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【血】

★1a.血から誕生する・生ずる。

『エヌマ・エリシュ』(古代アッカド)  マルドゥークをはじめとする神々たちが悪神キングの血管を切り、流れる血から人間を造り出した。

『古事記』上巻  イザナキが長い剣を抜いて火神カグツチの頸を斬った。その時、剣から岩に飛び散る血、手指の間から漏れ落ちる血より、イハサクノ神をはじめ八柱の神が生まれた〔*『日本書紀』巻1神代・第5段一書に類話〕。

『神統記』(ヘシオドス)  ウラノス(天)の性器を、息子クロノスが鎌で切り取った。そこからほとばしり出た血を大地が受け止め、歳月を経て、復讐の女神(エリニュス)・巨人(ギガス)・女精メリアたちが生まれた。  

『播磨国風土記』讃容の郡  玉津日女命が、鹿の腹を割き、その血に稲をひたして蒔いた。一夜で苗が生じたので、ただちにこれを取って植えさせた。

『二人兄弟の物語』(古代エジプト)  妻の裏切りゆえ命を落としたバタは、復讐すべく牡牛に生まれ変わる。ファラオの愛妾になっている妻は、ファラオに請うて牡牛を殺させる。牡牛の喉が切られると2滴の血が飛び出て王宮の門前に落ち、2本の大きなペルセア樹になる。

*→〔馬〕7の『変身物語』(オヴィディウス)巻4。

*→〔花〕2aに記事。

★1b.血の力で誕生した人を血の力で倒す。

『妹背山婦女庭訓』4段目「御殿」  蘇我蝦夷子は晩年まで子がなく、博士の占いによって白い牝鹿の生血を妻に与え、男児が誕生した。鹿の生血が体内に入った子ゆえ、「入鹿」と名づけた。後、入鹿は逆臣となったので、金輪五郎らが、爪黒鹿の血と疑着(=嫉妬)相の女の血を混ぜたものを笛にそそいで吹き、入鹿を倒した。

★2.血の力で開眼する。

『黄金伝説』95「聖クリストポルス」  異教徒の王が聖クリストポルスを射殺そうとすると、その矢が眼にささって王は失明する。クリストポルスは首を刎ねられるが、彼の血を眼に塗ると、王の眼はもとどおり見えるようになる。

『黄金伝説』122「聖サウィニアヌスと聖女サウィナ」  矢で目をつぶされた皇帝アウレリアヌスは、聖サウィニアヌスの血を塗って開眼した。

『王書』(フェルドウスィー)第2部第3章「英雄ロスタム」  カーウース王は、北方のマーザンダラーンに住む悪鬼たちに捕らえられ、牢の暗闇の中で失明する。英雄ロスタムが、悪鬼たちの頭目である白鬼〔*「白鬼」は「雪害」を意味する、との解釈がある〕と闘ってこれを殺す。ロスタムが白鬼の血をカーウース王の眼にたらすと、王の眼はふたたび見えるようになった。

★3.血の力で病気が治る。

『アーサー王の死』(マロリー)第17巻第10〜12章  某城の主である婦人が癩病にかかり、王族の処女の血を身体に塗ると回復する。騎士たちとともに通りかかったパーシヴァルの姉が、右腕から皿1杯の血を取って、婦人に与える。婦人は元気になるが、パーシヴァルの姉は血を失ったために死ぬ。城の側には、それまでに血を取られて死んだ乙女たち60人の墓があった〔*神罰による嵐と雷で、城の婦人と従者たちは滅ぼされる〕。

*寅の「年」「月」「日」「刻」生まれの女の血を用いて、癩病を治す→〔子殺し〕3の『摂州合邦辻』「合邦内」。

『黄金伝説』129「聖十字架称賛」  ユダヤ人たちがキリスト像のわき腹を槍で突くと、血が流れ出す。その血を病人に塗ると、皆たちまち病気が治った。

*男女の血を合わせたものを用いて、破傷風を治す→〔破傷風〕2の『南総里見八犬伝』第4輯巻之4第37回。

★4.血の力で不死身となる。

『ニーベルンゲンの歌』第3歌章  ジーフリト(ジークフリート)は、ある時龍を退治し、その血を全身に浴びた。そのため肌が不死身の甲羅と化し、どんな武器も彼を傷つけ得ないことがたびたび証明された〔*しかし彼の身体には1ヵ所弱点があった〕→〔葉〕1b

『火の鳥』(手塚治虫)  火の鳥の血を飲んだ者は、永遠の命を得る→〔不死〕1

★5.血の力で蘇生する。

『ギリシア神話』(アポロドロス)第3巻第10章  外科医アスクレピオスは、ゴルゴンの左側の血管から流れ出た血を人間の破滅に、右側の血管から出た血を救済に用い、死者を蘇生させた。ゼウスは、人間が力を増すことを恐れ、アスクレピオスを雷霆で打った。

『忠臣ヨハネス』(グリム)KHM6  王と花嫁の命を救ったため、忠臣ヨハネスは石に化した(*→〔無言〕1c)。やがて王と花嫁の間に双生児が生まれる。王は、石のヨハネスの言葉にしたがって、双生児の首を切り、血を石に塗る。血の力でヨハネスは生命を取り戻す。ヨハネスは今度はその返礼に、双生児の首を身体に載せ、彼らの血を塗って生き返らせる。

『ペンタメローネ』(バジーレ)第4日第9話  石像と化した弟を救うため、魔法使いの老人の教えにより、兄は自分の2人の子を殺す。その血を石像にかけると、弟は息を吹き返す〔*魔法使いは2人の子も生き返らせる〕。

★6a.処刑された人の血が、無実であることを示す。

『捜神記』巻11−28(通巻290話)  無実の女が死刑を宣告される。刑場へ行く車には高さ10丈の竹竿が立ち、5色の幟が上がる。見物人にむかって女は「私に罪があれば血は下へ流れ、罪がなければ上に流れるだろう」と言う。刑が執行されると、緑色の血が竹竿を伝って昇り、頂上まで達すると幟を伝って下った。

*死体の傷口から流れ出る血によって、犯人が誰かわかる→〔傷あと〕8a

★6b.殺人犯の衣類に残る、被害者の血痕。

『女殺油地獄』「豊島屋」  油屋のお吉が殺されて三十五日の逮夜に、河内屋与兵衛が顔を見せる。皆から犯人と見なされても、与兵衛は白を切る。伯父森右衛門が、殺人事件の日に与兵衛が着た袷を取り出し、「所々に妙なこわばりがある」と言って酒をそそぐ。たちまち血の色が現れて、与兵衛がお吉を殺した動かぬ証拠になる。

『棠陰比事』58「獄吏滌履」  殺人事件の容疑者である僧侶を獄吏が尋問するが、証拠がない。しかし、僧侶の履に墨が塗ってあることに獄吏は不審を感じ、履を脱がせて墨を洗い落とすと血痕があらわれたので、僧侶は恐れ入って白状した。

*犬が血染めの布子をくわえ出す→〔動物教導〕2の『盲長屋梅加賀鳶(めくらながやうめかがとび)』(河竹黙阿弥)。

★7.拭いても拭き取れぬ血。

『青ひげ』(ペロー)  青ひげが旅に出て留守の間に、若い妻が、入室を禁ぜられた小部屋を開けて、数人の女の死体を見つける。妻は驚いて、血の海となっている床に、鍵を落とす。鍵についた血は、どんなに拭いても洗っても消えない。帰って来た青ひげは、血のついた鍵を見て、妻が小部屋を開けたことを知る。

『マクベス』(シェイクスピア)第2幕・第5幕  マクベスがダンカン王を暗殺した時、マクベス夫人が、剣についた血をダンカン王の護衛たちの顔に塗りつけて、彼らに罪をきせた。後にマクベス夫人は夢遊病を発症し、いくら手を洗っても血のしみが消えない、という動作を繰り返すようになった→〔夢遊病〕6

『まっしろ白鳥』(グリム)KHM46  3人姉妹の長女が、魔法使いの男から見ることを禁じられた部屋を開ける。中には血だらけの器があり、切り刻まれた死体が何人分も入っている。長女は驚き、魔法使いから与えられた卵を器の中に落とす。拾い上げて血を拭くが、拭くそばから卵は血の色になる。長女は魔法使いに殺される。次女も同様にして殺される。

★8.拭き取れぬ血を作る困難。

『カンタヴィルの幽霊』(ワイルド)  イギリスの幽霊屋敷の床の血痕を、屋敷に住むアメリカ人一家が新洗剤できれいに消す。翌朝また血痕があらわれるので、これも消してしまう。何度も血痕を消すうち、血の色が日ごとに変り、朱色・紫色・緑色などになる。幽霊は、本物の血が手に入らなかったので、アメリカ人一家の娘ヴァージニアの絵の具を盗んで用いたのだった→〔成仏〕1

 *絵の具を血に見せかける点で→〔映画〕1の『仮面の恐怖王』(江戸川乱歩)に類似。

★9.災いを招く・あるいは退ける目印としての血。

『出エジプト記』第12章  神の過ぎ越しの夜、羊の血を戸口に塗った家だけは、長子の死を免れた→〔目印〕2a

『捜神記』巻13−8(通巻326話)  始皇帝の代に、「城門に血がつくと城は沈んで湖になる」という童謡がはやる。門番が犬の血を城門に塗りつけると、町はたちまち湖になる→〔水没〕1

★10.血の味。

茨木童子の伝説  茨木童子は幼い時捨てられ、床屋に拾われ育てられた。床屋の手伝いをするうち、客の切り傷の血をなめ、その味を知ってからは、わざと傷をつけて血をなめることが習癖になった(大阪府茨木市新庄町)→〔水鏡〕4。 

『仔猫』(落語)  山猟師の娘おなべは7歳の時、飼い猫が足を噛まれて帰って来たので傷をなめてやり、猫の生き血の味をおぼえた。それ以来おなべは、猫を捕って食うようになった。おなべは船場の大問屋へ奉公に出、よく働く気立ての良い娘として皆にかわいがられたが、夜になると猫を捕りに出かけた〔*これを知った番頭がおなべに、「あんた、猫かぶってたのか」と言うのがオチ〕。

*血のにおい→〔いれずみ〕1の『日本書紀』巻12履中天皇5年9月18日。

★11a.河の水が血に染まる。

『古事記』上巻  高天原から出雲国の肥の河上に降り立ったスサノヲは、十拳剣(とつかのつるぎ)をふるって、ヤマタノヲロチの体をずたずたに斬った。そのため、肥の河の水は真っ赤な血となって流れた〔*『日本書紀』巻1・第8段では、本文・一書ともに、「河が血になった」との表現は見られない〕。

*ナイル川の水が血に変わる→〔水〕1cの『出エジプト記』第7章。

★11b.淵の水が血の色に濁る。

濁りが淵(高木敏雄『日本伝説集』第7)  旅の六部が、村の金満家の家に一夜の宿を求めた。六部は宝物(「黄金の鶏」と「1寸四方の箱に収まる蚊帳」)を持っていたので、金満家の主人は宝物欲しさに、翌朝、六部が立った後その跡をつけ、河の淵で彼を斬り殺した。「黄金の鶏」は羽音をたてて飛び去ったが、「蚊帳」は主人の手に入った。六部の流した血で、淵の水は今も赤く濁っている(徳島県那賀郡桑野村)。

 

*血をなめて鳥の言葉を聞く→〔指〕4aの『ニーベルングの指環』(ワーグナー)「ジークフリート」。

*血文字→〔文字〕6a6b6c

*血が水に変わる→〔水〕1b

 

 

【知恵比べ】

 *関連項目→〔問答〕

★.外国と日本の知恵比べ。

『江談抄』第3−1  吉備真備が入唐した折、彼の諸道にすぐれた才能を知って恥ずかしく思った唐人たちが、彼を鬼の出る楼に登らせて殺そうとしたり、難解な『文選』の読法や囲碁の勝負等で挑む。吉備真備は日本の仏神などの助けによって、それらを切り抜ける〔*『吉備大臣入唐絵巻』に類話〕。

『太平広記』巻228所収『杜陽雑編』  日本の王子が渡唐して、唐第1の碁の名人顧師言と対局する。顧師言は辛くも勝利するが、唐人たちは「顧師言は唐で第3位の名手にすぎない」といつわる。日本の王子は「小国の第1位は大国の第3位に及ばぬか」と嘆息する。

『日本書紀』巻20敏達天皇元年5月  高麗から奉られた国書が黒い烏の羽に書かれており、読むことができなかった。帰化人王辰爾が、湯気で蒸した烏羽に絹布を押しあてて、文字を写し取った。

『白楽天』(能)  唐帝から「日本の知恵をはかれ」との宣旨を受けた白楽天が、海路日本を目指し、筑紫の松浦潟に到る。漁翁(=実は住吉明神の化身)が白楽天を出迎え、彼と詩歌の問答をする(*→〔漢字〕3)。漁翁は、「日本では人間のみならず、生きとし生けるもの、すべて歌を詠む」と説き、神体を現して舞う。舞いの手に連れて神風が吹き、白楽天の乗る唐船を漢土へ吹き戻す。

『枕草子』「蟻通し明神」の段  唐土の帝が日本の国を討ち取ろうとたくらみ、「丸く棒状に削った木の本末(もとすゑ)を見分けよ」、「2匹の蛇のどちらが雄か雌か見分けよ」、「7曲りにまがった玉の穴に糸を通せ(*→〔糸〕4)」などの難題をつきつけ、日本の帝は困惑する。某中将の家に隠れ住んでいた老親(*→〔親捨て〕3)が、これらの難題をことごとく解決したので、唐土の帝は、「なほ日の本の国はかしこかりけり」と感服し、以後は日本への手出しをしなくなった。

 

 

【誓い】

★1a.いかさまの誓い。不義の人妻が潔白を主張し、夫をあざむく。

『トリスタンとイゾルデ』(シュトラースブルク)第24章  トリスタンが巡礼に変装し、愛人である王妃イゾルデを船から岸に運ぶ時、わざと転んでイゾルデを抱いて伏す恰好になる。その後にイゾルデは、「夫マルケ王と今の巡礼以外に、私の横に寝た者はいない」と神に誓い、それを証拠だてるために熱鉄を握るが火傷を負わず、皆イゾルデの貞節を信じる〔*熱鉄・熱湯で身の証しをする物語については、→〔盟神探湯(くかたち)〕に記事〕。

★1b.いかさまの誓い。不義の人妻が潔白を主張するが、夫が嘘を見抜く。

『ジャータカ』第62話  バラモンの若妻が情夫を持ちながらも、「夫以外の男に触れたことがない」と誓い、火の中に入って潔白を証明しようと言う。情夫が見物人をよそおって現れ、「皆さん、バラモンが美女を火に入れようとしている」と訴えて若妻の手をつかみ、止めるふりをする。若妻は「今この男に触れられたので、誓いが破られてしまった」と言う。しかしバラモンは若妻のごまかしを見抜く。

