4.Q.口腔組織の老化について

愛知学院大学歯学部 教授 亀山洋一郎

 口腔組織では、全身の他の組織と同様に、老化による変化が起こってくるが、口腔組織の部位によっては、歯ブラシなどによる機械的因子、プラークや歯石の沈着などによる炎症性因子、および咬合の不調和などによる外傷性咬合因子等が加わるので、本当の意味での老化による変化と上記の因子による変化とを区別するのは困難なこともある。

l.歯肉の変化
 歯肉では歯肉縁の退縮が生じるが、この変化は歯肉の炎症によることもあり、老化による変化との区別は容易ではない。歯肉上皮は薄くなり、上皮突起も少なくなる。歯肉結合組織では線維芽細胞を主とする細胞成分は滅少し、膠原線維はしだいに増加してくる。

2.エナメル質、象牙質、セメント質の変化
 エナメル質はもろくなり、透過性が滅少してくる。これは無機質が増加し、有機質が滅少することによる。また、色調は黒味を帯びてくる。さらに、咬耗によりエナメル質の量もしだいに滅少してくる。象牙質は第二象牙質の形成が進行するために量的に増加する。そのために、歯髄腔はしだいに狭くなる。また、象牙細管には石灰化が生じて、象牙質は全体的に透明化してくる。特にこの変化は歯根部で著明である。象牙質でも無機質が増加し、有機質が滅少するために、象牙質ももろくなってくる。セメント質は肥厚して量が増加する(図1)。特に根尖部での細胞セメント質の増加は著明である。また、セメント質内に埋入しているシャーピー線維は少なくなってくる。

3.歯髄の変化
 象牙質壁の象牙芽細胞はしだいに滅少する。また、歯髄内の線維芽細胞を主とする細胞成分は滅少し、膠原線維はしだいに増加してくる。第二象牙質の形成が進行するために、歯髄腔はしだいに狭窄してくる。さらに、血管や神経線維に沿ってびまん性石灰化も起こってくる(図2)。歯髄内の象牙粒も増加してくる。

4.歯根膜の変化
 歯根膜は厚さが薄くなり、線維芽細胞、セメント芽糸細胞、骨芽細胞などの細胞成分や膠原線維はしだいに滅少する(図1)。特に膠原線維からなる歯根膜線維の機能的配列は不規則になってくる(図l)。また、歯根膜中のマラッセの上皮遺残は減少してくる。しかし、歯根膜中のセメント粒は増加する。

5.歯柑骨の変化
 歯槽骨では、固有歯梢骨や皮質骨は薄くなり、骨多孔症や骨粗鬆症などが現れてくる。また、海綿骨では骨梁が滅少し、骨髄腔は拡大し、脂肪組織で占められるようになる(図l)。固有歯槽骨に埋入されているシャーピー線維は滅少してくる。歯槽骨頂も吸収されて、低くなってくるが、この変化は歯肉の炎症の影響によることが多いので、老化による変化との区別は難しい。

6.口腔粘膜の変化
 一般的に粘膜上皮は菲薄化してくるといわれている。特に舌粘膜ではそれが著明である。また、粘膜結合組織では線維芽細胞を主とする細胞成分は滅少し、膠原線維は増加してくる。口腔粘膜の動脈には動脈硬化症が現れてくる。

7.唯液腺の変化
 一般的に唾液腺は大きさが小さくなってくる。また、唾液量も滅少してくる。腺房細胞は滅少し、膠原線維は増加して腺房細胞と置き換わるようになる。さらに、脂肪組搬も増加してくる。

8.顎関節の変化
 顎関節では骨量が滅少し、骨多孔症が生じてくる。したがって、下顎頭や下顎窩およぴ関節隆起には変形が生じるようになる。また、関節円板は薄くなって穿孔が起こるようになる。