9.Q.歯周病と喫煙の関係を教えて下さい。
A.大阪大学歯学部予防歯科学教室 助教授 埴岡 隆
喫煙者は非喫煙者に比べて2〜9倍程度歯周病になりやすいことが示されています。喫煙者の口腔では、歯石が多く、歯周ポケットが深いことや歯槽骨および歯根膜の破壊が進んでいるといった喫煙者の歯周破壊の特徴が明らかになりました。一方、歯周破壊に程度に比してプラーク(歯垢)の量には非喫煙者とあまり差はありません。喫煙者の歯周治療では歯周治療の効果が劣ることが示されています。しかし、決して治療効果がないというわけではなく、喫煙者の治療に際して、治療期間や回数も多めに見積もっておく必要があります。また、歯周病患者には喫煙者が多いこと、喫煙者では歯周破壊が若い年代から始まること、自覚症状が少ないことも重要です。喫煙者の歯周破壊のメカニズムについては、免疫系、微小循環系、歯根膜細胞に関するものがあり、特にニコチンの影響については詳しく示されています。禁煙すること、タバコを吸わないことが重要です。
表 歯周病と喫煙の関係を理解するための3つの視点
1. 喫煙者の歯周病の疫学的特徴 2. 喫煙者の歯周治療の臨床疫学 3. 喫煙の歯周組織に及ぼす悪影響のメカニズム |
参考文献
埴岡隆、雫石聰「歯周病患者と喫煙習慣」日本歯科医師会雑誌、49(6),515-527,1996.
喫煙者の歯周病のリスク倍率と調査地域(人数)
リスク倍率 | 調査地域(対象者数) |
2.5 6.3 7.6 4.0 3.3-5.7 2.5 5.3 8.6 2.7 2.9-6.2 2.9 2.1 |
スウェーデン(155) ミシガン(165) ボストン(405) イリノイ(392) ボストン(495) 大阪府(152) ミネアポリス(189) ボストン(227) ノースカロライナ(229) ノースカロライナ(690) オンタリオ(624) 大阪府(400) |
危険因子がある場合の歯槽骨破壊のリスク倍率(Grossiら, 1995)
危険因子がある場合の歯根膜破壊のリスク倍率(Grossiら,1994)
喫煙者にみられる歯周病の特徴
歯石が多い 歯周ポケットが深く、歯周ポケットの部位数も多い 歯槽骨の吸収が大きい 歯根膜の破壊が進んでいる 歯周組織の破壊程度に比して歯肉の炎症程度は非喫煙者と同等かそれ以下である プラーク(歯垢)の蓄積程度は非喫煙者と同レベルである |
喫煙者の歯周治療の問題点と対応策
問題点 | 対応策 |
歯周治療の治りが悪い 治療期間・回数が多くなる 若い年代から発病する 自覚症状が少ない |
治療前に患者への説明を十分にしておく 治療前に治療期間、回数が増えることを示しておく 若年者でも十分な歯周診査を行い早期発見につとめる 全ての患者に喫煙習慣の質問を行う |
喫煙者の歯周破壊のメカニズム
経路 | 説明 |
免疫系 | T細胞、好中球、多形核白血球の免疫機能の抑制 |
微小循環系 | 血管形態の異常、歯肉溝滲出液量の抑制、歯肉出血抑制 |
歯根膜細胞 | 歯根膜細胞の機能障害、歯面への付着や歯根膜再生能力の異常 |
ニコチン | 歯根最表層に沈着し、口腔内に徐々に放出される |
歯周病細菌 | 特に強い影響は認められない |