★2.いかさまの誓い。王女の潔白を誓う。

『七賢人物語』「皇帝の息子の語る第八の物語」  エジプト王の息子アレクサンデルとイスラエル王の息子ロドウィークスが、ティトゥス皇帝に仕える。ロドウィークスは皇帝の王女とひそかに関係を結び、ヒスパニア王の息子ギドーがそのことを皇帝に訴えて、ロドウィークスに決闘を挑む。ロドウィークスに瓜二つのアレクサンデルがロドウィークスに扮し、「王女は私によって処女を奪われたこともなく、汚されたこともない」と聖書にかけて誓い、ギドーと決闘してその首を取る。

★3.いかさまの誓い。返さぬ金を「返した」と言う。

『ドン・キホーテ』(セルバンテス)後編第45章  島の太守となったサンチョ・パンサが、10エスクードの借金を返した返さぬのトラブルを裁く。借り手の老人Aが、葦の茎を杖代わりにつき、「宣誓の間邪魔だから」と言って、貸し手の老人Bにその杖を預け、「AはBに確かに10エスクード返した」と神かけて誓う。宣誓を終えてAはBから杖を取り戻し、帰ろうとする。しかしサンチョ・パンサは、葦の茎の中に10エスクードの金貨が隠してあることを見抜く。

 

 

【地下鉄】

★1.あこがれの地下鉄。

『地下鉄のザジ』(マル)  田舎育ちの少女・10歳のザジが、母に連れられてパリを訪れる。2日間の滞在中、母はザジを弟(=ザジにとっては叔父さん)に預け、愛人とどこかへ行ってしまう。ザジはパリで地下鉄に乗るのが夢だったが、あいにくストライキ中で、地下鉄の駅は閉まっていた。ザジはパリの街でいろいろな騒ぎを起こし、ストライキが終わって地下鉄が動き出す頃には、すっかり疲れて眠り込んでいた。結局ザジは地下鉄に乗れずじまいで、田舎へ帰って行った。

★2.地下鉄での瞑想。

『追い求める男』(コルタサル)  「地下鉄というのは偉大な発明だよ」と、ジャズ・サックス奏者ジョニー(チャーリー・パーカーがモデル)は言った。「サン・ミシェル駅で地下鉄に乗って、妻や子供やおふくろのことを考え始め、昔住んでいた町にいるような気分になった。町が見え、皆の顔が見えた。その時に考えたことや見たことを話せば、15分はかかるだろう。ふと気づくと、地下鉄は2つ目の駅で停まっていた。つまり地下鉄内では、2分しかたっていなかったんだ」→〔時間〕4b

 *列車内で読書し、気づくと2時間数十分もたっていた→〔本〕7bの『読書論』(小泉信三)第10章。

★3.地下鉄の乗っ取り。

『サブウェイ・パニック』(サージェント)  4人組がニューヨークの地下鉄の先頭車輌を切り離して乗っ取り、乗客たちを人質にする。4人組は人質の命と引き換えに、ニューヨーク市に百万ドルを要求し、札束を手にすると地下鉄を降りて、人質だけを乗せた車輌を走らせる。警察が車輌を追っているうちに4人組は地上へ出る計画だったが、1人は仲間割れで殺され、1人は警官に撃たれ、1人は観念して自ら高圧線に触れて死ぬ。逃げおおせた1人は、もと地下鉄運転士だったため、身元が特定されてしまった。

★4.地下鉄構内の殺人死体。

『ブルース=パーティントン設計書』(ドイル)  英国海軍の潜水艇の設計書をスパイが盗み出し、それを取り戻そうとした青年が殺された。青年の死体は、ロンドン地下鉄のオールドゲイト駅の近く、列車がトンネルから出てくる地点の線路わきで発見された。列車から落下したため、頭は無残につぶれていた。しかし、地下鉄の走行中に扉が開いたことはなく、車内に暴行の形跡もなかった。「青年は殺された後、列車の屋根に置かれ、それが落下したのだろう」と、ホームズは推理した。

 

 

【力くらべ】

★1.引っ張り合い。

『首引』(狂言)  鎮西八郎為朝と姫鬼とが、互いの首に綱をかけて引き合う。姫鬼が弱いので仲間の鬼たちが加勢する。為朝が首から綱をはずして放すと、鬼たちは仰向けに倒れる。

『今昔物語集』巻23−22  相撲人恒世の足に大蛇が尾を巻きつけ、川中へ引き込もうとする。恒世が土に5〜6寸も足をめりこませて踏ん張ると、大蛇の胴体はちぎれ、川に血が浮かぶ〔*『宇治拾遺物語』巻14−3に類話〕。

『曽我物語』巻6「弁財天の御事」  朝比奈三郎が曽我五郎の鎧の草摺を掴み、酒宴の席に引き入れようとする。五郎が足を踏ん張ると、草摺がちぎれて朝比奈は後ろに倒れる。五郎は微動だにせず立っていた。

『日本霊異記』上−3  元興寺の道場法師がまだ童子の頃、毎夜鐘堂に鬼が来て、人を殺した。童子は待ち受けて、鬼の髪を捕らえて引いた。鬼は外に逃げようとし、童子は内から引く。夜明け方に鬼は髪をすっかり引き抜かれ、血を流して逃げ去った。

『平家物語』巻11「弓流」  屋島の合戦の時、逃げる三穂屋(三保谷)十郎の兜の錣(しころ)を、悪七兵衛景清が追いかけて掴んだ。2人が引き合ううち錣が切れ、三穂屋は逃げ去った。景清はちぎれた錣を差し上げ、「これこそ上総の悪七兵衛景清よ」と名乗りをあげた。

*河童と馬の引っ張り合い→〔河童〕2の『遠野物語』(柳田国男)58。

★2.女どうしの力くらべ。

『日本霊異記』中−4  美濃の狐と呼ばれる女が、力の強いのをよいことに、往還の商人たちを苦しめていた。尾張国愛智郡の女(道場法師の孫娘)が力くらべを挑み、鞭で美濃の狐を打ちこらした〔*『今昔物語集』巻23−17に類話〕。

★3.神々の力くらべ。我慢くらべ。

『古事記』上巻  タケミカヅチが高天原から出雲に降下し、オホクニヌシに国譲りを要求する。オホクニヌシの子タケミナカタが力くらべを挑み、タケミカヅチの手を取ると、それは氷柱や剣の刃のごとくであった。タケミカヅチはタケミナカタの手を、若い葦のごとくに掴みひしぎ、タケミナカタは信濃の諏訪湖まで逃げた。

『播磨国風土記』神前郡ハニ岡  大汝命と小比古尼命が、屎をせずに遠く行くのと、粘土をかついで遠く行くのと、どちらが長く我慢できるか、争った。数日後、大汝は堪えきれず屎をし、小比古尼も粘土を岡にほうり投げた。

★4.最強の攻撃兵器と最強の防御装置の激突。

『信用ある製品』(星新一『ようこそ地球さん』)  宇宙人セールスマンが地球を訪れ、「宇宙最高の攻撃兵器」と「宇宙最高の防御装置」を高額で売りつけて、「お客様から苦情が出たことはありません」と保証する。地球人たちは、「宇宙最高の攻撃兵器」を「宇宙最高の防御装置」に向けて、発射実験を行なう。両者の激突で生じた衝撃波によって、一瞬のうちに全人類は死滅した。これでは苦情の出ようがない。

 *最強の矛で最強の盾を突く→〔難題〕10の『韓非子』「難一」第36。 

 

*豪傑朝比奈三郎義秀と閻魔大王の力くらべ→〔地獄〕5の『朝比奈』(狂言)。 

*北風と太陽の力くらべ→〔太陽〕9の『イソップ寓話集』46「北風と太陽」。

*産女(うぶめ)から力を授けられる→〔二者択一〕1の産女の伝説。

 

 

【地球】

★1a.地球の自転を停止させる。

『奇蹟を起こした男』(H・G・ウェルズ)  フォザリンゲイは突然、あらゆる奇蹟を起こすことができる超能力を授かった。彼はさまざまな奇蹟を楽しんだ後に、地球の自転を止めてみる。とたんに人間も動物も、慣性の法則で地上から放り出され、全滅してしまった。フォザリンゲイは反省し、すべてを、超能力が授かる前の状態に戻す。だから、この物語を読む読者も、本来なら死んでいたところなのだ。

★1b.地球の自転が遅くなり、つねに同じ面を太陽に向けて公転する。

『地球の長い午後』(オールディス)  遠い未来。月の引力の変化で地球の自転がしだいに遅れ、地球は片面が永遠の昼、片面が永遠の夜になった。それからさらに20億年後。昼の世界の気温上昇によって、樹木は空へ向けて無限に成長し、月にまで達する。その頃、月は地球から遠ざかり、同じ面を地球に向けて運行する惑星となったが、植物の巨大な束が、この2つの天体を結びつけていた。人類は文字を失うまで退化し、森の中に暮らしていた。

★2.地球を逆回転させる。

『スーパーマン』(ドナー)  悪人ルーサーの発射したミサイルが西海岸を直撃して大地震が起こり、ロイス・レーンが地割れに呑みこまれて死ぬ。スーパーマンが地球の周囲を自転方向と反対に超高速で飛び、地球を逆回転させる。こうして時間を地震発生前に戻し、スーパーマンはロイス・レーンを救い出す。

★3.地球に接近し、衝突する恐れのある天体。

『ザ・スター』(H・G・ウェルズ)  20世紀初頭。暗い宇宙空間に新惑星が現れ、太陽系に侵入して海王星と衝突した〔*この当時、冥王星はまだ発見されていない〕。衝突時に生じた熱によって、2つの惑星は白熱光を発する1つの巨星に変身し、しだいに地球に近づいて来る。火山の噴火、地震、洪水などのために、多くの人々が死ぬ。さいわい、巨星は地球に衝突することなく、遠り過ぎて行った。その後、世界の気候は以前より温暖になった。

『地球最後の日』(ワイリー&パーマー)  かつてどこかの恒星を巡る惑星だった2つの星(アルファ星とベータ星)が、何らかの原因で軌道を離れ、宇宙を放浪したあげく、太陽系へ向かって来る。計算の結果、アルファ星は地球と衝突し、ベータ星は地球のすぐそばを通過することが明らかになる。各国はそれぞれ宇宙船を建造し、アルファ星との衝突の直前に地球を脱出して、ベータ星へ向かう。僅かな数の人々が生き残り、ベータ星を第2の地球として新たな生活を始める。 

『妖星ゴラス』(本多猪四郎)  直径=地球の4分の3、質量=地球の6千倍、という黒色矮星ゴラスが、太陽系へ向かって来る。このままでは、1982年2月に地球と衝突する。ゴラスの爆破は不可能なので、南極に巨大なロケット推進装置を建設し、地球の軌道を変えることとなる。ゴラスの引力により海面が上昇し、多くの都市が水没したが、地球はゴラスとの衝突を免れた。ゴラスが遠ざかった後、今度は北極にロケットを設置し、地球の軌道をもとに戻す仕事が残っていた。

*→〔惑星〕1bの『さよならジュピター』(小松左京)では、ブラックホールの進路を変えて、ブラックホールと太陽の衝突を回避する。

*暗黒星雲が、太陽系内へ侵入する→〔日食〕7の『暗黒星雲』(ホイル)。

*小惑星が地球に衝突する→〔惑星〕5の『アルマゲドン』(ベイ)。

*彗星が地球に衝突する→〔彗星〕2

★4.地球の中心を通り抜ける。

『神曲』(ダンテ)「地獄篇」第34歌〜「煉獄篇」  イタリアに生まれ育った「私(ダンテ)」は35歳の時、詩人ヴェルギリウスに導かれて地獄へ降り、最下層に到る。そこで氷漬けになっている悪魔大王ルチーフェロの腰のあたりが地球の中心で、重力が集まっている。「私」たちはルチーフェロのわき腹の毛を伝って下へ降り、重力が逆転する箇所で身体の向きを変え、今度は地表へ向けての道を登る。「私」たちは南半球へ出、そこから煉獄の山に登る。

『ほらふき男爵の冒険』(ビュルガー)「世界の真ん中をつっきった旅」  「ワガハイ(ミュンヒハウゼン男爵)」は、イタリアのエトナ山の火口へ飛び込み、鍛冶の神ヴァルカンの仕事場に着いた。「ワガハイ」はヴァルカンの妻ヴィーナスと仲良くなったので、ヴァルカンは怒り、深い井戸のような所へ「ワガハイ」を突き落とした。「ワガハイ」はどこまでも堕ち、やがて大海原の真ん中にポチャンと出た。そこは南太平洋だった。「ワガハイ」はエトナ山から地球の中心を通って、南太平洋に落ちたのだ。

★5.第二の地球。

『モモ』(エンデ)5章  昔暴君コムヌスが「地球とまったく同じ大きさの、新しい地球を作れ」と命じ、人々はこの大事業に従事した。新しい地球を作る材料は、現在の地球から取るしかないので、新しい地球ができあがるに連れて、古い地球はやせ細っていく。人々は皆新しい地球に移住し、新しい地球が完成した時、古い地球はすっかりなくなってしまった。だから、今われわれがいるのは新しい地球の上なのだ〔*観光ガイドのジジが語る物語〕。

*「第2の地球」がカット・アンド・ペーストならば、→〔地図〕1の『博物館』「学問の厳密さについて」(ボルヘス)の「原寸大の地図」は、コピー・アンド・ペーストの物語である。

『ロストワールド』(手塚治虫)  太古、混沌としていた地球からちぎれて、宇宙の彼方に飛び去ったママンゴ星が、5百万年ぶりに地球に接近する。地球から10数人を乗せたロケットが、ママンゴ星に飛ぶ。ママンゴ星ではまだ恐竜が栄えており、人類発生以前の若い星であることがわかる。10数人の地球人たちは、争ったり恐竜に食われたりしてほとんどが死ぬ。敷島健一少年と、植物から作られた少女あやめがママンゴ星に残り、ママンゴ星のアダムとイブになる。 

★6.地球は生きている。

『火の鳥』(手塚治虫)「未来編」  西暦3404年。人類の滅亡は目前に迫っていた。人工生命の研究をしてきた猿田博士の前に火の鳥が現れ、「地球は生きものです」と告げる。「太陽も星も生きています。それは宇宙生命(コスモゾーン)です(*→〔生命〕1a)。宇宙生命も病気になり、死んでいきます。本当なら、ずっとずっと長く生きられるのに。地球は1千年ほど前から病気にかかりました。動物は死滅し、人間の進歩も止まりました」。

★7.人間が地球に変身する。

『オオカミそのほか』(星新一『おかしな先祖』)  「おれ」は狼にかまれ、満月の晩に狼になってしまった。次には蛇にかまれ、満月の晩に「おれ」は蛇になってしまった。どうやら、かまれたものに変身する体質らしい。動物にかまれるだけではない。ベッドに手をはさまれ、「おれ」はベッドに変身した。この前は地面の割れ目に足をはさまれた。つまり地球にかまれたわけだ。満月の晩にはどうなるのだろう。

