*恩田はこの時は失敗したが、後に文代さん誘拐に成功する→〔熊〕5b〕。

★7.携帯電話。

『着信アリ』(三池崇史)  携帯電話のディスプレイに、着メロとともに「着信あり」の4文字が映し出される。メッセージを再生すると、自分の断末魔の悲鳴が聞こえ、数日後のある時刻が表示される。それは死の予告であり、メッセージを受け取った人物は予告された日時に、高所から転落したり、首をねじ切られたりなど、悲惨な死を遂げる。電源を切っても、携帯電話を解約・廃棄しても、予告された死から逃れることはできない。 

 

*電話を利用したアリバイ工作→〔アリバイ〕1aの『樽』(クロフツ)・〔取り合わせ〕1cの『虚無への供物』(中井英夫)。 

*「未来の私」が「現在の私」にかける電話→〔自己との対話〕1aの『第四間氷期』(安部公房)。 

*家を出た娘から、父への電話→〔クリスマス〕3の『鉄道員』(ジェルミ)・〔父と娘〕2の『花嫁の父』(ミネリ)。

*電話をかけるふりをする→〔夫殺し〕6の『哀しみのトリスターナ』(ブニュエル)。

 

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