文部科学省研究費補助金基盤研究B


3)本研究をもとにした、今後の遺伝子解析による本症発生機序解明と将来的な予防法確立に向けた取組み

 口唇・口蓋裂のような遺伝的要因と環境的要因が関わるとみられる多因子疾患においては、疾患に関わる一つ一つの要因の影響が小さいことが予想され、その検出は非常に困難です。これまでに国内外で候補になる遺伝子の解析が行われてきましたが、本症への影響が示唆されたものはあるものの、確証が得られたものはまだほとんどありません。
 近年、神経管異常の予防のために葉酸の摂取が勧められており、口唇口蓋裂に関しても、海外の疫学調査等で予防効果の認められた結果も報告されたこと、また本学の疫学調査や動物実験より緑黄色野菜の予防効果が示唆されたことから、葉酸の摂取に関する啓蒙や、葉酸代謝関連酵素 MTHFR のC677T多型等を基にした血中葉酸濃度を低下させないための葉酸を中心とした食事指導が行われています。
この他の多型として、A1298Cなどもあり、本研究ではこの部分の解析も一部行いました。しかしながら、これまでの国内外の報告より、これだけで予防が行えるとは考えられません。将来的な予防法の確立については、この病気がどのようにして発生するのかを明らかにすることが必要ですが、現在のところ、まだ不明なところがたくさんあります。遺伝子解析の研究が進展し、原因遺伝子がつきとめられ、病気の発生メカニズムがある程度解明されれば、有力な予防法を考案できるはずです。
 本学で25年以上にわたり継続している東海地区の全出産施設を対象にした、先天的な病気を持つ赤ちゃんの出生率調査のデータをもとに、全国で出生している口唇・口蓋裂の赤ちゃんの数を推定すると、毎年約1,400名にものぼり、患者様やその御家族からは、より有効な予防法が待望されています。
 また、近年の画像診断の著しい発展から、この病気が手術等で治ることが御両親に十分理解されない段階で、中絶の選択がなされることも危惧されています。従いまして、当面は現在行い得る方法として、葉酸を中心とした栄養素の食事指導や危険要因の回避による予防の試みを、継続して行うことが重要であると考えますが、それと平行して、遺伝子解析を早急に進め、遺伝子情報に基づいたテーラーメイド医療としてのより有効な予防法を考案する必要があると考えています。