『地球になった男』(小松左京)  平凡な三十男のサラリーマンである「彼」が、突如、何にでも望むものに変身できる能力を得た。「彼」はゴジラになったり、超巨大な性器になったりした後、どこかの宇宙の、どこかの太陽系の地球になった。あなたのいる地球は、「彼」が変身したものかもしれない。いや、「彼」は地球になるとともに、その上に生じた一切のものになったのだから、犬も猫も、そしてあなた自身も、すべて「彼」なのだ。

 *「犬も猫もあなたも、すべて彼=地球」という発想は、大地母神の神話と同様である→〔母なるもの〕3の『なぜ神々は人間をつくったのか』(シッパー)。

★8.地球の全生命の死滅。

『午後の恐竜』(星新一『午後の恐竜』)  核戦争が始まろうとしており、地球上の全生命の死滅が目前に迫った。その時、生命発生以来の歴史をふり返るパノラマ視現象が、地球全域で発生し、人々を驚かせた。三葉虫をはじめとする古生物がまず現れ、次いで恐竜が現れる。いずれも幻影だから、手で触れることはできない。マンモスが現れ、原始人が現れ、やがて人類の歴史が展開して行く。まもなく現代人たちが現れ、一切が終わるのだ。

 *死に瀕した人が、自分の全人生をふり返る→〔死〕10の『かいま見た死後の世界』(ムーディー)。

 *人類の未来をパノラマ視する→〔未来記〕2の『失楽園』(ミルトン)第11巻。

 *地球の死→〔空間〕7の『狼疾記』(中島敦)。

 

*宇宙の高みから、地球を見下ろす→〔国見〕7a・7b

 

 

【稚児】

★1.僧が稚児と契りを結ぶ。

『秋夜長物語』(御伽草子)  比叡山の桂海律師が三井寺の稚児梅若と契りを結ぶが、梅若は天狗にさらわれてしまう。三井寺の僧たちは、桂海が梅若をかどわかしたものと誤解し、三井寺と比叡山との間に戦争が起こる。三井寺は全焼し、その原因は自分にあると思った梅若は、勢多(瀬田)の橋から身を投げる。桂海は西山の庵で梅若の菩提を弔い、後に瞻西上人と名を改める。

『あしびき』(御伽草子)  比叡山で学問修行する若僧・侍従の君が、白河の辺りで、奈良の民部卿得業(とくごふ)の子である稚児をかいま見て、契りを交わす。稚児の「いづこの人?」との問いに、侍従の君は「『あしびきの』とこそ申したう侍るに・・・」と言って、山(=比叡山)の僧であることをほのめかす。稚児は継母によって長い黒髪を切られたり、命をねらわれたりするが(*→〔継子殺し〕2)、後には、侍従の君と稚児は高野山の庵室でともに修行に励み、相次いで往生した。

★2.現世の快楽にふける稚児と、来世の応報を想う稚児。

『二人の稚児』(谷崎潤一郎)  比叡山で育ち10代半ばになった稚児、千手丸と瑠璃光丸は、「『悪魔』『地獄の使い』などと言われる『女人』を見たい」と思う。千手丸は下山し、深草の長者の娘婿となって、神崎や江口の遊女たちと歓楽の日々を送る。瑠璃光丸は山にとどまり、煩悩を断つべく法華堂に参籠する。夢に気高い老人が現れ、「前世でお前を慕った女が、比叡山の鳩に転生した。お前とその女は、来世でともに西方浄土に生まれ、極楽の蓮華の上で菩薩の相を現ずるだろう」と告げる。

★3.稚児と姫君の恋物語。

『稚児今参り』(御伽草子)  比叡山の稚児が、内大臣の姫君を見て心奪われ、姫君に近づくべく女装し、女房となって仕える。やがて稚児は正体を明かして恋情を訴え、姫君は稚児の子を身ごもる。ところがその後、稚児は天狗にさらわれてしまい、姫君は稚児を捜して山中をさすらう。山中の庵の尼天狗が、稚児を姫君のもとへ返し(*→〔尼〕4)、稚児は男姿になって姫君を正妻とした〔*姫君は男児、次に女児を産み、女児は女御となって一家は栄えた〕。

 

 

【地図】

★1.原寸大の地図。

『博物館』「学問の厳密さについて」(ボルヘス)  地図学が完璧の極に達した王国があった。地理学者たちは、王国に等しい広さを持ち、寸分違わぬ1枚の王国図を作製した。しかし後代の人々は、この広大な地図を無用の長物と見なして、放棄した。西方の砂漠のあちこちには、裂けた地図の残骸が今でも残っている。そこに住むのは、獣や乞食たちである。

*「原寸大の地図」がコピー・アンド・ペーストであるならば、→〔地球〕5の『モモ』(エンデ)5章の「第二の地球」は、カット・アンド・ペーストの物語である。 

★2.地図上の距離と実際の距離の混同。

『笑顔始』「江戸絵図」  江戸絵図を見て地理に詳しくなった田舎者が、実際に江戸へ行ってきた人に、あれこれ尋ねる。「浅草の観音へ参詣したか?」「参りました」「吉原はどうであった?」「吉原へは行かなかった」「それは残念なことをした。浅草からは2〜3寸の所なのに」〔*実際は浅草の観音から吉原までは2キロほど〕。 

★3.地図に似た田虫の形状。

『ナポレオンと田虫』(横光利一)  ナポレオンの腹は田虫に侵され、患部は径5寸ほどの大きさになっていた。痒さに耐えかねて掻けば、田虫は分裂し、いっそう拡がる。それは、ナポレオンの軍馬が他国の領土を侵蝕して行く地図の姿に相似していた。ナポレオンは周囲の反対を押し切って、ロシア遠征を断行する。数十万の狂人の大軍が、フリードランドの平原を進んで行く。ナポレオンの腹の上では、田虫の版図は径6寸を越して、なおも拡がり続ける。 

*「皇帝であるナポレオンの田虫が拡がるにつれて、領土も拡がる」というのは、「神であるスサノヲが泣くと、山河が乾上る」という神話(*→〔涙〕7の『古事記』上巻)と、類似する発想である。 

★4.地図にも載らぬ島。

『地図』(太宰治)  慶長19年(1614)。琉球、首里城の王・謝源は、石垣島を5年がかりで攻め、征服した。彼は、蘭人の献上した地図を広げ、自分の新たな領土を確認しようとする。しかしそれは世界地図だったので、無名の小島は記されていなかった。謝源は「地図にも載らぬ小島を苦労して占領したのか」と、屈辱を感ずる。1年もたたぬうち、石垣島の兵が首里を襲う。謝源は残念がる様子もなく、小舟で首里から逃れ去った。

★5.地図を見て、自分のいる場所を知る。

『1,2,3・・・無限大』(ガモフ)1  ハンガリー人貴族の一団が、アルプス登山をして道に迷った。1人が地図を取り出して、長いこと調べたあとで叫ぶ。「今どこにいるかがわかった!」。皆が聞く。「どこだ?」。「向こうに高い山が見えるだろう。われわれは今、あのてっぺんにいる」。

 *他人を見て「自分だ」と思う物語を連想させる→〔アイデンティティ〕1b。 

★6.地図で見ると、南半球の大陸が倒三角形である理由。

『南半球の倒三角』(松本清張)  「私」は、インド旅行中に出会った日本人・白川保雄から、かつて地球には月が2つあった、との仮説を聞いた。そのうちの1つが北半球へ落ち、溶岩状になって南へ流れて行き、諸大陸ができた。だから大陸は北半球に多く、南半球には少ない。さらに、南半球の大陸は南へ行くほど細くなり、三角形を逆さにしたように見えるのだ。「私」はこの話を聞いて、先ほど見た摩崖彫刻「ガンジス河が天から降る(*→〔川〕11)」図を連想した。

 *月の一部が無数の隕石となって、地球へ落下する→〔月〕8の『柔らかい月』(カルヴィーノ)。

 

 

【父子関係】

★1.父親のわからない子。

『波』(山本有三)  小学校教員の見並行介は、もと教え子のきぬ子と関係を持ち、結婚する。結婚後1年もたたぬうちに、きぬ子は医学生と駆け落ちする。行介はきぬ子を許し、連れ戻す。きぬ子は男児駿(すすむ)を産み、子癇のために死ぬ。行介は、駿が果たして自分の子かどうか疑い、悩みつつ育てる。駿は小学生、中学生、と成長して行く。行介は「駿は、自分の子でも医学生の子でもない。社会の子供、人類の子供なんだ」と考える。

*複数の男と関係を持ったため、誰が父親かわからない→〔一妻多夫〕4・5a・5b

★2.真の父子かどうかの判定。

『ギリシア神話』(アポロドロス)第2巻第4章  アムピトリュオンは、双子の赤ん坊イピクレスとヘラクレスの、どちらが自分の子で、どちらがゼウスの胤なのか、知りたく思った(*→〔双子〕6)。そこで赤ん坊の臥床に蛇を投げ込んだところ、イピクレスは逃げ、ヘラクレスは蛇に立ち向かったので、アムピトリュオンは、イピクレスが自分の子であることを知った。 

『シャクンタラー』(カーリダーサ)第7幕  ドゥフシャンタ王が聖者の苦行林を訪れ、1人の少年を見て愛情を感じる。王は「かつて私が、行方知れずのシャクンタラー姫との間にもうけた子ではないか?」と思う。少年の手首から護符の霊草が地面に落ち、王はそれを拾う。少年とその両親以外の者が拾えば霊草は蛇となり、拾った者を噛むはずだったので、ドゥフシャンタ王と少年は父子であることがわかった。 

*老年になってからもうけた子→〔老翁〕4の『棠陰比事』6「丙吉験子」。

★3.真の父子であれば、子の血は父の血と融合し、父の骨に染(し)み込んで行く。

『閲微草堂筆記』「槐西雑志」151「骨肉の鑑定」  親と子の血を取って混ぜ合わせ融合すれば真の親子だ、という鑑定の古法があった。ある男がこれを信用せず、自分の血と息子の血をまぜても融合しないので、「鑑定法は当てにならない」と主張した。しかしその息子は、妻が情夫との間にもうけた子だった。

『大岡政談』「小間物屋彦兵衛之伝」  小間物屋彦兵衛が鈴ヶ森で獄門にかけられたと聞き、夜、息子の彦三郎が刑場へ行って父の骨を捜す。白骨が多くあって、どれが父の骨かわからないので、彦三郎は自分の指を噛んで血をしぼり、骨に染(し)み込んで行くかどうか試す。しかし、どの骨にも血は入らず、流れてしまった〔*実は大岡越前守は小間物屋彦兵衛を処刑せず、某所にかくまっていた〕。

『聊斎志異』巻5−190「土偶」  王氏が亡夫をしのんで土偶を造ると、夫の霊が土偶に乗り移り、王氏を身ごもらせて去って行った(*→〔像〕1c)。王氏は男児を産んだが、本当に亡夫の子か疑う人がいたので、男児の指を刺して、その血を土偶に塗った。血は、たちどころに滲(し)みこんで、痕もとどめなかった。他の土偶に塗っても滲みこまず、ひと拭いでふきとれた。

*父の髑髏に血が吸い込まれる→〔髑髏〕1aの『南総里見八犬伝』第6輯巻之5下冊第60回・第7輯巻之2第65回。

★4.息子が父親を見るが、それが父であることを友人たちに言わず、赤の他人のような態度をとる。

『父』(芥川龍之介)  修学旅行に出かける朝。生意気盛りの中学生である「自分」たちは、停車場の待合室に出入りする人々を、遠慮なく品評して笑った。特に能勢五十雄の下す評言が、いちばん辛辣で諧謔に富んでいた。時代遅れの背広姿の老人がいたので、皆は「あいつはどうだい?」と能勢に批評を求める。老人は実は能勢の父だったが、能勢は「あいつはロンドン乞食さ」と言って皆を笑わせた→〔親孝行〕6

★5.母は父の姿を、幼い娘の目から隠す。父は幼い娘を見ても、他人のふりをする。

『父』(太宰治)  39歳の小説家である「私」は、家庭も家計も顧みず、今日も遊びに出かける。白昼、「私」は酒に酔い、四十女の前田さんと街を歩く。半病人の妻がマスクをかけて、下の男の子を背負い、お米の配給の列に立っている。傍にいた上の女の子が「私」に気づいたので、妻は「ねんねこ」の袖で、女の子の顔を覆い隠す。前田さんが「お嬢さんじゃありません?」と言い、「私」は「冗談じゃない」と否定した。

★6.父親の遺骸に平気で矢を射込む息子と、射ることができない息子。

『ゲスタ・ロマノルム』45  ある王の妃が4人の王子を産んだが、最初の3人は愛人との間の子で、4人目だけが王の子だった。王の死後、王国の支配権をめぐる争いが起こった時、王の秘書だった老騎士が、「王の御遺骸に、矢をもっとも深く射込んだ王子が、支配権を得るべきです」と言った。第1の王子は遺骸の右手を、第2の王子は口を、第3の王子は心臓を射た。ところが第4の王子は、「御遺骸がこのように傷つけられるとは、痛ましいことです。私は、父上のお身体を射ることなどできません」と嘆いた。国民は、第4の王子をたたえて玉座にすわらせ、他の3王子を追放した。

 *「赤ん坊を切って2人で分けよう」という母と、「それなら私はいりません」と言う母→〔裁判〕1aの『列王紀』上・第3章。

 

*蛇である父の性質を受け継ぐ子→〔蛇婿〕5。  

*皮膚の色によって、子供の父親がわかる→〔皮膚〕3

*父子関係の解消→〔縁切り〕1の『今昔物語集』巻29−11。

 

 

【父殺し】

★1.息子が父親を殺す。

『カラマーゾフの兄弟』(ドストエフスキー)  フョードル・カラマーゾフには3人の息子と1人の私生児がいた。秀才の次男イワンは、「神がなければすべてが許される」という虚無的な理論を語り、私生児スメルジャコフが、イワンの理論にそそのかされて父フョードル・カラマーゾフを殺す。それはイワンが心の底で望んでいたことだった。

『今昔物語集』巻3−27  悪友提婆達多が阿闍世王をそそのかし、「君は父王を殺して新王となれ。私は仏を殺して新仏となろう」と言う。阿闍世王は父頻婆沙羅王を捕らえ、7重の室内に幽閉して殺す。

*→〔後ろ〕2の『神統記』(ヘシオドス)。

*→〔父と息子〕8の『オイディプス王』(ソポクレス)。

*→〔母殺し〕1の『今昔物語集』巻4−23。

★2.息子が、継父になろうとする男を殺す。

『午後の曳航』(三島由紀夫)  13歳の登は、未亡人である母房子と2等航海士塚崎竜二の情事を、隣室の覗き穴から見て恍惚とする。彼は、海の男竜二を英雄視し、あこがれる。しかし竜二は海を捨てて陸に上がり、房子と結婚して、登の父親になろうとする。父親としてのふるまいをし始める竜二を登は嫌悪し、仲間の少年たち数人とはかって、竜二を殺す。

