文部科学省研究費補助金基盤研究B


 日本における口唇、口蓋裂発生に関するヒトへの初めての予防の試みとして、全国18大学の産科、口腔外科、栄養学科が共同で、妊娠前からの母体環境要因の改善を実践するためのシステムの開発を行った。
 本システムは、これまでに本症患児を出産した等のリスク群を対象に、口唇、口蓋裂について詳しく問診等を行った上で、計画妊娠を前提として、妊娠前から産科における各種検査と栄養学専門家による栄養指導を行い、母体環境要因の改善を図るもので、同時にその予防効果を検証することで、将来のより確実な予防法確立に向けた基礎的資料を得るものであり、完全な予防を約束できるものではではありませんが、多くのこの病気の方々や家族の方々よりの強い要望により開発されたものである。



■ 計画妊娠を前提とした本症予防システムの開発

1)システムの概要

 この研究は全国規模で実施するため、全国18大学の産科、口唇口蓋裂センター、口腔外科、栄養学科などにより組織された。また、里帰り分娩の際など、必要に応じて各地域の産科にも協力を依頼した。  本症は環境的要因と遺伝的要因が複数関わっていると考えられており、この調査では、予防の試みとして実施可能な母体環境の改善をはかることとした。  先天異常児の出生は、一般の総出生児においてそもそも低率であるので、予防効果の検証を行いやすくするため、調査対象をリスク群、原則として第一子や第二子が口唇、口蓋裂で出生した夫婦としたが、希望があった場合には、本人などが本症患者である場合もこのプログラムに参加できるようにした。  口唇は胎生4-8週頃、口蓋は7-10週頃に形成されると考えられるため、本症の予防には、妊娠前からの取り組みが必要である。そのため、本調査では計画妊娠を前提とし、参加者は母体環境の改善を行った上で妊娠することとした。  母体環境の改善は、国内外の知見をもとに、葉酸など各種栄養素の摂取を指導するとともに、薬剤やたばこやアルコールなど危険要因を制限した。母体環境改善のため、妊娠前より産科を受診し、状態を把握するための血液検査など各種検査を実施し、それと平行して毎日の食事記録をもとに個別の栄養指導を実施した。  外来でのカウンセリングでは、栄養所要量の説明など、詳細に行うには時間に限界がある。そこで、参加者の理解を深めることを目的とした図書を作成することを検討し、妊娠中の注意点、栄養素や食事、先天異常、本症などに関して記した134頁にわたる参考図書を作成した49)。また、これと合せて、食事記録用の小冊子も作成した(図1)。  ビタミン等の摂取においては、安易にサプリメントに頼るのではなく、食事からの摂取を基本とすることで、葉酸のみならず他の栄養素もバランス良く摂取できるよう指導することとした。