6.Q.お年奇りの歯肉はなぜ出血しやすいのですか。
A.山口大学医学部歯科口腔外科学講座 教授 篠崎文彦
口唇や歯肉は外界と接触しやすいところであり、また、食事や発音などには欠くことのできない口腔の臓器です。普通、健康であれば口唇や歯肉からの出血はありませんが、体の他の部位と異なって毛細血管に富んでいますのでちょっとした傷でも出血することはよく知られています。お年奇りの歯肉がとくに出血しやすいということではありません。
歯肉出血には、歯肉自体に何か病変がある場含と全身的に何か問題がある場含とがありますが、大半は前者です。出血がおこった場合、手鏡などで口の中をよく見てどこから出血しているか、歯肉がブヨブヨしていないか、また、歯の動揺はないか、さらに口腔内が清潔に保たれているかどうか自分自身で診察してみて下さい。そして、出血している部位をガーゼか綿花で4,5分圧迫してみます。それで止血すれば心配することはありません。局所的な疾患で最も多いのは歯周病(歯肉炎やいわゆる歯槽膿漏)です。歯肉がなんとなく腫れていたり、歯が動揺している場含、そのほとんどが歯周病です。この場合、歯科で歯石や歯垢をとってもらい、歯磨きの指導や歯周病に対する治療を受けて下さい。全身的な病気では、血液疾患や肝臓の疾患が問題になります。血液疾患でも白血病のなかの急性骨髄性白血病や特発性血小板減少性紫斑病は、歯肉出血が初発症状としてみられることが多いので注意せねばなりません。また、肝臓ではビタミンK依存性血液凝固因子がつくられるので、当然肝硬変など肝臓の機能が障害されている場合、歯肉をはじめ他の部位から出血がおこります。
また、近年老人人口が増加し、脳梗塞や心筋梗塞の既往のある人も多く見受けられます。動脈系の梗塞や狭窄がある場合、ほとんどの患者さんが長期間血液を固まりにくくする抗凝固剤を服用しています。この場合、一度出血しだすとなかなか止めることは難しく、たとえ止血してもまたすぐ出血がはじまることが多いようです。抜歯や口の中の小手術の際はあらかじめ2,3日前からこの抗凝固剤の服用を中止してもらわねばなりませんので、病歴を聞かれた場合その旨よく話して下さい。高血圧症の患者さんも出血がはじまるとなかなか止まらないことが経験的によく知られています。降圧剤を服用していても、血圧は一時的に高くなることがありますので、安静時の血圧や今迄最も高かった時の値なども十分把握しておく必要があります。
歯肉出血をきたす疾患 |
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局所的な病変 | 歯肉炎 慢性辺縁性歯周組織炎(いわゆる歯槽膿漏症) エプーリス 口腔がん 血管腫 紡鈍菌スビロヘーター感染症 ヘルペス性歯肉口内炎 カンジダ症 局所的刺激(歯石沈着、不良充填物やクラスプ) |
全身的な疾患 | 白血病(急性骨髄性白血病、単球性白血病) 特発性血小板減少紫斑病 多発性骨髄腫 全身性エリテマトーデス 再生不良性貧血 DlC 血友病 A・B フオンビルグラント病 肝疾患(肝硬変、肝がんなど) 尿毒症薬物アレルギー(アスピリン他) 血液含有水疱の破綻(多発性紅斑、天疱療、頬天疱癒) 抗凝固剤の服用 |