★3.義父殺し。

『夏祭浪花鑑』「長町裏殺しの場」  団七九郎兵衛の舅(=妻お梶の父親)義平次は強欲な男で、遊女琴浦を悪人に売り渡して金を得ようとする。団七はそれを阻止しようと、義平次と激しく争う。義平次が団七の脇差から刀を抜き取って振り回すので、団七は刀を取り戻そうとするうちに、義平次を一太刀斬ってしまう。義平次は「人殺し!親殺し!」と叫び出し、団七は、やむをえず義平次の口をふさいで斬り殺す。

 

 

【父さがし】

★1.父を捜し尋ねる息子。

『宇治拾遺物語』巻14−4  遣唐使が、唐にいる間に妻をもうけて、男児を産ませた。男児がまだ幼いうちに、遣唐使は日本へ帰った。唐土の妻は、「遣唐使某の子」と書いた札を男児の首につけて、海に放つ。男児は大魚の背に乗って日本まで運ばれ、難波の浦にいた父に見つけられる。魚に救われたゆえ、男児は「魚養(うをかひ)」と名づけられた。魚養は成長して書道の名手となった。

『熊野の御本地のさうし』(御伽草子)  天竺・摩訶陀(まかだ)国の善財王には千人の后がいたが、そのうちの1人、五衰殿のせんかう女御だけが王子を懐妊する。他の999人の后が妬んで讒言し、五衰殿の女御は山で斬首される。その折、后は王子を産み落とす。王子は山の動物たちや、ちけん聖に養われ、7歳の時に内裏へ参上して父善財王と対面する。王は五衰殿の女御の死を悔い悲しむ〔*類話の『神道集』巻2−6「熊野権現の事」では、「五衰殿の善法女御」「喜見上人」とするなど小異がある〕 →〔神になった人〕2

『古事談』巻6−49  平珍材が美作から上洛する途中、備後国上治郡に寄宿し、郡司の娘を召して腰を打たせているうちに、娘は懐妊した。生まれた子は7歳になった時、郡司に連れられて京の珍材を尋ねて来た。珍材が子を見ると、二位中納言に至るべき相があった〔*『江談抄』第2−26に類話〕。

『山椒大夫』(森鴎外)  厨子王が生まれた年に、父陸奥掾正氏は筑紫の安楽寺へ左遷された。厨子王は12歳の秋に、姉安寿や母とともに岩代の信夫郡の家を出て、父を尋ねる旅をする。母と別れ姉を失った後に、厨子王は都で加冠元服し、筑紫の父がすでに死去していたことを知る。

『浜松中納言物語』冒頭欠巻部〜巻1  中納言は少年時に、父式部卿宮を亡くした。父宮は死後数年以上を経て中納言の夢枕に立ち、「私は九品浄土に往生したいと願っていたが、1人息子である中納言への思いに引かれ、現世に転生して唐帝の第三皇子に生まれた」と告げる。中納言は唐へ渡り、皇子と対面する。皇子は7〜8歳ほどで、心のうちには中納言を我が子と知りつつ、言葉に出して親子の名乗りをすることはなかった。

*冥界の父に会いに行く→〔冥界行〕3に記事。

★2.証拠の品を持って父のもとへ来る息子。

『ジャータカ』第7話  ブラフマダッタ王が、遊園のたきぎ拾いの女と同宿し、女は懐妊する。王は、「男児が生まれたらこれを持って連れて来るように」と言って女に指輪を渡す。生まれた子ボーディサッタは、証拠の指輪を持って母とともに王宮を訪れ、副王の位を得る。

『田村の草子』(御伽草子)  将軍俊仁が陸奥の女に一夜の情をかけ、「もし忘れ形見があらば、これをしるしに尋ねよ」と、鏑矢1すじを与えて帰洛する。やがて生まれた男児ふせり殿は、10歳になって父が将軍俊仁であることを知る。彼は鏑矢を持って父を尋ね対面し、名を田村丸(元服して俊宗)とあらためる〔*田村丸は父の跡を継いで将軍となり、鈴鹿山の鬼神・大嶽丸や、近江国の悪事の高丸を討伐する〕。

*息子が剣を持って父を尋ねる→〔剣〕2に記事。

★3.証拠の品を持って父のもとへ来るにせ息子。

『大岡政談』「天一坊実記」  8代将軍吉宗は紀州和歌山で生まれ、青年時に腰元・沢の井を愛して彼女は懐妊した。吉宗は、「男児出生ならば将来引き取ろう」とのお墨付きと短刀を渡した。それから20年後、「天一坊」と名乗る僧がお墨付きと短刀を持ち、「自分は将軍の落胤である」と称して、江戸城にある吉宗に対面しようと、やって来た。しかしそれはにせ者だった。 

★4.父と別れて育ちながらも、父が誰かを知っている息子。

『賀茂』(能)  秦(はだ)の氏女(うじにょ)が、川で拾った白羽の矢を庵の軒にさして置き、やがて懐妊して男児を産んだ。男児が3歳の時、人々が「父は?」と問うと、男児は白羽の矢を指してそちらを向いた。矢は、たちまち雷(いかづち)となって天に昇り、神となった。これが別雷(わけいかづち)の神である。 

『播磨国風土記』託賀の郡賀眉の里  道主日女命が父なくして子を産んだ。諸神を集めて酒宴をすると、子は天目一命に向かって酒を奉った。それで天目一命が父であると知れた。

『ペンタメローネ』(バジーレ)第1日第3話  王女が夫なくして男の双生児を産んだ。双生児が7歳になった時、その父親を明らかにするため大宴会が催される。貴族たちの中に父親はおらず、双生児はボロ服のペルオントに駆け寄り頬ずりをするので、彼が父であるとわかった→〔樽〕3

*父の所まで這って行く→〔口〕1の『捜神記』巻11−33。

*父の膝の上に乗る→〔膝〕1aの前田公と徳田のおりんの伝説。

★5.父を捜し尋ねる娘。

『景清』(能)  平家の武将悪七兵衛景清は、一門滅亡後、盲目の身となって、日向の国宮崎に流された。かつて景清が尾張熱田の遊女に産ませた娘人丸(ひとまる)が、父を捜して宮崎まで旅し、乞食姿で藁屋に住む父景清と対面する。景清は、我が亡き後の供養を頼んで、娘を故郷へ帰す。

 

 

【父と息子】

★1.父と息子とが、同じ一人の女と関わりを持つ。

『苦の世界』(宇野浩二)その2  鶴丸に金がないので、彼の愛人である芸者「あさ顔」は、他の男に身うけされる。名古屋駅の改札口に「あさ顔」を迎えに来た男を鶴丸が遠目に見ると、何とそれは彼の父親だった。

『源氏物語』「桐壺」「若紫」「紅葉賀」  桐壺帝は、藤壺女御(=先帝の四の宮)が16歳の頃、彼女を後宮に入れる。それから数年後に桐壺帝の息子光源氏が、藤壺女御(*光源氏にとっては継母にあたる)と関係を持ち、光源氏19歳・藤壺女御24歳の年の2月10余日、秘密の子(=後の冷泉帝)が誕生する〔*→〔百足〕4の『夢の浮橋』(谷崎潤一郎)は、そのタイトルも内容も『源氏物語』にもとづいている〕。

『ドン・カルロ』(ヴェルディ)  スペイン王子ドン・カルロは、婚約者フランス王女エリザベッタを一目見ようとして出かけ、フォンテンブローの森で道に迷ったエリザベッタと偶然出会い、言葉をかわす。ところがエリザベッタの結婚相手は、突然、王子ではなくその父王フィリッポに変更されてしまう〔*後、父王フィリッポと王子ドン・カルロは、異端者の宗教裁判を巡って対立する〕。

『初恋』(ツルゲーネフ)  16歳の「わたし(ヴラジーミル・ペトローヴィッチ)」は、21歳の公爵令嬢ジナイーダに恋をするが、彼女には他に愛する人がいるようだった。やがて「わたし」は、自分の父がジナイーダの愛人であることを知った〔*しかし、ほどなく父は42歳で急死し、ジナイーダも別の男と結婚した後、出産のため死んだ〕。

*左大将とその息子が、同じ女(対の上)と関係を持つ→〔母と娘〕1の『有明けの別れ』巻1。

*父の処女妻を、息子が奪う→〔処女妻〕2の『夏の夜は三たび微笑む』(ベルイマン)。

★2.父に及ばぬ息子。

『ギリシア神話』(アポロドロス)摘要第1章  幽閉されたダイダロスは空を飛ぶ翼を作り、息子イカロスとともに脱出する。しかしイカロスは父の注意にもかかわらず、高く飛びすぎたために、太陽熱で翼の膠が溶けて海に墜死する。

『変身物語』(オヴィディウス)巻2  太陽神の息子パエトンは、父に懇願して、1日だけ父の代わりに黄金作りの馬車に乗って空を駆ける。しかし軌道を踏み外し、天も地も炎に焼かれる。ユピテル(ゼウス)が雷電を投げ下ろし、パエトンは死んでエリダノス川に墜落する〔*『本当の話』(ルキアノス)が「まったくの作り話である」とことわって語るところによれば、その後パエトンは太陽に住み、住民たちの王となった〕。

*パエトンの馬車が地球に近づきすぎ、大地が汗を流した→〔海〕1の『パンタグリュエル物語』(ラブレー)第二之書第2章。

★3.父を尊敬し、慕う息子。

『父ありき』(小津安二郎)  堀川は早くに妻を亡くした。1人息子は、中学から大学まで、ずっと寄宿舎や下宿の暮らしだった。大学卒業後は秋田の工業学校の教師として赴任し、東京で働く父とは、さらに遠く離れてしまう。「父と一緒に暮らしたいから、教師を辞めて東京で就職しよう」と息子は考える。しかし父は「教師を続けるべきだ」と諭す。父は息子の縁談を決めた後に、脳溢血で死ぬ。息子は、「父が倒れる前、僕は上京して、たった1週間だけど一緒に暮らした。あの時がいちばん楽しかった」と、新妻に語る。

★4.父が、自分の果たせなかった夢を、息子に託す。 

『巨人の星』(梶原一騎/川崎のぼる)  太平洋戦争下。星一徹は栄光の巨人軍に入団し、右投げ左打ちの3塁手として活躍を期待されるが、徴兵されて肩をこわし、復員後も公式戦に出ることなく引退した。一徹は、自らの叶わなかった夢を息子・飛雄馬に託そうと、まだ小学生の飛雄馬の上半身に大リーグボール養成ギプスをつけて鍛える。飛雄馬は高校中退後、左腕投手として巨人軍に入団し、川上哲治監督の現役時代の背番号16を与えられる。

★5.父の世界と息子の世界。

『生れてはみたけれど』(小津安二郎)  ある会社の課長が、郊外の専務の家の近所へ引っ越して来る。課長の2人の息子は餓鬼大将になって、専務の子供を家来扱いする。ところが父の課長は、専務にお世辞を言って機嫌をとり、専務の子供にさえペコペコする。そのありさまを見た課長の息子たちは、父親の情けなさに抗議する。母親が「お前たち大きくなって、お父ちゃんより偉くなればいいじゃないか」となだめる。

★6.息子が父に反逆する。

『アーサーの死』(マロリー)第21巻第1章〜第4章  アーサー王と異父姉マーゴースとの間に生まれたモードレッドは、父アーサーがフランスへ遠征中に、勝手にイギリスの王となり、また父王の妃グィネヴィアと強引に結婚しようとする(*グィネヴィアはこれを拒否してロンドン塔に立てこもる)。反乱の知らせを受けて帰国したアーサーの軍と、モードレッドの軍とが闘い、アーサーはモードレッドと相討ちをして、2人とも死ぬ。

『サムエル記』下・第13〜18章  ダビデ王の子アブサロムは、妹タマルが異母兄アムノンに辱められたことに憤り、アムノンを殺す。アブサロムは、やがて王と称して父ダビデと敵対する。エフライムの森の決戦で、アブサロムは敗れ死ぬ。

★7.父が敵となって、息子の前に立ちはだかる。

『巨人の星』(梶原一騎/川崎のぼる)  星飛雄馬は巨人軍の投手となって、大リーグボール1号をあみ出す。すると父一徹は中日ドラゴンズの打撃コーチに就任し、米人選手オズマを指導して、大リーグボールを打ち破る。飛雄馬は大リーグボール2号、3号を開発するが、極端な酷使によって左腕筋が断裂し、完全試合を目前に、飛雄馬はマウンド上に倒れ臥す。完全試合の成否を審判団が協議する中、父一徹は飛雄馬に言う。「お前はわしに勝ち、この父を乗りこえた。わしら親子の勝負は終わった」。

★8.互いに父であり息子であると知らずに戦う。

『オイディプス王』(ソポクレス)  オイディプスはテーバイのライオス王の子だったが、生まれてまもなく山に捨てられ、コリントス王に育てられた。オイディプスは成長後、旅に出て、三叉路で、ライオス王が数名の供人を連れ車に乗って来るのと出会う。道を譲る譲らぬの争いとなり、オイディプスは相手を実の父と知らず、杖でなぐり殺す。

『王書』(フェルドウスィー)第2部第4章「悲劇のソフラーブ」  イランの英雄ロスタムは、ある時、対立するトゥーラーン国の属国に足を踏み入れ、そこの王女との間に男児ソフラーブをもうけた。ソフラーブは成長後、イランに攻め入る。ロスタムとソフラーブは、互いを父子と知らずに一騎打ちをする。ロスタムは高齢だったが、神に祈って若い時代の力を取り戻す。ソフラーブに致命傷を負わせた後に、ロスタムは自分が息子と闘っていたことを知る。

★9.養父と息子。

『道草』(夏目漱石)  健三は3歳から8歳まで、島田夫婦のもとで養育された。彼らは健三をかわいがって恩を着せ、将来の健三からの恩返しを期待していた。ところがやがて島田夫婦は離婚することになり、健三は実家に復籍した。健三が学業を修め洋行から帰ってまもなく、老いた島田が健三の家をしばしば訪れ、金を無心するようになった。不愉快な数ヵ月の後、健三は手切れ金百円を渡して、ようやく島田との関係を絶つことができた。

 

 

【父と娘】

★1.父が娘を溺愛する。

『ゴリオ爺さん』(バルザック)  製麺業で財を築いたゴリオは、妻の死後、愛情をもっぱら2人の娘にそそぎ、莫大な持参金をつけて姉娘を伯爵に嫁がせ、妹娘を銀行家に嫁がせる。2人の娘は結婚後もゴリオに金の無心を続け、ゴリオは娘たちの幸福を願って貴重な銀器を売り、年金を解約して金を工面する。やがてゴリオは無一文になり、病に倒れるが、娘たちは見舞いに来ず、臨終にも間に合わなかった。

★2.娘の結婚による父との別れ。

『花嫁の父』(ミネリ)  弁護士スタンリーは妻との間に、1人の娘と2人の息子をもうけていた。20歳になる娘ケイに恋人ができ、娘の希望どおりに華やかな結婚式が行なわれる。新婚夫婦は旅行に出かけ、その夜スタンリーは、娘のいない寂しさをかみしめる。そこへケイが旅先から電話をかけて来たので、スタンリーはたちまち元気を回復し、「結婚しても娘はずっと娘だ」と妻に言う。

