Q10. 妊娠中の親知らず

 妊娠は陶然のことながら病気ではありません。したがって、妊婦は特定の疾患を有した病人とはいえません。しかし、全くの健康人とは違って、複雑な変化を持った生理現象の持ち主であることから、口腔領域にも様々な症状があらわれます。
 たとえば、妊娠性歯肉炎、妊娠性エプーリス、カリエス(虫歯)の多発、口内炎などです。
 一般に、妊婦の外来刺激に対する影響の受け方から、一応妊娠期問を次の一二つに分けています。
   妊娠初期(妊娠四か月 十六週まで)
   妊娠中期(妊娠七か月 二十八週まで)
   妊娠後期(妊娠八か月 二十九週以降)
 妊娠のごく初期(受精から約十七目間)では何か有害な薬物やX線(レントゲン)などでトラブルが生じた場含、受精卵は死滅し、組織に吸収されてしまうので、本人にもわかりません。
 その後の妊娠三か月間(十二週まで)は胎児の器官形成期(顔などいろいろな器官がつくられる時期)にあたり、非常に奇形が発生しやすい時期です。この寄形発生頻度の高い時期を特に臨界期とよびます。性ホルモン、LSD、サリドマイド、風疹ウイルスなどは、この時期に、寄形を発生させることがすでに証明されており、歯科領域でも奇形が間題になる時期の治療や投薬には注意を要します。
 妊娠中期に入ると、胎児は胎盤によって安定した状態になりますが、その後の妊娠後期になると、妊婦は大きくなってきた胎児の排泄成分のために、肝、腎の負担が大きくなり、再び不安定な状態となります。したがって妊婦の抜歯は妊娠五〜七か月の間で、妊娠の経過が順調で、妊婦の体調のよい場合に行われるべきです。
 妊娠初期ではつわりや流産の危険があるため、抜歯はやむをえない場合以外は、妊婦の体調が安定する中期まで延期すべきでしょう。
 また後期になると、早産の危険や、母体の異常(妊娠中毒や妊娠貧血など)がみられることもあるため、やはり抜歯は出産後に延期するのがよいでしょう。
 また薬剤の投与に関しても、催奇作用および胎児毒性の少ないものが選ばれるべきですし、肝・腎機能の低下により薬物の解毒、排泄に影響を及ぼすこともありますので、必要最小限にとどめるべきです。安定している妊娠中期とはいえ、普通の状態とは違い、ある程度リスクはあるわけですから、女性の方は、結婚前に親知らずを抜いておくというのも一つの方法かもしれません。