『晩春』(小津安二郎)  早くに妻を亡くした初老の大学教授曾宮は、娘紀子(のりこ)と2人暮らしをしている。紀子は適齢期をすぎた27歳であるが、結婚したがらず、いつまでも父と2人でいたい、と訴える。しかし結局、曾宮に諭(さと)されて、紀子は見合い結婚をする(*→〔結婚の策略〕2)。結婚式の夜、帰宅した曾宮は1人でりんごの皮をむく。その手が途中で止まり、彼はうなだれる。

★3.嫁に行く娘と行かない娘の対比。

『秋刀魚の味』(小津安二郎)  会社重役の平山は、早くに妻を亡くした。長男は結婚して独立し、家には次男と娘がいる。娘の路子は24歳で結婚適齢期だが、平山はまだ路子を手放したくない。ある日平山は、中学生時代の恩師・佐久間先生に会う。先生は今、場末の中華ソバ屋となって、生計を立てている。先生も奥さんを亡くし、1人娘に家事をさせているうち、娘は婚期を逃して、いまだに独身だった。老父と中年娘の2人暮らしを見た平山は、「路子を嫁にやろう」と決心した。

*貧農の父親が娘を嫁に出さず、田畑の仕事をさせる→〔父娘婚〕5の『土』(長塚節)。

★4.いつわりの父と娘。

『ロリータ』(ナボコフ)  30代後半のハンバート・ハンバートは、10代前半の少女ロリータと関係を結ぶ。2人は父娘をよそおってアメリカ各地の自動車旅行を続け、モーテルを転々とする。

★5.娘が、父と敵対する立場の青年を、夫や恋人にする。

『歌行燈』(泉鏡花)  能楽界の御曹司恩地喜多八は、按摩宗山と芸競べをして彼を憤死させる。宗山の娘お袖は父の死後芸者に売られ、流浪の門付けとなった喜多八に巡り合い、舞を教えられる。父の仇である喜多八に、お袖は恋心を抱く→〔宿〕5

『敵討義女英(かたきうちぎじょのはなぶさ)(南杣笑楚満人)  小しゅんは若侍岩次郎と恋仲になるが、岩次郎が兄の仇として狙う舟木逸平とは、小しゅんの父竹筍斎のことだった。小しゅんは、「舟木逸平は父の友人で、今宵泊まるから討て」と岩次郎に教え、自分が父の身代わりに座敷に臥して、首を討たれる→〔仇討ち〕2

『二都物語』(ディケンズ)  非道なサン・テヴレモンド侯爵兄弟が、医師マネットをバスティーユの独房に18年間幽閉する。マネットは侯爵兄弟とその子孫を告発するが、後にマネットの娘ルーシーの夫となったチャールズは、侯爵の子であった。心ならずもマネットは、愛娘の婿を断頭台に送らねばならなくなる→〔瓜二つ〕1

★6.娘が父を裏切り、夫を助ける。

『御曹子島渡』(御伽草子)  蝦夷が島のかねひら大王の娘あさひ天女は、御曹子義経と夫婦になる。義経の頼みにより、天女は、父王秘蔵の兵法の巻物を蔵から盗み出す。義経は巻物を書写して島を脱出し、怒ったかねひら大王は天女を八つ裂きにして殺す。

 

 

【父の霊】

★1.父の霊。

『アエネーイス』(ヴェルギリウス)第5巻  トロイア陥落後、アエネーアスは部下たちとともに海上を彷徨し、新国家をうち建てるべきイタリアの地に船を向ける。夜、亡父アンキーセスの霊がアエネーアスのもとに現れ、「イタリアの地に上陸したら、巫女シビュラを案内人として地下界に降り、わしに会いに来るがよい」と告げる→〔冥界行〕3。 

『源氏物語』「明石」  3月上巳の日以来、須磨の浦には暴風雨が続き、光源氏のいる寝殿の廊にも落雷があった。13日の暁近く、光源氏の夢に亡父桐壺院が現れ、「住吉明神の導きのままに、はやくこの須磨の浦を去れ」と告げる。その日、明石入道が舟で迎えに来て、光源氏は明石へ移る。

『今昔物語集』巻10−24  漢代の人賈誼は、息子の薪が幼い頃に死んだ。薪が父賈誼の墓前で学問の成就を願うと、賈誼の霊が現れ、以後15年に渡って毎夜墓前で薪に学問を授けた。

*父の霊が「仇を討ってくれ」と、息子に請う→〔霊〕6bの『ハムレット』(シェイクスピア)第1幕。

★2.父祖の霊。

『大鏡』「師輔伝」  冷泉帝は、もののけにとりつかれており、「行幸などはどうなることか」と、人々が心配した。しかし大嘗会の御禊の折には、立派に行幸された。これは、母方の祖父にあたる九条殿師輔公の霊が、「人の目にあらはれて(人目に見えるくらいまざまざと現れて)」(*「人の目にあらはれで(人の目にはみえないが)」という解釈もある)、冷泉帝の後ろを抱いて御輿の中に付き添っていたのだった。

 

 

【父娘婚】

★1.互いに父親であり娘であることを知らずに、性関係を結ぶ。

『好色敗毒散』巻1−1「長崎船」  長崎のにわか分限者角左衛門が、難波の色里の太夫に打ち込んで通い続け、ついに身請けする。祝いの酒宴で角左衛門は身の上話を始め、「かつて貧しかった時代に、6歳の娘を手放した。この太夫を見て『娘も生きていればこれぐらいの年恰好』と思ったのが恋の始まりだ」と語る。それを聞いた太夫は、「それなら私は貴方の娘です」と言い、身請けは取りやめになった→〔親孝行〕4

★2.娘が自分の正体を隠して父親と交わり、男児を産む。

『変身物語』(オヴィディウス)巻10  ミュラは父王キニュラスを恋し、暗闇の中、自らの正体を隠して父王との交わりを重ねる。幾夜かの後、キニュラスは燈火で女を照らし、それが娘ミュラであることを知る。憤ったキニュラスは剣を抜いてミュラを追い、ミュラは曠野へ逃げて、男児アドニスを産む(*→〔誕生〕1)〔*『ギリシア神話』(アポロドロス)第3巻第14章では、娘の名はスミュルナ、父の名はテイアースで、父娘は12夜の間臥床をともにした、と記す。『神曲』(ダンテ)「地獄篇」第30歌は、ミュラは死後、地獄の第8圏谷第10濠に堕ち、狂乱状態で裸体のまま走り回っている、と記す〕。

★3.娘二人が、父親を眠らせて交わり、男児を産む。

『創世記』第19章  ソドムの町から逃れたロトと2人の娘は、山の洞穴に住んだ。そこには男がいなかったので、2人の娘は父親ロトにぶどう酒を飲ませて眠らせ、父親と寝て子を得た。父親は、娘が寝に来たのも立ち去ったのも気づかなかった。姉は男児を産み、「モアブ(父親より)」と名づけた。彼は現在のモアブ人の先祖である。妹も男児を産み、「ベン・アミ(私の肉親の子)」と名づけた。彼は現在のアンモン人の先祖である。

★4a.父親が、眠る娘を犯す。

『魚服記』(太宰治)  15歳の少女スワは炭焼きの父と2人で、本州北端の馬禿山(まはげやま)の小屋に暮らしていた。初雪の降った夜、スワは眠っているうちに父に犯された。スワは「阿呆」と叫んで、小屋から走り出る。滝まで来て、「おど!」と低く言って飛び込んだ。スワは小さな鮒に化し、滝壺へ吸い込まれていった。

★4b.父親が、力ずくで自分の娘を犯す。

『イソップ寓話集』(岩波文庫版)379「娘に恋をした男」  男が自分の娘に恋をした。彼は女房を田舎へやると、力ずくで娘を辱めた。娘は言った。「お父さん、畜生のようなことをしてくれたわ。こんなことなら、百人の男に身をまかせる方が良かった」。

★4c.父親が自分の娘を犯し、娘は女児を産む。

『チャイナタウン』(ポランスキー)  実業家ノア・クロスは、自分の娘・15歳のイブリンを犯し、イブリンは女児キャサリンを産んだ。その後イブリンは、水道電力局の技師モーレイと結婚し、2人はキャサリンをノア・クロスから隠す。ノア・クロスはダム建設の利権をめぐってモーレイと対立し、彼を殺す。さらに、キャサリンを自分の元に引き取ろうとするので、イブリンはキャサリンを連れて逃げる。しかし警察がイブリンをモーレイ殺しの犯人と誤解して、彼女を射殺する。

★4d.父親が自分の娘を愛し、娘は男児を産む。娘は後に、男児を夫とする(父娘相姦の後に、母子相姦が行なわれるわけである)。

『ゲスタ・ロマノルム』244  皇帝が自分の娘を愛し、娘は男児を産んだ。男児は捨てられ、他国の王子として育てられる。成人した王子は、皇帝の娘と、互いに母であり息子であることを知らずに結婚する。後にこのことを知った皇帝・娘・王子は、7年間、贖罪の行(ぎょう)をする。しかし行を終えた後、皇帝と娘はまたしても性関係を持ってしまう。王子はその現場を見て、2人を殺した。

★5.父娘相姦の噂。

『土』(長塚節)  鬼怒川西岸の貧農・勘次は、妻お品を破傷風で亡くした(*→〔破傷風〕1)。後には15歳の娘おつぎと、3歳の弟与吉が残された。与吉はおつぎに抱かれると、おつぎの乳房をいじった。勘次にとって、おつぎは貴重な労働力であり、父と娘は一緒に田畑を耕す。おつぎが20歳になっても、勘次は嫁に出そうとしない。村人たちは「勘次とおつぎは夫婦のようだ」と言って、父娘相姦の噂までした〔*その後、火事によって勘次の家が全焼するところで物語は終わる〕。

★6.父親が、自分の娘との結婚を望む。

『ペンタメローネ』(バジーレ)第2日第6話  王妃が臨終の床で、「私と同じくらい美しい女とでなければ再婚しないでほしい」と、王に請う。そこで王は、妃との間に生まれた娘プレツィオーサに結婚を迫る。プレツィオーサは父王を非難し、恐ろしげな熊に変身して(*→〔棒〕1)、父王を脅す。父王がおびえて、ふとんの中に隠れている間に、熊は王宮から逃げ去る。

『ろばの皮』(ペロー)  王妃が臨終の床で、「私よりも美しく賢い女となら再婚してもよい」と、王に言い遺す。王は新しい妻を捜すが、条件にかなうのは、王と妃との間に生まれた王女だけだったので、王は自分の娘である王女と結婚しようとする〔*類話の『千匹皮』(グリム)KHM65では、妃同様の金髪を持つ美女を捜す〕。王女は宮殿から逃げ去り、ろばの皮をかぶって身をやつし、農家の下女となる。

★7.父娘婚とも双子婚とも解釈できる物語。

『なぜ神々は人間をつくったのか』(シッパー)第8章「禁断のパートナー」  サニンは独力で生まれ、独力で息子コントロンを産んだ。コントロンは狩りの名手になった。ある日、コントロンの腿に腫れ物ができ、どんどん大きくなったので、コントロンは狩り用のナイフで腫れ物を切開する。中から女の赤ん坊が出てきて、たちまち若い娘になった。コントロンと娘は夫婦になった(アフリカ。マリ、マンディンゴ族)〔*娘はコントロンの子とも、生まれなかった双子の妹とも考えられる〕。

 *生まれなかった双子→〔双子〕5の『ブラック・ジャック』(手塚治虫)「畸形嚢腫」・〔人面瘡(人面疽)〕2の『人面瘡』(横溝正史)。

 *生まれなかった姉→〔腹〕5の『百物語』(杉浦日向子)其ノ60。

★8.養父と養女の結婚。

『哀しみのトリスターナ』(ブニュエル)  孤児である少女トリスターナは、亡母と関係のあった没落貴族ドン・ロペに引き取られ、彼の養女となった。やがてドン・ロペは、トリスターナの養父であるとともに、彼女の夫にもなる。トリスターナは、年齢の離れたドン・ロペに愛情を抱くことができず、若い愛人と駆け落ちするが、脚に腫瘍ができたため、「父の家で死にたい」と言って、ドン・ロペのもとへ戻って来る。彼女は片脚切断手術によって死を免れ、ドン・ロペと正式に結婚する。しかし最後には、彼女は夫を死に追いやった→〔夫殺し〕6

 

*父娘相姦を示す謎→〔系図〕2aの『ペリクリーズ』(シェイクスピア)。

 

 

【乳房】

★1.人間が乳房に変身する。 

『乳房になった男』(ロス)  「ぼく」はニューヨーク州立大学の比較文学科の教授で、38歳になる健康な男性だ。その「ぼく」が突然、巨大な乳房に変身してしまった。全身が性感帯だ。「ぼく」は「乳頭をペニス代わりにして、女性と交わりたい」と願う。でも、ひょっとしたら「ぼく」は、自分を「乳房だ」と思い込んでいるだけかもしれない。これまで教室で、ゴーゴリの『鼻』やカフカの『変身』を熱心に教えてきた。そのため気が狂ったのではなかろうか。しかし医者は、「君は乳房だ」と言う。

★2.乳房を露出して、敵を追い払う。

『赤毛のエイリークのサガ』  幻の地ヴィーンランド(=北アメリカ大陸と考えられている)を求め、航海を続けるヴァイキングたちが、ある河口に着いて上陸する。原住民スクレーリンギャルとの戦いになって、ヴァイキングたちは敗走する。赤毛のエイリークの娘フレイディースが踏みとどまり、服の下から乳房を引き出して、抜き身の剣でたたく。スクレーリンギャルはそれを見て恐れ、逃げ去った。

★3.乳房を恐れる。

『聊斎志異』巻12−487「李象先」  李象先の前世は僧だった。死んだ時、魂は僧坊の上に出て、その後、1軒の家へ飛んで行った。門に着くと、赤ん坊の身体になっていた。赤ん坊は、母の乳房を恐れた。はじめは目を閉じて乳を吸ったが、3ヵ月余りたつと乳房をこわがって泣きわめき、もう乳を飲まなかった。この赤ん坊が李象先で、彼は山東省の名士である。彼は老人になっても、女の乳房をこわがった。

★4a.乳房を握って安らぎを感じる。

『暗夜行路』(志賀直哉)前篇第二の14  時任健作は自分の出生を知って(*→〔出生〕2c)、惨めな気持ちになった。接するものすべてが、屈辱の種だった。彼は娼家へ上がり、女のふっくらとした重みのある乳房を柔らかく握ってみる。軽く揺すると、気持ちのいい重さが掌に感ぜられ、彼は「豊年だ!豊年だ!」と言った。それは彼の空虚を満たしてくれる唯一の貴重な物、その象徴と感ぜられた。

★4b.乳房をつかんだ手が離れない。

『因果ばなし』(小泉八雲『霊の日本』)  大名の奥方が、重病で死の床につく。奥方は、19歳の側室・雪子を憎み、両手で雪子の乳房をつかんで息絶える。外科医が奥方の両手を手首から切断するが、手は黒ずみ干(ひ)からびても、乳房から離れない。毎晩、丑の刻から寅の刻まで、両手は乳房を締めつけて、雪子を苦しめる。雪子は出家して名を「脱雪」と改め、奥方の位牌を持って諸国を巡礼する。しかし両手は、いつまでも彼女を責めさいなんだ。 

★5.乳房を手術する。

『華岡青洲の妻』(有吉佐和子)  「乳房を切れば、女の命は絶える」と言われ、乳房の病気には有効な治療法がなかった。江戸時代末期、蘭方(=オランダ医学)を学んだ華岡青洲は、長年の研究の末、漢方の生薬をもとに麻酔剤「通仙散」を完成させた。文化2年(1805)、彼は、60歳の乳癌の女性に全身麻酔を施し、手術を成功させる。それは欧米よりも40年ほど先行する、世界最初の全身麻酔手術であった。

★6.乳房榎。

『怪談乳房榎』(三遊亭円朝)28〜36  練馬の赤塚村に、松月院という寺がある。その寺の榎には、乳房のような瘤がいくつもあり、その先から甘い露が垂れる。乳の出ない女が、この露を乳首につけると、乳が出るようになる。下男に育てられた真与太郎(まよたろう)は、母乳代わりにこの露を飲み、5歳の時に、父・菱川重信の敵(かたき)である磯貝浪江を討った。 

★7.母体の死後も乳を出し続ける乳房。

『熊野の御本地のさうし』(御伽草子)  五衰殿の女御は山中で王子を産み落とし、その直後に斬首された。武士たちが首を劒(つるぎ)に刺して持ち帰り、女御の胴体と王子が山中に放置された。年月が経(た)つに連れ、遺骸の手足の色は変わっていったが、乳房は変わることなく、乳を出し続け、王子は亡母の乳を飲んで成長した〔*類話の『神道集』巻2−6「熊野権現の事」では、王子の3年目の誕生日に母の髑髏が水となって消えた、と記すなど小異がある〕。

★8.五百人の子に乳を与える乳房。

『今昔物語集』巻5−6  隣国の5百人の武士が、般沙羅国王の城を取り囲んで攻める。ところがその5百人は、実は、かつて般沙羅国王の后が産み棄てた子供たちだった(*→〔出産〕4)。后は高楼に登って、5百人の武士に「汝らは皆、私の子である。疑うのなら各々口を開け。私の乳が汝らの口に入るであろう」と告げる。后の乳房からは乳がほとばしり、同時に5百人の口に入った。5百人の武士は后を母と知り、畏(かしこ)まり敬って還り去った。

★9.乳房の起源。

女の乳房の起源  昔は、男が乳房を持ち、女がひげを持っていた。ある日、男と女が競走して、女が勝った。すると精霊が「これではいけない」と言って、男がひげを持ち、女が乳房を持つようにした。この変更がなかったら、今にいたるまで、女が子供を産んでも、男が子供を育てねばならなかっただろう(メラネシア、アドミラリティ諸島)。

★10.女の乳房と男の乳首。

『女がた』(森鴎外)  温泉宿へ来た好色な老富豪をこらしめようと、男性俳優が女中に変装して寝間に侍(はべ)る。まもなく老富豪は、「乳がない。けしからん」と怒り出す。俳優の仲間が女中の親戚に扮して、「乳首なら確かに2つあります」と保証する。老富豪「あっても小さい。まるで男じゃ」。仲間「男でも横綱梅が谷のように乳の大きい者もあれば、女でも・・・・」。老富豪は、「こんな宿はいやじゃ」と言って帰って行く。

★11.乳房を蛇に噛ませる。

『ゲスタ・ロマノルム』279  ローマのオリンプス帝の妃が、ある貴婦人を憎み、呼び寄せて、「2人の子供に授乳してほしい」と頼む。貴婦人が承知すると、妃は2匹の蛇を見せ、「この2人の子供を、そなたの乳で養いなさい」と命ずる。妃は蛇を貴婦人の胸に置き、蛇は毒牙を乳房に突き立てる。妃は貴婦人に「衣服を着け、帰宅しなさい」と言い、貴婦人は帰宅したが、3日後に蛇の毒で死んだ。

★12.アマゾンの乳房。

『ギリシア神話』(アポロドロス)第2巻第5章  闘う女族アマゾンたちは、槍を投げる邪魔にならぬよう右の乳房を取り除き、子供を養育するために左の乳房だけを残した。他国の男と交わって、生まれたのが女児であれば養育した〔*男児は殺すか不具にした、という。 a =否定辞、mazos =乳で、Amazon は「乳なし」の意〕。

★13.乳房が三つある女。

『パンチャタントラ』第5巻第12話  3つの乳房を持つ王女が、盲人を夫とした。王女は傴僂(せむし)と情を通じ、夫を殺そうと毒蛇を煮る。ところが、毒蛇を煮る蒸気にあたって、夫は眼が見えるようになった。夫は、王女と傴僂が戯れているのを見て怒り、傴僂の体をふりまわして、王女の心臓めがけて投げつける。その衝撃で、乳房の1つが胸の中に入り込み、王女の乳房は2つになった。傴僂は、ふりまわされたために体が真っ直ぐになった。めでたしめでたし。

 

*乳房からほとばしる乳が、天の川になる→〔天の川〕3。 

*処女の乳房→〔処女〕5bの『潮騒』(三島由紀夫)第13章。

*7尺もある乳房→〔星〕5bの『捜神記』巻4−2(通巻72話)。

*乳房に、自分と恋人の頭文字を刻む→〔傷あと〕1aの『頭文字』(三島由紀夫)。 

*虱の目からは、乳房は大きな山に見える→〔虱〕5の『女体』(芥川龍之介)。

 

 

【チフス】

 *関連項目→〔病気〕

★1.明治・大正の頃には、腸チフスは死にいたる伝染病だった。

『それから』(夏目漱石)7  長井代助と平岡常次郎の学友に、菅沼という男がいた。菅沼は東京近県の出だったが、妹の三千代と2人で東京に家を持ち、菅沼は大学へ、三千代は女学校へ通った。菅沼が卒業する年の春、田舎の母親が遊びに出て来て、チフスに罹患した。すぐ大学病院へ入れたものの、母親は死に、さらに、見舞いに来た菅沼にもチフスが伝染して、彼も程なく死んでしまった。その年の秋、三千代は平岡と結婚した→〔犠牲〕7

『こころ』(夏目漱石)  「先生」は新潟県の富裕な家の一人っ子として育った。しかしまだ20歳にならない時分に、両親とも腸チフスで死んでしまった。最初に父が罹病し、看護する母に伝染したのである。両親の死後、「先生」は叔父夫婦の世話になった。ところが叔父は「先生」の家の財産を横領し、それをごまかすために、自分の娘と「先生」を結婚させようとした。「先生」は人間不信に陥り、叔父と縁を切って、1人で東京へ出た。

『すみだ川』(永井荷風)  18歳の長吉は、常磐津の女師匠の1人息子で、「役者か芸人になりたい」と思っている。しかし母はそれを許さず、進学させて月給取りにするつもりである。長吉は幼なじみのお糸とも会えなくなり、前途の希望を失う。彼は「いっそ病気にでもなって死にたい」と考え、大雨で水害にあった地区へ出かけて、泥水の中を歩き回る。その夜から長吉は風邪を引き、腸チフスになって病院へ運ばれる。

*妻をチフスに感染させて死なせる→〔死因〕4の『途上』(谷崎潤一郎)。

★2.浮気の証拠のチフス。

『熱い空気』(松本清張)  大学教授稲村は、妻春子の妹寿子と不倫関係にあった。2人は偽名を使って、熱海のR観光ホテルに宿泊する。ところが後になって、当日、ホテルにチフス患者がいたことがわかった。チフスは法定伝染病なので、警察が宿泊客の調査を始める。家政婦・河野信子は(*→〔女中〕5)、稲村の浮気を察知し、彼がR観光ホテルに宿泊したことを警察へ知らせる。それに加えて、寿子がチフスを発症したために、稲村の浮気は妻春子の知るところとなった〔*テレビドラマ『家政婦は見た』第1回の原作〕。

*「浮気の証拠のチフス」は大事(おおごと)だが、「デートの証拠の風邪」くらいであれば、見過ごされてしまう→〔風邪〕4の『殿方ご免遊ばせ』(ボワロン)。

 

*医師がチフスに感染する→〔鏡〕8の『父と子』(ツルゲーネフ)。

 

 

【地名】

★1.地名の起源。

『古事記』上巻  スサノヲノミコトはヤマタノヲロチを退治した後、クシナダヒメとともに住む宮を造ろうと、出雲国の中の適地を方々捜した。ある所へ来ると、心がすがすがしくなったので、その地に宮を造った。以後、そこを「須賀」と言う。

 *稲田姫(=クシナダヒメ)が「母来ませ」と言ったので「伯耆(ははき・はうき)」→〔母と娘〕6の『和漢三才図会』巻第78「伯耆」。

『古事記』中巻  崇神天皇の軍と建波邇安王の軍が、山城の和訶羅河(=木津川)を挟んで挑(いど)み合った。それゆえそこを「伊杼美(いどみ)」と言い、今は「伊豆美(いづみ)」と言う。建波邇安王が死に、敗走する兵たちは攻められて苦しみ、屎が出て褌にかかった。それゆえそこを「屎褌(くそはかま)」と言い、今は「久須婆(くすば)」と言う。

『古事記』中巻  ヤマトタケルは相武(さがむ)の国造(くにのみやつこ)たちを斬り殺し(*→〔袋〕4)、死体に火をつけて焼き払った。それゆえその地を「焼津」と言う。また、足柄の坂を登った時、自分の身代わりに海に沈んだオトタチバナヒメを偲び(*→〔船〕8)、ため息をついて「吾妻はや」と呼びかけた。それゆえその国を「東(あづま)」と呼ぶ。また、病み疲れて三重の村に到り、「我が足は三重に曲がって、ひどく疲れた」と言った。それゆえその地を「三重」と言う。

『竹取物語』  天にいちばん近い山に、多く(「富」)の兵(「士」)が登り、かぐや姫の遺した「不死」の薬を燃やした。その煙は今でもつきることなく(「不尽」)立ち昇っている。それゆえ、その山を「ふじ」と言う。

『遠野物語』(柳田国男)68  昔、八幡太郎義家が似田貝村を通った時、兵糧の粥がたくさん置きっ放しになっており、義家は「これは煮た粥か」と尋ねた。これが似田貝村の名の起こりである。

『とはずがたり』(後深草院二条)巻5  土佐のある岬で僧が修行し、そこに2人の小法師がいた。ある時、小法師たちは小舟に棹さして、南に向けて船出する。師僧が行く先を問うと、小法師は「補陀落世界へ」と答え、観音・勢至の2菩薩と化す。岬に1人取り残された師僧は足摺りをして泣き悲しみ、以来そこを「足摺岬」という〔*二条が西国へ旅した折に聞いた伝説〕。

*→〔醜女〕2aの『古事記』中巻・〔殉死〕1bの『三国史記』巻17「高句麗国本紀」第5・〔名付け〕9の『播磨国風土記』神前の郡・〔耳〕2の『日本書紀』巻11仁徳天皇67年10月。

★2.呪力を持つ地名。

重源上人の雷封じの伝説  桑原村の西福寺に働く婆の臍をねらって、雷が落ちる。婆が身をかわしたので雷は井戸に陥り、住職の俊乗房重源が石で蓋をする。雷は「2度と桑原には落ちぬ」と誓い、重源は井戸の石をのけてやる。雷は昇天し、以後8百年間、桑原の地には落雷がない。これがもとで、「桑原桑原」と唱えて雷をよけるようになった(大阪府和泉市桑原町)。

★3.不吉な地名。

『三国志演義』第63回  劉備の軍師・ホウ統が、劉璋の軍と戦うために、兵を率いて出発する。山中の間道を通る時、ホウ統は胸騒ぎを覚えて、「ここは何という所か」と問う。兵は「落鳳坡といいます」と答える。ホウ統は「私の呼び名は『鳳雛』。落鳳とは不吉な地名だ」と、後退しようとするが、待ち伏せしていた敵軍から、多くの矢を射かけられて死ぬ。

*泉の名前・村の名前を嫌う→〔泉〕3の盗泉の水の故事。

★4.近代の地名。

『硝子戸の中』(夏目漱石)23  「私(夏目漱石)」の父は区長をしていたことがあったので、夏目家の定紋が「井桁」に「菊」であるのにちなみ、「喜久井町」という町を作った。また、自宅の前から南へ行く時に登らねばならぬ長い坂に、「夏目坂」という名をつけた。

★5.地名が人の心に及ぼす力。

『武蔵野夫人』(大岡昇平)第4章「恋ヶ窪」  大学生の勉は、フランス語教師・秋山の家に寄宿していた。秋山の妻・道子と勉は、従姉弟どうしだった。2人はしばしば連れ立って散歩に出た。ある時、遠くまで脚をのばし、勉が「ここはなんて所ですか?」と、水田の農夫に聞いた。農夫は「恋ヶ窪さ」と答えた。その地名を聞いた時、道子は、勉への恋心を自覚した〔*2人は肉体的に結ばれることなく、やがて道子は自殺する〕。

★6.地名の誤解。

『男はつらいよ』(山田洋次)第23作「翔んでる寅次郎」  寅次郎が、北海道で出会った娘(演ずるのは桃井かおり)に、「ねえちゃんは、家はどこだ?」と尋ねる。娘は「田園調布」と答える。寅次郎は、「田園地帯か。おとっちゃん、百姓?」と聞く。娘は「違うけど」と言って笑う。

 

*人名(僧の名前)がそのまま地名になる→〔僧〕4の東尋坊の伝説。

*海の名前の起源→〔海〕8の『ギリシア神話』(アポロドロス)第1巻第9章。

*島の名前の起源→〔島〕7

 

 

【茶】

★1.素人が茶の湯を始める。

『茶の湯』(落語)  根岸に住む隠居が、茶の湯を始めようと思うが、子供の頃に習ったきりだから、何もかも忘れている。「茶碗の中へ入れる青い粉・・・何だったかな?」と首をかしげると、小僧の定吉が心得顔に青黄粉(あおぎなこ)を買って来る。茶筌でかき回しても泡が立たないので、椋(むく)の皮を茶釜に放り込み、盛んに泡だてる。茶席に招かれた近所の人たちは、青黄粉と椋の皮を煎じたものを飲んで生きた心地もなく、口直しに羊羹を食べて一息つく。

『不審庵』(太宰治)  黄村(おうそん)先生が茶の湯を始めた。今年の夏、「私」は茶会に招かれ、黄村先生の弟子の文科大学生2人と一緒に、先生の家へ行った。壊れかけの七輪が3畳間に置いてあり、煤(すす)けたアルミニュームの薬罐(やかん)がかかっている。ふんどし1つの黄村先生が、茶筌で薄茶を懸命にかき回すが、どうしても泡が立たず、茶会は失敗に終わった。数日後、黄村先生から「茶の湯は要(い)らぬ事で、喉が渇いたら、水甕の水を柄杓でごくごく飲むのが一ばん」という手紙が来た。

 *黄村先生を主人公とする作品は、他に→〔山椒魚〕2の『黄村先生言行録』、→〔歯〕9の『花吹雪』がある。

★2.おかしなお茶会。

『不思議の国のアリス』(キャロル)  三月兎の家の前のテーブルで、三月兎と帽子屋がお茶を飲んでいた。2人の間にヤマネ(眠り鼠)がすわっていて、ぐっすり眠り込んでいる。アリスも席に着き、彼らの会話に加わる。「答えのないなぞなぞ(*→〔謎〕5)」や「時間のわからない時計(*→〔時計〕8)」に呆れ、すっかり頭が混乱して、アリスはその場を立ち去る。ふり返ると、三月兎と帽子屋が、ヤマネをお茶のポットに押し込もうとしていた。「あんなばかげたお茶会に出たのは、生まれてはじめてだわ」とアリスはつぶやく。

★3.朝茶は縁起が良い。

朝茶の由来の伝説  大蛇が、1人暮らしの老人を呑もうと、様子をうかがう。ところが、老人が「今日も朝茶でも飲むか」と独り言をいったのを、大蛇は「蛇(じゃ)を呑む」と聞き違える。「この老人は毎朝、蛇を呑んでいるのか」と、大蛇は恐れて逃げ帰る。以来、「朝茶は縁起が良い」「朝茶は難を逃れる」などと言われるようになった(埼玉県秩父郡大滝村)。

★4.マテ茶。

『マテ茶の木の起源』(アルゼンチンの昔話)  年老いた男と娘が、農場で寂しく暮らしていた。イエス様が聖パヴロや他の聖人たちと一緒に訪れ、男は一行をもてなして泊めてあげた。男が「年をとったので、働いて娘を育てるのがたいへんだ」と打ち明けると、聖パヴロは「明日、褒美をあげよう」と言う。翌日、聖人の一行が去った後、男は具合が悪くなって「娘よ」と叫んだが、娘は「カア」と呼ばれるマテ茶の木に変っていた。男の死後、娘が1人残されてはかわいそうなので、皆の役に立つ木に変えられたのだ。

★5.ほうじ茶と法事。

『ほうじの茶』(落語)  芸のできない幇間(たいこもち)の一八は、不思議な茶を持っていた。茶を焙じると、一八の代わりの幇間が現れ、舞や浄瑠璃やバイオリン演歌や、いろいろな芸を見せてくれる。若旦那が感心し、真似をして茶を焙じるが、現れたのは幇間ではなく、亡父の霊だった。「茶屋遊びばかりして、先祖の供養がおろそかになっておる」と、若旦那はさんざんに怒られた。お茶をしっかり火で炙(あぶ)らなかったので、焙じ(法事)が足りなかったのだ。

 

 

【仲介者】

★1.仲介者が君臣・父子などの仲を隔てる。

『北野天神縁起』  菅原道真配流の宣旨を取り消させようと、宇多院は、わが子醍醐帝のいる清涼殿へむかう。しかし取り次ぎの蔵人頭菅根は、道真に対して恨みを含むところがあったので、院の来訪を帝に知らせなかった〔*『江談抄』第3−28に類話〕。

『牛人』(中島敦)  魯の大夫・叔孫豹は、庶子の豎牛(じゅぎゅう)を信頼して、家政一切をまかせた。叔孫豹が一室に病臥するようになると、外部との連絡は、すべて豎牛が受け持った。豎牛は、嫡子である孟丙や仲壬の言葉を叔孫豹に取り次がず、讒言を重ねて、孟丙を殺し仲壬を国外へ追う。叔孫豹のために膳部の者が運ぶ食事は、すべて豎牛が食べ、叔孫豹は餓えて死んだ〔*→〔乗っ取り〕1aの『銀の仮面』(ウォルポール)を連想させる〕。

『史記』「李斯列伝」第27  趙高は、2世皇帝胡亥と丞相李斯の間を裂こうと、胡亥が暇な時には李斯の諌言を取りつがず、胡亥が酒と女を楽しんでいる時にかぎって、李斯を目通りさせる。胡亥は怒る。

『パンチャタントラ』第1巻・主話  ジャッカルのダマナカが、獅子王ピンガラカと牡牛サンジーヴァカの双方に、相手がおまえに害意を持っている、と偽りの告げ口をして、両者の仲を裂いた。獅子王と牡牛は闘い、獅子王の爪の一撃で牡牛は死んだ。獅子王は牡牛の死を悲しむが、ダマナカは「そのような悲しみは、王様にふさわしくない」と言う。獅子王は悲しみを棄て、ダマナカを大臣に任命した〔*『パンチャタントラ』を翻案した『カリーラとディムナ』第1章では、山犬ディムナが同様の悪事をする〕。

『水鏡』下巻  「他戸親王が生きている」との噂を聞いた光仁帝が、使者に確かめに行かせる。百川が使者を「真実を申すなら、命はない」と脅したため、使者は他戸親王に会いながらも、「別人でした」と光仁帝に報告する。

★2.仲介者が男女の仲を裂く。

『藍染川』(能)  太宰府の神主と契りを結んだ京の女が、子を連れて筑紫へ神主を尋ね行く。神主の妻は夫に知らせずに、「対面せぬ。京へ帰れ」との偽手紙を作って女に渡す。女は悲嘆して藍染川に身を投げる。

『オセロー』(シェイクスピア)  将軍オセローがキャシオーを副官に任命したため、イアーゴーはオセローを恨む。オセローが妻デズデモーナに贈ったハンカチをイアーゴーは手に入れ、それをキャシオーに持たせるなどして、イアーゴーは、デズデモーナとキャシオーが不義をはたらいているかのように、オセローに思わせる。オセローはイアーゴーの言葉にふりまわされて判断力を失い、デズデモーナを絞殺する。

『千一夜物語』「『ほくろ』の物語」マルドリュス版第261〜262夜  美少年「ほくろ」は、離縁されたばかりの美人妻と結婚することになるが、先夫が結婚の妨害を老婆に依頼する。老婆は「ほくろ」と美人妻の双方に、「相手はらい病だ」と嘘を告げる。しかし2人は互いに美しい裸身を示し合って老婆の嘘を知り、結婚する。

『戦国策』第17「楚」(4)210  楚の懐王のもとに美女が贈られ、寵愛される。王の夫人が、その女に「王様は汝の鼻がお嫌いゆえ、鼻を隠せ」と教え、王には「あの女は王様の体臭を嫌って鼻を隠している」という。美女は鼻斬りの刑に処せられる〔*和尚と小僧型の昔話『鼻が大きい』は、これと同型〕。

*逆に、仲介者たちが策を用いて、仲の悪い男女を結びつける→〔立ち聞き(盗み聞き)〕7の『空騒ぎ』(シェイクスピア)。

★3.結婚の使者。

『十二夜』(シェイクスピア)  オーシーノウ公爵が、オリヴィア姫への求愛の使者として小姓シザーリオを送る。しかし小姓シザーリオは実は女(本名ヴァイオラ)であり、ひそかにオーシーノウ公爵を恋している。一方オリヴィア姫は、小姓シザーリオ(=ヴァイオラ)を女とは知らず、一目惚れする〔*最後には、オリヴィア姫はヴァイオラの双子の兄セバスチァンと結婚し、ヴァイオラはオーシーノウ公爵と結ばれる〕。

『トリスタンとイゾルデ』(シュトラースブルク)第12・16章  イングランドのマルケ王の花嫁にイゾルデ姫を迎えるべく、騎士トリスタンが使者としてアイルランドへ赴く。ところが、トリスタンがイゾルデ姫を伴ってイングランドへ戻る船中で、2人は誤って媚薬を飲み、恋に落ちる→〔処女〕3

『日本書紀』巻13安康天皇元年2月  安康天皇が弟大泊瀬皇子(後の雄略天皇)のために、大草香皇子の妹幡梭皇女を娶ろうと考える。大草香皇子はこれを承諾し、家宝の押木珠縵(おしきのたまかづら)を天皇に献上すべく、使者の根使主に託す。ところが根使主は珠縵を横取りし、「大草香皇子が求婚を拒絶した」と天皇に報告する。天皇は怒り、大草香皇子を殺して、幡梭皇女を大泊瀬皇子に与える〔*『古事記』下巻の同記事では、妹の名を若日下王とする〕→〔装身具〕2

『ばらの騎士』(R・シュトラウス)  オックス男爵が新興貴族ファニナルの娘ゾフィーと近々結婚するので、青年伯爵オクタヴィアンが使者として、婚約のしるしの銀のばらを届ける。ところがゾフィーとオクタヴィアンは、互いを一目見て心ひかれる。やがてオックス男爵の不品行が明るみに出て、結局、ゾフィーとオクタヴィアンが結婚することになった。

★4.人間が神様のもとへ使者を送る。

『カメレオンとトカゲ』(アフリカの昔話)  人間がカメレオンを使いに出し、「死なない方法」を神様に問う。神様は、「モロコシの餅を焼いて死体の上に載せれば、人は生き返る」と教える。ところがカメレオンは足が遅いので、せっかくの教えが、なかなか人間のもとへ届かない。人間は待ちきれずに、もう1度、今度はトカゲを使いに出す。神様は、「2度も使いをよこした」と怒り、「人が死んだら、地面に穴を掘って埋めよ」と教える。足の速いトカゲは、カメレオンを追い越して帰り、人間はトカゲの教えどおりに死体を埋める。人間は「辛抱」を知らなかったために、生き返ることができなくなった(中央アフリカ共和国、マルギ人)。

 

 

【蝶】

★1.蝶は死者の魂、もしくは死者の化身である。

『朝顔の露の宮』(御伽草子)  朝顔の上と露の宮を葬った塚の内から若君1人が出生するが、父母なくしては育つこともかなわず、露と消える。その魂は胡蝶と化して花々に戯れ、「父よ母よ」と明け暮れ嘆いた。

『現代民話考』(松谷みよ子)5「死の知らせほか」第2章の9  「私」の姉は昭和63年(1988)に死去した。姉は、国連に勤務する人の妻で、ウィーンの外交官夫人のような美しい姿のまま、亡くなった。火葬後、お寺の庭でお経をあげていた時、姉の息子が持つ花束の中から、黒いアゲハ蝶が飛び立った。30人ほどがその場にいたが、蝶を見たのは3〜4人だった(栃木県)。

『蝶』(小泉八雲『怪談』)  高浜青年の婚約者アキコは、婚礼直前に肺病で死んだ。高浜はアキコの墓の隣地に家を建てて住み、一生独身をとおす。数十年後、年老い臨終の床についた高浜の部屋へ、大きな白い蝶が舞いこむ。看病していた甥が追い払うと、蝶はアキコの墓石の前まで飛んで姿を消す。蝶はアキコの魂であった。

『発心集』巻1−8  大江佐国は生前花を愛し、「他生にもまた花を愛する人たらん」の詩を作った。死後ある人の夢に、「佐国は蝶になった」と見えたので、佐国の子は前栽の花を手入れし、集まる蝶の世話をした。

*女が蝶に生まれ変わる→〔一妻多夫〕2の『ちょうと三つの石』(小川未明)。

★2.亡魂が、蝶の前段階の毛虫になるばあいもある。

『狗張子』(釈了意)巻5−5「宥快法師、柳岡孫四郎に愛着して毛虫となること」  宥快法師は美少年孫四郎との仲を、孫四郎の父甚五郎に裂かれたため、怒って絶食死し、孫四郎をも取り殺した。宥快の亡魂は、無数の毛虫となって甚五郎の家に湧き出、日を経て蝶になり、群がり飛んだ。

*死体に多くの蛆がわき、それが何千もの蝶になる→〔虫〕2cの蝶化身(水木しげる『図説日本妖怪大鑑』)。

★3.夢を見る人と蝶。

『安芸之助の夢』(小泉八雲『怪談』)  夏の午後、安芸之助は庭の杉の木の下で、「常世の国王の婿となって23年を過ごす」との夢を見る。2人の友が、うたた寝をする安芸之助の顔の上を1匹の蝶が飛び、それが蟻によって木の下の穴へひきずりこまれる有様を見る。木の下には蟻の国があった〔*原拠である『南柯大守伝』(唐・李公佐)には、蝶は出てこない〕。

『荘子』「斉物論篇」第2  昔、荘周(=荘子)は、夢で胡蝶となった。楽しく飛びまわって、自らが荘周であることを忘れたが、ふと目覚めて見ると自分は、まぎれもなく荘周である。これは、荘周が蝶になった夢を見たのだろうか。それとも今、蝶が荘周になった夢を見ているのだろうか。

 *「『われわれ=夢』かもしれないことを示唆するのに、もっともぴったりした言葉『蝶』を、荘子は選んだのだ」とボルヘスは言う。「『荘子は虎になった夢を見た』とか、『タイピストになった夢を見た』とか、『鯨になった夢を見た』では、ナンセンスであり、的はずれであろう(『詩という仕事について』2「隠喩」)」。

 *「私」は人なのか石なのか→〔石〕15の『ユング自伝』1「幼年時代」。

『七話集』(稲垣足穂)5「荘子が壺を見失った話」  路ばたの青い壺に見覚えがあるので、荘子は「昔、夢の中で見た壺か、それとも友達の家にあった壺か」と、思い出そうとする。その時、壺の中から白い蝶が1つ、ひらひらと飛び出して行った。しばらくして荘子はそれに気づいたが、蝶も壺もどこへ行ったのか見当たらなかった。

★4.人の死と蝶。

『西部戦線異状なし』(マイルストン)  第1次大戦も終わりに近いある日。ドイツ兵ポールは前線の塹壕にいたが、銃声が止み、つかの間の静寂が訪れる。ポールは1匹の蝶を見つけ、つかまえようと、手をのばして塹壕から身を乗り出す。その時フランス兵がポールを狙撃し、彼の手は蝶に届くことなく地面に落ちる〔*レマルクの原作には、この場面はない〕。

『捜神後記』巻8−2(通巻88話)  葛輝夫(かつきふ)という人が、妻の実家に泊まった。真夜中頃、2人の男があかりを持って、縁先まで近づいて来た。輝夫が杖で打ちかかると、2人とも蝶に変わってひらひら舞った。そのうちの1匹が輝夫の腋の下にぶつかり、輝夫は倒れて死んだ。

★5.蝶の精。

『胡蝶』(能)  吉野山中に住む僧が都へ上り、古宮の梅を見ていると、1人の女が言葉をかけてくる。女は「私は人間ではありません。胡蝶です」と言い、「法華経を読誦してほしい」と願って、姿を消す。僧が読経すると、夜の夢に胡蝶の精が現れる。胡蝶の精は「法華経の功徳で、私も成仏することができました」と礼を述べて、舞う。

★6.蝶が口に入って身ごもる。

『キリシタン伝説百話』(谷真介)100「雪の三タ丸屋(サンタマルヤ)」  2月の中ごろの、ある日の夕暮れ時、精霊が蝶の姿に身を変えて、処女・丸屋(*→〔処女〕4)の口のなかに飛び込んだ。丸屋はたちまち身ごもり、家を追われてあちらこちらさまよった果てに、ベレンの国に到った。大雪の夜、丸屋は農夫の家の牛馬小屋で、赤子を産み落とした。この赤子が、イエス・キリスト様である。

 

*魔女の魂が蝶の姿をとる→〔魂〕4の『金枝篇』(初版)第2章第2節。

 

 

【長者】

★1a.貧しい男が長者になる。

『炭焼き長者』(昔話)「初婚型」  縁遠い娘が、占い師から「お前は、遠い田舎にいる炭焼き五郎という人と縁が結ばれている」と教えられ、炭焼き五郎の小屋を訪ねて嫁になる。五郎は、嫁の持つ小判を見て、「こんなものは炭窯のそばにごろごろあって、毎日掻きのけるのに骨が折れる」と言う。嫁が見に行くと、窯のまわりは小判の山だった。嫁は小判の値打ちを五郎に教え、2人はりっぱな屋敷を建てて栄華な暮らしをした(鹿児島県薩摩郡下甑村手打)→〔宝〕10a

『文正草子』(御伽草子)  常陸国に住む身分低い文太は、塩屋に奉公して薪を取る仕事をし、塩竈2つを与えられて塩を焼く。文太の塩は美味でよく売れ、文太は長者となって名も「文正つねおか」と改める。後に、文正(文太)の娘の1人は入内し、1人は関白家に嫁ぎ、文正自身は大納言になって百歳の長寿を保った。

『藁しべ長者』(昔話)  金持ちが貧しい男に、「藁しべ1本をもとでに長者になれたら娘をやろう」と言う。男は藁しべを、芭蕉葉・味噌・剃刀・脇差と次々に交換し、脇差を殿様に売って大金を得、金持ちの娘を嫁にもらう(長崎県壱岐郡志原村。*他にも、小刀で鱶(ふか)を殺して船主から米俵をもらう・刀が大蛇を斬って殿様から千両もらう、などいろいろな形がある。*→〔交換〕4の『今昔物語集』巻16−28が文献にのる古形)。

*→〔魂〕2の『だんぶり長者』(昔話)。

*貧しい粉ひきの息子が猫の助力で侯爵になる→〔遺産〕2の『長靴をはいた猫』(ペロー)。

*貧しい少年が猫を売って大金持ちになる→〔売買〕1の『ウィッティントンと猫』(イギリス昔話)。  

*貧しい男が鼠1匹を資本に大金持ちになる→〔交換〕4の『カター・サリット・サーガラ』。

★1b.石油成金。

『ジャイアンツ』(スティーブンス)  テキサスの大牧場主ベネディクト家に、東部から美しい娘レズリーが嫁いで来る。牧場で働く貧しい青年ジェットは、レズリーを憧れの目で見る。ジェットは牧場内の僅かな土地を与えられ、そこに石油を掘り当てて、大金持ちになる。20年ほど後、初老の億万長者となったジェットは、豪華なホテルを建て、落成パーティーに、各界の名士たちとともにベネディクト一家をも招く。ジェットは酔いつぶれ、客たちへの挨拶もできず、誰もいなくなった会場で1人、レズリーへの思いを語り続ける。

★2a.長者の家が没落する。

『しんとく丸』(説経)  河内の国高安の郡の信吉(のぶよし)長者は、四方に4万、八方に8万の蔵を持っていた。しかし息子しんとく丸が盲目の癩病者となったのを、後妻の言にしたがって捨てた報いで、信吉長者自身も盲目になり、身内にも逃げられて、物乞いをする身の上になった〔*後に信吉はしんとく丸に再会し、開眼する〕。

福田の森の伝説  洞川の村に福田という長者がいたが、他村の生まれゆえ、村づきあいをしてもらえなかった。飢饉がおこると、いくら金があっても誰も食物を分けてくれず、長者一家は飢えて死に瀕する。やむなく有り金すべてを壺に入れて山に埋め、「朝日さすみつ葉うつぎのその下に小判千両のちの世のため」と石に彫り込んで、家内の者は小判をくわえて死んだ。その地が今の福田の森である(奈良県吉野郡天川村洞川)〔*→〔願い事〕3の『変身物語』巻11(ミダス王)や、→〔二者択一〕1の産女(うぶめ)の伝説と同類の物語〕。

枡伏せ長者の伝説  貧しい男が長者になるが、有縁無縁の人々がむらがって物を乞うので、男は煩わしがり、「昔の貧しい生活が良かった」と考える。旅人が「1升枡を池で洗って伏せ、枡の底を叩けば、お金をなくすことができる」と教える。そのとおりにすると男はたちまち貧乏になり、飢え死にしてしまった(愛媛県松山市)。

『まつら長者』(説経)初段  大和国壺坂の松浦長者京極殿は、8万宝の宝に飽き満ち、高麗・唐土まで知られる大長者だった。しかし、妻と4歳の1人娘さよ姫を残して病死し、1代で作った財産だったので、たちまち貧者の家となってしまった→〔身売り〕4。 

*太陽を招き返す→〔扇〕4の湖山長者の伝説。

*百足の来る道を切る→〔百足〕5の銭亀家の白百足の伝説。

*餅を弓の的にする→〔餅〕1aの大原長者の伝説。

*餅を踏んで歩く→〔餅〕1bの餅が白鳥に化した伝説。

*長者の息子が貧乏になる→〔心中〕7aの『法句譬喩経』巻4「喩愛欲品」。

★2b.子を授かることと引き換えに、長者が財を失う。

『神道集』巻6−33「三島大明神の事」  伊予の国の長者・橘朝臣清政は四方に4万の蔵を立て、朝は5百人の侍女、夕は3千人の女官が世話をした。清政は、大和の長谷寺の十一面観音に、全財産と引き換えに子授けを願い、奥方が美しい若君(=玉王)を産んだ。しかし4万の蔵からは宝が消え、数万人の家来も去って行った。清政夫婦と若君は、山の木の実や磯のわかめを取って、命をつなぐことになった。

*逆に、子供の身体と引き換えに、天下を取ることを願う→〔交換〕3gの『どろろ』(手塚治虫)。

★2c.第二次世界大戦後の農地改革で、長者が没落する。

『小原庄助さん』(清水宏)  大地主だった杉本左平太は、時世の変化のため財産を相当減らしたが、昔どおり朝寝・朝酒・朝湯の暮しを続け、「小原庄助さん」と呼ばれていた。庄助さんは「他人に損かけるより、自分が損した方がいいさ」と言って、村人たちの世話をした。やがて庄助さんの富も底をつき、家屋敷を売り払うことになる。庄助さんは「一から出直そう」と、新天地を求めて、妻と一緒に村を出て行く〔*映画の終わりには、『終』でなく『始』というエンドマークが出る〕。

★3a.長者の財力。

『うつほ物語』「吹上」上  紀伊国牟婁郡の長者・神南備種松は、莫大な財宝の持ち主だった。彼は外孫の涼に、国王にも劣らぬ暮らしをさせるべく、吹上の浜に四面八町の広大な邸を造営した。3重の垣に2つの陣を据え、東の陣の外には春の山、南の陣の外には夏の陰、西の陣の外には秋の林、北には冬も枯れぬ松の林を設けた。

『だんぶり長者』(昔話)  奥州のだんぶり長者は、とほうもない大金持ちだった。屋敷には3千人の家来がおり、1日に百石のご飯を炊いた。米をといだ白水が米代川(よねしろがわ)へ流れ出たので、今でも米代川は白く濁っている。だんぶり長者は子宝にも恵まれ、美しい姫君があって、後に都の尊い方のお妃になった(秋田県鹿角郡)。

★3b.長者が、広い土地に黄金を敷きつめる。

『今昔物語集』巻1−31  須達長者は貧窮時代に釈尊に供養し、その功徳でたちまち370の蔵に七宝が満ちた。長者は、ギダ太子が所有する東西10里・南北7百余歩の景勝地に、厚さ5寸の黄金を敷きつめ、これを対価としてその土地を買い取り、釈尊と弟子たちのために祇園精舎を建立した。

★3c.長者が、遠い町まで小判を並べる。

『遠野物語拾遺』133  昔、上郷村に、「仁左衛門長者」という長者と、「羽場(はば)の藤兵衛」という長者がいた。ある時、羽場の藤兵衛が「おれは米俵を横田の町まで並べて見せる」と言うと、仁左衛門長者は「そんだら、おれは小判を町まで並べて見せよう」と言った〔*しかし後に仁左衛門長者は没落した〕。

★3d.大金持ちが、町に銀貨を敷きつめる。

『空飛ぶトランク』(アンデルセン)  昔、お金持ちの商人がいて、町の大通り全部と、おまけに小さな横町まで、銀貨を敷きつめることができるほどだった。しかしそんなことはせず、もっと違ったお金の使いみちを知っており、1シリング出すと1ダラーに増えて戻って来るのだった〔*やがて商人は死に、息子は短期間で遺産を使い果たしてしまった〕→〔飛行〕3

 

 

【長寿】 

 *関連項目→〔不死〕

★1a.百年〜数百年以上生きる長寿の男。

『因幡国風土記』逸文  〔第16代〕仁徳天皇55年(A.D.367)春3月、大臣武内宿禰(たけしうちのすくね)は年齢360余歳で因幡国に下向し、亀金の地に2つの履を残して行方知れずとなった〔*『日本書紀』によれば、巻7〔第12代〕景行天皇25年(A.D.95)以前から、成務・仲哀・応神を経て巻11仁徳天皇50年(A.D.362)以後まで、5代に渡って在官した〕。

 *武内宿禰は転生して北条義時となった→〔転生先〕2aの『古今著聞集』巻1「神祇」第1・通巻24話。 

『菊慈童(枕慈童)』(能)  周の穆王に仕える少年が、王の枕をまたいだために追放される。少年は山の庵に住み、経文の書かれた菊の葉の露を飲んでいたので、7百年たっても年をとらず少年のままだった。

『西鶴諸国ばなし』巻1−6「雲中の腕押し」  元和年間(1615〜24)、箱根山に住む百余歳の短斎坊の庵に、常陸坊海尊が訪れて「弁慶は美僧で義経は醜男だった」などの昔話をした。そこへ海尊と旧知の猪俣小平六が来て、2人は腕相撲に興じ、短斎も両者へ力づけのかけ声をかけ、やがて3人の姿は消えた。

『捜神記』巻1−6  彭祖は、夏の時代から殷の末にかけて7百歳生きた。

『捜神記』巻1−18  魏の正始(240〜248)年間。薊子訓(けいしくん)は長安の東覇城で銅人形をさすりつつ、「これを鋳た時にいあわせたが、あれからもう5百年近くたった」と言っていた。

『パンタグリュエル物語』第二之書(ラブレー)第2章  ガルガンチュワは524歳に達した時、妃バドベックとの間に、王子パンタグリュエルを儲けた〔*ガルガンチュワは、息子パンタグリュエルが成人した後も壮健であった〕。

『風流志道軒伝』巻之1(平賀源内)  風来仙人は、元暦年中に生まれ5百余歳であったが、髪は黒く顔色は玉のごとく、30歳過ぎには見えなかった。

『本朝神仙伝』「役の行者の事」第5  役の優婆塞は謀叛の疑いで捕らわれたが後に赦され、老母を鉄鉢に乗せて海に浮かび、何処にか去った。それから百余年を経て、僧道照が高麗に渡り説法をしていた時、日本語を話す人がいるので、見ると役の優婆塞だった。

『本朝神仙伝』「都良香の事」第24  都良香は菅原道真に官位を追い抜かれ、怒って辞職し、山に入って消息を絶った。百余年の後、ある人が山の窟で都良香に会ったが、顔色は昔と変わらず、壮年のごとくだった。

★1b.千年以上生きる長寿の男。

『カリオストロ』(アレクセイ・トルストイ)  魔術師カリオストロは何千年も生きていた。ロシアに現れて、「フェニックス伯爵」と名乗っていたこともあった。彼の従僕マルガドンは、「私はナイル河の上流で生まれ、アメンホジリス王の御代に捕虜となり、主人(=カリオストロ)に売り渡されました」と言った。年齢を問われて、マルガドンは「3千8百42歳です」と答えた。

『荘子』「在宥篇」第11  黄帝が空洞山に広成子を訪れ、至道の精と長生の法を問う。黄帝は「至道の精は極め難い。外に情報を求めず内に精神を守れば、肉体は長生きする。私は千2百歳になるが、身体は衰えていない」と答える。

『柳毅伝』(唐代伝奇)  柳毅は龍王の娘を妻とした。龍の寿命は1万年なので、妻はそれを柳毅と半分ずつにしようと言う。ある時、柳毅は従兄弟に、1粒で1年寿命を延ばす丸薬を50粒与えたことがあった→〔手紙〕3

*1千年以上生きて、愛する女を捜し続ける男→〔人柱〕7の『イアラ』(楳図かずお)。

*7千年生きる男→〔四十歳〕1の『蛤の草子』(御伽草子)。

★2a.二百年生きる長寿の女。

『落窪物語』  落窪の姫君に仕える女童(めのわらわ)あこきは、姫君と道頼少将の結婚成就のために奔走した。あこきは典侍(ないしのすけ)となり、2百歳まで生きた。

*8百年以上生きる女→〔人魚〕5aの八百比丘尼の伝説。

★2b.一千年生きる長寿の女。

『洞窟の女王』(ハガード)  紀元前のアフリカ。白人の女王アッシャは神官カリクラテスを恋したが、彼が他の女を愛したので、アッシャはカリクラテスを殺した。アッシャは、洞窟の奥の火柱の焔を浴びて不老の身体となり、カリクラテスの生まれ変わりの男と逢える日を待ち続ける。2千年以上を経て、カリクラテスの生まれ変わりである青年レオが訪れる。アッシャはレオと2人で永遠の生を享受するために、一緒に火柱の焔を浴びようとする。しかし、先に焔を浴びたアッシャは、たちまち醜い老婆と化して死んでしまった。

*老衰しつつ千年生きる女→〔年数〕2の『変身物語』(オヴィディウス)巻14。

★3.長寿をもたらす食物。

『西遊記』百回本第24〜26回  人参果は3千年に1度花開き、3千年に1度実を結び、さらに3千年たってようやく熟する。形状は赤子のごとくで、人がその匂いをかげば360歳まで、1個食べれば4万7千年生きられる。孫悟空が人参果を盗み食いして咎められ、怒って人参果の木を打ち倒す。しかし観音菩薩が、甘露に浸した楊柳の枝で木を生き返らせる。

★4.長寿をもたらす人肉。

『西遊記』百回本第27回  三蔵法師は釈迦の第2の弟子金蝉長老の生まれ変わりで、その肉を食べれば不老長生が得られる。妖怪白骨夫人が美女・老婆・老人と3度変身して、三蔵を食おうとするが、孫悟空に見破られ、打ち殺される(その後も様々な妖怪が、不老長生を得るために三蔵を食おうとねらう)。

 

*長生き競争→〔遺産〕3の『三角館の恐怖』(江戸川乱歩)。

*自分は長命だ、と悟る男→〔性交と死〕4の『短命』(落語)。

*亀の寿命は1万年→〔亀〕4の『再成餅(ふたたびもち)』「万年」。

 

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